本稿はサステナビリティスタンダードパートナーズの編集部が、GX推進法に基づく排出量取引制度について、カーボンブラック製造業がどのように制度対象となり、2026年5月11日改訂で新設された「04 カーボンブラック製造業」ベンチマーク(製品BM)の枠組みで、オイルファーネス法反応炉のプロセスCO2と燃料燃焼CO2、テールガスの自家消費、品種補正係数(用途×窒素吸着比表面積)、副生燃料の外部供給時の控除を踏まえて排出目標量を算定し、排出枠償却に至るのかを最新マニュアルに基づき整理するものです。GX-ETSはCO2直接排出のみを対象とし、CH4・N2O等の非CO2ガスは対象外です。


結論
カーボンブラック製造業者は、CO2直接排出量の年度平均が10万t以上となる事業者としてGX-ETSの制度対象となります。2026年5月11日のマニュアル改訂で「04 カーボンブラック製造業」が独立したベンチマーク対象事業活動として新設され、製品BM(直接排出量/(カーボンブラック生産量×品種補正係数))で排出目標量を算定します。目指すべき原単位は2026年度1.918→2030年度1.785 tCO2/tです。算定対象はオイルファーネス法に限定され、原料投入から反応・粉砕・造粒・乾燥・製品タンクへの貯留まで(フレアスタック含む)の燃料使用および原材料起源排出(算定報告マニュアル2.16のカーボンブラック2.1 tCO2/t)が含まれます。目指すべき原単位は副生燃料全量自家消費前提で算定されているため、テールガスを外販する場合は式04-2による控除量を計算する必要があります。
背景
カーボンブラックは、原料油(FCCデカントオイル、クレオソート油等)と天然ガスをオイルファーネス法の反応炉内で部分燃焼させ、ススと呼ばれる微粒炭素を回収して製造する無機炭素材料で、タイヤのゴム補強材、塗料・インキの顔料、電子部材の導電材などに広く使用されます。反応炉では原料の炭素の一部が製品となり、残りがCO2として排出され、同時に未反応の燃料ガスが副生してテールガスとなります。テールガスは加熱炉・ボイラーでの燃料として自家消費され、一部は外販される形態が一般的です。当初は本業種はベンチマーク対象外でグランドファザリング方式の整理でしたが、2026年5月11日改訂により「04 カーボンブラック製造業」として独立したBMが追加され、用途別・窒素吸着比表面積別の品種補正係数を用いる製品BM体系が導入されました。
SSPの定義
SSPはサステナビリティスタンダードパートナーズの略称で、経済産業省 GXリーグ登録検証機関として第三者確認を含む第三者保証業務を主業とする機関です。本稿におけるカーボンブラック製造業とは、オイルファーネス法(重質の液体原料油を使用してカーボンブラックを生産する製法)により微粒炭素を工業的に製造する事業を指します(サーマル法・ランプ法等のオイルファーネス法以外は本BMの対象外)。テールガスとは、反応炉から排出される未反応ガスで、主成分はCO・H2・CO2・H2O、少量のCH4等で構成され、自所内の加熱炉やボイラー燃料として利用するほか、外部売却や燃焼塔での処分が行われます。通常用途はASTM規格相当品の該非による分類、特殊用途は通常用途以外のすべてです。
変更点の要約
- 2026年5月11日改訂で「04 カーボンブラック製造業」のBMが新設(製品BM、☑品種補正、☑副生燃料)
- 適用対象はオイルファーネス法に限定され、サーマル法・ランプ法等は対象外
- 目指すべき原単位は2026年度1.918→2030年度1.785 tCO2/t(製品トン当たり)
- 活動量は品種ごとの生産量に品種補正係数を乗じた合計(11区分)
- 品種補正係数は用途(通常/特殊)×窒素吸着比表面積(50㎡/g未満〜400㎡/g未満)で決まる
- 目指すべき原単位は副生燃料が全量バウンダリ内で燃焼することを前提に算定されているため、テールガスを外部供給する場合は式04-2による控除量を計算する
- 原材料起源CO2は算定報告マニュアル2.16の排出係数2.1 tCO2/tをカーボンブラック生産量に乗じて算定する
基礎知識
