GX-ETS 公式マニュアルだけでは決まらない論点 照会33件の分析

GX-ETS(GX推進法に基づく排出量取引制度)第2フェーズの初年度対応が本格化しています。株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ(SSP)は登録確認機関として、対象事業者からの制度照会を継続的に受け付けています。直近に寄せられた33件の照会を分析したところ、6割にあたる20件(60.6%)が、公式マニュアルの記載だけでは結論が確定せず、制度事務局への確認を要する論点でした。本記事では、照会がどの領域に集中しているのか、マニュアルで結論が確定する論点と確定しない論点は何が異なるのか、そして確定しない論点について現時点でSSPがどう整理しているのかを示します。照会元の企業が特定されない形に加工しています。

本記事に記載する未確定論点への見解は、2026年7月時点の公式マニュアルに基づくSSPの暫定的な整理です。制度事務局の見解が示された段階で本記事は更新します。

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目次

GX-ETS 照会分析の要約

照会33件のうち、公式マニュアルの記載を参照することで結論が確定したものは13件(39.4%)、事務局への確認を要したものは20件(60.6%)でした。確定しない論点は3つの型に分かれます。制度文書間で記載が食い違っている型、個社の実態次第で結論が反転する型、原典にそもそも規定が存在しない型です。最も多いのが第三の型で、燃料区分や排出係数の細目、内部統制の運用水準など、実務上は判断が必要になるにもかかわらずマニュアルが具体的な規定を置いていない領域に集中しています。

GX-ETS 分析の対象と方法

SSPが受け付けた制度照会33件を対象としました。照会元は、GX-ETSの対象事業者または対象該当性を検討中の事業者です。各照会について、公式マニュアル(セットアップマニュアル、算定・報告マニュアル、確認業務マニュアル、別冊ベンチマーク方式マニュアル等)の該当条項を特定し、原文の記載で結論が確定するかどうかを判定しました。

確定しないと判定した照会は、制度事務局(経済産業省及びGX推進機構)への確認を要する扱いとしています。なお、照会の受付経路と時期の性格上、本集計は制度対象事業者全体の疑問の分布を代表するものではありません。SSPに寄せられた照会の内訳です。

判定区分件数構成比
公式マニュアルの記載で結論が確定1339.4%
制度事務局への確認を要した2060.6%
合計33100.0%

GX-ETS マニュアルで結論が確定した論点

まず、原典を参照することで結論が確定した論点です。いずれも照会が重なった、実務上の関心が高いテーマです。

温対法で10万トンを超えていても制度対象外になり得る

温対法(SHK制度)で直接排出量が10万トンを超えている企業から、自社は当然に制度対象になるのかという照会が複数ありました。判定の基準は温対法の報告値ではなく、GX-ETSの算定対象となるCO2直接排出量が10万トン以上かどうかです。

算定・報告マニュアルは、廃棄物の原燃料利用(熱回収を伴って廃棄物を燃料・原料として使用する分)を直接排出量から除外すると定めています。したがって、温対法ベースでは10万トンを超えていても、その相当部分が廃棄物の原燃料利用に由来する場合、制度上の算定対象は10万トン未満となり対象外になり得ます。ただし熱回収を伴わない廃棄物の焼却は除外の対象ではなく、算定対象に含まれます。

マニュアルに列挙のないプロセス排出が出てきた場合

非エネルギー起源のCO2、いわゆるプロセス排出について、マニュアルに例示されているパターンに当てはまらない排出が自社にある場合の扱いについて照会がありました。列挙にないから計上不要という解釈が成り立つか、という趣旨です。

計上の対象となります。本制度の算定対象には裾切りの規定が置かれておらず、係数表の記載は代表例の列挙であって限定列挙ではありません。「その他用途での炭酸塩の使用」という受け皿の区分も設けられています。脱炭酸や炭素源の酸化などでCO2が発生する反応があるかどうかで判断し、該当するなら専用の係数がなくても実測または推計での算定を検討する順序になります。少量であることを理由とする除外も、制度上は認められていません。

施工現場や期間限定の作業所は敷地範囲に含まれるか

建設業や道路舗装業のように、事業所以外に流動性の高い作業拠点を持つ事業者から、施工現場や期間限定の作業所を算定範囲に含めるのかという照会がありました。工事現場は算定対象に含まれないものとして原典に明示列挙されており、対象外です。

一方で、期間限定の作業所のうちどこまでが「常設」に該当するかという線引きについては、原典に用語の定義や工期の閾値がありません。この部分は後述する「確定しない論点」に含まれます。

小規模な工場が多数ある場合の登録単位

小規模な工場を50か所程度保有する事業者から、すべてを個別に登録する必要があるのか、まとめて報告できないのかという照会がありました。境界は原油換算1,500キロリットルです。これ以上の特定工場等は個別に算定して工場等ごとに報告し、1,500キロリットル未満の小規模な事業所は営業所・本店・研究所を含めて一体で扱う整理になります。拠点数の多い事業者にとっては、初期の登録負荷を大きく左右する論点です。

