CBAM無償割当調整とは CBAM証書の償却枚数の決まり方

CBAMで償却する証書の枚数は内包排出量だけでは決まりません。EU域内の同業他社が受けている無償割当に相当する分を差し引く無償割当調整という仕組みがあります。本記事では2026年8月に公表された欧州委員会のガイダンスに基づき無償割当調整の考え方と算定方法を整理します。CBAMベンチマークの位置づけから事業者と輸入者の役割分担までSSPの実務知見に基づき解説します。

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目次

CBAM無償割当調整 要約

無償割当調整とはEU域内の同等の施設がEU ETSで受け取る無償割当に相当する分をCBAMの義務から差し引く仕組みです。EU域内の事業者と輸入品の間で炭素コストの負担を揃えるために置かれています。

調整額は品目ごとの単位内包無償割当と輸入質量の積で計算します。単位内包無償割当はCBAMベンチマークに基づいて決まります。

調整額の計算そのものは認定CBAM申告者すなわちEU側の輸入者の責任です。ただし実データを用いるためには域外の生産事業者が検証済みの排出報告書の中で必要な情報を提供する必要があります。

CBAM無償割当調整 背景

EU ETSでは炭素リーケージのリスクがある業種の施設に対して排出枠の一部が無償で割り当てられています。無償割当がある間はEU域内の事業者が負担する炭素コストは排出量の全量分ではありません。

この状態で輸入品に排出量の全量分の負担を課すと域内品より重い負担になります。そのためCBAMでは無償割当に相当する分を差し引く調整が置かれています。

EU ETSの無償割当は段階的に縮小される予定でありそれに応じてCBAMの調整も縮小しCBAMの負担が増えていく設計です。欧州委員会は2026年8月14日にGuidance No.4として無償割当調整の算定方法を全38ページで公表しました。

CBAM無償割当調整 定義

無償割当調整とは輸入品について償却すべきCBAM証書の枚数から控除される量です。ガイダンスではFAAと表記されます。

単位内包無償割当とは品目1トンあたりの無償割当相当量です。ガイダンスではSEFAと表記され単位はCO2換算トン毎トンです。

CBAMベンチマークとはCBAM専用に定義されたベンチマーク値です。EU ETSのベンチマークをそのまま使うのではなくCBAM対象品目の区分に対応する形で別途定義されています。

CBAM無償割当調整 基礎

調整額の計算式

無償割当調整の基本式は次のとおりです。

  • 輸入品目の無償割当調整 イコール 当該品目の単位内包無償割当 かける 当該年に輸入した品目の質量

単位内包無償割当は報告期間に対応する値を用います。報告期間は原則として品目が輸入された年ですが実際の生産時期を示す十分な証拠がある場合は生産された期間となります。2026年中に輸入された品目については実際の生産時期にかかわらず報告期間は2026年です。

電力については無償割当調整はゼロです。EU ETSで発電事業者は無償割当を受けないためです。

なぜCBAM専用のベンチマークが必要か

EU ETSの炭素価格は施設単位の排出量に基づきます。一方CBAMの価格付けはEU域内に持ち込まれる時点での品目の内包排出量に基づきます。CNコードとEU ETSのベンチマークの対応が常に明確とは限らないためCBAM専用のベンチマークが定義されました。

理由は2点です。第1にCBAMの仕組みをできるだけ単純にするためフォールバックアプローチの使用を避けることです。第2に前駆物質が内包排出量と無償割当調整の双方に及ぼす影響を考慮する必要があることです。

CBAMベンチマークは単純財と複合財のいずれについても中間製品と最終製品の双方に定義されます。また単一の生産プロセスと生産チェーン全体の双方について定義されます。これにより入手可能な最良のデータを使いやすくしています。

鉄鋼を例にした対応関係

一貫製鉄所を例にするとEU ETSでは焼結鉱の生産が凝集鉄鉱石ベンチマークで銑鉄と粗鋼の生産がホットメタルベンチマークで圧延などの最終工程が燃料ベンチマークで覆われます。まれに熱ベンチマークが関係する場合もあります。

一貫製鉄所ですべての工程を行う場合は工程ごとの実データが利用できます。一方で鋼材を市場から購入して最終工程のみを施設内で行う場合は前工程のデータが得られません。CBAMベンチマークが工程単位と生産チェーン単位の双方で定義されているのはこうした状況に対応するためです。