カーボンブラック排出管理で押さえるべき前提は3点です。第1は製品ベンチマーク方式の理解で、排出目標量は「目指すべき原単位×基準活動量」で算定され、基準活動量は品種ごとの生産量に補正係数を乗じた合計(基準年度3年平均)として把握します。直接排出比率の補正は適用されません。第2はテールガスの追跡で、自所内燃料利用分は自所バウンダリ内で燃焼CO2として既に目指すべき原単位に織り込まれており、外販分は供給量に副生燃料排出係数を乗じて式04-2で控除します。第3はGX-ETSの対象範囲の理解で、本制度はCO2直接排出のみを対象とし、非CO2温室効果ガス(CH4・N2O等)や電力由来の間接排出は対象外です。なお、原材料起源CO2の算定には排出量算定・報告マニュアル第Ⅱ部2.16の排出係数2.1 tCO2/tを使用します(これは実排出量算定用であって、BMの目指すべき原単位1.918とは別概念)。
論点整理表
| 論点 | 制度上の位置づけ | カーボンブラック製造での該当 | 判断基準 | 実務上の留意点 |
| 対象判定 | GX推進法第33条第1項 | 年度平均排出量10万t以上 | 直近3年度のCO2直接排出量の平均 | 国内主要メーカーは対象可能性あり |
| ベンチマーク区分 | 実施指針 04 | 製品BM(オイルファーネス法) | 用途×窒素吸着比表面積の補正 | サーマル法・ランプ法は対象外 |
| 反応炉CO2 | 原材料起源(2.16) | 原料油・天然ガス部分燃焼 | 生産量×2.1 tCO2/t | 実排出算定に使用 |
| 燃料燃焼CO2 | エネルギー起源 | 加熱炉・ボイラー | 燃料×発熱量×係数 | テールガス自家消費含む |
| 品種補正 | 式04-3 | 用途×窒素吸着比表面積 | 11区分の補正係数 | 通常用途はASTM規格相当品 |
| 外販テールガス | 式04-2控除 | 副生燃料の外部供給 | 供給量×排出係数×(1-GF削減率×経過年数) | 供給側で控除(使用側は加算) |
| 排出枠償却 | GX推進法 | 翌年度1月31日までに保有 | 保有義務量分の排出枠 | 不足分は上限価格の1.1倍を負担金として納付 |
比較表 目指すべき原単位
| 割当年度 | 目指すべき原単位(tCO2/t) |
| 2026年度 | 1.918 |
| 2027年度 | 1.885 |
| 2028年度 | 1.852 |
| 2029年度 | 1.818 |
| 2030年度 | 1.785 |
品種補正係数(用途×窒素吸着比表面積)
| 用途 | 窒素吸着比表面積 | 補正係数 |
| 通常用途 | 50㎡/g未満 | 0.97 |
| 通常用途 | 50㎡/g以上 100㎡/g未満 | 1.00 |
| 通常用途 | 100㎡/g以上 150㎡/g未満 | 1.60 |
| 特殊用途 | 50㎡/g未満 | 1.32 |
| 特殊用途 | 50㎡/g以上 100㎡/g未満 | 1.67 |
| 特殊用途 | 100㎡/g以上 150㎡/g未満 | 2.13 |
| 特殊用途 | 150㎡/g以上 200㎡/g未満 | 2.72 |
| 特殊用途 | 200㎡/g以上 250㎡/g未満 | 3.66 |
| 特殊用途 | 250㎡/g以上 300㎡/g未満 | 3.95 |
| 特殊用途 | 300㎡/g以上 350㎡/g未満 | 5.59 |
| 特殊用途 | 350㎡/g以上 400㎡/g未満 | 7.50 |
通常用途と特殊用途の区分は、国際規格であるASTM規格(米・材料試験協会規格)相当品の該非によって判定します。特殊用途は通常用途以外のすべてが該当します。自社の製品の品種ごと区分けは、用途による区分けをした上で、窒素吸着比表面積によりそれぞれ50㎡/gごとの生産量を把握します。
制度対象判定とスケジュール特例
事業者単位の判定
カーボンブラック事業者は、主要製品ラインごとの年間生産量が数万tから数十万tのレンジで、原料油1tあたり約0.6tの製品と多量のテールガスが発生する構造のため、年度平均排出量は多くの事業者で10万tを超える可能性があります。判定は事業者単位で、子会社・関連会社は別事業者として個別判定する運用です。
2026年度特例
2026年度に対象となる場合は、2026年9月末までに基礎情報と年度平均排出量のみ届出し、排出目標量等は2027年9月末まで猶予されます。2026年度を活用し、反応炉別・テールガス経路別の計量体系、品種別(用途×窒素吸着比表面積)の生産量管理、登録確認機関契約を進めることが推奨されます。
カーボンブラックBMの仕組み
算定式と活動量
04 カーボンブラック製造業のベンチマーク算定式は次のとおりです(マニュアル式04-1)。