バイオマス燃料の燃焼由来CO2の扱い

バイオマス燃料の燃焼によって発生するCO2を算定対象に含めるかという照会がありました。バイオマス・廃棄物の原燃料利用等の非化石燃料は対象外と原典に明記されています。ただし、バイオマス混焼における化石燃料分は対象であり、熱回収を伴わない廃棄物焼却も対象です。少量を理由とする除外は認められません。

直近3年度平均は初年度の対象判定にのみ使うのか

対象事業者の判定に用いる直近3年度の平均排出量について、初年度の判定にのみ使うものか、その後も継続して算定が必要かという照会がありました。毎年度必要です。制度対象の判定について事務局からの指定や通知はなく、各事業者が毎年度9月30日までに、前年度までの直近3年度の平均が10万トン以上かを自ら判定します。直近3年度は毎年度ローリングで動きます。

一方、いったん対象となった事業者が排出量の減少により対象から外れることができるかという点は、原典の記載だけでは確定せず、事務局確認を要する論点でした。

GX-ETS 事務局確認を要した論点と現時点の整理

次に、公式マニュアルを精読しても結論が確定しなかった論点です。件数としてはこちらが過半を占めます。各論点について、原典から言えることと、現時点でのSSPの暫定的な整理を示します。

副生燃料の排出目標量算定における記載の食い違い

有機化学工業製品製造業のベンチマーク方式について、説明会では副生燃料を同一装置内で使用している場合は排出目標量の算定対象外という説明があった一方、別冊のベンチマーク方式マニュアル本文には副生燃料起源の排出に関する別の規定が置かれていました。どちらに従うのかという照会です。

現時点のSSPの整理は、二段構えとして読むというものです。燃料ベンチマークの原単位に燃料使用量を乗じる項では副生燃料を除きます。一方、副生燃料起源の排出量は別建てで算定の対象となります。したがって「燃料使用量からは除外されるが、排出目標量全体では別建てで算定され、完全な算定対象外ではない」という理解になります。説明会での「同一装置内で使用なら算定外」という限定については、その根拠を原典に見出せず、別冊の規定とも一部整合しません。排出目標量の水準に直結するため、事務局確認を経て確定させる必要のある論点と位置づけています。

量的重要性5%と排出量取引の1トン単位の関係

確認業務における量的重要性は5%以下と定められています。一方で排出量取引は1トン単位で行われます。この二つの粒度の関係について、複数の照会が寄せられました。

原典から確定する部分は次のとおりです。量的重要性は排出目標量の総量に対する5%であり、基準年の各年度それぞれに対する5%ではありません。確認業務マニュアルにいう「それぞれ」は、排出目標量と排出実績量という2つの確認対象それぞれを指しています。また規定上の表記は「5%以下」であり、5%未満ではありません。

現時点のSSPの整理では、5%は確認(限定的保証)の手続を計画するための水準であり、1トンは事業者側の報告および訂正の単位です。確認機関が常時1トンの精度を保証するという意味ではありません。ただし、確認時の5%という許容と、排出枠の発行後に1トン以上の誤りが判明した場合の訂正義務との間で、責任がどう配分されるのかについては原典に規定がなく、事務局確認を要する部分として残ります。また量的重要性は質的重要性と併せて判断されるため、5%以下を機械的に無視できるという運用にはなりません。

ベンチマーク対象工程の内数保証の範囲

ベンチマーク方式が適用される工程を持つ事業者から、当該工程のスコープ1の値そのものも確認対象になるのか、という照会がありました。

限定的保証としての確認の対象は、排出目標量(早期排出削減量を除く)と排出実績量の2つであり、工程単位のスコープ1が独立した保証項目として立つわけではありません。なお早期排出削減量も確認の対象ですが、こちらは合意された手続により実施され、結論の表明を伴いません。ただし現時点のSSPの整理では、当該工程の値は排出実績量の一部として、また排出目標量側ではベンチマーク方式とグランドファザリング方式のバウンダリの網羅性・重複の排除・按分の妥当性として、確認の射程に入ります。起源別の内数まで保証の対象となるかについては原典から一意に読み取れず、事務局確認を要します。

廃棄物・再生燃料の「原燃料利用」該当性

他社から有価で購入した再生重油を焼成炉の燃料に使用している事業者から、これが除外規定にいう廃棄物の原燃料利用に該当するのか、有価か無価かで判断が変わるのかという照会がありました。

