GX-ETS(GX推進法に基づく排出量取引制度)の算定で最初に決めるのは、どこまでを自社の排出として数えるかという境界です。この境界の引き方が、温対法(SHK制度)や省エネ法とは異なる考え方に立っているため、既存の報告体制をそのまま流用すると齟齬が生じます。本記事では、株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ(SSP)に寄せられた制度照会のうち、算定バウンダリに関する論点を7つ取り上げ、公式マニュアルの記載に基づいて整理します。照会元の企業が特定されない形に加工しています。


GX-ETS 算定バウンダリ 要約
バウンダリの判断軸はエネルギー管理権原です。設備の設置・更新の権限を持ち、かつ計量器等で使用量を特定できるという二つの条件で帰属が決まります。この軸は、GHGプロトコルの財務支配力基準や経営支配力基準とは別のものです。加えて、エネルギー起源のCO2には敷地の内外という概念があるのに対し、原材料起源のCO2には敷地境界の概念がないという非対称があり、この差が実務上の混乱の主因になっています。
論点1 敷地はどう識別するか
算定の対象となる「工場等」の敷地は、工場立地法や建築基準法等の届出に用いる配置図によって識別します。参照するのは最新の配置図で、実態が優先されます。
この方法によれば、他者の敷地内に自社の排出源がある場合、当該排出源は自社に含まれることになります。逆に、自社の敷地内であっても管理権原が他者にある設備の扱いは、権原の所在によって判断が分かれます。登記や賃貸借の関係だけでは決まらないという点が、既存の考え方との差になります。
論点2 エネルギー管理権原とは何を指すか
帰属の判断軸はエネルギー管理権原です。実務的には、設備の設置・更新に関する権限を持っていることと、計量器等によって使用量を特定できることの双方を満たすかどうかで判定します。設備を実際に動かす権限、いわば蛇口の開閉を決められる立場にあるかという整理です。
この軸は、GHGプロトコルにおける組織境界の設定(財務支配力基準・経営支配力基準・出資比率基準)とは別の軸です。連結の範囲やスコープ1の集計範囲をそのまま持ち込むと、対象範囲がずれる可能性があります。
論点3 施工現場・営業車はどう扱うか
算定対象に含まれないものとして、工場等の外で利用される営業車等と工事現場等が明示列挙されています。したがって施工現場でのエネルギー起源CO2は原則として対象外です。ただし、算定対象の敷地境界内で工事が行われる場合であって、工場等内の燃料タンク等の共用により工事関係者による燃料使用量等が区別できないときは、当該工事関係者の燃料使用等による排出も算定対象となります。
期間限定の作業所については、固定の配置図上の敷地を持たない移動的な作業所であれば工事現場に準じて敷地外と整理されます。一方、独立した工場等として配置図上の敷地と管理権原を持つ拠点であれば、拠点単位でバウンダリを判定することになります。ただし「常設」と「非常設」を分ける用語の定義や工期の閾値は原典に規定がなく、個別の実態による判断が残る領域です。
あわせて注意が必要なのが給油の扱いです。給油の記録から場内使用分と場外使用分を分けられない場合、全量が対象になるという整理が示されています。場内のフォークリフト等は当然に対象であり、場内外が混在する給油をどう管理しているかが、実務上の分岐点になります。
論点4 原材料起源には敷地の概念がない
ここがエネルギー起源との最大の相違点です。原材料起源のCO2には敷地境界の概念がなく、工場等の内外を問わず対象となります。
具体例が潤滑油やグリースです。潤滑油は「全損タイプ」か否かで二つに分かれます。使用した油を回収しない全損タイプの潤滑油(2サイクルエンジン油、船用シリンダー油)の燃焼はエネルギー起源、全損タイプ以外かつ往復動内燃機関の燃焼室内に用いられる潤滑油の酸化分は原材料起源として扱われます(グリース・パラフィンろうは全量が原材料起源)。原材料起源に該当する以上、営業車両に使用された潤滑油の酸化分も、使用場所を問わず対象に含まれることになります。エネルギー起源としては対象外である営業車が、原材料起源の側では対象に入るという構造です。
本制度には裾切りの規定がなく、報告および訂正の単位は1トンです。少量であることを理由に集計対象から外すことはできません。
論点5 JV(共同企業体)の排出は誰に帰属するか
民法上の組合として組成された共同企業体は、法人格を持たないため制度対象事業者には該当しません。義務の主体は構成員である各法人であり、各社が自社に帰属する分を算定します。
按分の基準は二段階です。マニュアルは、(1) エネルギー管理権原が一社に特定できる場合は当該事業者の排出目標量として算定し、(2) 特定できない場合は制度対象となる年度の4月1日到来時における出資割合に応じて按分する、と規定しています。排出目標量と排出実績量には同一の方法を用います。したがって、管理権原が特定できないケースの受け皿が「出資割合」であり、これは事務局確認を要する論点ではありません。なお「負担割合」は制度対象者に該当するか否かの判定の文脈で用いられる語で、按分基準ではありません。
