本稿はサステナビリティスタンダードパートナーズが、GX推進法に基づく排出量取引制度について、国内定期航空運送事業者がどのように制度対象となり、どの範囲の排出を航空輸送ベンチマークで算定し、移行計画や登録確認機関の確認を経て排出枠を受け取り償却に至るのかを、マニュアルに基づいて整理したものです。国際線やGSE車両の扱いまで境界を具体的に示します。


結論
国内定期航空運送事業者は、CO2直接排出量の年度平均が10万t以上になるとGX-ETSの制度対象となり、航空輸送ベンチマークに基づく排出目標量の算定と排出枠の割当を受けます。ベンチマークの対象は本邦内の定期航空運送事業、不定期運送、無償運航までを含み、航空機使用事業や施設域内のグランドハンドリングはグランドファザリングの対象、施設域外のGSE車両や国際線、最大離陸重量70t未満の離島路線は対象外となります。目指すべき原単位は2026年度1.148から2030年度1.133キログラムCO2毎トンキロメートルまで段階的に引き下げられ、輸送トン数は旅客1人75キログラム換算と貨物等の実測重量で把握します。
背景
航空輸送事業はエネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律第143条第1項に規定され、日本の運輸部門の脱炭素化の重要分野です。ICAOのCORSIAなど国際的な枠組みが存在する一方、本邦内の輸送についてはGX-ETSの航空輸送ベンチマークが適用されます。経済産業省と国土交通省は、航空機の使用に伴う燃料消費が国内輸送部門の排出量の相当部分を占めることを踏まえ、国内定期航空運送事業を中心とした排出目標量の枠組みを整備しました。目指すべき原単位は直近3か年度(2026年度の場合は2023〜2025年度)の基準活動量と排出量の平均から算出され、上位32.5%水準まで5年間で引き下げる設計となっています。
SSPの定義
SSPはサステナビリティスタンダードパートナーズの略称で、経済産業省 GXリーグ登録検証機関として第三者確認を含む第三者保証業務を主業とする機関です。本稿における航空輸送事業とは、本邦内の各地間における貨物または旅客の輸送を行う事業を指し、国内定期航空運送事業とは航空法第2条第20項に規定する、本邦内の各地間に路線を定めて一定の日時により航行する航空機により行う航空運送事業をいいます。輸送トン数とは、旅客は一人あたり75.0キログラムを有償旅客数に乗じた値と、貨物・超過手荷物・郵便物の実測重量の合計です。輸送距離は国土交通省の航空輸送統計調査に記載されている区間距離を用います。
変更点の要約
- 航空輸送ベンチマークの適用範囲が国内定期航空運送事業に限定されることが明確化されました。
- 不定期運送であってもチャーター便や遊覧飛行、無償運航のフェリーフライト・パイロット訓練は算定対象に含まれます。
- 航空機使用事業や空港内外の営業所・事務所、施設域内のグランドハンドリングはグランドファザリング扱いとなります。
- 施設域外のGSE車両や国際線、最大離陸重量70t未満の離島路線は算定対象外とされました。
- 目指すべき原単位が2026年度1.148から2030年度1.133キログラムCO2毎トンキロメートルまで明記されました。
- 旅客輸送トン数は1人75.0キログラム換算、貨物・超過手荷物・郵便物は実測重量で把握する方式が定められました。
基礎知識
航空輸送事業者が押さえるべき前提は3点です。第1は適用範囲で、ベンチマーク対象は国内定期航空運送事業に絞られ、国際線は本制度の算定対象外となります。第2は活動量の計測方法で、輸送距離は国土交通省航空輸送統計調査の国内定期航空路線別索引に記載された区間距離を用い、輸送トン数は旅客1人75.0キログラム換算と貨物等の実測重量を合算します。第3はベンチマークとグランドファザリングの境界で、飛行機を動かす直接燃焼はベンチマーク、地上オペレーションの多くはグランドファザリング、そして域外GSEや国際線、離島の小型機は対象外となります。この3階層を組織境界と照らして切り分けるのが実務の核心です。
論点整理表
| 論点 | 制度上の位置づけ | 航空輸送事業での該当 | 判断基準 | 実務上の留意点 |
|---|---|---|---|---|
| 対象判定 | GX推進法第33条第1項 | 年度平均排出量10万t以上 | 直近3年度のCO2直接排出量の平均 | 輸送能力の閾値未満期間は算定対象外扱い |
