本稿はサステナビリティスタンダードパートナーズの編集部が、GX推進法に基づく排出量取引制度について、火力を含む発電事業者が具体的にどのような流れで制度対象となり、どの枠組みで排出目標量と排出枠を受け取り、最終的に償却まで至るのかを、最新のマニュアルに基づいて整理するものです。発電ベンチマークの目指すべき原単位と、ベンチマークとグランドファザリングの境界を一度に把握できます。


結論
発電事業者がGX-ETSの制度対象となるかどうかは、直近3年度のCO2直接排出量を平均した年度平均排出量が10万t以上かで判定されます。対象となった発電事業者は、毎年9月30日までに排出目標量等を届け出て、発電ベンチマークの目指すべき原単位と基準活動量に基づく排出枠の無償割当を受け、翌年度1月31日までに排出実績量相当の排出枠を保有・償却する必要があります。不足すれば上限価格の1.1倍を未償却相当負担金として納付することになります。2026年度に対象となる場合は、排出目標量の届出が2027年9月末まで猶予される特例がありますので、登録確認機関との契約着手と社内体制整備を先行させることが実務上の要です。
背景
GX推進法は、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行を推進するための法制度で、その中核に排出量取引制度が位置づけられています。発電事業は日本のCO2直接排出の最大の部分を占め、火力発電の脱炭素化の進捗が制度全体の削減効果を左右します。そのため、発電ベンチマークは石炭、LNG、石油等、全火力の4区分で設計され、さらに沖縄島とそれ以外の2系統に分けて目指すべき原単位が定められています。経済産業省は2026年度から本制度を開始し、発電事業者には実施指針に準拠した算定と、登録確認機関による第三者確認を求めています。
SSPの定義
SSPはサステナビリティスタンダードパートナーズの略称で、経済産業省 GXリーグ登録検証機関として第三者保証業務を主業とする機関です。本稿における発電事業とは、電気事業法第2条第1項第14号に規定する発電事業、および同第15号の発電事業者が原動力を火力、汽力、内燃力、バイオマス専焼として届け出て保有する発電設備を持つ工場等を指します。制度対象者とはGX推進法第33条第1項に基づく届出義務を負う事業者を指し、排出枠は1t単位で割り当てられる無償の排出権を意味します。目指すべき原単位は、経済産業大臣が年度別に告示する排出原単位の基準値です。
変更点の要約
- 対象判定は前年度までの直近3年度平均が10万t以上の事業者という閾値で毎年見直す方式が正式化されました。
- 発電事業のベンチマークは石炭、LNG、石油等、全火力に加え、沖縄島の別系統で合計8算定式が示されました。
- 2026年度から2030年度にかけての目指すべき原単位が5年度分、沖縄以外と沖縄島の両系統で明記されました。
- 2026年度に制度対象となる発電事業者については、排出目標量等の届出は2027年9月末まで猶予されます。
- 発電事業に該当しないが特定発電等用電気工作物を保有する事業者の算定方法が別添2で明確化されました。
- 非化石燃料混焼比率による活動量補正が導入され、混焼発電の計算と証憑整備が必須化されました。
基礎知識
発電事業者が押さえるべき前提は3点あります。第1は算定対象の切り分けで、発電ベンチマーク対象となる発電電力量は、小売電気事業、一般送配電事業、配電事業または特定送配電事業の用に供するための発電電力量であり、自家消費計に計上する電力量は対象外となります。第2は目指すべき原単位の読み方で、石炭とLNGと石油等は主燃料区分で決まる一方、副生燃料による発電は全火力区分で計算し、別途副生燃料起源排出量を上乗せします。第3は沖縄島の特例で、系統事情を踏まえ沖縄島は別の目指すべき原単位が設定されており、沖縄以外とは2029年度と2030年度で異なる推移が示されています。
論点整理表
| 論点 | 制度上の位置づけ | 発電事業での該当 | 判断基準 | 実務上の留意点 |
| 対象判定 | GX推進法第33条第1項 | 年度平均排出量10万t以上 | 直近3年度のCO2直接排出量の平均 | 判定は毎年度実施し、下回った年度は対象外 |
| 共同届出 | GX推進法第33条第4項 | 密接関係者と一体でのGX投資 | 子会社・関連会社・兄弟会社の3要件 | 届出体は義務期間中変更不可 |
| ベンチマーク区分 | 実施指針別表 | 石炭・LNG・石油等・全火力 | 前年度の主燃料の熱量最大を主燃料とする | 混焼時は熱量比で発電電力量を按分 |
