Scope3の検証で最も多く指摘が生じるのは、排出係数の選び方ではなく、その排出をどのカテゴリに入れるかという区分の段階です。区分を誤ると、二重計上や計上漏れがカテゴリをまたいで発生し、単体の数値を見ても気づけません。本記事では、環境省・経済産業省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」およびGHGプロトコルScope3基準の規定に照らして、カテゴリ区分でよくある誤りを13の類型に整理します。


Scope3 カテゴリ区分の誤り 要約
よくある区分の誤りは、輸送カテゴリ(カテゴリ4・9)の切り分け、Scope1やカテゴリ間の二重計上、購入した製品・サービス(カテゴリ1)やリース資産(カテゴリ8)の範囲、そして該当性判断の4領域に集約されます。共通するのは、会計上の勘定科目や社内の呼称をそのままカテゴリに対応させた結果として生じている点です。カテゴリの定義は、誰が荷主かに加え、出荷側の輸送については自社が輸送費用を負担し輸送を発注しているかどうかで決まります。貨物の所有権の有無は、この分岐そのものを左右しません。
輸送カテゴリ(4・9)の切り分けでよくある誤り
Scope3のなかで最も区分が難しいのが輸送です。カテゴリ4は上流の輸送、カテゴリ9は下流の輸送ですが、実務上の切り分けは、まず自社が荷主に当たるかを特定し、そのうえで出荷側の輸送については自社が輸送費用を負担し輸送を発注しているかどうかで決まります。
誤り1 カテゴリ4と9を荷主で区分していない
輸送を「調達側か出荷側か」という物流の向きだけで区分している例が見られます。正しくは、まず温対法・省エネ法上の荷主に自社が当たるか(貨物輸送を手配・発注しているか)を特定します。そのうえで、調達側の輸送は所有権や輸送料金の支払を問わずカテゴリ4です。出荷側の輸送は、自社が輸送費用を支払い輸送を発注していればカテゴリ4、自社が費用負担していなければカテゴリ9です。貨物の所有権の有無は、この分岐そのものを左右しません。
あわせて確認されるのが、固定シナリオのまま算定が継続しているケースです。国内500キロメートル・10トントラック・積載率50%といった一律の前提を置いている場合、実距離や輸送手段(陸送・空輸・海運)の区分がなされておらず、海外輸送そのものが算定から抜けていることがあります。実態に合わせて見直すと、排出量が大幅に増加することがあります。
誤り2 受入運賃と委託運賃で同じ配送を二重計上している
直営店舗で購入した顧客への宅配について、顧客から受け取った配送料(受入運賃)を根拠にカテゴリ9へ計上している例が見られます。しかし、店頭で所有権が顧客に移転した後の輸送であっても、自社が配送業者に委託して運賃を支払い輸送を発注している場合はカテゴリ4で算定します。「顧客から配送料を受け取っているから」という理由でカテゴリ9に置くのが、よくある誤りです。
実際に問題になるのは、同じ配送を二重に拾ってしまう場合です。受入運賃でカテゴリ9に計上した宅配について、配送業者へ支払う委託料が別途カテゴリ4の運賃としても計上されていることがあります。受入運賃は自社が負担した輸送費の一部を顧客から回収しているにすぎないため、両者が同じ輸送を指していないかを運賃の明細まで遡って確認する必要があります。
誤り3 物流リベートをカテゴリ4に加算して二重計上している
小売業でよく見られる一括物流割戻金の扱いです。メーカーが各店舗へ個別配送する代わりに倉庫へ一括納品し、浮いた物流費をリベートとして受け取る仕組みですが、この割戻金をカテゴリ4に加算すると、倉庫から各拠点への委託輸送費と二重計上になります。
割戻金は、本来メーカーが負担すべき配送を省略したことへの補填です。倉庫から拠点への実際の輸送は別途委託料として支払われており、そちらで既に計上されています。
誤り4 海外輸送をインコタームズで切り分けていない
海外向け出荷では、契約条件によって所有権と危険負担の移転点が変わります。工場渡し(EXW)から関税込持込渡し(DDP)まで契約形態は多様で、移転前の区間はカテゴリ4です。移転後の区間についても、自社が荷主として輸送費用を負担し手配している限りカテゴリ4であり、自社が費用負担していない区間のみカテゴリ9となります。インコタームズによる切り分けを行わないまま一律に算定しているケースが見られます。
カテゴリ間・Scope間の二重計上
区分の誤りは、単独のカテゴリでは検知できません。他のカテゴリやScope1と突き合わせて初めて表面化します。
誤り5 Scope1の自社車両燃料とカテゴリ4が重複している
上流の輸送で自社が費用を負担している場合でも、その輸送に自社車両を用いていれば、燃料の燃焼はScope1に計上されます。カテゴリ4が対象とするのは自社が所有・管理しない車両による輸送であるため、自社車両分がカテゴリ4から適切に除外されているかは、両方を並べなければ確認できません。
誤り6 連結ベースのカテゴリ1でグループ間取引が調整されていない
カテゴリ1を連結売上原価ベースで算定する場合、基幹システムから抽出した仕入実績に含まれる会社の範囲と、連結売上原価の対象範囲が一致しないことがあります。抽出対象が連結子会社の一部のみというケースです。
仕入金額が売上原価を上回る場合には、期首期末在庫の影響と割戻金の影響が考えられます。グループ会社間の取引金額が大きい場合、調整前後で乖離が生じるため、乖離の要因を説明できる状態が必要になります。
カテゴリ1・カテゴリ8の範囲でよくある誤り
カテゴリ1は「自社が購入・取得したすべての製品およびサービス」を対象とします。この「すべて」の範囲が狭く取られていることがよくあります。
誤り7 仕入商品がカテゴリ1から落ちている
自社で製造せず仕入れて販売する商品もカテゴリ1の対象です。ただし仕入商品はケースや箱単位で管理されていることが多く、重量ベースでの把握が難しいため、金額ベースでの算定を検討することになります。
