CBAM本格適用期の公式ガイダンス公表 移行期からの変更点まとめ2026

欧州委員会は2026年8月にCBAMの本格適用期に対応した公式ガイダンス11本を公表しました。本記事では公表された文書の全体像と移行期から変わった算定ルールを整理します。データ保存期間の延長から機能単位の変更や前駆物質の取扱いまでEU向けに製品を輸出する事業者が押さえるべき変更点をSSPの実務知見に基づき解説します。

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目次

CBAMガイダンス 要約

欧州委員会の租税関税同盟総局は2026年8月14日に総論4本と業種別6本のガイダンスを公表し2026年8月24日に検証と認定に関するガイダンスを追加で公表しました。合計11本がCBAM本格適用期の実務文書となります。

いずれも法的拘束力を持たない解説文書でありEU法の規定が優先します。ただし当局が想定する実務の考え方を示す文書であり算定と検証の準備において参照すべき内容です。

移行期からの主な変更はデータ保存期間の4年から6年への延長とセメントおよび肥料の機能単位の変更と前駆物質の加重平均ルールの既定化とモニタリング計画の英語必須化と報告文書の3点構成化です。

CBAMガイダンス 背景

CBAMの移行期は2023年10月1日から2025年12月31日までであり事業者に求められたのは四半期ごとの報告のみでした。金銭的な負担は発生しませんでした。

2026年1月1日から始まる本格適用期では内包排出量がCBAM証書の購入と償却という金銭債務に直結します。Regulation (EU) 2025/2083による改正後の制度設計では証書の販売開始が2027年2月1日で2026年輸入分の初回申告と証書償却の期限が2027年9月30日です。

報告のためのデータ収集フェーズから金銭債務を伴う本番運用フェーズへ移行することが今回のガイダンス群の前提にあります。欧州委員会はガイダンスの目的をEU域外の生産施設の事業者と認定CBAM申告者と検証人が実データを使えるようにすることと説明しています。

CBAMガイダンス 定義

CBAMガイダンスとは欧州委員会がCBAM規則と関連する実施法令の要求事項を法令用語ではない平易な言葉で説明する文書群です。今回公表されたのは本格適用期を対象とする版であり移行期向けの旧版とは対象期間が異なります。

各文書の冒頭には法的拘束力を持たない旨とEU法の規定が優先する旨の免責が明記されています。EU官報に掲載された法令原文が正であり解釈権は欧州司法裁判所にあります。

CBAMガイダンス 基礎

公表された11文書の構成

2026年8月14日公表分は総論4本と業種別6本です。

  • Guidance No.1 CBAMの概念の入門
  • Guidance No.2 域外事業者向けクイックガイド
  • Guidance No.3 財に内包される排出量の算定方法
  • Guidance No.4 無償割当調整の算定
  • Guidance No.5a セメント
  • Guidance No.5b 水素
  • Guidance No.5c 肥料
  • Guidance No.5d 鉄鋼
  • Guidance No.5e アルミニウム
  • Guidance No.5f 電力

2026年8月24日公表分は検証人と各国認定機関を対象とする検証と認定のガイダンス1本です。全141ページで保証水準や重要性の基準値や現地往査の要否まで扱っています。

誰がどの文書を読むべきか

  • EU向けに対象品目を輸出する域外の生産事業者はNo.2で全体像をつかみNo.3で算定方法を確認し該当する業種別文書を参照する
  • 内包排出量の算定担当者はNo.3を中心に読む。全147ページで最も分量が多い
  • CBAM証書の枚数とコストを見積もる担当者はNo.4を読む
  • 検証を受ける事業者と検証機関は検証と認定のガイダンスを読む

CBAMガイダンス 結論

今回のガイダンス群から読み取るべき変更の要点は以下の3点です。

  • 記録と文書の要求が明確に重くなった。データ保存期間は6年へ延長されモニタリング計画は英語での提出が必須となり報告文書は3点構成が求められる
  • 算定の裁量が狭まった。報告期間は暦年に固定され機能単位や生産プロセスの定義がより規定的になり事業者が選べる幅が縮小した
  • 前駆物質のデータ品質要件が強化された。域外の前駆物質について実データを使う場合は認定検証人が発行した検証報告書に基づくことが求められる

SSPはISO 14064-3に基づくGHG第三者検証とGX-ETSの検証を手がけておりCBAMの内包排出量の算定と検証についても制度動向を踏まえた実務的な知見を有しています。

