【排出量取引】ETSとは?仕組みと世界の動向について解説

排出量取引(Emissions Trading System: ETS)は、温室効果ガス(GHG)の排出を抑制するための市場ベースの仕組みです。企業や団体が設定された排出上限(キャップ)の範囲内で排出量を削減する義務を負い、余剰枠や不足分を取引することで、効率的に削減目標を達成することを目指します。ETSは、経済的インセンティブを活用することで、環境保護と経済成長を両立する手段として注目されています。


目次

1. 排出量取引制度の基本仕組み

引用:キャップ・アンド・トレード方式による 国内排出量取引制度について

キャップ&トレード方式

キャップ&トレード(Cap-and-Trade)方式は、排出量取引制度の主要なモデルです。この方式では、以下のプロセスが採用されています。

排出上限(キャップ)の設定
政府や規制当局が対象となる産業やセクターごとに年間排出量の上限を設定します。
このキャップは、時間の経過とともに削減される設計となっています。

排出枠の配分について

無償配分
過去の排出実績やベンチマークに基づき、企業に無償で配分される

オークション
一部または全ての排出枠を競売形式で販売

排出量のモニタリングと報告
企業は自らの排出量をモニタリングし、規制当局に報告する義務があります

排出枠の取引
企業間で余剰となった排出枠を取引することで、効率的な削減が可能となります。

ETSのメリット

ETSは、以下の点で効果的とされています

経済効率
削減コストが低い企業がより多くの削減を行い、高コストの企業は排出枠を購入することで全体のコストを最小化。

削減目標の達成
キャップの設定により、目標とする排出量削減を確実に達成。

イノベーションの促進
排出削減のための新技術や手法の開発を誘発。

罰金制度の役割

ETSには、規定を遵守しない企業に対して罰金が課される仕組みが存在します。
この罰金制度は、規制の実効性を高める重要な要素です。
例えば、以下のようなケースが想定されます。

EU ETS
1トンの超過排出に対して100ユーロ以上の罰金が課されます。

韓国 ETS
罰金額は最大1トンあたり100,000ウォン(約80米ドル)となっています。

カリフォルニア ETS
排出量報告の不履行に対しても厳しい罰金が設定されています。

このように、罰金制度があることで、企業が排出量を適切に管理するインセンティブが働きます。

2. 世界の主要な排出量取引制度(ETS)の比較

引用:JETRO 世界をリードするEUのカーボン・プライシング(1)

EU ETS

EU ETSは、世界で初めて導入された大規模な排出量取引制度で、現在も最も規模が大きい制度です。

開始年:2005年
対象:発電、製鉄、セメント、化学品製造、域内航空など。

主な特徴
炭素国境調整措置(CBAM)との統合。
無償配分とオークションの組み合わせ。
排出枠の段階的削減

罰金:1トンの超過排出に対し、100ユーロ以上の罰金。

韓国 ETS

韓国ETSは、アジアで初めて導入された全国的な排出量取引制度です。

開始年:2015年
対象: 発電、製造業、建築、輸送、廃棄物など。

主な特徴
ベンチマーク方式を採用。
一定の条件下でオフセットクレジットの使用が可能。

罰金:最大1トンあたり100,000ウォン(約80米ドル)。

中国 ETS

中国ETSは、現在発電部門を対象としており、世界最大の排出量取引制度です。

開始年:2021年
対象:発電部門(今後産業部門へ拡大予定)。

主な特徴
カバーする排出量が世界最大。
政府が価格安定性を保証。

罰金:未公開だが、厳しい行政指導が行われる。

カリフォルニア(米国) ETS

カリフォルニア州のETSは、北米における代表的な排出量取引制度です。

開始年:2012年
対象:発電、石油精製、燃料供給業者など。

主な特徴
ケベック州(カナダ)と連携。
価格上限・下限を設定し価格安定性を確保。

罰金: 報告不履行や超過排出に対し1トンあたり罰金が課される。

3. 排出量取引制度(ETS)と日本GXリーグの違い

ここでは排出量取引制度と日本GXリーグの違いついて解説していきます。

自主参加型と義務型の違い

GXリーグ2025年時点では自主参加型であり、企業が自主的に目標を設定するのに対し、他国のETSは義務的で、企業に対して排出枠の購入や報告が義務付けられています。

市場規模と対象範囲

GXリーグ
主に国内市場を対象とし、排出量10万トンCO2以上の企業が主な参加者。

ETS
国や地域全体を対象に広範な産業をカバー。
国際的な取引連携を視野に入れる。

排出枠の配分方式

GXリーグでは、2023~2025年の試行期間中は自主的な削減目標の達成に焦点を当てている一方、ETSではキャップ&トレード方式による厳格な管理が行われています。

4. 排出量取引制度(ETS)の課題と将来展望

引用:GX実現に向けたカーボンプライシング専門ワーキンググループ 
   排出量取引制度(ETS)における価格安定化機能

課題

価格の安定性
排出枠の供給過剰や需要不足により価格が不安定になる可能性。

国際的な調整
各国のETS間の連携や整合性の確保。

対象範囲の拡大
一部のETSでは、カバー範囲が限定的であるため、さらなる拡大が求められる。

将来展望

国際連携の強化
EU ETSやカリフォルニアETSのように、地域間での連携が進む可能性。

炭素価格の引き上げ
排出削減のインセンティブを強化するため、炭素価格が引き上げられる可能性。

新技術の導入
排出削減のコストを削減するための新技術が普及。

排出量取引制度のまとめ


排出量取引(ETS)は、地球規模での温室効果ガス削減に向けた効果的な仕組みとして、世界中で採用されています。その仕組みは、経済的インセンティブを活用し、企業間で効率的な削減を実現することを可能にします。日本のGXリーグとの比較においても、制度設計や運用方法の違いが浮き彫りになりますが、いずれも共通の目標である脱炭素社会の実現に向けて重要な役割を果たしています。

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この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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