排出目標量 = 目指すべき原単位 × 基準活動量
活動量は品種ごとの生産量に補正係数を乗じた合計です(式04-3)。
活動量 = ∑(品種iの生産量 × 品種iの補正係数)
基準活動量は基準年度(2023〜2025年度)における当該活動量の3年平均です。生産量は前年度末(期末)在庫重量+当該期間工場出荷重量+その他受け入れ−その他払い出し−当該期間年度末在庫重量、または製品タンク基準の同様の計算で把握します。
副生燃料供給に係る控除(式04-2)
カーボンブラックBMの目指すべき原単位は、製造時に発生する副生燃料(テールガス)が全量バウンダリ内で燃焼している前提で算定されています。そのため、テールガスをバウンダリ外(自社の他工場・他者)に供給している場合は、以下の式04-2で控除量を算定し、当該量を排出目標量から控除します。
副生燃料供給に係る控除量 = 副生燃料供給量 × 副生燃料の排出係数 × (1 − GF削減率 × 経過年数)
バウンダリ外に供給した副生燃料には、副生燃料を使用して電気・熱を生成し二次エネルギーとしてバウンダリ外に供給されるものも含みます。具体的な算定詳細は届出・排出目標量等算定マニュアル第Ⅱ部2.4.2「(3)副生燃料起源排出量」および2.4.4「(2)基準副生燃料起源排出量の算定方法」を参照してください。
ベンチマークとグランドファザリングの境界
対象工程
原料投入から反応炉、粉砕、造粒、乾燥、製品タンクへの貯留まで(フレアスタックを含む)がバウンダリ内です。原料受入・保管設備のうち燃料を消費するものも対象に含めます。工場等内で自らが電気・熱を生成している場合、バウンダリ内で使用する当該電気・熱の生成に係る排出量は本BMの直接排出として含めます(他工程で使用したり、自社の他工場・他者に供給する電気・熱の生成に係る排出量は含めません)。
対象外
サーマル法・ランプ法など、オイルファーネス法以外で製造されるカーボンブラックは04 カーボンブラックBMの対象外です。事務所、研究棟、別敷地の輸送拠点、製品物流倉庫などはベンチマーク対象外またはグランドファザリング扱いとなります。本ベンチマークのバウンダリ内で使用する他者や自社の他の工場等から供給された電気・熱の使用に伴う排出量は、間接排出として扱うため本BMには含めません。
排出枠割当と未償却相当負担金
排出枠の運用
カーボンブラック事業者の排出枠は、品種補正後の活動量と目指すべき原単位で割り当てられます。排出削減は反応炉の効率改善、テールガスの高度利用(発電への転換、CCUSへの回送)、代替原料の採用などが中心となります。排出枠は1t単位で無償で割り当てられ、市場取引で売買可能です。
負担金リスク
翌年度1月31日時点で排出枠が不足すれば不足分×参考上限取引価格×1.1を未償却相当負担金として納付します。原料油価格変動、製品需要変動、テールガス処分コストの変動が重なるため、排出枠ポジション管理と原料・製品・テールガスの計量精度向上を並行で進める必要があります。
移行計画と登録確認機関
移行計画の記載
カーボンブラック事業者の移行計画では、反応炉改良、テールガス発電の高度化、CCUS導入、水素混焼、バイオ原料油の採用などを投資計画に記載します。研究開発欄にはGX技術区分特許やグリーンイノベーション基金プロジェクトを記載します。
確認業務のポイント
登録確認機関は、品種別生産量(用途×窒素吸着比表面積の区分)の網羅性、品種補正係数の適用妥当性、副生燃料の自家消費量と外部供給量の切り分け、式04-2による控除計算の妥当性、原料油・製品・テールガスの計量精度、ASTM規格相当品判定の根拠(通常用途/特殊用途の区分根拠)を確認します。
実務フロー
- 事業者単位の年度平均排出量を確認し、制度対象判定を確定する。
- ERMSアカウントとGビズIDを準備し、法人等保有口座を開設する。
- 用途×窒素吸着比表面積による品種区分体制、反応炉別・テールガス経路別の計量体系を整備する。
- 登録確認機関と契約し、フロー図と品種別計量証憑、副生燃料の自家消費・外販量を共有する。
- 9月30日までに排出目標量等の届出と移行計画をERMSで提出する(2026年度初年度は基礎情報および年度平均排出量のみで足り、排出目標量等の届出と移行計画提出は2027年9月末まで猶予)。
- 11月末頃に排出枠の無償割当を受け、法人等保有口座で残高を確認する(2026年度初年度は2027年度に割当)。