現時点のSSPの整理では、再生重油は石油由来であり化石起源であるため、非化石燃料には当たりません。したがって廃棄物の原燃料利用による除外がここまで及ぶかは疑わしいと考えていますが、除外の外延が原典で確定できず、有価か無価かによる判断の分岐についても規定を確認できません。燃料区分については、原典の燃料デフォルト値表に再生重油そのものの掲載はありませんが、同表には「その他固体燃料」「その他液体燃料」「その他気体燃料」の区分が設けられており、燃料の状態に応じてこれらの区分で係数を設定することができます。また同表の前段には、表に記載のない燃料を使用している場合は最も近い定義の種類のエネルギーに含めるか、実測等の値を用いる旨の規定が置かれています。したがって、A重油等の近い区分に含めて算定すること自体には原典上の根拠があります。ただし「最も近い区分に含める」と「実測等の値を用いる」のどちらを優先するかは、原典から一義的には読み取れません。いずれも事務局確認を要する部分です。

帳票がない場合の推計の許容範囲

原材料起源のCO2について、対象となる原材料の使用量に関する購買記録・計量記録が当年度に一切存在せず、設備容量からの按分により暫定的に推計しているという照会がありました。

現時点のSSPの整理は次のとおりです。推計値算定に関するマニュアルが適用場面として挙げるのは、計量器の故障によるデータ欠損や、合併・事業譲渡に伴うデータ不足といった限定的な列挙であり、当初から計量しておらず帳票が存在しないケースがここに含まれるかは原典から確定できません。また同マニュアルの推計式は参照期間の実績に基づく方式であり、設備容量からの按分は規定されていません。あわせて、量的重要性の5%は登録確認機関側の基準値であって、事業者が算定を省略してよい基準ではない点に注意が必要です。裾切りがなく訂正の単位が1トンである以上、少量であっても算定の省略は認められません。

内部統制における内部監査の位置づけ

QA/QCを含む内部統制について、内部監査を内部監査室が実施することが必須なのか、算定の非担当者を内部監査員に任命する運用で要件を満たすのか、という照会がありました。

現時点のSSPの整理では、内部監査室が実施主体であることを必須とする規定は確認できません。品質保証について、実施主体を特定の組織に限定する規定も確認できません。したがって、算定やデータ作成を直接担当していない者を内部監査員に任命する運用でも、要件を満たし得ると考えています。核となるのは、自らが記録・入力・承認を担当した対象を自ら監査しないという機能的な独立性です。ただし、相互監査の可否や独立性の最低ライン、確認機関としての受入可否は内部統制の評価方針にも依存するため、事務局確認を要する部分として残ります。

GX-ETS 結論が確定しない論点の3つの型

事務局確認を要した20件を分析すると、確定しない理由は3つの型に分類できます。

型1 制度文書間で記載が食い違っている

説明会での口頭説明とマニュアル本文、あるいは複数のマニュアル間で記載が異なる型です。副生燃料の論点が該当します。件数は多くありませんが、事業者側では気づきにくく、気づいた時点では算定が進んでいるため手戻りが大きくなる性質があります。

型2 個社の実態次第で結論が反転する

原典の規定は明確でありながら、その規定を自社の実態に当てはめた結果が、事実関係の細部によって逆転する型です。廃棄物処理が原燃料利用に該当するか焼却に該当するか、期間限定の作業所が常設に当たるか、といった論点が該当します。この型は原典を読み込んでも解決せず、事実認定の問題として事務局と共有することになります。

型3 原典にそもそも規定が存在しない

20件のうち最も多いのがこの型です。再生燃料の燃料区分と排出係数、帳票が存在しない場合の推計の許容水準、内部統制における内部監査の運用水準など、実務では判断が必要になるにもかかわらず、マニュアルが具体的な規定を置いていない領域です。制度の初年度である以上、一定程度は不可避な状況といえます。

GX-ETS まとめ

照会33件の分析から見えるのは、GX-ETS第2フェーズの実務において、公式マニュアルを精読しても結論が確定しない論点が過半を占めるという現状です。確定しない理由は、文書間の食い違い、個社の実態依存、規定の不在の3つに整理できます。

本記事に示した未確定論点への整理は、2026年7月時点の公式マニュアルに基づく暫定的なものです。制度事務局の見解が示された段階で本記事は更新します。

株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズは、GX推進法に基づく排出量取引制度の登録確認機関として登録されています。

参考リンク

GXリーグ公式ウェブサイト
https://gx-league.go.jp/

環境省 温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度 制度概要
https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/about.html

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この記事を書いた人

SSP編集部は、非財務情報の第三者保証を専門とする株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズの実務者チームです。公認会計士やISO審査・サステナビリティ開示の実務経験を持つ専門職員で構成され、ISO 14064-3・ISAE 3000・ISSA 5000等の国際基準に基づくGHG排出量(Scope1・2・3)の検証・保証や、GX-ETS(排出量取引制度)の登録確認機関としての確認業務に従事しています。SSBJ・CDP・SBTなど最新の制度動向を一次情報にあたって追い、算定・開示の現場実務に即した、正確でわかりやすい解説をお届けします。

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