製造業のScope1検証 注意点と準備ガイド

製造業はGHG排出のうちScope1の直接排出が大きな割合を占める業種です。ボイラーや工業炉などの固定燃焼設備や工業プロセスからの排出は算定方法が複雑になりやすく、第三者検証および登録確認機関による確認業務においても特有の注意点があります。本記事では製造業がScope1の検証・確認を受ける際の注意点と準備すべき事項を、実務の視点から解説します。

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目次

要約

製造業のScope1検証では、固定燃焼設備からの排出と工業プロセスからの排出が主な対象になります。検証・確認の注意点は、排出源の網羅性の確認、燃料使用量データの正確性の担保、排出係数の適切な選定の3つです。準備段階で排出源台帳と燃料使用量の月次データ、算定方法の文書を整備しておくことがスムーズな検証・確認の鍵です。GX-ETS第2フェーズでは、これらが登録確認機関による確認業務の対象となり、排出目標量と排出実績量の双方について限定的保証の水準で確認されます。

背景

製造業は日本のGHG排出量の中で大きな割合を占める産業セクターです。特にScope1の直接排出は工場の操業に直結するため排出量が大きく、検証の対象として重要です。

2026年度から始まるGX-ETS第2フェーズでは、CO2直接排出量の年度平均が10万t以上の事業者に対して、登録確認機関による確認業務が法定義務となります。製造業の場合は固定燃焼設備や工業プロセスからの排出が確認の中心となりますが、排出源が多岐にわたるため準備には業種固有の知識が必要です。

またCDPやSSBJへの対応を見据える場合はScope1に加えてScope2やScope3まで保証の対象が広がりますが、本記事ではまず製造業にとって最も基本的なScope1の検証・確認に焦点を当てます。

定義

Scope1とは企業が直接管理する排出源からの温室効果ガスの直接排出です。製造業におけるScope1には以下の排出源が含まれます。

  • 固定燃焼設備からの排出:ボイラー、工業炉、加熱炉、乾燥炉などで燃料を燃焼する際に発生するGHG
  • 工業プロセスからの排出:化学反応やセメント製造などの製造工程で、原材料の化学変化に伴い発生するGHG
  • 移動燃焼源からの排出:自社所有のトラックやフォークリフトなど車両の燃料燃焼に伴うGHG
  • 漏洩排出:冷媒ガスの漏洩や配管からのメタン漏洩などの意図しない排出

なおGX-ETS第2フェーズの確認対象は、排出目標量と排出実績量の双方であり、上記のScope1排出源が確認の中心となります。

注意点

注意点1. 排出源の網羅性

製造業ではScope1の排出源が多岐にわたるため、全ての排出源を漏れなく特定することが最初の確認ポイントです。

主要な固定燃焼設備は把握していても、補助ボイラーや非常用発電機、小規模な加熱設備が算定から漏れているケースがあります。確認業務では排出源台帳と実際の設備を現地往査時に照合し、漏れがないかを確認します。

対策として、工場内の全ての燃料を使用する設備と、化学変化を伴うプロセスをリストアップした排出源台帳を作成しておくことを推奨します。

注意点2. 燃料使用量データの正確性

Scope1の算定の基礎となるのは燃料使用量のデータです。確認ではこのデータの正確性を証憑との照合により確認します。

製造業では複数の燃料種(都市ガス、LPG、重油、軽油など)を使用することが多く、各燃料の計量方法と記録方法が異なる場合があります。メーター検針値による管理か購入量による管理かで、算定の精度と確認方法が変わります。

各燃料について計量方法と記録頻度、証憑の種類を整理しておくことで、登録確認機関の確認がスムーズになります。

注意点3. 排出係数の選定

排出係数の選定は算定結果に直接影響するため、確認での重点項目です。

日本では環境省の排出係数が広く使用されていますが、燃料の種類や産地によって適用すべき排出係数が異なる場合があります。特にLPGやコークスなど組成が変動する燃料については、実測値と排出係数法のどちらを採用するかが論点になります。

使用した排出係数の出典と選定理由を文書化しておくことが、確認への準備として重要です。

注意点4. 工業プロセス排出の算定

化学反応や原材料の化学変化を伴う製造工程がある場合は、工業プロセスからの排出を別途算定する必要があります。

工業プロセス排出の算定方法は業種や製造工程によって大きく異なるため、確認においても専門知識が求められます。セメント製造のクリンカー生成や鉄鋼製造の還元反応など、業種固有のプロセス排出については、登録確認機関に業種の知見があるかを確認することが重要です。

注意点5. 組織境界の設定

製造業では本社工場のほかに子会社工場やリース設備など、組織境界の設定が論点になることがあります。

GX-ETS第2フェーズでは、算入義務の範囲が制度で定められていますが、企業グループ全体の排出量を対象とする場合は支配力基準や出資比率基準による組織境界の設定が必要です。組織境界の設定方法とその根拠を明確にしておくことで、確認がスムーズに進みます。