CBAMガイダンス 論点

本格適用期のガイダンスに関する主要な論点を以下の表に整理します。

論点実務での重要度判断のポイントよくある誤解SSPの推奨スタンス
ガイダンスの法的位置づけ法的拘束力はなく法令原文が優先するガイダンスに従えば適法性が保証される法令原文と併読し解釈に迷う点は当局照会または専門家に確認する
データ保存期間の延長4年から6年へ延長された。監査サイクルの長期化に対応するもの従来どおり4年で足りる記録の保管方針を6年で再設定し保管媒体と管理責任者を明確にする
報告期間の暦年固定事業年度を選ぶ余地はなくなり暦年で統一される自社の会計年度で報告できる暦年ベースでデータを集計できるよう社内システムを見直す
モニタリング計画の英語必須英語での提出が求められる現地語で作成すれば足りる英語版を正本として整備し社内確認用に対訳を用意する
前駆物質データの検証要件域外の前駆物質の実データは認定検証人の検証報告書由来であることが必要供給者の自己申告値でよい調達先に検証報告書の提出可否を早期に確認する
報告文書の3点構成年次排出報告書と申告者向け要約と申告者別付属書に分かれる単一の様式で提出すればよい3文書それぞれの記載範囲と開示先を整理する

CBAMガイダンス 比較

移行期と本格適用期の主な違いを整理します。

比較項目移行期 2023年10月から2025年12月本格適用期 2026年1月以降
事業者の義務報告のみ内包排出量に基づく証書の購入と償却
報告の頻度四半期ごと年次
報告期間事業年度の選択が可能暦年に固定
データ保存期間4年6年
モニタリング改善の参照炭素価格20ユーロ80ユーロ
年間の非過大コスト上限2,000ユーロ4,000ユーロ
セメントの機能単位トンクリンカー含有量トン
肥料の機能単位トン窒素含有量キログラムまたは補足単位
前駆物質の既定ルール供給者の施設ごとに個別追跡同一CNコードの全供給者の加重平均
モニタリング計画の言語規定なし英語
報告様式単一の電子テンプレートは任意年次排出報告書と要約と申告者別付属書の3点構成

CBAMガイダンス 重要点

記録と文書に関する変更

記録の保存期間はすべてのモニタリング記録について4年から6年へ延長されました。監査サイクルが長期化することを前提とした変更です。

モニタリング計画は英語での提出が義務化されました。EU当局と検証人による確認を円滑にするための措置です。あわせてモニタリング計画のテンプレートが附属書で示されました。

報告文書は3点構成になりました。年次の排出報告書と申告者に渡すための要約と電力データを含む申告者別の秘密扱いの付属書に分かれます。

モニタリング改善への投資判断に使う基準も変わりました。改善による便益を評価する際の参照炭素価格が20ユーロから80ユーロへ引き上げられ年間の非過大コストの上限が2,000ユーロから4,000ユーロへ引き上げられています。より高い精度の計測に投資すべき範囲が広がることを意味します。

算定方法に関する変更

報告期間は生産の暦年に統一されました。移行期に認められていた事業年度の選択はできません。輸入財については輸入年に生産されたものとみなす法的推定が置かれ実際の生産時期を示す証拠があれば反証できます。ただし2026年中に輸入された財については実際の生産時期にかかわらず報告期間は2026年となります。

セメントの機能単位は単純な質量からクリンカー含有量トンへ変更されました。プロセス排出の主たる発生源がクリンカーであることを反映したものです。肥料については窒素含有量キログラムまたは該当する補足単位へ変更されました。

組成に基づく新しい算定式が導入されました。クリンカー含有量または窒素含有量に基づく財については10パーセント以下の組成レンジごとに平均した排出量を算定することが求められます。

同一施設内で同じ機能単位の財を異なる生産ルートで製造する場合は排出量の平均化が義務づけられました。生産プロセスの定義もCNコードのカテゴリ単位から施設単位の共通生産ルートへ軸足が移り同じ前駆物質と生産工程を共有する複数のCNコードはグループ化が求められます。

移行期にあった5パーセントの質量閾値の規定は削除されました。システム境界は機能単位と前駆物質の定義に依拠する形に整理されています。あわせてインフラと設備の購入および保守はシステム境界の外であることが明確化されました。

前駆物質に関する変更

前駆物質は複合財と同じ暦年に生産されたものとみなす法的推定が置かれました。事業者は証拠により反証できます。

複数の期間にまたがる前駆物質を外部供給者から受け入れる場合は加重平均の算定が義務づけられました。複数の供給者から同一CNコードの前駆物質を調達する場合も供給者ごとの個別追跡ではなく全供給者の加重平均が既定ルールとなります。特定の生産プロセスで使用したことを示す十分な証拠がある場合に限り既定ルールから外れることが認められます。

域外の前駆物質について実データを用いる場合は認定検証人が発行した検証報告書から取得したデータであることとその報告書が当該前駆物質の生産期間を対象としていることが求められます。

EU域内または指定地域で生産された前駆物質がEU域外で複合財の製造に使われEUへ輸入される場合は直接排出と間接排出のいずれもゼロとして扱われます。ただし使用量の報告は必要です。