| ベンチマーク対象 | 式20-1 | 国内定期航空運送事業 | 本邦内の各地間を定期航行 | 国際線は算定対象外 |
| 不定期運航の扱い | ベンチマーク対象 | チャーター便・遊覧飛行 | 本邦内の運送であること | 営利性の有無にかかわらず算定 |
| 無償運航の扱い | ベンチマーク対象 | フェリー便・訓練飛行 | 空輸送や整備目的の移動 | 有償旅客がいなくても燃料消費は算定対象 |
| 航空機使用事業 | GF対象 | 貨客運送以外の請負事業 | 他人の需要への有償請負 | 発動機整備時の燃料も含む |
| グランドハンドリング | GF対象/対象外 | 施設域内/施設域外 | 所有施設の内外で区分 | 域内フォークリフトはGF、域外GSEは対象外 |
| 離島路線特例 | 算定対象外 | 最大離陸重量70t未満 | 本土と離島等の航路 | 施行規則別表第一第三号に記載 |
| 輸送トン数算定 | 式の補足 | 旅客・貨物・超過手荷物・郵便物 | 旅客は75.0kg換算 | コンテナ・パレット重量は除く |
| 排出枠償却 | GX推進法 | 翌年度1月31日までに保有 | 保有義務量分の排出枠 | 不足分は上限価格の1.1倍を負担金として納付 |
比較表
| 割当年度 | 目指すべき原単位 kg-CO2/t-km | 年度推移の特徴 |
|---|---|---|
| 2026年度 | 1.148 | 制度開始時の初期水準 |
| 2027年度 | 1.144 | 0.004引き下げ |
| 2028年度 | 1.141 | 0.003引き下げ |
| 2029年度 | 1.137 | 0.004引き下げ |
| 2030年度 | 1.133 | 2030目標水準 |
目指すべき原単位は、基準年度における標準的な排出原単位を上位50%水準とし、2030年度のベンチマーク水準である上位32.5%まで5年間で段階的に引き下げる設計です。
制度対象判定とスケジュール特例
年度平均排出量と輸送能力閾値
航空輸送事業者の制度対象判定は、直近3年度のCO2直接排出量の平均が10万t以上かで行います。ただし、輸送に係る燃料使用のうち、直近3年度の3月31日時点の輸送能力が排出量算定・報告マニュアルに記載の閾値以上である輸送区分についてのみ、年度平均排出量の算定に含めます。航空輸送事業の場合は、路線網と航空機保有数の推移によって算定対象年度が変動する可能性があるため、毎年度の判定時に輸送能力の年度末時点を確認する必要があります。判定は事業者単位で行い、子会社や関連会社は別事業者として個別に判定されます。
2026年度特例と通常スケジュール
2026年度に制度対象となる航空輸送事業者は、2026年9月末までに基礎情報と年度平均排出量のみを届け出れば足り、排出目標量等の届出は2027年9月末まで猶予されます。排出枠の割当ても2027年度となります。2027年度以降は通常のスケジュールで、毎年9月30日までに排出目標量等の届出と移行計画の提出を行い、11月末頃に割当、翌年度1月31日までに保有義務を履行します。航空輸送事業者は、2026年度の時点で路線ごとの運航実績データを整理し、登録確認機関との契約を準備することが推奨されます。
航空輸送ベンチマークの仕組み
算定式と活動量の定義
算定式は、排出目標量は目指すべき原単位に基準活動量を乗じた値です。基準活動量は輸送トンキロで、これは輸送トン数に輸送距離を乗じた値の合計となります。輸送トン数の構成は、旅客については有償旅客数に1人あたり75.0キログラムを乗じた値、貨物・超過手荷物・郵便物については便ごとの重量実測値でコンテナとパレットの重量を除いた値です。超過手荷物については実測と同等と認められる算定方法を用いることも可能です。輸送距離は国土交通省の航空輸送統計調査に記載のある国内定期航空路線別索引の区間距離を用います。
運航実績と証憑整備
活動量の算定根拠となる輸送トン数と輸送距離の証憑として、運航実績報告書の年次および月次版、航空輸送統計調査の国内定期航空路線別索引における区間距離、国内定期航空運送事業実績調査票に記載の旅客・貨物・超過手荷物・郵便物の重量、これらが記録されるシステムの出力が想定されています。登録確認機関はこれらの一次資料に遡って確認業務を実施するため、便ごとのデータと統計調査の整合、年次集計への積み上げ過程、重量単位の変換根拠まで遡れる資料構造を整えることが求められます。
ベンチマークとグランドファザリングの境界
