2026年4月1日に本格始動するGX-ETS第2フェーズでは、登録確認機関による確認業務が法定義務となります。企業側の最大の関心は「いくらかかるのか」「どれだけ時間が必要か」「具体的に何をするのか」の3点に集約されます。本記事ではSSPの実務経験と経済産業省が公表する各種マニュアルに基づき、費用・期間・プロセスを網羅的に整理します。


要約
GX-ETS第2フェーズの確認業務は、届出期限(9月30日)を起点に全体3〜5ヶ月を要する。
費用は単一の定価ではなく、5つの要素(対象範囲、拠点数、保証水準、データ整備状況、対応制度数)で変動する。
確認対象は排出目標量と排出実績量の双方であり、いずれもISO 14064-3、ISSA 5000、ISAE 3000(Revised)等の国際基準に準拠した限定的水準で確認される。
早期排出削減量については合意された手続業務(AUP)が別途適用される。
届出期限から逆算すると、4月が登録確認機関とのキックオフとなる。
背景 — 第三者確認が法定義務となった意味
GXリーグ第1フェーズでは、排出量の検証はGXリーグ事務局が主体となって運営され、参加は企業の任意でした。第2フェーズでは、GX推進法に基づき確認業務が法定義務となり、経済産業大臣の登録を受けた第三者機関(登録確認機関)へと業務が移管されます。
この移管には二つの狙いがあります。第一に、ISO 14064-3、ISSA 5000、ISAE 3000(Revised)等の国際基準に準拠した確認を行うことで、GX-ETSの排出データに対する市場の信頼性を高めること。第二に、二重責任の原則(算定・報告責任は制度対象者、確認責任は登録確認機関)を明確化し、制度運営の透明性を確保することです。
結果として、企業側には新たな実務負荷が発生します。排出目標量の算定、登録確認機関との契約、確認業務への対応、GX推進機構が運営する排出量取引制度ポータルサイトを通じた届出という一連のプロセスは、従来の温対法報告とは質的に異なるオペレーションを求めます。
確認業務の全体像 — 対象・基準・保証水準
確認対象
GX-ETSの確認対象は以下の2つです。
1. 排出目標量— ベンチマーク方式またはグランドファザリング方式で算出した各プロセスの合計値に、勘案事項による調整を加えた最終値。
2. 排出実績量 — 割当年度に実際に排出したCO2の量から、クレジットの無効化量を控除し、移転量を加算した値。
なお、カーボンリーケージやR&D投資に係る勘案事項は確認対象に含まれません。
準拠基準
ISO 14064-3、ISSA 5000、ISAE 3000(Revised)、ISAE 3410、ISRS 4400等の国際基準が準拠基準として想定されています。「確認」業務は保証・検証に加えAUP(合意された手続)の性格も併せ持つハイブリッド的な設計であり、登録確認機関は案件ごとに適切な基準を組み合わせて手続を設計します。
保証水準
限定的保証(Limited Assurance)です。登録確認機関は質問と分析的手続を中心に証拠を収集し、「重要な虚偽表示が認められる事項は認められなかった」という消極的形式の結論を表明します。量的重要性の基準値は排出量の5%以下が一般的に適用され、これに加えて質的重要性も総合的に判断されます。なお、制度設計上、第2フェーズ当初3年間は事業者全体の排出実績量に対する限定的水準の確認が求められ、2029年度以降は大規模事業所(年間CO2排出量100万トン以上を目安)を対象に段階的に合理的水準の確認が求められる方向性が示されています。
4種類の結論
確認報告書では以下のいずれかが表明されます。
無限定の結論を得ることが制度対応の基本目標となります。
プロセス — 9ステップで整理する確認業務
Step 1. キックオフ
登録確認機関とのキックオフミーティング。組織境界、敷地境界、対象プロセス、使用する算定方式(ベンチマーク/グランドファザリング)、排出実績データの概況を共有します。
Step 2. 予備調査