- 翌年度4月から9月に排出実績量の算定と登録確認機関の確認を受け、9月30日までに報告する。
- 翌年度1月31日までに保有義務量分の排出枠を保有し、不足時は市場調達か負担金納付で対応する。
FAQ
サーマル法・ランプ法で製造する場合はどう算定しますか
04 カーボンブラック製造業BMの対象はオイルファーネス法に限定されているため、サーマル法やランプ法で製造する場合は本BMの算定対象外となり、グランドファザリング方式で排出目標量を算定します。同一工場内でオイルファーネス法と他の製法を併用している場合は、オイルファーネス法分のみを本BMで、その他をGFで算定し、バウンダリの切り分けを明確化します。
通常用途と特殊用途はどう区分しますか
通常用途はASTM規格(米・材料試験協会規格)相当品の該非によって判定し、ASTM規格相当品が通常用途となります。特殊用途は通常用途以外のすべてです。自社銘柄の品種対比表(通常用途と特殊用途別)を作成し、ロット別の窒素吸着比表面積測定結果と紐づけて証憑化します。
外販テールガスはどう計上しますか
カーボンブラックBMの目指すべき原単位は副生燃料全量自家消費前提で算定されているため、テールガスを自社の他工場や他者に外販した場合は、式04-2「副生燃料供給量×副生燃料の排出係数×(1−GF削減率×経過年数)」によって控除量を算定し、排出目標量から控除します。バウンダリ外に供給した副生燃料を使用して生成した電気・熱を二次エネルギーとして外販する場合も対象に含めます。販売先(使用側)では当該副生燃料を自社の排出として計上する整理になります。
排出係数2.1 tCO2/tと目指すべき原単位1.918の違いは何ですか
2.1 tCO2/tは排出量算定・報告マニュアル第Ⅱ部2.16表Ⅱ-22に規定される原材料起源CO2の算定用排出係数であり、排出実績量算定時にカーボンブラック生産量に乗じて使用します。一方、1.918(2026年度)は届出・排出目標量等算定マニュアル別冊04節に規定されるBMの目指すべき原単位であり、排出目標量算定時に基準活動量に乗じて使用します。実排出量算定(2.1適用)と排出目標量算定(1.918適用)は別概念であり、両者を混同しないことが重要です。
原料油の組成分析はどう扱いますか
FCCデカントオイル、クレオソート油、エチレンボトム油など、原料油ロットごとに炭素含有率、水素含有率、不純物を化学分析し、原材料起源CO2の算定根拠とします。ロットごとの分析結果を証憑として保存し、年間平均値の使用時は妥当性を示します。
フレアスタックでの燃焼はどう扱いますか
マニュアル04節(1)②によりフレアスタックは本BMのバウンダリ内に明示的に含まれるため、非定常時の燃焼塔フレアリングはバウンダリ内排出として計上します。フレア流量計、パイロット燃料、組成データを用いて排出量を算定し、運転日誌・非定常記録と連携させます。
まとめ
カーボンブラック製造業にとってGX-ETSは、2026年5月11日改訂で新設された「04 カーボンブラック製造業」のベンチマーク(製品BM、目指すべき原単位2026年度1.918→2030年度1.785 tCO2/t)の枠組みで、オイルファーネス法による反応炉のプロセスCO2と燃焼CO2、テールガスを一体的に把握する制度設計です。活動量算定では用途(通常/特殊)×窒素吸着比表面積による11区分の品種補正係数を適用し、目指すべき原単位が副生燃料全量自家消費前提で算定されていることから、テールガスを外販する場合は式04-2による控除量を計算します。GX-ETSはCO2直接排出のみを対象とし、CH4・N2O等の非CO2ガスは対象外です。品種別生産量管理、副生燃料の自家消費・外販の切り分け、ASTM規格相当品判定の根拠整備を登録確認機関の確認に耐える形で整え、排出枠市場の活用と未償却相当負担金リスクの管理、反応炉改良・テールガス高度利用・CCUS導入を移行計画で対外公表することが、この制度下での対応の骨格となります。
参考リンク
- 経済産業省 排出量取引制度のページ
- GX推進機構 排出量取引制度関連情報
- デジタル庁 GビズID
- GX推進法 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律
- ベンチマーク方式による排出目標量の算定方法マニュアル 別冊(04 カーボンブラック製造業)
- 排出量算定・報告マニュアル 第Ⅱ部 第2章 2.16 エチレン等の製造