| 沖縄以外と沖縄島 | 別表の2系統 | 発電所の立地地域 | 沖縄島の本島における発電か否か | 事業者内に両系統がある場合は別個に算定 |
| 非化石燃料混焼補正 | 式17-2 | 補正係数の採用 | 1÷(1-混焼比率)と1+(1-混焼比率)×0.2の小さい方 | 混焼比率は高位発熱量で算出 |
| 副生燃料扱い | 全火力+副生燃料起源 | 他工程から供給された副生燃料 | 自社・他者からの供給に限る | 全火力の排出目標量に副生燃料分を加算 |
| 自家消費・コジェネ熱 | 対象外 | 発受電月報の自家消費欄 | 所内電力量ではない自己消費分 | 発電BMには含めずGF等で処理 |
| 委託による発電 | 別添2 | 特定発電等用電気工作物の運用委託 | 稼働・供給先の判断権限の所在 | 委託元が証憑を整えない場合はGF適用 |
| 排出枠償却 | GX推進法 | 翌年度1月31日までに保有 | 保有義務量分の排出枠 | 不足分は上限価格の1.1倍を負担金として納付 |
比較表
| 割当年度 | 石炭 沖縄以外 | LNG 沖縄以外 | 石油 沖縄以外 | 全火力 沖縄以外 |
| 2026年度 | 0.0008098 | 0.0003857 | 0.0007787 | 0.0005946 |
| 2027年度 | 0.0008081 | 0.0003855 | 0.0007703 | 0.0005926 |
| 2028年度 | 0.0008065 | 0.0003853 | 0.0007620 | 0.0005906 |
| 2029年度 | 0.0007616 | 0.0004258 | 0.0007206 | 0.0005886 |
| 2030年度 | 0.0007165 | 0.0004656 | 0.0006818 | 0.0005866 |
単位はいずれもt-CO2毎kWhです。沖縄島の目指すべき原単位は別系統で定められており、全火力の沖縄島は2026年度から2030年度まで0.0007137で固定されます。
制度対象判定とスケジュール特例
年度平均排出量の考え方
発電事業者が制度対象となるかどうかは、前年度、2年度前、3年度前のCO2直接排出量を合算し3で除した量が10万t以上かで決まります。判定の単位は事業者であり、子会社・関連会社は別事業者として個別に判定されます。たとえば電力会社の子会社として独立した発電子会社が存在する場合、親会社とは別に年度平均排出量を算定し、各社ごとに制度対象となるかを確認する必要があります。判定時点で事業を開始して間もない場合は、直近2年度または前年度のみで判定する例外が設けられています。
2026年度特例と2027年度以降
2026年度に制度対象となる発電事業者は、2026年9月末までに基礎的な情報と年度平均排出量のみを届け出れば足り、排出目標量等の届出は2027年9月末まで猶予されます。これに伴い経済産業大臣による排出枠の割当ても2027年度に行われます。2027年度以降は本則どおり、毎年度9月30日までに排出目標量等の届出と移行計画の提出を行い、11月末頃までに排出枠の割当てを受け、翌年度1月31日までに保有義務を履行するサイクルとなります。発電事業者は2026年度の時点で登録確認機関との契約を進め、発電ベンチマークの算定体制を整備することが推奨されます。
発電ベンチマークの仕組み
算定式と目指すべき原単位
発電ベンチマークの算定式は、排出目標量は目指すべき原単位に基準活動量を乗じた値です。ここで基準活動量は、基準とする年度における発電設備ごとの非化石燃料混焼比率を補正した発電電力量の平均で、単位はkWhとなります。目指すべき原単位は沖縄以外で石炭0.0008098から2030年度の0.0007165まで、LNGは0.0003857から0.0004656まで推移します。石油等は段階的に低下し、全火力は全火力水準と燃種別水準のブレンドで算出される点が特徴です。全火力への混合割合αは2029年度が20%、2030年度が40%と明記されています。
非化石燃料混焼比率の補正
活動量の算出では非化石燃料混焼比率の補正係数が重要です。補正係数は、1を1マイナス非化石燃料混焼比率で除した値と、1に1マイナス非化石燃料混焼比率を乗じ0.2を掛けた値を加えた値のうち、小さい方を採用します。混焼比率は投入した非化石燃料の熱量を全燃料の熱量で除した値で、高位発熱量を用います。一つの発電設備で複数燃料を混焼し、複数の算定式が適用される場合は、全ての燃料種について本補正を行います。証憑として発受電月報、運転日誌、月別発電実績表、操業管理月報等の整備が求められます。
ベンチマークとグランドファザリングの境界
発電事業者該当性の判定
