【CSRD】オムニバスIV政治合意と対象企業 中堅カテゴリー新設の要点

欧州連合 EU において、企業のサステナビリティ報告義務に大きな影響を与える「オムニバスIV」指令案が政治合意に至りました。この合意は、企業サステナビリティ報告指令 CSRD の対象となる企業の範囲を見直すものであり、特に注目されるのが新たに創設される「中堅企業」カテゴリーです。この変更は、EU域内に拠点を持つ日本企業にとっても、サプライチェーン全体での情報開示要求の質と量に変化をもたらす可能性があります。本記事では、SSPの実務経験に基づき、オムニバスIV指令案の政治合意がCSRDの対象範囲に与える影響、新設される中堅企業カテゴリーの論点、そして日本企業が取るべき対応について、網羅的に解説します。

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目次

オムニバスIVとCSRD 要約

EUのオムニバスIV指令案に関する政治合意は、CSRDの報告対象企業範囲を調整する重要な動きです。この合意により、新たに「中堅企業」カテゴリーが創設され、一定規模の企業に対してサステナビリティ報告が義務付けられます。これにより、これまで対象外であった企業も報告義務を負う可能性があり、EU域内に子会社を持つ日本企業は、自社グループの該当性を再評価し、サプライチェーン全体での対応を準備する必要があります。

オムニバスIVとCSRD 背景

EUでは、企業の会計や透明性に関するルールを定めた会計指令、透明性指令、監査指令が存在します。これらの指令は、企業の規模を定義し、どのような情報を開示すべきかを定めています。CSRDは、これらの指令を改正する形で、サステナビリティ情報の開示を義務化しました。

しかし、CSRDの適用範囲が広範にわたるため、中小企業への過度な負担が懸念されていました。また、インフレ等の経済状況の変化を考慮し、企業の規模分類基準である閾値の見直しも必要とされていました。

このような背景から、EUの既存の法的枠組みを横断的に改正するための法案として、オムニバスIV指令案が提出されました。この指令案の目的は、CSRDの適用対象をより実態に即したものに調整し、報告義務のバランスを取ることにあります。今回の政治合意は、この調整に関するEU理事会と欧州議会の間での合意形成を意味します。

オムニバスIVとCSRD 定義

株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ SSP は、EUのオムニバスIV指令案を、CSRDをはじめとする既存のEU指令を横断的に改正し、特に企業の規模分類基準を更新することで、サステナビリティ報告義務の適用範囲を調整する法的枠組みであると定義します。この枠組みの中心的な要素が、新たに導入される「中堅企業」カテゴリーであり、これは大企業と中小企業の間に位置づけられ、新たな報告義務を負う企業群を明確化するものです。

オムニバスIVとCSRD 基礎

CSRDの報告義務を理解する上で、企業の規模分類は極めて重要です。従来、EUの会計指令では、企業を「零細」「小」「中」「大」の4つに分類していました。この分類は、貸借対照表合計、純売上高、平均従業員数の3つの基準のうち2つを満たすかどうかで決まります。

CSRDは、原則としてすべての大企業と、一部の上場中小企業にサステナビリティ報告を義務付けました。しかし、この区分では、大企業には満たないものの、サプライチェーンにおいて重要な役割を担う企業群が報告義務の対象外となるケースがありました。

今回のオムニバスIV指令案の政治合意は、このギャップを埋めることを意図しています。新たに「中堅企業」というカテゴリーを正式に導入し、このカテゴリーに属する企業にも段階的にCSRDに基づく報告を求めることで、サステナビリティ情報の透明性をサプライチェーンのより広い範囲で確保することを目指しています。

オムニバスIVとCSRD 結論

オムニバスIV指令案の政治合意は、EUにおけるサステナビリティ報告の対象範囲を再定義するものであり、日本企業にとって無視できない影響を持ちます。SSPは、EU域内に子会社や大規模な支店を持つ日本企業は、まず自社グループが新たに創設される「中堅企業」カテゴリーに該当しないか、速やかに評価すべきであると結論付けます。

たとえ直接の報告義務を負わない場合でも、取引先であるEU企業からCSRDに準拠した情報開示を求められる可能性は飛躍的に高まります。サプライチェーン全体でのデューデリジェンスが強化される中で、中堅企業カテゴリーの新設は、これまで以上に詳細かつ信頼性の高いサステナビリティ情報を要求される契機となります。したがって、すべての企業は、この変更を自社のサステナビリティ戦略及び情報開示体制を見直す機会と捉え、準備を進めることが賢明です。

オムニバスIVとCSRD 変更点

今回の政治合意によってもたらされるCSRD適用対象に関する主な変更点は、以下の通りです。

中堅企業カテゴリーの創設

これまで明確な定義がなかった「中堅企業」が、サステナビリティ報告義務を負う独立したカテゴリーとして新設されます。

企業規模を定義する閾値の引き上げ

インフレの影響を考慮し、企業の規模を分類するための財務基準、具体的には貸借対照表合計と純売上高の閾値が引き上げられます。これにより、一部の企業はより小さい規模のカテゴリーに分類される可能性があります。