CBAM無償割当調整 結論

無償割当調整で企業が押さえるべきポイントは以下の3点です。

  • 調整額の計算は輸入者の責任だが実データを使うには事業者が検証済みの排出報告書で単位内包無償割当の情報を提供する必要がある
  • デフォルト値で内包排出量を申告する場合は無償割当調整もデフォルト値に基づいて決まる。実データとデフォルト値を組み合わせることはできない
  • 算定のロジックは内包排出量の算定と共通している。生産プロセスの分割方針と前駆物質の扱いがそのまま影響する

SSPはGHG第三者検証の実務を通じて算定データの構造を把握しており内包排出量と無償割当調整を一体で整理する視点から支援できます。

CBAM無償割当調整 論点

無償割当調整に関する主要な論点を以下の表に整理します。

論点実務での重要度判断のポイントよくある誤解SSPの推奨スタンス
計算の責任主体計算そのものは認定CBAM申告者の責任。事業者は情報提供の責任を負う事業者が調整額まで計算して申告する自社が提供すべき情報の範囲を輸入者と早期に取り決める
実データとデフォルト値の選択内包排出量でデフォルト値を使う場合は無償割当調整もデフォルト値になる有利な方を項目ごとに選べる自社の排出水準を試算し実データとデフォルト値のどちらが有利かを事前に比較する
CBAMベンチマークの選定品目と生産プロセスの区分に対応するベンチマークを選ぶEU ETSのベンチマークをそのまま使う生産プロセスの分割方針と整合するベンチマークを選定し根拠を文書化する
電力の扱い電力の無償割当調整はゼロ電力にも調整が適用される電力を輸入する場合は調整ゼロを前提にコストを見積もる
報告期間の特定原則は輸入年。生産時期の証拠があれば生産期間。2026年輸入分は2026年常に生産年で判断する生産時期を示す証憑を保管し必要に応じて反証できる状態にする
前駆物質の影響前駆物質は内包排出量と無償割当調整の双方に影響する前駆物質は排出量にだけ効く前駆物質のデータ整備を排出量と調整の両面から設計する
無償割当の段階的縮小EU ETSの無償割当縮小に応じて調整も縮小しCBAMの負担は増える調整額は将来も一定中期のコスト見通しに無償割当の縮小スケジュールを織り込む

CBAM無償割当調整 比較

内包排出量の算定と無償割当調整の算定の違いを整理します。

比較項目内包排出量 SEE単位内包無償割当 SEFA
目的品目に内包される排出量を求める差し引くべき無償割当相当量を求める
主な算定の基礎施設の実際の排出量と活動量CBAMベンチマーク
算定の手間実データの収集と検証が必要で負担が大きい主要な要素がベンチマークに基づくため相対的に負担は小さい
生産プロセスの考え方施設の分割方針に従う同じ分割方針とバリューチェーンの考え方に従う
前駆物質の扱い前駆物質の内包排出量を積み上げる前駆物質に対応するベンチマークを考慮する
計算の責任事業者が算定し検証を受ける調整額の計算は認定CBAM申告者。事業者は情報を提供する
電力の扱い財としての電力にも内包排出量がある電力の無償割当調整はゼロ

CBAM無償割当調整 重要点

実データを使う場合の要件

認定CBAM申告者が実データに基づいて無償割当調整を計算するには域外の生産事業者が当該年の検証済み排出報告書を作成し申告者が利用できる状態にしている必要があります。この排出報告書には単位内包無償割当に関する必要な情報がすべて含まれます。

内包排出量でデフォルト値を用いる場合は無償割当調整もデフォルト値に基づいて決まります。項目ごとに有利な方を選ぶことはできません。

単純財と複合財で異なる算定

単位内包無償割当の算定は単純財と複合財のどちらかにより手順が変わります。単純財の場合は前駆物質を考慮しないため最も単純です。

複合財の場合は前駆物質について実データを使うかデフォルト値を使うかによっても手順が変わります。ガイダンスでは判断のフローが示されています。

内包排出量の算定との一体性

単位内包無償割当の算定は単位内包排出量の算定と同じロジックに従います。バリューチェーンの考え方と施設を生産プロセスに分割する方法の双方を踏まえます。

算定方法が内包排出量と強く整合させられているのは事業者の事務負担を抑えるためです。逆にいえば生産プロセスの分割方針を後から変えると内包排出量と無償割当調整の双方に影響が及びます。分割方針は早い段階で固めるべきです。

