ISO 14068 オフセット頼みのカーボンニュートラル宣言は通用しない

カーボンニュートラルに関する国際規格として2023年11月に発行された「ISO 14068-1:2023」は、2026年9月11日に撤回され、同日、パート番号のない「ISO 14068:2026」(Climate change management — Carbon neutrality)として発行されました。今回の版で変わったのはタイトルと規格番号だけで、ISO 14068-1に準拠して取り組みを進めてきた企業は、規格名の表記を更新したうえで、従来の取り組みを継続できます。

本記事では第三者保証を提供する株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ(SSP)が、ISO 14068の最新動向を整理します。規格が「Part 1」から単独規格へと変更された背景、主要な要求事項、そして日本企業のサステナビリティ担当者が実務上留意すべき点について、専門的な観点から解説します。

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目次

ISO 14068:2026 要約

ISO 14068:2026は、組織や製品がカーボンニュートラルを達成し、その主張を実証するための原則、要求事項、及び指針を定めた国際規格です。この規格は、GHG排出量の削減を最優先とし、残余排出量を高品質なカーボンクレジットで相殺するという階層的アプローチを要求します。2026年版ではISO 14068-1:2023からタイトルの更新とパート番号の削除が行われましたが、信頼性の高いカーボンニュートラル宣言の枠組みを提供するという核心的な目的は維持されています。

発行に至る経緯とステータスの変遷

カーボンニュートラルを実証するための基準は、これまでも存在しましたが、国際的に統一された規格が求められていました。ISO 14068は、英国規格協会(BSI)が策定したPAS 2060を基礎として開発が始まり、国際規格として発行されました。その後、2023年11月の発行から約2年10か月後の2026年9月に、タイトルとパート番号だけを変更した版が発行されました。これまでの主な流れは次の通りです。

時期ステータス概要
2010年PAS 2060 初版発行英国規格協会(BSI)がカーボンニュートラル実証のための仕様書として発行。
2023年11月ISO 14068-1:2023 発行PAS 2060を置き換える初の国際規格として発行される。
2025年PAS 2060の移行期間終了BSIはISO 14068-1の発行から2年間を移行期間とし、その終了をもってPAS 2060を廃止。
2026年9月11日ISO 14068-1:2023 撤回国際標準化機構(ISO)が同規格を撤回。
2026年9月11日ISO 14068:2026 発行タイトルとパート番号だけを変更した版として発行され、ISO 14068-1:2023を置き換えた。

Part 1から単独規格への変更の意味

当初「ISO 14068-1」として発行された規格が、パート番号のない「ISO 14068」へと変更された背景には、規格体系の位置づけに関する見直しがあったと考えられます。一般に、規格名に「Part 1」が付与される場合、将来的に関連規格(Part 2、Part 3など)が発行されることを想定しています。今回の変更は、カーボンニュートラルに関する中核的な要求事項をこの単独の規格に集約する意図を示唆している可能性があります。

ISOの規格ページによると、今回の版で変わったのはタイトルと規格番号のみで、それ以外の内容は2023年版と同じとされています。旧タイトル「Climate change management — Transition to net zero — Part 1: Carbon neutrality」から「Transition to net zero」とパート番号が削除され、「Climate change management — Carbon neutrality」となりました。実務上の主な対応は、社内文書や検証の基準に記載している規格名と番号をISO 14068:2026に更新することです。

ISO 14068が定める主要な要求事項

ISO 14068の要求事項は、信頼性の高いカーボンニュートラルを達成するための具体的なステップを定めています。2026年版で変わったのはタイトルと規格番号だけのため、以下の要求事項はISO 14068:2026でもそのまま維持されています。

階層的アプローチの重視

ISO 14068は、カーボンニュートラル達成に向けた明確な優先順位を定めています。最も優先されるのは、バリューチェーン内での直接的・間接的なGHG排出量の削減です。安易にオフセットに頼るのではなく、まず削減努力を最大限に行うことが求められます。オフセットは、カーボンニュートラル管理計画に沿って削減を進めたうえで、なお残る排出量を相殺するために用いるものと位置づけられています。

GHG排出量の算定と境界設定

カーボンニュートラルを主張するためには、その対象となる組織や製品のカーボンフットプリントを正確に算定することが不可欠です。算定にあたっては、組織の場合はISO 14064-1、製品の場合はISO 14067に基づくことが基本とされ、他の基準を用いる場合はこれらとの整合性を説明する必要があります。これにより、算定の網羅性、一貫性、透明性が担保され、信頼性の高いカーボンニュートラル宣言の基礎となります。

カーボンニュートラル管理計画

規格は、カーボンニュートラルを達成し、維持するための文書化された計画の策定を要求しています。この計画には、GHG排出量の削減目標、具体的な削減策、達成までのタイムライン、そして残余排出量をオフセットするための戦略などを盛り込む必要があります。計画は定期的に見直され、進捗状況を監視することが求められます。

カーボンクレジットの品質要件

残余排出量のオフセットに用いるカーボンクレジットには、厳格な品質要件が課せられます。クレジットは、追加性、永続性、二重計上の防止といった基準を満たし、信頼できる登録簿で管理されているものでなければなりません。また、ISO 14068は、クレジットが「排出削減・回避」由来か「炭素除去」由来かを区別して扱っています。

