Scope3の算定では、活動量に排出係数を掛けるという構造そのものは単純です。にもかかわらず指摘が集中するのは、どの係数を選んだのか、その活動量がどこから来たのかを後から説明できない状態になりやすいためです。本記事では、株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ(SSP)が実施した検証・保証案件において、複数の企業で繰り返し確認された排出係数と活動量の誤りを12の類型に整理します。


Scope3 排出係数・活動量の誤り 要約
繰り返し確認される誤りは、係数の選び方、平均の取り方、推計と補正の根拠、海外データの取扱いの4領域に集約されます。共通するのは、算定の時点では合理的だった判断が記録されておらず、翌年度や検証の段階で誰も理由を説明できなくなっている点です。数値そのものより、選択の理由が残っているかどうかが問われます。
排出係数の選び方で確認される誤り
係数の誤適用は、原材料名や製品名だけを見て機械的に紐付けた場合に生じます。用途や工程を確認しないと選べない係数が存在します。
誤り1 用途と一致しない原材料の係数を当てている
カテゴリ1の原材料に対する係数の誤適用は頻出します。実例として、工業用の動物油脂に対して植物油脂の係数を適用していたケースが確認されています。原材料名だけでは用途が判断できないことが多く、特に化学品を扱う業態では判別が困難です。
原材料名と実際の用途が対応しているかは、その原材料がどの工程でどう使われているかという情報と突き合わせなければ判断できません。原材料の一覧と係数の対応表だけでは、誤適用が表面に出ないということです。
誤り2 カテゴリ10で完成品の係数を当てている
カテゴリ10は、自社が出荷した中間製品が他社で追加の加工を受ける場合に該当します。ここで選ぶべきは加工に対応する係数ですが、加工後に新たに製造される製品そのものの係数を選んでいる例が確認されています。この場合、排出量は過大に算定されます。カテゴリ10に固有の論点です。
誤り3 カテゴリ8で製造段階の原単位を当てている
リース資産(カテゴリ8)の算定では、使用段階に対応する排出係数を用います。カテゴリ1に相当する製造段階の原単位を割り当てるのは、よくある誤りです。カテゴリの定義に対応する係数の段階が一致しているかは、係数表の名称だけでは判別できません。
誤り4 複数分類の係数を単純平均している
カテゴリ1の排出原単位を複数の商品分類から算出する場合、各分類の係数を単純平均するのではなく、仕入金額で加重平均する方が実態に近くなります。単純平均では仕入構成比が反映されないため、排出係数の高い商品の仕入が少ない場合でも過大に評価されます。
検証の観点でも、加重平均は仕入金額という客観的なデータに基づくため、算出過程を追跡できます。商品構成が偏っている場合、両者は大きく乖離します。
活動量の作り方で確認される誤り
活動量は購買データや販売データから作られますが、その加工の過程が記録されていないことが問題になります。
誤り5 定格消費電力から年間使用量への換算が誤っている
カテゴリ11(販売した製品の使用)で、定格消費電力(ワット)から年間消費電力量(キロワット時)を算出する際、ワットに365を掛けている例が確認されています。ワットは瞬時の消費電力であり、この計算では24時間365日連続で使用する前提になります。
使用時間と使用日数を反映しなければ実態と大きく乖離します。使用頻度の低い製品ほど影響が大きくなります。省エネ性能カタログに年間消費電力量が記載されている製品については、その値を用いる方が確実です。
誤り6 推計の中身が確認できない
活動量に「推定データ」と記載されている場合、何をどう推定しているかが重要になります。ある案件では、倉庫の実面積が把握できないためパレットの枚数から面積を推定していましたが、月別の延床面積データが1か月分しか入力されておらず、平均を取る関数が実質的に1つのデータしか参照していない状態でした。
推計という記載自体は問題ではありません。推計の方法と、その方法が算定シート上で正しく実装されているかが、別の問題として存在します。
誤り7 補正係数に根拠がない
カテゴリ14(フランチャイズ)で、直営店の排出原単位に「省エネ対応の遅れ」を理由とした1.1倍の補正をかけている例が確認されています。この10%という数値の根拠が示されない場合、補正後の数値は根拠を確認できない要素を含んだまま算定結果に反映されることになります。
カテゴリ14は排出量全体に占める割合が大きくなることがあり、補正係数の影響も相応に大きくなります。定量的な把握がないまま定性的な推測で補正をかけると、その補正自体が確認できない要素として残ります。
誤り8 カテゴリ15の原単位と残高の捉え方
カテゴリ15(投融資)では、外部の専門事業者が独自に算出した業種別の排出原単位を用いているケースがあります。この場合、原単位の計算ロジックと根拠データが確認できるかどうかが、当該カテゴリを保証対象にできるかを左右します。根拠が確認できない場合、カテゴリ15を保証の対象から外し、Scope1・2のみで保証報告書を発行するという選択肢もあります。
