本稿はサステナビリティスタンダードパートナーズが、GX推進法に基づく排出量取引制度について、内航海運業者がどのように制度対象となり、鋼材運送に絞られたベンチマークで算定し、船種補正係数をどう扱い、オフハイヤー時の排出量はどう処理し、移行計画から排出枠償却に至るのかを、マニュアルに基づいて整理するものです。石油製品運送や事務所のグランドファザリング扱いまで境界を示します。


結論
内航海運業者は、CO2直接排出量の年度平均が10万t以上かつ総貨物量の50%以上を鋼材・原材料・副産物が占める運送を行う事業者が、内航海運ベンチマークの対象となります。目指すべき原単位は2026年度2.750×10のマイナス5乗から2030年度2.698×10のマイナス5乗トンCO2毎トンキロメートルまで段階的に引き下げられます。船種補正係数は、ロールオンロールオフ貨物船が1.51、有害液体物質ばら積船が1.99、一般貨物船が1.00で、空荷運航を含む燃料使用量を基礎に、定期傭船契約のオフハイヤー期間は証憑提示を条件に除外できます。石油製品・石油化学製品の運送や事務所・営業所はグランドファザリング扱いとなります。
背景
内航海運業は国内物流の基幹として鋼材や石油製品を中心に大量輸送を担っており、国内CO2直接排出量の大きな部分を占めます。GX-ETSでは内航海運業法第2条第2項第1号に規定する内航運送のうち、主たる貨物が鋼材その原材料および副産物である運送を特定事業活動として切り出し、ベンチマーク方式で排出目標量を算定する設計が採られました。鋼材運送は船種補正係数による調整が必要で、ロールオンロールオフ貨物船や有害液体物質ばら積船は一般貨物船に比べ単位輸送量あたりの排出が大きくなる構造を反映しています。
SSPの定義
SSPはサステナビリティスタンダードパートナーズの略称で、経済産業省 GXリーグ登録検証機関として第三者確認を含む第三者保証業務を主業とする機関です。本稿における内航海運業とは、内航海運業法昭和27年法律第151号第2条第2項に規定する内航海運業のうち同項第1号に規定する内航運送をする事業をいい、ベンチマーク対象は主たる貨物が鋼材・原材料・副産物である運送に限定されます。主たる貨物とは、対象事業者が行う内航運送の総貨物量の50%以上を鋼材・石灰石・スクラップ・タール等が占める場合の運送を意味します。船種は、ロールオンロールオフ貨物船、有害液体物質ばら積船、一般貨物船の3分類です。
変更点の要約
- 内航海運ベンチマークの対象は主たる貨物が鋼材・原材料・副産物である運送に限定されました。
- ベンチマーク適用範囲の判定は総貨物量の50%以上を鋼材等が占める運送かで行い、石油製品運送はグランドファザリング扱いです。
- 船種補正係数がロールオンロールオフ貨物船1.51、有害液体物質ばら積船1.99、一般貨物船1.00で明記されました。
- 空荷運航時の燃料使用も算定対象に含まれ、オフハイヤー期間は証憑提示を条件に除外できます。
- 目指すべき原単位が2026年度2.750×10のマイナス5乗から2030年度2.698×10のマイナス5乗まで明記されました。
- 輸送トン数と輸送距離の証憑として航海日誌、運航実績報告書、内航海運輸送統計調査票等が列挙されました。
基礎知識
内航海運業者が押さえるべき前提は3点です。第1は事業分野の切り分けで、主たる貨物の50%ルールを満たす鋼材運送のみがベンチマーク対象となり、同一事業者内の石油製品運送や石油化学製品運送はグランドファザリング適用となります。第2は船種補正の意義で、船種ごとに単位輸送量あたりの排出特性が異なるため、輸送トンキロに補正係数を乗じることで異なる船種間の目標水準を公平化します。第3は契約形態別の排出量計上責任で、定期傭船契約等のオフハイヤー条件が明確に定められており、登録確認機関による確認時にオフハイヤー実態を証明できる資料の整備が前提となります。
論点整理表
| 論点 | 制度上の位置づけ | 内航海運業での該当 | 判断基準 | 実務上の留意点 |
|---|---|---|---|---|
| 対象判定 | GX推進法第33条第1項 | 年度平均排出量10万t以上 | 直近3年度のCO2直接排出量の平均 | 輸送能力閾値も年度末時点で確認 |
| ベンチマーク対象 | 式19-1 | 鋼材運送に限定 | 総貨物量の50%以上が鋼材等 | スクラップや石灰石、タール等も含まれる |