特定セクター向けESRSの採択延期

石油・ガスや鉱業など、特定のセクターに特化した欧州サステナビリティ報告基準 ESRS の採択が2年間延期される見込みです。

第三国企業向けESRSの採択延期

EU域外の親会社を持つ企業に適用されるESRSの採択も2年間延期される見込みです。

報告義務の段階的導入

新設される中堅企業カテゴリーに対しては、報告義務の開始時期が他の企業グループよりも遅く設定されるなど、段階的な導入が検討されています。

オムニバスIVとCSRD 論点

オムニバスIV指令案の政治合意に伴い、実務担当者が押さえるべき論点を整理します。

論点実務での重要度判断のポイントよくある誤解SSPの推奨スタンス
自社グループの該当性評価EU域内子会社・支店の最新の財務諸表と従業員数を確認し、新しい閾値と照合する。連結ベースでの判断が必要かを確認する。日本の親会社の規模で判断してしまう。子会社単体で見れば対象外と早合点する。EU域内の全拠点をリストアップし、個社ごと及び連結ベースでの該当性を網羅的に評価することを推奨します。
中堅企業の報告基準中堅企業向けに簡素化されたESRSが開発されるか、既存のESRSがそのまま適用されるか。公式発表を注視する。大企業と全く同じ内容の報告がすぐに求められると考える。簡素化された基準が導入される可能性が高いですが、大企業向けESRSの構造を理解し、準備を進めることが望ましいです。
サプライチェーンへの影響取引先であるEU企業から、新たなカテゴリーの企業に対しても情報開示要請が来る可能性を評価する。自社が直接の報告義務者でなければ関係ないと考える。サプライチェーンの上流・下流双方への影響を分析し、情報収集・開示体制を早期に構築することを推奨します。
保証の要否とレベル中堅企業に対しても第三者保証が義務付けられるか。義務付けられる場合の保証レベルは限定的保証か、合理的保証か。保証はCSRDの対象外である、または大企業のみの要件だと考える。将来的に限定的保証が義務付けられる可能性を念頭に置き、データ収集プロセスの信頼性を高める準備を進めるべきです。
適用開始時期各カテゴリーの企業に対する報告義務の開始年度を正確に把握する。延期の可能性も考慮に入れる。すべての企業が同じタイミングで報告を開始すると誤解する。自社が該当するカテゴリーの適用年を特定し、そこから逆算した準備スケジュールを策定することを推奨します。

オムニバスIVとCSRD 比較

今回の政治合意によるCSRD対象企業の変化を、変更前と変更後で比較します。

項目変更前(現行の想定)政治合意後(今後の見込み)
企業カテゴリー大企業、上場中小企業が主な報告義務者。中堅企業という明確な区分はない。大企業、中堅企業、上場中小企業が報告義務者となる。中堅企業カテゴリーが新設される。
大企業の定義既存の会計指令に基づく閾値(純売上高4,000万ユーロ等)で定義される。インフレ調整後の引き上げられた閾値で定義される。一部企業が対象外になる可能性がある。
中堅企業の報告義務報告義務は原則なし。新たに報告義務が課される。ただし、大企業より遅いタイミングで、簡素化された基準が適用される可能性がある。
中小企業の扱い上場している中小企業のみが報告義務の対象。上場中小企業の報告義務は維持されるが、非上場の中小企業は引き続き原則対象外。
サプライチェーンからの要求主に大企業からサプライヤーへの情報開示要求が中心。大企業に加え、中堅企業からもサプライヤーへの情報開示要求が増加することが予想される。

オムニバスIVとCSRD 重要点

今回の政治合意を受けて、企業のサステナビリティ担当者が特に深く理解すべき重要点を解説します。

新しい企業規模の閾値への対応

最も直接的な影響は、企業規模を判断する基準である閾値の変更です。インフレを反映して閾値が引き上げられるため、これまで「大企業」とされていた子会社が「中堅企業」に、あるいは「中堅企業」が「小企業」に分類される可能性があります。

実務上の影響は、報告義務の有無や開始時期に直結します。自社のEU域内拠点の最新の財務状況を、提案されている新しい閾値に照らし合わせて再評価することが急務です。この評価を怠ると、不要な報告準備を進めてしまったり、逆に必要な準備が遅れたりするリスクがあります。

サプライチェーン全体での情報透明性の向上

中堅企業カテゴリーの新設は、EUがサプライチェーン全体におけるサステナビリティ情報の透明性をいかに重視しているかを示しています。大企業だけでなく、その主要な取引先である中堅企業にも報告義務を課すことで、バリューチェーン上の人権や環境に関するリスクと機会がより明確になります。

日本企業にとっては、自社がEUの中堅企業に製品やサービスを供給している場合、取引先からCSRDに準拠したデータ提供を求められる場面が格段に増えることを意味します。Scope3の算定に必要なデータや、人権デューデリジェンスに関する情報などが典型例です。これまで対応が手薄だった企業も、サプライチェーンの一員としての情報開示責任を意識した体制構築が求められます。