登録確認機関が制度対象者の算定体制・モニタリング方法・データフローを把握し、確認手続の範囲と重要性の基準値を決定します。二重責任の原則に基づき、企業は算定の責任を負い、機関は確認の責任を負うという枠組みが確認されます。
Step 3. 確認計画の策定
リスク評価の結果に基づき、どのプロセス・どの排出源を重点的に確認するか、現地往査の対象拠点、手続の実施時期を計画化します。
Step 4. 書類確認
設備一覧、敷地図、組織図、製造プロセス図、購買伝票、実測データ、校正記録、算定体制図など、算定の裏付けとなる文書を確認します。
Step 5. 現地往査
登録確認機関が制度対象者の事業所を直接訪問し、排出源の実在性、計測機器の設置状況、敷地境界の実態を確認します。工場長・環境管理責任者・算定担当者が同席し、各自の所管範囲について説明する体制が求められます。
Step 6. 是正要求と対応
確認手続の過程で虚偽表示や算定エラーが識別された場合、登録確認機関は是正を要求します。是正要求は通常のプロセスの一部であり、深刻な問題を意味しません。重要なのは迅速かつ適切に対応することです。
Step 7. 確認報告書のドラフト
登録確認機関は確認結果をドラフトにまとめ、制度対象者と内容を協議します。重要な論点の解釈や記載表現の調整をこの段階で行います。
Step 8. 確認報告書の確定と発行
最終的な確認報告書が発行されます。排出目標量と排出実績量それぞれについて結論が示されます。
Step 9. 排出量取引制度ポータルサイトへの届出
確認報告書と併せて、排出目標量および排出実績量をGX推進機構が運営する排出量取引制度ポータルサイトに届け出ます。届出期限は毎年9月30日です。
なお、早期排出削減量についてはAUP(合意された手続業務)が通常の確認業務とは別に適用されます。
期間 — 標準3〜5ヶ月
標準ケース
スケジュール上の注意点
2026年度(第2フェーズ初年度)の特例:排出目標量等合計量の届出は2027年9月30日まで猶予される一方、年度平均排出量の届出と移行計画の提出は2026年9月30日が期限。
2027年度以降:2年度分の手続きが同時並行で進むため、早期の体制構築が不可欠。
届出期限から逆算すると、4月が登録確認機関とのキックオフとなる。
費用を決める5つの要素
GX-ETS確認業務およびGHG第三者検証の費用は単一の定価ではなく、以下の5要素で変動します。
要素1. 対象範囲
GX-ETSでは、排出実績量や排出目標量の対象プロセス数と複雑性が中心的な費用要因です。GHG検証一般では、Scope1/Scope2/Scope3のいずれを対象とするか、Scope3の場合はカテゴリ数が費用に直結します。
要素2. 拠点数
現地往査の対象となる拠点数が増えるほど、実地手続の工数が増加します。海外拠点が含まれる場合は、言語対応、現地制度との整合確認、渡航手配を含む追加コストが発生します。
要素3. 保証水準
限定的保証と合理的保証では、手続の範囲と必要工数が大きく異なります。GX-ETS第2フェーズ初期は限定的保証が採用されていますが、将来的に合理的保証への移行が検討されています。合理的保証を選択する場合は、限定的保証の数倍程度の工数が目安となります。
要素4. データの整備状況
算定方法の文書化、証憑類の保管状況、モニタリングデータの管理水準が整っている企業ほど、確認手続はスムーズに進行します。逆に、証憑が散在していたり、算定ロジックが属人化していたりすると、是正要求の範囲が広がり、追加工数が発生します。
要素5. 対応する制度・基準の数
GX-ETS単独での確認と、GX-ETS・CDP対応・SSBJ・SBTiの同時対応では、同じ排出量データでも要求される開示項目・保証水準が異なります。複数制度を一度の確認業務で効率的にカバーするアプローチは、個別依頼よりも総額を抑えやすい傾向があります。
見積もり依頼時に準備すべき情報
1. 組織境界(連結対象子会社・拠点の一覧、国内/海外別)
2. 対象範囲(GX-ETS対象プロセス/Scope区分)