| グランドファザリング | 実施指針 | 石油製品・石油化学製品等 | 鋼材以外の運送 | 事務所・営業所も同じ扱い |
| 船種補正係数 | 式19-2 | 船種別の割合 | 船舶定義省令に準拠 | ロロ船1.51、有害液体船1.99、一般貨物船1.00 |
| 空荷運航 | 算定対象 | 往復航海のうち空荷区間 | 運航実績に含めて計上 | 帰り荷がない場合も燃料使用は対象 |
| オフハイヤー | 算定除外 | 定期傭船契約の実運航停止期間 | 契約上の条件が明確 | 登録確認機関の確認時に証明が必要 |
| 海上運送法船舶 | 要確認 | 旅客船と定義の区別 | 法第2条第2項の定義 | 人の運送は別建て |
| 輸送トン数把握 | 活動量定義 | 荷役量の計測等 | 航海日誌・運航実績報告書 | 統計調査票との整合を確保 |
| 排出枠償却 | GX推進法 | 翌年度1月31日までに保有 | 保有義務量分の排出枠 | 不足分は上限価格の1.1倍を負担金として納付 |
比較表
| 割当年度 | 目指すべき原単位 tCO2/トンキロメートル | 前年度比推移 |
|---|---|---|
| 2026年度 | 2.750×10のマイナス5乗 | 制度開始時の初期水準 |
| 2027年度 | 2.737×10のマイナス5乗 | 0.013×10のマイナス5乗引き下げ |
| 2028年度 | 2.724×10のマイナス5乗 | 0.013×10のマイナス5乗引き下げ |
| 2029年度 | 2.711×10のマイナス5乗 | 0.013×10のマイナス5乗引き下げ |
| 2030年度 | 2.698×10のマイナス5乗 | 2030年度目標水準 |
目指すべき原単位は各年度で等幅に引き下げられる設計で、船種補正係数による輸送トンキロの補正と組み合わせて、船種構成の異なる事業者間でも公平な目標量となるよう調整されます。
制度対象判定とスケジュール特例
年度平均排出量と事業者単位判定
内航海運業者の制度対象判定は、直近3年度のCO2直接排出量の平均が10万t以上かで行います。判定は事業者単位で、子会社や関連会社は別事業者として個別に判定されます。事業を開始して間もない場合は直近2年度または前年度のみで判定する例外が設けられています。内航海運では、親会社が複数の運送子会社を持つケースや、傭船契約を主体とする事業形態があるため、法人格単位で排出の帰属を確定することが判定の出発点となります。
2026年度特例と通常スケジュール
2026年度に制度対象となる内航海運業者は、2026年9月末までに基礎情報と年度平均排出量のみを届け出れば足り、排出目標量等の届出は2027年9月末まで猶予されます。排出枠の割当ても2027年度となります。2027年度以降は毎年9月30日までに排出目標量等の届出と移行計画の提出を行い、11月末頃に割当、翌年度1月31日までに保有義務を履行します。内航海運業者は、2026年度の時点で船種別の運航実績と契約形態ごとの排出量計上体制を整理し、登録確認機関との契約を進めることが推奨されます。
内航海運ベンチマークの仕組み
算定式と船種補正
算定式は、排出目標量は目指すべき原単位に基準活動量を乗じた値です。基準活動量は船種ごとの輸送トンキロに船種補正係数を乗じた値の合計で、船種補正係数はロールオンロールオフ貨物船が1.51、有害液体物質ばら積船が1.99、一般貨物船が1.00です。これらの船種定義は、二酸化炭素放出抑制対象船舶の二酸化炭素放出抑制指標等に関する基準を定める省令(平成24年国土交通省・環境省令第3号)第1条第10項の規定、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律の規定に基づく船舶の設備等に関する技術上の基準等に関する省令昭和58年運輸省令第38号第1条第5項に準拠します。
輸送トン数と輸送距離の把握
輸送トン数は航海ごとの輸送量の計測、輸送を受注した物資の重量の記録、荷役量の計測などで把握します。輸送距離は航海ごとの実計測、または日本海運集会所出版の航海距離表に基づく算定が認められます。証憑としては、航海日誌、運航実績報告書アブストラクトログ、荷役協定書、積荷揚荷報告書、荷役証明書等の運送契約書類、内航海運輸送統計調査票、これらを記録するシステムが挙げられます。登録確認機関はこれらの一次資料に遡って確認業務を実施するため、船舶ごと・航海ごとに追跡可能な資料構造を整えることが不可欠です。
ベンチマークとグランドファザリングの境界
鋼材運送とそれ以外の区分