活動量の側では、融資残高を期末のストック値だけで捉える方法に限界があります。期中に完済された融資先がリストから漏れるためです。前期末に残高があり当期末にゼロとなった融資先は、期中に融資が存在したにもかかわらず排出量ゼロとして扱われます。期首と期末の平均を用いる方法がありますが、準拠する基準が期末残高を認めている場合もあるため、基準側の確認が必要です。
海外拠点のデータで確認される誤り
海外子会社のデータは、国内と同じ精度で作られていないことが前提になります。
誤り9 購買データが「分類不明」に集約されている
海外子会社が分類コードに合わせた仕分けを行えず、購入額の全額を「分類不明」に集約している例が確認されています。国内の本体は基幹システムと購買システムの仕入先IDを分類IDに紐付けて自動分類している一方、海外は表計算ソフトによる手作業というケースです。
この状態では、カテゴリ1に入れるべきでない費用(固定資産の購入など)が混入していないか、明らかな抜けがないかが判別できません。分類不明の内訳が明細レベルで示されない限り、金額の妥当性は確認できないことになります。
誤り10 為替レートが過去時点で固定されている
海外子会社の活動量を金額ベースで算定する際、算定システム上の為替レートが数年前の時点で固定されているケースがあります。為替が大きく動いた局面では、活動量に相応のぶれが生じます。
システムの制約でカテゴリごとに年度別のレートを持てない場合、システム外で換算してから入力するか、固定レートを用いていること自体を算定方法として開示時に注記するかのいずれかになります。注記がない場合、活動量の増減が実態の変化なのか為替の影響なのかが読み取れません。
算定プロセスの記録で確認される誤り
最後に、算定シートそのものではなく、算定に至る作業の記録に関わる論点です。
誤り11 係数の紐付けで参照すべき列が特定できない
カテゴリ1で仕入品に排出係数を紐付ける作業は、段階的に行われるのが実務的です。前年の紐付け実績と突合して品番が同一なら自動で引き当て、残りを品番名や部門名から手作業で紐付け、それでも残る未紐付け分を個別に判断するという3段階です。
この過程で算定シートに紐付け案の列が複数並ぶことがあります。どの列が最終的に採用された紐付けなのかが明示されていない場合、シートを受け取った側はどの列を参照すべきか判断できません。同様に、除外の対象とした項目については、事前にフィルタで落とすよりも全データを載せたうえで除外フラグを立てる方が、抜け漏れが生じにくくなります。
誤り12 データ制約と算定精度が切り離して評価されている
カテゴリ6(出張)では、移動手段別のデータが取得できず、旅費の支給金額ベースで算定せざるを得ない場合があります。手当や宿泊費も含まれるため粗い算定になりますが、システムの改修なしには移動手段別の把握が困難というケースは珍しくありません。国内と海外の区分までが限界という状況もあります。
この場合に問題となるのは、粗い算定であること自体ではなく、なぜその精度なのかが記録されていないことです。データ制約の内容と、その制約下で選んだ算定方法、そして排出量全体に占める重要性の評価。この3点が結び付いていれば、粗い算定であっても妥当性の判断が可能になります。
Scope3 排出係数・活動量の誤り まとめ
本記事で挙げた12の類型に共通するのは、算定時点では合理的だった判断が、後から説明できなくなっているという構造です。係数を選んだ理由、推計に用いた方法、補正をかけた根拠、為替レートの前提。いずれも算定シートの数値そのものには現れません。
Scope3は推計に依存する部分が大きく、精度の絶対値を追うことに限界があります。そのぶん、算定ロジックとデータの追跡可能性が確認の中心になります。月次の数値の細かさより、どこから来た数値かが説明できる状態にあるかどうかが問われる領域です。
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参考リンク
環境省 算定方法・排出係数一覧
https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/calc.html
環境省 温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル
https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/manual.html
環境省 温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度 制度概要
https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/about.html