また関連前駆物質という限定的な概念は用いられなくなりました。いずれのCBAM対象品目も他のCBAM生産プロセスの前駆物質になり得るという整理です。

CBAMガイダンス 手順

本格適用期の要件に対応するために事業者が取るべき準備ステップを以下に整理します。

  • 対象品目を特定する。自社がEUへ輸出する製品のCNコードを確認しCBAM規則の対象に該当するかを判定します。複合財の場合は使用している前駆物質も併せて確認します。
  • 報告期間を暦年に切り替える。データ集計の単位を暦年に統一し社内の集計システムと帳票を見直します。事業年度と暦年がずれる場合は移行時の重複と欠落を確認します。
  • 生産プロセスの分割方針を定める。施設を生産プロセスにどう分割するかを機能単位と生産ルートに基づいて決めます。同じ前駆物質と生産工程を共有するCNコードのグループ化も検討します。
  • 前駆物質の調達データを棚卸しする。同一CNコードの前駆物質を複数の供給者から調達している場合は加重平均の算定に必要な数量データが揃うかを確認します。域外供給者には検証報告書の提出可否を照会します。
  • モニタリング計画を英語で整備する。附属書のテンプレートに沿って英語版を作成します。社内確認のための対訳は別途用意します。
  • 記録の保管方針を6年に更新する。活動量データと証憑と算定シートの保管期間と保管場所と管理責任者を定めます。
  • 検証機関に事前相談する。実データを用いる場合は認定検証人による検証が必要です。検証の受入れ時期と必要な資料を早い段階で確認します。

CBAMガイダンス FAQ

Q1 ガイダンスに従わなかった場合に罰則はありますか

ガイダンス自体には法的拘束力がないため直接の罰則はありません。ただしガイダンスはCBAM規則と実施法令の要求事項を説明する文書であり法令上の義務を果たしていない場合には規則に基づく措置の対象となります。

Q2 移行期に作成したモニタリングの仕組みはそのまま使えますか

そのままでは不足する可能性があります。報告期間が暦年に固定されデータ保存期間が6年に延長されモニタリング計画の英語提出が必須となるなど複数の要求が変わっています。移行期の仕組みを基礎としつつ変更点への対応を追加する形が現実的です。

Q3 デフォルト値を使えば算定や検証は不要ですか

デフォルト値を用いる場合は事業者による実データの算定と検証は不要です。ただしデフォルト値は実際の排出量より高く設定される場合があり証書の購入枚数が増えることがあります。実データとデフォルト値のどちらが有利かは自社の排出水準によって異なります。

Q4 前駆物質の加重平均とは具体的に何を平均するのですか

同一のCNコードに該当する前駆物質を複数の供給者から調達している場合にそれぞれの単位内包排出量を調達数量で加重して平均します。移行期は供給者の施設ごとに個別に追跡することが原則でしたが本格適用期は加重平均が既定ルールとなります。

Q5 EU域内で作られた前駆物質を使っている場合はどうなりますか

EU域内または指定地域で生産された前駆物質を域外で複合財の製造に使いEUへ輸入する場合は直接排出と間接排出のいずれもゼロとして扱われます。ただし使用した数量そのものは報告する必要があります。

Q6 日本企業はどの立場でCBAMに関わりますか

EUへ対象品目を輸出する日本の生産事業者は域外の生産施設の事業者として内包排出量の算定と第三者検証の対象になります。EU域内の輸入者に代わって申告を行う立場ではありませんが輸入者が実データを使うためには事業者から検証済みの排出報告書を提供する必要があります。

CBAMガイダンス まとめ

2026年8月に公表された11本のガイダンスは移行期の報告フェーズから本格適用期の本番運用フェーズへの移行を前提とした内容です。記録と文書の要求が重くなり算定の裁量が狭まり前駆物質のデータ品質要件が強化された点が変更の中心です。

企業が今取るべきアクションは対象品目の特定と報告期間の暦年への切替えと前駆物質の調達データの棚卸しとモニタリング計画の英語での整備です。実データを用いる方針であれば認定検証人による検証の受入れ準備も並行して進める必要があります。

SSPはGHG第三者検証の実務を通じて算定データの整備と検証対応の知見を蓄積しています。CBAM対応の進め方についてお気軽にご相談ください。

CBAMガイダンス 次のステップ

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この記事を書いた人

SSP編集部は、非財務情報の第三者保証を専門とする株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズの実務者チームです。公認会計士やISO審査・サステナビリティ開示の実務経験を持つ専門職員で構成され、ISO 14064-3・ISAE 3000・ISSA 5000等の国際基準に基づくGHG排出量(Scope1・2・3)の検証・保証や、GX-ETS(排出量取引制度)の登録確認機関としての確認業務に従事しています。SSBJ・CDP・SBTなど最新の制度動向を一次情報にあたって追い、算定・開示の現場実務に即した、正確でわかりやすい解説をお届けします。

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