内航海運ベンチマークの対象は、主たる貨物が鋼材とその原材料および副産物である運送に限定されます。ここで主たる貨物とは、対象事業者の内航運送事業における総貨物量の50%以上を鋼材、原材料すなわち石灰石やスクラップ等、副産物すなわちタール等が占める場合の運送を意味します。50%未満の場合は本ベンチマークの対象とならず、グランドファザリング適用となります。一方、同一事業者の事業活動のうち、主たる貨物が鋼材でない運送、すなわち石油製品運送や石油化学製品運送、および事務所や営業所等の排出は、グランドファザリング適用となります。
オフハイヤー期間の取扱い
定期傭船契約においてオフハイヤーとなる条件が契約上明確に定められている場合、実運航を中断しているオフハイヤー期間は自社排出量としてカウントする必要はありません。ただし、第三者機関である登録確認機関の確認時に、当該期間がオフハイヤーであったことを証明する必要があります。オフハイヤーの条件に該当しないトラブル時等の排出量は自社排出量に含めます。このため、傭船契約書のオフハイヤー条項と、実際のオフハイヤー期間を特定できる運航記録を同時に整備する必要があります。
排出枠割当と未償却相当負担金
無償割当と排出枠取引
経済産業大臣は、届出が適切と認められる場合に排出枠を1t単位で無償で割り当て、法人等保有口座に記録します。排出枠はGX推進機構の排出枠取引市場と相対取引で売買可能で、船舶の低燃費化や船種構成の最適化で排出が目標を下回れば余剰を売却でき、航路拡大などで排出が増えれば不足分を市場調達できます。共同届出体の場合は届出を実施した制度対象者の口座に密接関係者分を含めて記録されます。割り当てられた年度にかかわらず、保有義務履行に使える点が制度設計上の柔軟性の要です。
未償却相当負担金の意味合い
翌年度1月31日時点で保有義務量分の排出枠が不足している場合は、不足分に参考上限取引価格を乗じ1.1を乗じた額を未償却相当負担金として納付します。内航海運業者にとっては、燃料油価格の変動、傭船市況、貨物需要の変動が重なる中で、排出枠調達の意思決定が燃料調達および船隊運用の最適化とセットで検討すべき事項となります。2027年度以降、市場の流動性と価格形成の安定度を見ながら、長期スライディングヘッジの考え方を取り入れた調達方針が実務的な検討対象となります。
移行計画と登録確認機関
移行計画での投資計画
内航海運業者は、届出後にERMSで移行計画を作成し9月30日までに提出します。投資計画の該当輸送手段の欄には、低燃費船への代替建造、LNG燃料船やアンモニア燃料船への移行、省エネ装備の後付け、運航最適化システムの導入などを記載することが想定されます。研究開発欄ではGX技術区分の特許出願番号やグリーンイノベーション基金プロジェクト名を記載します。移行計画は個社ごとに経済産業省と国土交通省のHPで公表されるため、対外的な脱炭素コミットメントと整合する記述が求められます。
登録確認機関の確認ポイント
登録確認機関による確認では、組織境界の適切性、バウンダリの網羅性、主たる貨物の50%判定の妥当性、船種補正係数の適用、オフハイヤー期間の証明、輸送トン数と輸送距離の算定過程の正確性、単位発熱量と排出係数の選定根拠、単位整合性、端数処理の適切性が対象となります。確認業務の結論は無限定の結論、限定付結論、否定的結論、結論不表明の4種類で、結論が悪化するほど排出目標量と排出実績量の制度上の信頼性が損なわれるため、証憑の事前整備と社内体制の整備が不可欠です。
実務フロー
内航海運業者が1サイクルを回すための実務ステップを以下に示します。
- Step1 直近3年度のCO2直接排出量と事業者単位の輸送実績を確認し、年度平均排出量10万t以上かを自社判定する。
- Step2 2026年6月以降にERMSアカウントとGビズIDを準備し、法人等保有口座を開設する。
- Step3 総貨物量の50%ルールを適用し、鋼材運送と石油製品運送等を区分して算定単位を確定する。
- Step4 船種別の輸送トンキロと補正係数、オフハイヤー期間を整理し、登録確認機関と契約する。
- Step5 9月30日までに排出目標量等の届出と移行計画をERMSで提出する。2026年度は基礎情報のみで可。
- Step6 11月末頃に排出枠の無償割当を受け、法人等保有口座で残高を確認する。
- Step7 翌年度4月から9月に排出実績量の算定と登録確認機関の確認を受け、9月30日までに報告する。