ベンチマーク対象となる運航
航空輸送ベンチマークの対象には、定期航空運送事業、不定期航空運送事業のチャーター便や遊覧飛行、無償運航の帰り荷がない場合の空輸送、整備場までのフェリーフライト、パイロット訓練が含まれます。いずれも本邦内の運送であれば燃料消費に伴うCO2排出は算定対象となります。これは、営利の有無ではなく、航空機が本邦内を飛行することで発生する排出を包括的に捉える設計です。
グランドファザリングと対象外
グランドファザリング対象となるのは、航空機使用事業、事業者が所有する空港内外の営業所・事務所・事業場等での事業活動、航空機に装備する発動機の整備作業に伴う燃料の使用、事業者が所有する施設域内でのグランドハンドリング業務で例として航空貨物取扱施設におけるフォークリフトの使用です。算定対象外となるのは、事業者が所有する施設域外でのグランドハンドリング業務で例として空港内における航空機以外の機器による輸送すなわちGSE車両等、そして航空機による国際線の貨物・旅客輸送および航空機使用事業の国際分、さらに施行規則別表第一第三号に基づく本土と離島等を結ぶ最大離陸重量70t未満の航空機の輸送です。
排出枠割当と未償却相当負担金
無償割当と排出枠取引
排出枠は経済産業大臣が1t単位で無償で割り当て、法人等保有口座に記録されます。共同届出体の場合は届出を実施した制度対象者の口座に密接関係者分も含めて割り当てられます。排出枠はGX推進機構の排出枠取引市場と相対取引で売買可能で、航空会社が燃料効率化やSAF使用拡大によって排出実績が目標を下回った場合は余剰分を売却でき、逆に想定以上の運航拡大で排出が増えた場合は市場から不足分を調達して保有義務を履行できます。保有義務履行に用いる排出枠は割り当てられた年度を問わないため、年度をまたいだ運用が可能です。
未償却相当負担金の算出
翌年度1月31日時点で保有義務量分の排出枠が不足している場合、不足分に経済産業大臣が毎年度定める参考上限取引価格を乗じ、さらに1.1を乗じた額を未償却相当負担金として納付します。これは実質的に市場上限価格を超える水準での強制的な財務負担となり、排出枠の先行調達を怠った場合の経営リスクを意味します。航空輸送事業のように燃料価格変動と需要変動の両方にさらされる事業では、排出枠調達のタイミングと価格リスクを燃料ヘッジと合わせて設計することが、経営管理上の実務となります。
移行計画と登録確認機関
移行計画の記載事項
航空輸送事業者は、届出後にERMSで移行計画を作成し9月30日までに提出します。記載事項は、前年度の直接排出量と間接排出量、各年度の排出量目標、投資計画の内容・対象輸送手段・着手時期と完了時期・排出削減効果、研究開発、その他取組、前年度計画からの変更点です。航空輸送事業では、機材の更新、SAFの導入、運航効率化、地上オペレーションの電動化など、輸送手段単位で記載する投資計画が想定されます。移行計画は個社ごとに経済産業省と国土交通省のHPで公表されるため、統合報告書やサステナビリティレポートと整合させる対応が必要です。
登録確認機関による確認
排出目標量と排出実績量は登録確認機関の確認を経たうえで届出と報告を行います。確認業務は、契約、概要把握、リスク評価、確認業務計画の策定、計画の実施、実施結果の評価、意見の形成、確認報告書の作成、審査、報告書の発行という流れです。結論は無限定の結論、限定付結論、否定的結論、結論不表明の4種類となります。航空輸送事業では、組織境界における路線網とコードシェア便の扱い、バウンダリとしての施設域内外のグランドハンドリング区分、輸送トン数の75.0キログラム換算と実測重量の整合、区間距離の出典と単位換算の妥当性などが確認のポイントとなります。
実務フロー
航空輸送事業者が1サイクルを回すための実務ステップを以下に示します。
- Step1 直近3年度のCO2直接排出量と輸送能力推移を確認し、年度平均排出量10万t以上かを自社判定する。
- Step2 2026年6月以降にERMSアカウントとGビズIDを準備し、法人等保有口座を開設する。
- Step3 路線網を整理し、定期運送・不定期運送・無償運航・航空機使用事業を区分して算定単位を確定する。
- Step4 登録確認機関と契約し、便ごとのデータと航空輸送統計調査との整合を準備する。
- Step5 9月30日までに排出目標量等の届出と移行計画をERMSで提出する。2026年度は基礎情報のみで可。
