GX-ETS 発電事業の直接排出量管理

2026年に開始予定のGX-ETS(温室効果ガス排出量取引制度)は、日本企業のカーボンニュートラル化推進において極めて重要な施策です。発電事業は日本の温室効果ガス総排出量の30%以上を占める最大級 of 排出セクターであり、GX-ETS制度の対象分野として最も重点的に管理される業種の一つとなります。

本記事では、発電事業における適切なCO2排出量の算定方法と環境負荷管理体制の構築に向けた基本的な要点をご説明いたします。発電部門に属する各企業にとって、このGX-ETS制度への正確かつ迅速な対応は、今後の事業計画を左右する重要な経営課題となり、サステナビリティ推進の観点からも避けて通れない課題です。本記事を参考にしながら、貴社の排出量算定体制の整備に向けた検討を進めていただきたいと思います。

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目次

発電事業 背景

制度対象としての発電セクター

GX-ETS制度は段階的な導入予定であり、第2段階として2026年から本格開始される見通しです。年間CO2排出量10万トン以上の大規模排出事業者を対象としており、発電業界は全国で数百社が操業しており、その大多数がこの10万トン以上という基準を超過することが見込まれています。さらに2033年以降の第3段階では、発電セクターに対して有償化アクション配分方式による入札制度が導入される計画であり、より厳格で透明性の高い排出管理が求められるようになります。現在、日本国内約300~400社の大規模排出事業者が制度対象として想定されており、これらが日本全体のGHG排出量の約60%をカバーすることになっています。発電セクターはその中核を占める重要な分野であり、今からの準備と体制構築が極めて重要です。本制度への対応には、既存の温対法やESG情報開示との整合性確保が重要となり、複数の報告枠組みへの対応能力が企業競争力に直結します。

排出活動の全体像

1 固定燃焼源としては火力発電の主要設備であるボイラー、ガスタービン、蒸気タービンの燃焼に伴うCO2排出が最大の要因です。

2 また排ガス処理設備の脱硫装置では石灰石(CaCO3)が分解によりCO2を発生させるプロセス排出があります。

3 脱硝装置では尿素が触媒により分解されてN2Oとなるプロセス排出が発生します。

4 さらに絶縁性ガス(SF6ガス)を使用した開閉装置やその他高圧電気設備からの漏洩排出、空調冷媒としてのHFC類冷媒からの冷媒漏洩排出も対象となります。

5 敷地内で運用される社用車などの移動源による移動燃焼も忘れずに含める必要があります。

これらの排出源を網羅的かつ正確に把握することが、正確な排出量算定と報告の第一歩となり、後続の第3段階入札制度への対応準備となるのです。

発電事業 基礎

燃料燃焼由来の排出量計算

CO2排出量の基本的な計算式は次のとおりです:年間CO2排出量(tCO2)=燃料使用量(単位)×単位熱量(GJ/単位)×炭素排出係数(tC/GJ)×分子量比44/12です。異なる燃料種ごとに異なるCO2排出係数が個別に設定されており、例えばLNG(液化天然ガス)の排出係数は同等の熱量を発生させる石炭と比較して大幅に低く、燃料転換による削減効果を定量的に示す重要な情報となります。燃料の種類を正確に分類し、対応する排出係数を適切に適用することが算定精度向上の鍵となります。環境省の排出量算定・報告マニュアルで指定された係数の使用が求められ、独自の係数値の使用は認められません。各燃料への係数適用の誤りが、報告値全体の大幅なぶれをもたらす危険があるため、極めて注意深い管理が必要です。

プロセス排出への対応

脱硫装置で使用される石灰石(CaCO3)は加熱燃焼プロセスによって酸化カルシウム(CaO)と二酸化炭素(CO2)に分解され、このCO2は燃焼に伴わない独立したプロセス排出として取り扱われます。脱硝装置で使用される尿素についても同様にプロセス由来のCO2排出を生じます。これらのプロセス排出は燃焼由来のCO2と比べて見落とされやすく、多くの企業が過小報告を行っている傾向があります。設備台帳との突合確認を定期的に実施し、各設備に対応する排出源を網羅的に把握することが重要です。設備の新設時や改修時の情報更新が遅れると、排出源の漏洩につながる危険があるため、組織的な管理体制の構築が必須となります。

発電事業 重要点

モニタリング境界の整理

GHG排出量の報告境界は複数のフレームワークで定義され、以下の3つに分類されます。

組織的スコープ1排出(事業者が直接管理する排出源からの排出)

温室効果ガス対策推進法(温対法)による規制報告スコープ

省エネルギー法に基づくベンチマーク基準スコープ

これらの各々が異なるスコープ定義を採用しており、算定目的に応じた適切なモニタリング境界の設定と使い分けが不可欠です。同じ発電事業でも報告制度の目的によってスコープが異なるため、複数の報告書を作成する際の誤った流用に注意が必要です。各報告制度で求められる要件を正確に理解し、それぞれ独立した算定プロセスを構築することが望ましい実践方法です。

見落とされやすい排出源

石灰石脱硫に伴うCO2プロセス排出がカウント漏れされる傾向が強く、同様に尿素脱硝のCO2排出も見落とされることが多いです。亜酸化窒素(N2O)の排出係数は燃料種別×設備種別のマトリックスで定義されており、分類の誤りが大幅な過小報告につながります。HFC類冷媒のサーティフィケート(使用量・回収実績)が管理システムから欠落していることも多く、SF6機器管理部門がGHG担当部門と別組織である場合、情報連携が不十分になりがちです。これらの見落とし防止には、部門横断的な情報収集体制と定期的な突合確認のプロセスが不可欠となり、企業全体でのGHG管理文化の醸成が必要とされています。

発電事業 まとめ

発電事業における包括的なCO2排出量の管理には、燃焼排出だけでなくプロセス排出の適切な把握が不可欠です。GX-ETS制度への対応に向けて、早期からのモニタリング体制整備が急務となっています。詳細な算定手順については、当社の技術資料をダウンロードしてご確認ください。

参考情報

・経済産業省「排出量取引制度の詳細設計に向けた検討方針」
・環境省「温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル」
・GXリーグ公式ウェブサイト

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この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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