コストへの影響

償却すべきCBAM証書の枚数は内包排出量から無償割当調整を差し引いた量に基づきます。調整額が大きいほど購入すべき証書の枚数は減ります。

EU ETSの無償割当は段階的に縮小される予定でありそれに伴いCBAMの調整も縮小します。中期のコスト見通しを立てる際には無償割当の縮小スケジュールを織り込む必要があります。

CBAM無償割当調整 手順

無償割当調整に対応するために事業者が取るべき準備ステップを以下に整理します。

  • 自社の品目に対応するCBAMベンチマークを特定する。生産プロセスの分割方針と整合する形でベンチマークを選定し選定の根拠を文書化します。
  • 実データとデフォルト値のどちらで進めるかを決める。自社の排出水準を試算しデフォルト値との比較で証書の購入枚数がどう変わるかを見積もります。
  • 輸入者との情報提供の範囲を取り決める。認定CBAM申告者が調整額を計算するために必要な情報と提供時期を明確にします。
  • 検証済み排出報告書に必要事項を織り込む。単位内包無償割当に関する情報が報告書に含まれるよう検証機関と記載事項を確認します。
  • 前駆物質のデータを排出量と調整の両面で整備する。前駆物質は内包排出量と無償割当調整の双方に影響するため一体で設計します。
  • 報告期間を裏づける証憑を保管する。生産時期を示す証拠があれば輸入年ではなく生産期間を報告期間にできます。反証できる状態を保ちます。
  • 中期のコスト見通しを作る。無償割当の段階的縮小を織り込み証書購入額の推移を試算します。

CBAM無償割当調整 FAQ

Q1 無償割当調整は誰が計算するのですか

計算そのものは認定CBAM申告者すなわちEU側の輸入者の責任です。ただし実データを用いる場合は域外の生産事業者が検証済みの排出報告書を作成し必要な情報を提供する必要があります。

Q2 内包排出量は実データで無償割当調整はデフォルト値という組合せはできますか

できません。内包排出量でデフォルト値を用いる場合は無償割当調整もデフォルト値に基づいて決まります。実データを使う場合は双方とも実データに基づきます。

Q3 CBAMベンチマークはEU ETSのベンチマークと同じですか

同じではありません。CNコードとEU ETSベンチマークの対応が常に明確ではないためCBAM専用のベンチマークが定義されています。単純財と複合財のいずれについても中間製品と最終製品の双方に定義され単一の生産プロセスと生産チェーン全体の双方をカバーします。

Q4 電力を輸入する場合の無償割当調整はどうなりますか

ゼロです。EU ETSにおいて発電事業者は無償割当を受けないためCBAM側でも調整はありません。

Q5 無償割当調整があればCBAMの負担はほとんどなくなりますか

そうとは限りません。調整はEU域内の同等施設が受ける無償割当に相当する分に限られます。自社の排出量がベンチマーク水準を上回る場合は差分について証書の購入が必要です。またEU ETSの無償割当が段階的に縮小されるためCBAMの負担は年を追って増えていきます。

Q6 生産プロセスの分割を変えると調整額も変わりますか

変わります。単位内包無償割当の算定は単位内包排出量の算定と同じロジックに従い施設を生産プロセスに分割する方法を踏まえます。分割方針を変更すると排出量と調整額の双方に影響が及ぶため早い段階で方針を固めるべきです。

CBAM無償割当調整 まとめ

無償割当調整はEU ETSの無償割当に相当する分をCBAMの義務から差し引く仕組みです。調整額は単位内包無償割当と輸入質量の積で計算されCBAM専用のベンチマークに基づいて決まります。

計算の責任は輸入者にありますが実データを使うためには事業者が検証済みの排出報告書で必要な情報を提供する必要があります。算定のロジックは内包排出量と共通しているため生産プロセスの分割方針と前駆物質の扱いをまとめて設計することが実務上は効率的です。

SSPは内包排出量と無償割当調整を一体で整理する視点から支援できます。証書の購入枚数の見通しを含めてお気軽にご相談ください。

CBAM無償割当調整 次のステップ

参考リンク

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この記事を書いた人

SSP編集部は、非財務情報の第三者保証を専門とする株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズの実務者チームです。公認会計士やISO審査・サステナビリティ開示の実務経験を持つ専門職員で構成され、ISO 14064-3・ISAE 3000・ISSA 5000等の国際基準に基づくGHG排出量(Scope1・2・3)の検証・保証や、GX-ETS(排出量取引制度)の登録確認機関としての確認業務に従事しています。SSBJ・CDP・SBTなど最新の制度動向を一次情報にあたって追い、算定・開示の現場実務に即した、正確でわかりやすい解説をお届けします。

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