オムニバスIVとCSRD 手順

この新しい動きに対応するため、企業が踏むべき実務的な手順を以下に示します。

  1. EU域内拠点の現状把握。 まず、自社グループがEU域内に保有するすべての子会社、支店のリストを作成します。それぞれの法的な位置づけと事業規模を正確に把握します。

  2. 最新の財務・非財務データの収集。 各拠点について、直近の会計年度の貸借対照表合計、純売上高、平均従業員数のデータを収集します。

  3. 新カテゴリーへの該当性評価。 収集したデータを、オムニバスIV指令案で示されている新しい閾値と照合します。どの拠点が「大企業」「中堅企業」「小企業」のいずれに該当するかを仮判定します。

  4. 連結ベースでの評価。 EUの指令では、連結ベースでの企業規模の評価が求められる場合があります。個社だけでなく、EU域内の子会社を連結した上での規模も評価し、報告義務の有無を慎重に判断します。

  5. 情報開示ギャップの分析。 自社が報告義務を負うと判断された場合、または主要な取引先から情報開示を求められる可能性が高い場合、ESRSの要求項目と自社の現状の情報開示レベルとの間のギャップを分析します。

  6. 対応ロードマップの策定。 ギャップ分析の結果に基づき、いつまでに、どの部署が、何をすべきかを定めた具体的なロードマップを作成します。データ収集プロセスの構築、社内体制の整備、ITシステムの導入検討などが含まれます。

  7. サプライヤーとのエンゲージメント。 自社のサプライチェーンに対して、今後どのような情報提供を求める可能性があるかを検討し、早期のコミュニケーションを開始します。

オムニバスIVとCSRD FAQ

Q1. オムニバスIV指令案の政治合意は、いつ法的に確定しますか?

政治合意は、EU理事会と欧州議会の間での暫定的な合意です。今後、正式な採択とEU官報での公表を経て、法的な効力を持つことになります。通常、このプロセスには数ヶ月を要しますが、大きな変更なく採択される可能性が高いです。

Q2. 中堅企業はいつから報告を開始する必要がありますか?

具体的な報告開始年度は、指令の最終的な条文で確定します。現時点の議論では、大企業よりも遅いタイミング、例えば2028年報告(2027年会計年度分)などが検討されていますが、公式発表を待つ必要があります。

Q3. 日本にいる親会社も直接の報告義務を負いますか?

日本の親会社がEUの規制市場に上場していない場合、直接の報告義務を負うことは稀です。しかし、EU域内の子会社が一定の規模を超える場合、その子会社が報告義務を負います。また、EU域内での純売-上が一定額を超える第三国企業グループに対する報告義務もCSRDには含まれており、その動向も注視が必要です。

Q4. 閾値の引き上げで、これまで対象だった企業が対象外になることはありますか?

はい、その可能性があります。閾値が引き上げられることで、これまで「大企業」の基準をわずかに超えていた企業が、新しい基準では「中堅企業」に分類され、報告義務の開始時期が遅れる、あるいは報告内容が簡素化されるといった影響が考えられます。

Q5. 中堅企業向けのサステナビリティ報告基準は、大企業向けとどう異なりますか?

中堅企業向けには、より簡素化されたESRSが開発される予定です。これは、報告負担を軽減しつつ、必要不可欠な情報を開示させることを目的としています。ただし、その具体的な内容はまだ公表されておらず、今後の欧州財務報告諮問グループ EFRAG の動向を注視する必要があります。

Q6. この変更は英国 UK の企業にも適用されますか?

いいえ、EUの指令であるため、英国の企業に直接適用されるものではありません。ただし、英国企業がEU域内に一定規模の子会社を持っている場合や、EUの規制市場に上場している場合は、CSRDの対象となります。

オムニバスIVとCSRD まとめ

EUの「オムニバスIV」政治合意でCSRD対象がどう変わるか、特に中堅企業カテゴリー創設の論点について解説しました。この合意は、EUにおけるサステナビリティ報告の風景を大きく変えるものです。中堅企業という新たな報告義務主体が生まれることで、これまで以上に多くの企業がサステナビリティ情報開示の枠組みに組み込まれます。

日本企業は、この変更を対岸の火事と捉えるべきではありません。EU域内拠点の規模を再評価し、サプライチェーンの一員として増大する情報開示要求に備えることが不可欠です。SSPは、この過渡期において、企業が自社の立ち位置を正確に把握し、戦略的な対応を立案するための専門的な支援を提供します。今後の法制化の動向を引き続き注視し、適切な準備を進めていきましょう。

参考リンク

European Commission – Corporate sustainability reporting
https://finance.ec.europa.eu/capital-markets-union-and-financial-markets/company-reporting-and-auditing/company-reporting/corporate-sustainability-reporting_en

EFRAG – European Sustainability Reporting Standards
https://www.efrag.org/ESRS

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この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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