情報の報告と第三者検証

ISO 14068に基づくカーボンニュートラルの主張は、透明性の高い情報開示を伴います。算定したGHG排出量、削減計画、使用したクレジットの詳細などをまとめた報告書を作成し、公開することが求められます。主張の信頼性を客観的に担保する方法としては、ISO 14064-3等に基づき、独立した第三者機関による検証を受けることが有効です。

日本企業への影響と実務上の注意点

ISO 14068の登場は、日本企業のカーボンニュートラルへの取り組みに大きな影響を与えます。これまで独自の基準でカーボンニュートラルを宣言してきた企業は、その主張が国際的な基準と整合しているかを見直す必要に迫られます。特に、排出削減努力が不十分なままオフセットに大きく依存しているケースは、グリーンウォッシュとの批判を受けるリスクが高まります。

サステナビリティ担当者は、自社の取り組みがISO 14068の要求する階層的アプローチに沿っているかを確認し、必要に応じて戦略を修正することが重要です。また、サプライヤーに対してカーボンニュートラルを要求する際には、ISO 14068への準拠を求めることで、サプライチェーン全体での信頼性の高い脱炭素化を推進することができます。

企業の担当者が次に取るべき行動

ISO 14068:2026の発行を受けて、企業のサステナビリティ担当者は計画的に準備を進めることが望まれます。具体的なアクションプランとして、以下のステップが考えられます。

ステップ主な活動内容
1. 規格内容の理解ISO 14068の要求事項、特に階層的アプローチやクレジットの品質要件について正確に理解する。
2. 現状とのギャップ分析自社の現在のカーボンニュートラルに関する方針、算定方法、削減努力、オフセット戦略と規格要求事項との差異を洗い出す。
3. 管理計画の策定・見直しギャップ分析の結果に基づき、規格に準拠した「カーボンニュートラル管理計画」を策定または見直し、具体的な削減目標と行動計画を定める。
4. 第三者機関への相談検証機関などの専門家に相談し、規格への準拠に向けたロードマップの妥当性や、検証の準備について助言を得る。

よくある質問(FAQ)

ISO 14068は認証を取得するものですか?

ISO 14068は、マネジメントシステム規格のような「認証」を前提としたものではなく、「検証」を受けるための基準です。企業は規格の要求事項を満たしていることを第三者検証機関によって検証してもらい、「検証意見書」を取得することで、その主張の信頼性を対外的に示すことができます。

既存のカーボンニュートラル宣言はどうなりますか?

ISO 14068は国際的なベンチマークとなるため、既存の宣言がこの規格の要求事項、特に排出削減の優先という原則を満たしているかを確認することが推奨されます。満たしていない場合、グリーンウォッシュと見なされるリスクを避けるため、宣言内容や根拠の見直しが必要になる可能性があります。

規格発行後、すぐに遵守する必要がありますか?

ISO規格への準拠は基本的に任意です。しかし、カーボンニュートラル宣言の信頼性に対する社会的な要求が高まる中、この国際規格は事実上の標準(デファクトスタンダード)となる可能性が高いです。取引先や投資家から準拠を求められるケースも増えることが予想されます。

中小企業でも取り組むべきですか?

サプライチェーン全体での脱炭素化が求められる中、中小企業も無関係ではありません。大企業である取引先から、ISO 14064-1等に基づくGHG排出量の算定や削減努力、さらにはISO 14068に沿ったカーボンニュートラル宣言の根拠を求められる可能性があります。早期に着手することで、競争優位性の確保につながることも期待できます。

ISO 14068:2026 まとめ

ISO 14068は、カーボンニュートラルを巡る議論に国際的な共通言語を提供する重要な規格です。2026年版への改訂は表記の整理が中心で、2023年版の要求事項はそのまま引き継がれています。企業は、この規格をグリーンウォッシュを回避し、信頼性の高い気候変動対策を推進するための羅針盤として活用することが求められます。

企業のサステナビリティ担当者には、社内文書や検証の基準でISO 14068-1:2023を参照している箇所をISO 14068:2026に更新したうえで、階層的アプローチやクレジットの品質要件への適合状況を確認していくことが期待されます。この変化を、自社のサステナビリティ経営を深化させる好機と捉え、計画的に対応を進めることが重要です。

参考リンク

International Organization for Standardization https://www.iso.org/standard/14068

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この記事を書いた人

SSP編集部は、非財務情報の第三者保証を専門とする株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズの実務者チームです。公認会計士やISO審査・サステナビリティ開示の実務経験を持つ専門職員で構成され、ISO 14064-3・ISAE 3000・ISSA 5000等の国際基準に基づくGHG排出量(Scope1・2・3)の検証・保証や、GX-ETS(排出量取引制度)の登録確認機関としての確認業務に従事しています。SSBJ・CDP・SBTなど最新の制度動向を一次情報にあたって追い、算定・開示の現場実務に即した、正確でわかりやすい解説をお届けします。

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