排出源タイプ別の確認ポイント

排出源タイプ具体例算定方法の特徴確認での確認ポイント
固定燃焼設備ボイラー、工業炉、加熱炉、乾燥炉燃料使用量に排出係数を乗じて算定。燃料種ごとに排出係数が異なる燃料使用量の証憑との照合、排出係数の出典と適用の妥当性
工業プロセス化学反応、セメントのクリンカー生成、鉄鋼の還元反応業種固有の算定方法。原材料の投入量や生産量から算定する場合がある算定方法の妥当性、業種固有の排出係数の適用根拠
移動燃焼源トラック、フォークリフト、社用車燃料購入量に排出係数を乗じて算定燃料購入量の証憑との照合、自社所有車両の範囲の確認
漏洩排出冷媒ガスの漏洩、配管からのメタン漏洩充填量と回収量の差分による算定や漏洩係数を用いた推定漏洩量の把握方法、冷媒の在庫管理記録との照合

準備手順

1. 排出源台帳を作成する。工場内の全ての燃料使用設備、工業プロセス、移動燃焼源、漏洩源をリストアップします。設備の名称、設置場所、使用燃料、容量を記録します。

2. 燃料使用量のデータを整備する。各燃料について月次の使用量データを収集し、請求書や検針記録などの証憑と紐付けます。

3. 排出係数の出典を整理する。使用した排出係数の出典と選定理由を文書化します。実測値を使用する場合はその根拠データも整理します。

4. 算定方法を文書化する。各排出源の算定方法、計算式、使用したデータの出典を一覧にまとめます。

5. 組織境界を明確にする。対象の拠点と設備の範囲を明確にし、組織境界の設定根拠を整理します。

6. 機関に相談する。製造業の確認・検証実績がある機関に連絡し、自社の排出源構成を説明したうえで計画の確認を行います。

論点

論点重要度判断のポイントよくある誤解SSPの推奨スタンス
排出源の漏れ排出源台帳と実設備の照合が不可欠主要設備だけ算定すれば十分全ての排出源を網羅した台帳を作成し定期的に更新すべき
実測値と排出係数法実測値のほうが精度は高いがデータ取得コストも考慮排出係数法は精度が低い排出係数法でも出典が明確であれば確認上は問題ない
機関の業種知見製造業の排出源に精通した担当者がいるか確認どの機関でも同じ業種知見のある機関を選ぶことで不要な指摘を避けられる
工業プロセス排出業種による化学反応を伴う工程がある場合は専門的な算定方法の適用が必要燃焼排出だけ算定すればよい早めに機関に相談し適切な算定方法を確認すべき

FAQ

Q1. 製造業の確認・検証で最も時間がかかるのはどの部分ですか

データの整備と証憑の収集に最も時間がかかるケースが多いです。特に複数の燃料種を使用している工場では、各燃料の月次使用量データと証憑の照合に時間を要します。作業自体よりも準備段階の時間を十分に確保することが重要です。

Q2. 工場の現地往査は必ず必要ですか

登録確認機関は現地往査を通じて排出源の実在性や算定プロセスの妥当性を直接確認します。初年度の確認では現地訪問が実施されるケースが一般的ですが、手続きの一部はリモートで補完される場合もあります。事前相談の段階で確認してください。

Q3. 複数の工場がある場合は全て対象ですか

対象範囲は組織境界の設定によって決まります。GX-ETSの場合は制度で定められた算入義務の範囲が対象です。複数の工場がある場合でも、保証水準や制度要件によってはサンプリングによる代表工場の確認で対応できるケースがあります。機関に相談して最適な方法を確認してください。

Q4. Scope1だけでなくScope2も一緒に受けられますか

GX-ETSの確認対象は排出目標量と排出実績量ですが、CDP対応やSSBJへの対応を見据えてScope2の電力使用に伴う間接排出も含めた第三者保証を一括で受けることが可能です。SSPではGX-ETSの確認に加え、Scope2やScope3を含む第三者保証を一括で提供しています。

Q5. SSPは製造業の実績がありますか

SSPは製造業を含む多業種の検証・確認実績があります。製造業の固定燃焼設備や工業プロセスからの排出に精通したチームが対応します。初回のご相談から見積もりまで無料です。

まとめ

製造業のScope1検証・確認では、排出源の網羅性、燃料使用量データの正確性、排出係数の適切な選定が重要な注意点です。工業プロセスからの排出がある場合は業種固有の算定方法に対する知見も必要になります。

スムーズに進めるためには、排出源台帳の作成、燃料使用量データの整備、算定方法の文書化を事前に行うことが鍵です。また製造業の実績がある機関(GX-ETSの場合は登録確認機関)を選ぶことで、業種固有の論点に対する的確な対応が期待できます。

SSPは製造業を含む多業種の実績を持つGXリーグ登録確認機関・保証機関です。初回相談から見積もりまで無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

参考リンク

  • 経済産業省 GX-ETS制度概要
  • 経済産業省 排出量取引制度のマニュアル(登録申請・算定報告・確認等)
  • 環境省 温室効果ガス排出量算定報告マニュアル
  • ISO 14064-1 温室効果ガスの定量化及び報告のための仕様並びに手引
  • ISO 14064-3 温室効果ガスに関する主張の妥当性確認及び検証のための仕様並びに手引
  • ISSA 5000 サステナビリティ保証に関する国際基準
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この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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