GX-ETS(排出量取引制度)で排出枠の取引価格を一定の範囲に保つ「価格安定化措置」について、発動条件の事務局案が示されました。2026年9月25日に開催された経済産業省の排出量取引制度小委員会(第9回)で、排出枠取引市場の月平均取引価格が上限価格を3か月連続で上回った場合、または下限価格を3か月連続で下回った場合に措置を発動する案が示されています。年末頃を目途に取りまとめられ、その後、省令・告示等に反映される予定です。
本記事では、GX-ETSの登録確認機関である株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ(SSP)が、経済産業省の公表資料をもとに、上限価格・下限価格の水準、措置の発動条件と内容、2030年度までの参考値を整理します。


GX-ETSの上限価格・下限価格 要約
2026年度の上限価格(参考上限取引価格)は4,300円/t-CO2、下限価格(調整基準取引価格)は1,700円/t-CO2で、2026年3月30日に経済産業省告示として定められています。2027年度以降は、前年度の価格に「1.03+当該年度の国内企業物価指数の見通し」を乗じた額を基礎として、毎年度の開始前に告示されます。措置の発動条件については、第9回小委員会で、月平均取引価格が上限価格を3か月連続で上回る、または下限価格を3か月連続で下回ることを要件とする事務局案が示されました。
価格安定化措置の目的と仕組み
なぜ上限・下限価格が必要なのか
経済産業省は、取引価格の上限・下限を設定し、その価格帯をあらかじめ示すことで、取引価格の予見可能性を高め、脱炭素投資を促進するとしています。上下限価格は、経済的ショックなど予見困難な要因で削減費用や需給に突発的な影響が生じた際に、国民生活や産業活動を守る「セーフティバルブ」として機能させるとともに、制度開始当初の価格変動幅を通常想定し得る対策の範囲内とするためのものと位置付けられています。
上限価格超過時の措置内容
上限側の措置は「みなし保有措置」と呼ばれます。経済産業大臣が措置の発動を告示した場合、排出枠が不足する事業者は、不足量を限度として、排出枠の量に上限価格(参考上限取引価格)を乗じた額の負担金を政府に納付できます。納付した額を上限価格で除した量の排出枠を保有しているものとみなされ、償却に充てられます(GX推進法第40条)。
第9回の事務局案では、T年度分の義務履行に係る発動の判定期間を、T+1年度の4月から保有義務期限である1月まで(1月は中旬まで)とし、月平均取引価格をT+1年度の上限価格と比較するとしています。また、価格要件とは別に、保有義務量の通知後の12月以降、上限価格以下の売り注文が提示されない状態などが1か月以上続くことを要件とする「数量要件」も示されています。
下限価格割れ時の措置内容
下限側は、GX推進機構が排出枠取引市場の外でリバースオークションを実施し、排出枠を買い入れることで需給を引き締めます(GX推進法第117条)。第9回の事務局案では、落札方式をシングルプライス方式とし、機構による買入価格の上限を、市場の取引価格以上かつ下限価格未満の範囲で非公表で設定するとしています。リバースオークションを実施してもなお価格が低迷する場合は、割当ての基準の厳格化なども検討するとされています。なお、発電事業者への有償オークションが始まる2033年度以降は、オークションの入札価格に下限を設ける方法で価格を維持するとされています。
「3か月連続」ルールの詳細
発動条件の具体化
第9回小委員会の事務局案では、措置の判定に用いる平均売買取引価格を、排出枠取引市場における月平均の取引価格(日ごとの約定価格の単純平均)としています。ただし、当該月の市場開設日のうち7割以上の日で取引が成立している場合に限って算定するとしています。この月平均価格が3か月連続で上限価格を上回る場合に上限側の措置を、3か月連続で下限価格を下回る場合に下限側の措置を発動する案です。下限側は判定期間を限定せず、年度をまたいで判定するとしています。
なぜ「3か月」なのか
事務局資料は、諸外国では二次市場の取引価格の月平均が3か月から6か月連続で基準を上回った場合などに措置が発動されていることを挙げ、価格高騰に機動的に対応するため、そのうち最も短い3か月を採用するとしています。月単位とした理由としては、本制度の主要な手続が月末を期限としており、事業者の取引行動が月単位で変化し得ることが挙げられています。下限側は、価格の高騰と低迷について同じ継続性を確認したうえで対称的に措置を発動するのが合理的として、上限側と同一の要件としています。制度開始後は発動状況をモニタリングし、要件の厳格化・緩和を含めて見直しを検討するとされています。
2030年度までの価格見通し
2026年度の価格設定