発電ベンチマークの対象となる発電電力量は、まず発電事業者への該当性で判断されます。特定発電等用電気工作物の条件は、出力1000kW以上、託送契約上の同時最大受電電力が5割超、年間の逆潮流量が5割超の3点です。これらを全て満たし、かつ小売電気事業等の用に供する電力の合計が1万kWを超える場合に発電事業者に該当します。発電事業者に該当する場合の系統への逆潮分は自己託送分を除いて発電ベンチマークの対象となり、自家消費は他のベンチマークまたはグランドファザリングの対象となります。該当しない場合は、系統への逆潮分も自家消費も発電ベンチマーク以外の処理となります。
自家消費・コジェネ熱供給の扱い
発受電月報の自家消費欄に計上する電力量、および特定供給等による自己託送電力量は活動量に含めません。またコジェネレーションによる熱供給に係る排出も発電ベンチマークの算定対象外で、別のベンチマークまたはグランドファザリングで処理します。さらに、自社が特定発電等用電気工作物を保有しているが、委託契約により他者が発電事業者として申請している場合、自社は発電事業者に該当しないものの、当該電力量については発電ベンチマークで算定します。この際、委託先の発電事業者届出の写しと発受電月報の内訳の2種類の証憑を双方で整える必要があり、証憑が欠ける場合はグランドファザリング適用となります。
排出枠割当と未償却相当負担金
無償割当のプロセス
経済産業大臣は、事業者による届出が適切なものと認めるときは、届け出られた排出目標量等を基に、制度対象者に対し排出枠を1t単位で無償で割り当てます。共同届出体の場合は届出を実施した制度対象者の法人等保有口座に密接関係者分も含めた排出枠が記録されます。排出枠はGX推進機構が開設する排出枠取引市場や相対取引で売買可能で、不足分を市場から調達することも、余剰分を売却することも認められます。翌年度1月31日に経済産業大臣が保有義務量分を償却し、法人等保有口座から消滅させるのが割当ての終点です。
排出枠不足時の負担金
制度対象者は翌年度1月31日時点で保有義務量分の排出枠を法人等保有口座に保有しておく必要があります。保有義務量に排出枠が不足した場合、不足分に上限価格を乗じ、さらに1.1を乗じた額を未償却相当負担金として経済産業大臣に納付しなければなりません。経済産業大臣は2月1日以降に納付額と期限を通知します。上限価格は経済産業大臣が毎年度定める参考上限取引価格で、GX推進法第39条に根拠があります。発電事業者は、目標未達時の財務リスクを金額ベースで把握したうえで、排出枠の先行調達と発電構成の最適化を経営判断に織り込むことになります。
移行計画と登録確認機関
移行計画の記載事項
制度対象者は、法第33条の届出後に移行計画を作成し、9月30日までにERMS上で経済産業大臣及び事業所管大臣へ提出します。記載事項は、前年度の直接排出量と間接排出量、各年度の排出量目標、投資計画の内容・該当工場等・着手時期と完了時期・排出削減効果、研究開発の内容、その他の取組、前年度計画からの変更点です。発電事業では火力発電の新設改造、バイオマス専焼化、アンモニア水素混焼等の投資を具体的に記載することが想定されます。移行計画は個社ごとに経済産業省と事業所管省庁のHPで公表されるため、サステナビリティレポートや中期経営計画と整合させた記述が求められます。
登録確認機関による確認プロセス
排出目標量と排出実績量は、経済産業大臣に届出または報告する前に登録確認機関による確認を受けることが必須です。登録確認機関は2026年1月5日から登録申請の受付が開始されています。確認業務の流れは、契約、概要把握、リスク評価、確認業務計画の策定、計画の実施、実施結果の評価、意見の形成、確認報告書の作成、審査、報告書の発行という段階を踏みます。結論は、無限定の結論、限定付結論、否定的結論、結論不表明の4種類で、発電事業者は組織境界の設定、バウンダリ一貫性、活動量の網羅性と正確性、単位発熱量と排出係数の選定根拠について十分な証拠を提示する必要があります。
実務フロー
発電事業者が1サイクルを回すための実務ステップを以下に示します。
- Step1 直近3年度のCO2直接排出量を確認し、年度平均排出量10万t以上かを自社で判定する。
- Step2 2026年6月以降にERMSアカウントを開設し、GビズIDプライムまたはメンバーを準備する。
- Step3 主燃料区分を前年度の熱量実績で確定させ、沖縄以外と沖縄島の区別も含めて算定単位を固める。
- Step4 登録確認機関と契約を締結し、概要把握とリスク評価に向けた資料一式を共有する。