3. 希望する保証水準(限定的/合理的)
4. 対応する制度・基準(GX-ETS/CDP対応/SSBJ/SBTi/有価証券報告書等)
5. データの算定方法と管理体制の概要
SSPではヒアリング段階から訪問対応が可能で、これらすべてが揃っていなくても概算見積もりを作成できます。
整理すべき書類 — 網羅性が確認の成否を決める
登録確認機関が確認業務を効率的に進めるために、制度対象者は以下の情報を事前に整理しておくことが望まれます。
組織・境界関連
会社案内、組織図
連結対象子会社の一覧
敷地図、事業所・工場の所在地情報
排出源関連
設備一覧(ボイラー、発電設備、製造装置等)
製造プロセス図
排出源の稼働記録
算定関連
算定体制図、算定担当者の役割分担
算定方法の説明文書(ベンチマーク方式/グランドファザリング方式の適用方針)
単位発熱量・排出係数の根拠資料
証憑類
購買伝票(燃料・電力・原材料)
実測データ(流量計、重量計、濃度計などの測定記録)
計測機器の校正記録
モニタリング関連
モニタリング体制図
データ収集フロー
内部レビューの実施記録
これらの書類は確認業務開始前に整備を完了しておくことが理想的であり、日常的な管理体制の一環として運用することが望まれます。
現地往査への対応ポイント
現地往査は、書面のみでは確認できない事項を補完する重要な機会です。以下の点が主な確認対象となります。
排出源の実在性と稼働状況の目視確認
計測機器の設置状況と校正記録の閲覧
購買伝票や実測データの原本閲覧
算定担当者への質問によるプロセスの理解
敷地境界と組織境界の実態との整合性確認
対応にあたっては、工場長・環境管理責任者・算定担当者が同席し、それぞれの所管範囲について回答できる体制を整えておくことが望ましいといえます。
よくある論点
基準値を超えた虚偽表示が発見された場合
是正が行われなければ限定付結論や否定的結論に至る可能性があります。是正に要する期間を見込んで早期に確認を開始することが、無限定の結論を得るための鍵となります。
訂正時の追加手続
訂正が局所的であれば追加手続の範囲も限定されますが、訂正の原因が体系的な算定エラーに起因する場合、影響範囲が広がる可能性があります。訂正を行う際には、その原因と影響範囲を自ら把握したうえで登録確認機関に伝達することで、追加手続の効率化が図れます。
結論不表明のリスク
結論不表明は、業務範囲に重要かつ広範な制約があり結論の基礎となる証拠を入手できなかった場合に適用されます。制度対象者の協力不足や書類不備が原因となる場合が多いため、確認に必要な情報と書類を適時に提供できる体制を整えておくことが重要です。
2026年度スケジュール — 逆算カレンダー
届出期限直前の駆け込み依頼は、登録確認機関側のリソース逼迫により受諾が困難な場合があります。早期の情報収集と契約が、確実な制度対応の前提となります。
SSPの対応範囲
SSPは、GXリーグ登録確認機関としてGX-ETS第1フェーズから多排出企業の確認実績を有し、第2フェーズでも以下の対応を提供します。
対応対象:排出目標量・排出実績量・早期排出削減量(AUP)
保証水準:限定的保証・合理的保証の両方
一体対応:GX-ETS・CDP対応・SSBJ・SBTiの複数制度を横断した確認
独立性:コンサルティングやシステム導入を一切行わない保証機関
スケジュール柔軟性:期中検証にも対応
初回のご相談・お見積もりは無料です。ヒアリング段階からの訪問対応、届出期限から逆算したスケジュール提案、複数制度の一体対応プランなど、企業の状況に合わせたご提案を行います。
まとめ
GX-ETS確認業務は、2026年度から始まる法定義務です。登録確認機関による確認を無事に無限定の結論で受けるためには、プロセス全体の理解、5つの費用要素の把握、届出期限からの逆算スケジュール、書類整備、そして正確な用語運用が求められます。4月を登録確認機関とのキックオフとして、早期の体制整備を進めることが、第2フェーズを乗り切る最大の鍵です。