- Step8 翌年度1月31日までに保有義務量分の排出枠を保有し、不足時は市場調達か負担金納付で対応する。
FAQ
主たる貨物が鋼材かの判定はどの時点で行いますか
対象事業者の内航運送事業における総貨物量の50%以上を鋼材・原材料すなわち石灰石やスクラップ等・副産物すなわちタール等が占める場合が主たる貨物が鋼材である運送に該当します。判定は算定対象年度の実績に基づき行い、50%未満の場合は本ベンチマークの対象とならずグランドファザリング扱いとなります。貨物構成が年度で変動する事業者は、年度末までのトン数集計で判定を確定させる運用が求められます。
オフハイヤー期間の証明はどう準備しますか
定期傭船契約書において、オフハイヤーに該当する条件を明確に定義しておくことが前提です。そのうえで、実際のオフハイヤー期間を特定できる運航記録、例として航海日誌、オフハイヤー通知書、船主への請求書明細の中断期間記載等を整備し、登録確認機関の確認時に提示します。オフハイヤー条件に該当しないトラブル時の停船は自社排出量に含める必要があるため、トラブルとオフハイヤーの区別を記録上明確化します。
船種補正係数はどのように適用しますか
保有する船舶を船種補正係数に従って分類し、ロールオンロールオフ貨物船は1.51、有害液体物質ばら積船は1.99、一般貨物船は1.00を輸送トンキロに乗じます。船種の定義は国土交通省と環境省の省令、および海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律に基づく省令に準拠し、技術上の基準に照らした船舶の構造で決まります。保有船舶の建造時仕様書や船級協会の登録情報で船種を特定し、証憑として整えます。
石油製品を運ぶ船舶を保有している場合の扱いはどうなりますか
主たる貨物が鋼材でない運送、すなわち石油製品・石油化学製品等の運送はグランドファザリング適用となります。同一事業者内に鋼材運送と石油製品運送が混在する場合、鋼材運送部分にはベンチマーク方式を適用し、石油製品運送部分にはグランドファザリング方式を適用します。同一事業者の事業活動のうち、事務所・営業所等の排出も同じくグランドファザリング適用となります。
空荷運航の燃料消費は算定対象ですか
空荷運航時の燃料使用も本ベンチマークによる割当ての対象に含まれます。これは、輸送トンキロが0となる空荷区間であっても、船舶の運航に伴う燃料消費が発生する以上、排出量を計上する設計です。往復航海の運航管理上、荷積み区間と空荷区間を区別して記録し、燃料消費量は全区間を合算します。
航海距離表による輸送距離算定でも構いませんか
輸送距離は航海ごとの輸送距離の計測、または日本海運集会所出版の航海距離表に基づく算定が認められています。航海距離表を使用する場合は、出典と使用ページを証憑として整備し、港湾間距離の根拠を登録確認機関に提示できるようにします。実測と航海距離表のいずれを選択するかは事業者の判断ですが、年度ごとの方法の継続性を保つことが求められます。
内航海運輸送統計調査との整合はどう確保しますか
内航海運輸送統計調査票は、活動量の算定根拠となる輸送トン数と輸送距離の重要な証憑です。ベンチマーク算定の輸送トンキロと統計調査票の記載値に差異が生じる場合、その差異の根拠を社内で整理しておく必要があります。例えば鋼材運送のみをベンチマーク対象とするため、統計調査票が全貨物を含む場合は区分集計を記録します。
まとめ
内航海運業にとってGX-ETSは、鋼材とその原材料・副産物が総貨物量の50%以上を占める運送のみをベンチマーク対象とし、船種補正係数ロールオンロールオフ貨物船1.51、有害液体物質ばら積船1.99、一般貨物船1.00で異なる船種間の目標水準を公平化するという制度設計です。目指すべき原単位は2026年度2.750×10のマイナス5乗から2030年度2.698×10のマイナス5乗トンCO2毎トンキロメートルまで等幅に引き下げられ、空荷運航を含む燃料使用を計上しつつ、定期傭船契約のオフハイヤー期間は証憑提示を条件に除外できます。石油製品運送や事務所はグランドファザリング扱いとなるため、同一事業者内の活動区分を明確化し、移行計画による投資計画の公表と登録確認機関の第三者確認、排出枠の市場活用を一連の経営プロセスとして設計することが、この制度下での対応の骨格となります。
参考リンク
- 経済産業省 排出量取引制度
- 国土交通省 海事局 内航海運関連情報
- 日本海運集会所 航海距離表
- GX推進機構 排出量取引制度関連情報


