V2.0への対応として企業が今から着手すべき手順と、よくある質問をまとめます。実施ヒエラルキーと継続的排出責任の実務上の要点も併せて解説します。

実施ヒエラルキーと市場メカニズムの統合性
V2.0は市場メカニズムの利用を否定せず、利用できる条件を明確化するアプローチを採りました。前提となるのは実施ヒエラルキーです。企業はまず効率改善、燃料転換、サプライヤー協働といった活動レベルの直接削減を評価し実施したことを文書化しなければなりません。そのうえで、排出が電力網、ガス網、サプライシェッド、物流ネットワークといった共有システムに由来する場合、同じアクティビティプール内での行動が認められ、エネルギー属性証書やコモディティ証書がこれを支援できます。構造的制約が立証された場合に限りセクターレベルの行動が選択肢となり、いずれの場合も統合性基準への適合を示す監査可能な文書の維持が不可欠です。
継続的排出責任と残余排出の中和
OERは従来の任意の推奨にとどまっていたバリューチェーン外の貢献を、認定と将来の義務化を伴う制度へと発展させたものです。設計上の原則は、自社排出の削減の補完であって代替ではないという点にあります。認定プログラムでは、検証済み緩和成果は過去5年以内に発生した事後測定かつ独立保証済みのものに限定され、クレジットは請求時点で永久に償却される必要があります。2035年以降はカテゴリーA企業を中心に炭素除去の支援が義務化され、長寿命温室効果ガスに帰属する部分については長期貯留型除去の比率を10%から開始しネットゼロ年までに100%へ引き上げる耐久性の段階要件が適用されます。
今から着手すべき8ステップ
適用基準と適用時期を確定する
バージョン1は2027年末まで目標設定に利用できるため、既存のコミットメントや2030年目標の有無を踏まえ、V1で先行するかV2.0を待つかの方針を決定します。2030年目標を持つ企業は2028年から次サイクル目標をV2.0で設定することが推奨されています。
企業カテゴリーを判定する
最終親会社の連結ベースで直近2期の平均値を用い、売上高、従業員数、総資産、排出量の閾値からカテゴリーAかBかを判定します。判定結果は登録時に確認され、5年の目標サイクル中は維持されます。
GHGインベントリの算定体制を整備する
GHGプロトコル基準の最新有効版に従い、スコープ1、2、3と7ガスを網羅した物理的インベントリを構築し、データギャップと推計の使用状況を文書化します。
EIAを特定し定量化する
付録Aの一覧と自社バリューチェーンを照合し、該当するEIAの排出量を入手可能な最良のデータで定量化します。スコープ3の5%以上を占めるEIAは重要EIAとして報告と脱炭素計画の対象になります。
第三者保証の準備を行う
カテゴリーA企業は目標基準年データへの最低限定的保証が必須となるため、保証範囲の確定、証跡の整備、保証提供者の選定を進めます。カテゴリーB企業にも保証の取得が推奨されています。
目標方式を選定し移行計画を策定する
スコープ別に目標設定方式を比較検討し、行動、時間軸、前提条件、依存関係、該当する場合はEIA脱炭素計画を含む移行計画を作成し、最高ガバナンス機関の承認を取得します。
目標を提出し検証を受ける
SBTiへの登録後、SBTi認定検証機関による目標検証を受けます。カテゴリーA企業は検証完了後15か月以内に移行計画を開示し、6か月以内にSBTiダッシュボードへの情報掲載に同意します。
年次報告とサイクル終了時評価に対応する
目標別の進捗、実施した行動、障壁と対応策を毎年報告し、サイクル終了後12か月以内に評価を完了します。次サイクルの目標は前目標期間終了の24か月前から終了後12か月までに提出します。
よくある質問(FAQ)
Q1 V2.0はいつから適用されますか
公表日は2026年6月11日、発効日は2027年2月1日です。バージョン1は2027年末まで目標設定に利用できる移行措置が設けられており、当面は両版が並存します。
Q2 既にV1で目標を検証済みの企業は何をすべきですか
検証済み目標は引き続き有効です。2030年を目標年とする企業は、実施の準備期間を確保するため2028年から次サイクルの目標をV2.0で設定することが推奨されています。V2.0の一部要素は移行措置を通じてV1のもとでも利用可能とされています。
Q3 中小企業への配慮はありますか
あります。カテゴリーBに区分される企業は、スコープ3目標の設定、目標基準年データの保証、移行計画の開示などが必須ではなく任意となります。ただしSBTiはカテゴリーB企業に対しても最低要件を超える取り組みを強く推奨しています。
Q4 カーボンクレジットは削減目標の達成に使えますか
スコープ1、2、3の削減目標の達成手段としては使えません。排出削減クレームの根拠は物理的GHGインベントリの変化に限定されます。クレジットを含む検証済み緩和成果は、OERプログラムにおける気候貢献など、目標達成とは区別された文脈で位置付けられます。
Q5 目標を達成できなかった場合はどうなりますか
V2.0はベストエフォートの枠組みを採用しています。統制または影響の及ぶすべての手段を実施し、障壁とその対応を透明に報告した企業は、次サイクルの目標設定を通じてSBTiの枠組み内で前進を続けられます。ただし目標年の排出量が高いほど次サイクルで求められる削減は急になります。
Q6 第三者保証はどの水準で必要ですか
カテゴリーA企業は、目標基準年のインベントリと関連指標、およびサイクル終了時の進捗評価の根拠データに対し、最低でも限定的保証を取得する必要があります。保証は国際的に認知された保証基準に基づき、認定を受けた独立第三者が実施します。合理的保証はより高い信頼水準を提供しますが、基準上の最低要件は限定的保証です。
Q7 再エネ証書の利用条件はV1から変わりますか
変わります。電力消費と同じ配電可能地域内での調達を原則とする地理的マッチングが要求され、市場メカニズムは運転開始またはリパワリング(設備更新)から15年以内の発電設備に限定されます。商業運転開始から36か月以内の設備との電力購入契約には長期の柔軟性が認められ、発効日前の既存契約は契約期間中グランドファザリングされます。
Q8 OERプログラムへの参加は義務ですか
認定プログラム自体への参加は2035年まで任意です。ただし参加意思の表明はすべての企業に求められ、参加しない場合は理由をSBTiに提出します。2035年以降はカテゴリーA企業を中心に、継続排出の1%から始まる炭素除去の支援が義務付けられる方針です。
参考文献
Corporate-Net-Zero-Standard-version-2
https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/Corporate-Net-Zero-Standard-version-2.pdf