論点6 新設・廃止とCO2の回収
事業所の新設・廃止
前年度の3月31日に廃止された事業所、および4月1日以降に新設された事業所は、当年度の対象外となります。2年度目以降については、新設に係る二段階の調整と廃止に係る控除の規定が置かれています。事業所の増減がある場合、日割での換算が必要になります。
回収したCO2の扱い
排出したCO2の一部を回収し、大気に放出せずに原材料として外部へ販売または自社で利用する場合に限り、回収量を排出量から除外できます。要件は、大気に放出しないことと、回収量の計量根拠があることの二つです。
注意すべきは、売却したこと自体が控除の根拠にはならない点です。判断の鍵は大気放出の有無にあります。また、この除外は廃棄物の原燃料利用による除外とは別の規定です。なお報告の単位はトン(tCO2)であり、小数点以下を切り捨てた整数値で報告します。訂正の単位は1トンです。
論点7 燃料以外の資材が活動量に混入する
モニタリングのパターンによっては、燃料の購買データがそのまま活動量になります。この場合、燃料以外の資材が同じ購買データに含まれていると、活動量が過大になります。
照会が寄せられた例が、ディーゼル車両や重機に用いる尿素水(排ガス処理用の添加剤)です。燃料と同じ経路で購買されるため、品目の明細レベルで分離しなければ活動量に混入します。なお、こうした添加剤について、燃料の区分表に列挙されていない資材をどう扱うかという論点もあります。制度上、列挙されていない資材が算定対象外となる建て付け自体は成り立ちますが、個別の資材が表に含まれるかどうかの判断は事務局への照会が必要になる領域です。
あわせて確認された論点として、還元剤や添加剤の使用を理由に燃料使用量から控除する仕組みは制度に置かれていません。また、当該資材がなければ設備が稼働しないという仕様であっても、対象該当性の判断には影響しません。
温対法・省エネ法との違いをどう整理するか
ここまでの論点を、既存制度との対比で整理します。
| 観点 | GX-ETS 第2フェーズでの扱い |
|---|---|
| 帰属の判断軸 | エネルギー管理権原(設備の権限+計量の特定) |
| 敷地の識別 | 工場立地法・建築基準法等の届出配置図(最新版・実態優先) |
| エネルギー起源の範囲 | 工場等の敷地内。営業車・工事現場は対象外 |
| 原材料起源の範囲 | 敷地境界の概念なし。工場等の内外を問わず対象 |
| 裾切り | なし。報告・訂正の単位は1トン |
| 気体の基準状態 | 標準環境状態(SATP)への換算が必須 |
とくに原材料起源に敷地の概念がない点と、裾切りが置かれていない点は、温対法や省エネ法の報告体制をそのまま流用できない主要因になります。
バウンダリの確定が後段に波及する理由
バウンダリは算定の入口にあたるため、ここが動くと後段の数値がまとめて動きます。波及の経路は3つあります。
対象該当性
制度対象の判定は直近3年度のCO2直接排出量の平均が年10万トン以上かどうかで行われ、この直接排出量は本記事で述べたバウンダリに基づいて算定されます。バウンダリの解釈が変われば、対象に該当するかどうかの結論自体が変わり得ます。
排出目標量
グランドファザリング方式の基準排出量も、ベンチマーク方式の基準活動量も、いずれもバウンダリを前提として算定されます。目標量の確認では、基準を設定した時点のバウンダリと算定時点のバウンダリが整合しているかが検証の観点に含まれます。
年度間の比較可能性
事業所の新設・廃止に伴う調整の規定は置かれていますが、解釈の変更によってバウンダリが動いた場合は、その事象とは別に整理が必要になります。
つまりバウンダリの論点は、算定の初期段階で確定させないと、対象判定・目標量・実績量のすべてに同時に影響するという構造にあります。
GX-ETS 算定バウンダリ まとめ
バウンダリの論点をまとめると、判断軸は三つに整理できます。第一にエネルギー管理権原(設備の権限と計量の特定)、第二にエネルギー起源か原材料起源か(敷地概念の有無)、第三に法人格の有無(JVの帰属)です。
いずれも、温対法や省エネ法、あるいはGHGプロトコルの組織境界とは別の軸で構成されています。既存の報告体制で作られた集計範囲をそのまま流用すると、対象範囲が広くも狭くもずれ得るということです。
なお本記事に示した整理のうち、期間限定作業所の常設・非常設の線引きについては、原典に明示的な規定がなく、事務局確認を要する部分として残っています。
株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズは、GX推進法に基づく排出量取引制度の登録確認機関として登録されています。
参考リンク
GXリーグ公式ウェブサイト
https://gx-league.go.jp/
環境省 温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度 制度概要
https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/about.html