- Step5 9月30日までに排出目標量等の届出と移行計画をERMSで提出する。2026年度は基礎情報のみで可。
- Step6 11月末頃に経済産業大臣から排出枠の無償割当を受け、法人等保有口座で残高を確認する。
- Step7 翌年度4月から9月にかけて排出実績量の算定と登録確認機関の確認を受け、9月30日までに報告する。
- Step8 翌年度1月31日までに保有義務量分の排出枠を保有し、不足分は市場調達か負担金納付で対応する。
FAQ
発電事業者に該当しない場合もベンチマーク算定は可能ですか
自社が特定発電等用電気工作物を保有し、かつ委託先が発電事業者として申請している場合は、自社は発電事業者に該当しませんが、発電電力量について発電ベンチマークの排出目標量算定の対象に含められます。必要な証憑として、委託先の発電事業者届出の写しと、発受電月報における委託元・委託先それぞれの電力量内訳を整備することが条件です。証憑が整わない場合はグランドファザリング適用となります。
副生燃料による発電はどのベンチマークで算定しますか
副生燃料による発電は、主燃料区分に関わらず全火力の算定式で排出目標量を算定したうえで、別途副生燃料起源排出量を加算します。副生燃料とは、他者や自社の他の工程から供給された副生燃料に限ります。詳細は届出・排出目標量等算定マニュアル第Ⅱ部2.3.2の副生燃料起源排出量の記述を参照してください。
非化石燃料を混焼している発電設備の活動量はどう補正しますか
補正係数は2つの候補式の小さい方を採用します。1つ目は1を1マイナス非化石燃料混焼比率で除した値、2つ目は1に1マイナス非化石燃料混焼比率を乗じ0.2を掛けた値を1に加えた値です。非化石燃料混焼比率は、投入非化石燃料の熱量を全燃料の熱量で除して算出し、いずれも高位発熱量を用います。同一設備で2以上の算定式が適用される場合は、全ての燃料種について本補正を行います。
沖縄以外と沖縄島の発電所を同時に保有する事業者の扱いはどうなりますか
事業者単位で排出目標量を算定しますが、目指すべき原単位は沖縄以外と沖縄島で別の値を用いるため、両系統の発電所について別々に算定し、合算する運用となります。例えば沖縄以外の石炭火力と沖縄島のLNG火力の両方を保有する事業者は、それぞれの目指すべき原単位と基準活動量から排出目標量を算出します。
コジェネレーションによる熱供給分はどう処理しますか
コジェネレーションによる熱供給に係る排出は発電ベンチマークには含めず、別の枠組みで処理します。発電事業による発電電力量に該当しない発電電力量に係る排出も同様で、これらはグランドファザリングの対象となる可能性があります。具体的な扱いは届出・排出目標量等算定マニュアルを参照してください。
排出枠を翌年度以降に繰り越すことはできますか
排出枠は割り当てられた年度に関係なく、保有義務の履行に使用できます。また、割り当てられた後に制度対象外となった場合でも法人等保有口座に保有する排出枠は維持され、制度対象外期間の売買や、再び制度対象となった場合の保有義務履行への使用が可能です。排出枠の年度別管理は不要で、事業計画に応じて柔軟に活用できます。
未償却相当負担金はいくらになりますか
未償却相当負担金は、不足した排出枠の量に、当該年度の参考上限取引価格を乗じ、さらに1.1を乗じた額です。参考上限取引価格は経済産業大臣が毎年度定める値で、GX推進法第39条に根拠があります。2026年度の参考上限取引価格の具体額は経済産業省の告示を確認する必要があり、市場価格の急騰時に備えた排出枠の先行確保が経営上のリスクヘッジとなります。
まとめ
発電事業者にとってGX-ETSは、石炭・LNG・石油等・全火力の4区分と沖縄以外・沖縄島の2系統を掛け合わせた8算定式の中から、自社の主燃料と立地に対応する目指すべき原単位を当てはめ、非化石燃料混焼の補正を施した基準活動量を乗じて排出目標量を算定する制度です。そのうえで届出、移行計画、排出枠の無償割当、排出実績量の報告、保有義務の履行、償却という一連の手続を毎年回していく必要があります。2026年度特例を活用しつつも、登録確認機関との早期契約と社内の算定体制の整備を進め、排出枠の市場調達と売却の運用方針、未償却相当負担金のリスクを織り込んだ財務計画をセットで検討することが、発電事業者がこの制度を経営に組み込むうえでの出発点となります。
参考リンク
- 経済産業省 排出量取引制度のページ
- GX推進機構 排出量取引制度関連情報
- デジタル庁 GビズID https://gbiz-id.go.jp/top/
- GX推進法 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律

