排出量取引制度(ETS)は、温室効果ガス(GHG)排出削減のための市場メカニズムの一つであり、世界中で導入が進んでいます。日本でもGXリーグが中心となり、2023年度より試行的にETSを導入し、2026年度から本格運用を開始します。本記事では、ETSの基本概念、世界の動向、日本国内の取り組みであるGXリーグの役割、第一フェーズの成果と課題、今後の展望、そして第三者保証の重要性について解説します。

1. 排出量取引制度(ETS)とは?
排出量取引制度(ETS: Emissions Trading System)とは、政府が温室効果ガス(GHG)の総排出量に上限を設定し、その範囲内で企業が排出枠を売買できる仕組みです。ETSには大きく分けて二種類があります。
2つの排出量取引制度
キャップ・アンド・トレード方式
政府が企業に排出枠を割り当て、余剰枠を取引できる仕組み。
ベースライン・アンド・クレジット方式
各企業が基準値(ベースライン)を設定し、それを超えて削減した場合にクレジットを獲得し取引できる。
世界の排出量取引市場
ETSは欧州を中心に導入が進んでおり、EU-ETS、韓国ETS、中国ETS、アメリカの地域プログラム(RGGI、カリフォルニア州ETS)などが代表例です。日本のGXリーグは、これらの制度も考慮され、日本の枠組みとして構築されています。
排出量取引制度についてより詳細な情報は下記記事をご利用ください

2. GXリーグとは?日本ETSの枠組み
ここからは排出量取引制度を理解する上で必要なGXリーグについて取り上げます。
GXリーグの概要
GXリーグとは、GX(グリーントランスフォーメーション)に取り組む企業群が一体となり、経済社会を変革するために議論したり市場を創造したりする場を指します。GXリーグの目的は以下の3点です。
・排出削減を促進するための市場創出
・企業間の排出削減努力の公平性を確保
・国際的なカーボン市場と接続するための基盤整備
GXリーグの参加企業は、自主的な排出削減目標を設定し、排出枠を取引しながら削減を進めていきます。
GXリーグの特徴
・企業の自主参加型の制度
・段階的な制度運用(試行フェーズと義務化フェーズ)
・国内外の市場と連携し、柔軟な取引を可能にする仕組み
GXリーグについてより詳細な情報は下記記事をご利用ください

3. GXリーグ第1フェーズ(試行期間)の成果と課題
現在実施されている第1フェーズですが、排出量取引制度としては現状、試行期間となっています。
本期間での取組みについて下記に解説していきます。
試行期間(2023〜2025年度)の概要
GXリーグは、2023年度から2025年度までの間、第一フェーズとして試験的な排出量取引を実施しています。この期間では、企業が自主的に排出削減目標を設定し、削減努力の成果を報告します。
第1フェーズでの成果
・企業が自主的に削減目標を設定し、報告する体制を確立
・排出枠の取引や価格メカニズムが検証された
・各社の削減努力の差異が明確になった
第1フェーズの課題
・十分な取引量が確保されなかった
・排出削減データの信頼性に課題
第1フェーズについてより詳細な情報は下記記事をご利用ください

4. GXリーグ第2フェーズ(義務化)の展望
上記第2フェーズでは本格的に割当申請や排出量取引がスタートします。
現時点では確定していない部分はありますが、本期間での取組みについて下記に解説していきます。
2026年度からの義務化フェーズ
2026年度からGXリーグの第2フェーズが開始され、10万トンCO₂以上を排出する企業は排出量取引への参加が義務化されます。この段階では、政府が定めた排出枠を企業に割り当て、企業はそれに基づいて排出量を管理する必要があります。
排出量取引市場の本格運用
・割当申請が導入される
・排出枠の価格安定化措置が導入される
・排出量の未履行企業にはペナルティが課される
・取引市場の透明性が向上し、価格形成がよりスムーズになる
第2フェーズについてより詳細な情報は下記記事をご利用ください

5. 排出量取引制度と第三者保証の重要性
排出量取引制度において重要な論点として第三者保証が挙げられます。
主にSHK法で対応しているGHG算定方法を参考にするイメージとなります。
第三者保証の役割
GXリーグのETSでは、排出量データの透明性と信頼性を確保するため、第三者保証が義務化されます。
現在は限定的保証と合理的保証の2つが検討されており、これらは算定対象ごとに選択される予定です。
SHK制度(省エネ法・温対法)との連携
SHK制度(省エネ法・温対法)は、企業のエネルギー使用量と排出量の管理を目的とした法律であり、GXリーグのETSと密接に関連しています。これらの制度と連携することで、企業の排出データ管理の一貫性が確保され、報告の精度が向上します。
排出量取引制度と第三者保証の重要性についてより詳細な情報は下記記事をご利用ください

6. まとめ
日本の排出量取引制度は、2026年度から義務化フェーズへと進みます。第1フェーズでは企業が自主的に排出削減目標を設定し、報告を行う仕組みが整備されましたが、排出枠の取引は一度も行われませんでした。
市場メカニズムを活用した脱炭素化を推進するこの制度は、経済的なインセンティブを提供する一方で、取引市場の活性化や価格の安定性、企業間の公平性確保などの課題も抱えています。今後、国際市場との連携やカーボンクレジット制度との統合を進めることで、企業がより柔軟に排出量管理を行える環境の整備が求められます。
企業にとっては、制度への対応を義務として捉えるだけでなく、長期的な脱炭素戦略の一環として活用することが重要です。特に、第三者保証の導入による信頼性向上が不可欠となり、政府と企業が連携し、透明性の高い市場を構築していくことが重要です。
今後、日本の排出量取引市場がどのように発展し、企業活動にどのような影響を与えるのか、引き続き注目されていくでしょう。