2026年度の上限価格4,300円/t-CO2と下限価格1,700円/t-CO2は、2026年3月30日の経済産業省告示第27号で定められ、同年4月1日から施行されています。第7回小委員会(2025年12月19日)の事務局資料によれば、上限価格は、石炭からLNGへの燃料転換コストについて直近10年の中央値(約4,370円/t)を100円単位で切り下げた水準です。下限価格は、足下の省エネ対策の費用として、価格高騰前の省エネJ-クレジットの取引価格(加重平均で約1,620円/t)を踏まえた水準とされています。
2027年度以降の価格改定ルール
2027年度から2030年度までの上下限価格は、各年度の開始前に定めることとされています。告示の附則では、前年度の価格に「1.03に当該年度の国内企業物価指数の見通しの値を加算した値」を乗じた額を基礎とすると定めています。国内企業物価指数の見通しは、前年度に閣議決定される「経済見通しと経済財政運営の基本的態度」の値です。実質の上昇率3%は、エネルギー・素材系企業の投資の割引率(実質1〜3%程度)を踏まえ、先行投資のインセンティブを高める水準として設定されています。
価格見通しの表
経済産業省が示した2030年度までの参考値は次のとおりです。これは物価上昇率を加味せず、毎年度3%の上昇のみを機械的に反映した値です。実際の各年度の価格は、この値に物価上昇率の見通しを勘案した名目価格として告示されるため、現時点で確定したものではありません。
| 年度 | 上限価格(円/t-CO2) | 下限価格(円/t-CO2) |
|---|---|---|
| 2026年度(告示済み) | 4,300 | 1,700 |
| 2027年度(参考値) | 4,429 | 1,751 |
| 2028年度(参考値) | 4,562 | 1,804 |
| 2029年度(参考値) | 4,699 | 1,858 |
| 2030年度(参考値) | 4,840 | 1,913 |
FAQ
GX-ETSはいつから義務化されますか?
改正GX推進法に基づき、2026年度から排出量取引制度が義務化されています。対象となるのは、CO2の直接排出量が前年度までの3か年度平均で10万トン以上の事業者です。経済産業省は、対象を300〜400社程度、カバー率を日本全体の温室効果ガス排出量の6割近くと見込んでいます。
排出枠の取引はどこで行われますか?
排出枠の取引は、GX推進機構が設置・運営する排出枠取引市場で行われます。市場の開設は2027年度秋頃の予定です。価格安定化措置の発動判定も、この市場の取引価格をもとに行われます。
価格が上限を超えたら、排出枠は購入できなくなるのですか?
いいえ。上限価格を超えても、市場で排出枠を購入することはできます。そのうえで、価格要件または数量要件を満たして措置の発動が告示された場合には、不足量を限度として上限価格に基づく負担金を政府に納付することで、その分の排出枠を保有しているものとみなされます。
この価格水準は国際的に見て高いですか、低いですか?
EU-ETSなど先行する制度の取引価格と比べると、現時点の上限価格は低い水準です。経済産業省は、上下限価格を制度開始当初の価格変動幅を通常想定し得る対策の範囲内とするためのものと位置付けたうえで、段階的に引き上げていくとしています。第7回小委員会の資料では、本制度の価格帯をEU・韓国・中国の排出枠価格と比較した図も示されています。
GX-ETSの上限価格・下限価格 まとめ
GX-ETSの上下限価格は、2026年度分が告示で確定し、2027年度以降は毎年度、物価見通しを反映して告示される仕組みです。措置の発動条件については、月平均取引価格が3か月連続で上限価格を上回る、または下限価格を下回ることを要件とする事務局案が示された段階で、年末頃の取りまとめを経て省令・告示等で定められる予定です。
排出枠取引市場は2027年度秋頃に開設予定で、措置の判定はその取引価格をもとに行われます。制度対象の事業者は、自社の排出枠の過不足の見込みと上下限価格の推移をあわせて確認しておくことが重要です。今後の小委員会では、バンキング適正化措置なども議論される予定です。
参考リンク
経済産業省 排出量取引制度小委員会
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/emissions_trading/index.html
経済産業省 第9回 排出量取引制度小委員会 資料3 上下限価格に係る措置について
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/emissions_trading/pdf/009_03_00.pdf
経済産業省 第7回 排出量取引制度小委員会 資料3 排出量取引制度における上下限価格の水準(案)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/emissions_trading/pdf/007_03_00.pdf
経済産業省 参考上限取引価格及び調整基準取引価格を定める告示
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/torihikikakaku.pdf