あわせて見落とされやすいのが、販売した仕入商品の廃棄がカテゴリ12にも計上されるという点です。カテゴリ1で拾ったものが、下流側で対応するカテゴリに反映されているかは別途の確認を要します。
誤り8 水道・工業用水がカテゴリ1に入っていない
上水道および工業用水はカテゴリ1に含めます。サービスの購入として整理されるためです。製造業では使用量が相当な規模になることがあり、排出量への影響も小さくありません。エネルギーとして認識されにくいため、算定範囲の検討時に落ちやすい項目です。
誤り9 カテゴリ8でテナント入居分のエネルギーが漏れる
リース資産のカテゴリ8では、Scope1・2に含まれていない車両や拠点がないかを、リース台帳と突き合わせて確認します。本社がテナントとして入居している場合の空調エネルギーなどが典型例です。
Scope2は自社が購入した電気・熱・蒸気を対象とするため、ビル側が一括して契約し、テナント側で個別に契約していない空調等のエネルギーはScope2に現れません。この分がカテゴリ8にも計上されていなければ、算定範囲から丸ごと落ちることになります。
該当性判断でよくある誤り
最後に、そもそも当該カテゴリに該当するかどうかの判断です。
誤り10 カテゴリ2で建設仮勘定を工事期間中に分割計上している
資本財(カテゴリ2)でよく見られる誤りです。会計上、複数年度にまたがる固定資産の取得では、工事期間中は建設仮勘定に金額をプールし、完成時に建物等の勘定に振り替えます。カテゴリ2の活動量は、建物勘定に振り替えた年度に全額を計上します。
誤りのパターンは、前期の建設仮勘定分と当期の追加分をそれぞれの年度に分けて計上するものです。前期に10億円、当期に20億円が発生し当期に完成した場合、当期に30億円をまとめて計上するのが正しい処理となります。
誤り11 カテゴリ10の該当性を製品の流れで判断していない
カテゴリ10(販売した製品の加工)は、自社が出荷した中間製品が他社で追加の加工や組み立てを受ける場合に該当します。最終製品を出荷していると認識している企業では、この該当性が検討されないまま算定範囲から外れることがあります。
判断の起点になるのは、自社の出荷物が顧客側でどう扱われるかという製品の流れです。素材や部材を出荷しており、顧客側でさらに加工されて別の製品になる構造であれば該当します。関連して、カテゴリ11(販売した製品の使用)についても、使用時にエネルギーを消費する製品に加え、燃料・フィードストック、使用時にGHGを排出する製品(冷媒等のGHG含有製品を含む)を販売しているかどうかで該当性が決まります。該当する製品群を持っていても、当該年度に売上が発生していなければ算定が不要となる場合があり、売上実績を確認したうえでの判断になります。
誤り12 カテゴリ5とカテゴリ12の対象が混在している
カテゴリ5は自社の事業活動から出た廃棄物、カテゴリ12は販売した製品が使用後に廃棄される分を対象とします。自社で製造せず仕入れて販売した商品の廃棄も、カテゴリ12の対象です。
カテゴリ5の側では、処理方法の区分が算定結果を左右します。リサイクル分と焼却分を分け、さらにマテリアルリサイクル、サーマルリカバリー、単純焼却、埋立に区分する必要があります。廃棄物の種類(汚泥・廃油・廃プラスチック等)ごとに原単位が異なり、同じ種類でも処理方法によって係数が変わるためです。処理方法の内訳が把握されていない状態では、種類別の係数を当てても結果の妥当性が担保されません。運搬に伴う排出を含めるかどうかも、範囲として明示が必要な論点です。
誤り13 未算定カテゴリの除外根拠が示されていない
Scope3の保証において、算定されていないカテゴリがあること自体は保証の障害になりません。算定されているカテゴリのみを保証対象とし、含まれていない範囲を明記する形で対応できます。
問題になるのは、除外した範囲の規模が示されていない場合です。「影響が小さいから除外」とする場合も、当該範囲の排出量を試算し、準拠する基準が定める除外の考え方に照らして説明できる状態にあることが前提になります。試算がないまま除外されている状態は、除外の妥当性そのものが確認できません。
Scope3 カテゴリ区分の誤り まとめ
カテゴリ区分の誤りは、単体のカテゴリを丁寧に見ても発見できないという特徴があります。カテゴリ4と9、カテゴリ1と12、Scope1とカテゴリ4のように、対になる関係を並べて初めて二重計上や漏れが表面化します。
また、区分の判断軸が会計上の勘定科目や社内の呼称と一致しないことが、誤りの温床になっています。受入運賃、割戻金、建設仮勘定といった会計上の概念は、排出の帰属とは別の論理で作られているためです。
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参考リンク
環境省・経済産業省 サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン(ver.2.8)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/GuideLine_ver.2.8.pdf
環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム サプライチェーン排出量全般
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html
GHG Protocol Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard
https://ghgprotocol.org/corporate-value-chain-scope-3-standard