- Step6 11月末頃に排出枠の無償割当を受け、法人等保有口座で残高を確認する。
- Step7 翌年度4月から9月に排出実績量の算定と登録確認機関の確認を受け、9月30日までに報告する。
- Step8 翌年度1月31日までに保有義務量分の排出枠を保有し、不足時は市場調達か負担金納付で対応する。
FAQ
国際線の燃料使用は算定対象ですか
国際線の燃料使用は航空輸送ベンチマークの算定対象外です。本制度が対象とするのは本邦内の各地間における輸送であり、航空機による国際線の貨物・旅客輸送および航空機使用事業の国際分は、いずれも算定対象外となります。国際線はICAOのCORSIAや将来的な国際的な枠組みの対象となるため、本制度と重複する規制にはなりません。
コードシェア便の排出量はどちらの会社が算定しますか
コードシェア便の排出量は、実際に運航を行う航空会社すなわち運航会社が算定します。発券のみ行う販売会社側は燃料消費に伴う直接排出の担い手ではないため、航空輸送ベンチマークの対象外となります。組織境界の確定時に、運航便と販売便の区分を明確に資料化し、登録確認機関の確認に備える必要があります。
施設域内と施設域外のグランドハンドリングの違いは何ですか
事業者が所有する施設域内でのグランドハンドリング業務、例として航空貨物取扱施設におけるフォークリフトの使用は、グランドファザリングの対象として排出目標量の算定に含めます。一方、事業者が所有する施設域外でのグランドハンドリング業務、例として空港内における航空機以外の機器による輸送すなわちGSE車両等は、そもそも本制度の算定対象外となります。自社施設の境界を空港図面ベースで定義することが運用上の要です。
最大離陸重量70t未満の離島路線はなぜ対象外ですか
施行規則別表第一第三号で、本土と離島、沖縄島と離島、離島間および離島内の交通を確保するための航空路における航空機のうち、最大離陸重量70t未満のものによる貨物または旅客の輸送に関する基準活動量および二酸化炭素排出量は報告対象外と定められています。生活路線の確保と制度負担の均衡を考慮した措置で、該当航空機による運航実績は自動的に算定から除外されます。
無償運航のフェリーフライトや訓練飛行も算定対象ですか
無償運航として、帰り荷がない場合の空輸送、整備場までのフェリーフライト、パイロット訓練等は航空輸送ベンチマークの算定対象に含まれます。有償旅客や有償貨物がなくても、本邦内の航空機運航に伴う燃料消費は包括的に算定対象となる設計です。運航実績報告書に無償運航分を明示し、区分集計できる体制が必要です。
旅客重量はどのように算定しますか
旅客1人あたりの重量は75.0キログラムで固定され、有償旅客数に乗じて輸送トン数の旅客分を算出します。超過手荷物は実測重量または実測と同等と認められる算定方法で把握します。貨物と郵便物は便ごとの実測値を用い、コンテナとパレットの重量は除きます。これにより、実際の搭乗者の体重変動や座席クラスの違いを制度上は75キログラムに統一し、業界横断の比較可能性を確保しています。
SAFを導入した場合の排出量はどう反映されますか
SAFの排出係数や非化石燃料としての扱いについては、排出量算定・報告マニュアルの最新版に従って処理することになります。排出量の削減効果は排出実績量の報告に反映されるとともに、SAFの導入計画は移行計画の投資計画セクションに記載することで、排出削減効果の見通しを示す形で制度に組み込みます。具体の係数と検証手順は最新マニュアルをご確認ください。
まとめ
航空輸送事業にとってGX-ETSは、国内定期運送を中心にチャーター便、遊覧飛行、無償運航まで包含する広い範囲をベンチマーク対象としつつ、航空機使用事業や空港施設の営業所・事務所はグランドファザリングで、施設域外のGSEや国際線、離島の小型機は対象外とする三層構造で設計されています。目指すべき原単位は2026年度1.148から2030年度1.133キログラムCO2毎トンキロメートルまで段階的に引き下げられ、旅客75.0キログラム換算と貨物等の実測重量で輸送トン数を、航空輸送統計調査の区間距離で輸送距離を把握します。移行計画による投資計画の公表、登録確認機関の第三者確認、排出枠の市場調達と未償却相当負担金のリスク管理が一連の経営プロセスとなります。
参考リンク
- 経済産業省 排出量取引制度のページ
- 国土交通省 航空輸送統計調査
- GX推進機構 排出量取引制度関連情報
- デジタル庁 GビズID


