CBAM検証と認定のガイダンス 合理的保証と重要性5パーセントと現地往査

欧州委員会は2026年8月24日にCBAMの検証と認定に関するガイダンスを公表しました。本記事では検証を受ける事業者と検証機関の双方の視点からこのガイダンスの要点を整理します。CBAMが求める保証水準と重要性の基準値と現地往査の要否から検証機関の認定要件までSSPの実務知見に基づき解説します。

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目次

CBAM検証 要約

CBAMの検証で求められる保証水準は合理的保証です。CBAM規則の附属書VIが規定しておりガイダンスは限定的保証ではCBAMの要件を満たすには不十分であると明記しています。

重要性の基準値はCNコードで特定される品目ごとに単位内包排出量の5パーセントと単位内包無償割当の5パーセントです。それ以外のパラメータについては検証人の専門的判断によります。

現地往査は原則として物理的な訪問が必要です。一定の条件下でバーチャル往査が認められ極めて小規模かつ単純な施設については往査の免除が認められる場合があります。

検証機関側にはリードオーディターのローテーションが課されます。同一施設について5年連続で検証を担当した場合は3年間の休止が必要です。

CBAM検証 背景

CBAMの本格適用期では輸入者が実際の検証済み排出量データまたはデフォルト値に基づく年次申告を行います。実際の排出量を用いる場合の検証はEU加盟国の各国認定機関から認定を受けた独立した検証人が実施します。

移行期には検証の義務がありませんでした。本格適用期では実データを使う限り検証が前提となるため検証の実務要件を示す文書が必要になりました。

2026年8月24日に公表されたガイダンスは全141ページで検証人と各国認定機関を対象としています。法的拘束力を持たない解説文書でありEU法の規定が優先します。

CBAM検証 定義

CBAM検証とは域外の生産施設の事業者が作成した排出報告書について独立した第三者が正確性と算定基準への準拠を確認する業務です。

認定とは検証人がその業務を行う能力を有することを各国認定機関が公的に確認する手続です。認定を受けるには対象産業分野における技術的能力と独立性および公正性と一貫性のある信頼できる検証アプローチの適用を実証する必要があります。

各国認定機関とはEU加盟国に設置された認定機関です。CBAM検証人の認定と年間を通じた監視を担います。EU加盟国に設立された検証会社は当該国の認定機関から認定を受けます。

CBAM検証 基礎

保証水準が合理的保証である意味

保証業務における保証水準には合理的保証と限定的保証の2種類があります。合理的保証とは対象がすべての重要な点において要求される規準に適合しているという高いが絶対的ではない水準の保証です。限定的保証とは対象が状況に照らして妥当であるという中程度の水準の保証です。

CBAM規則の附属書VIはCBAM検証の保証水準を合理的保証と定めています。ガイダンスは限定的保証ではCBAMの要件を満たすには不十分であると明記しています。

保証水準の違いは検証活動の性質と時期と深度に影響します。合理的保証では検証人は事業者が構築したデータフローと統制活動を確認し虚偽表示のリスクを評価します。限定的保証では統制活動のテストを必ずしも伴いません。

結論の表明方法も異なります。合理的保証の結論は積極的形式で表明され限定的保証の結論は二重否定の形式で表明されます。

重要性の基準値

重要性の基準値は検証人が虚偽表示を単独でまたは合計して重要とみなす閾値です。CBAMでは次のとおり定められています。

  • 単位内包排出量の検証について CNコードで特定される品目ごとに品目1トンあたりの単位内包排出量の合計の5パーセント
  • 単位内包無償割当の検証について 品目ごとに品目1トンあたりの単位内包無償割当の合計の5パーセント
  • その他のパラメータについて 検証人が専門的判断により重要性を評価する

数量的な閾値を下回る場合でも質的な観点から重要と判断される場合には重要な虚偽表示として扱われます。

検証のスケジュール

CBAMには検証報告書の提出期限そのものは定められていません。ただし実務上の時間軸は次の3点で決まります。

  • 事業者の報告期間は1月1日から12月31日までの暦年である。完全なデータが揃うのは翌年1月以降であるため検証の最終工程は翌年に入ってからになる
  • 認定CBAM申告者は毎年9月30日までに年次のCBAM申告を提出する。申告の取りまとめと証書の購入に必要な時間を考えると検証報告書は遅くとも8月中旬までに受領したい
  • 複合財を生産する施設は前駆物質を生産する施設の検証報告書を自社の排出報告書の作成に間に合う時期に受け取る必要がある

CBAM検証 結論

CBAM検証で企業が最も注意すべきポイントは以下の3点です。

  • 求められる保証水準が合理的保証であること。CSRDのサステナビリティ報告やGX-ETSが限定的保証であるのとは水準が異なり内部統制の評価まで踏み込まれる
  • 現地往査が原則として必要であること。書面のやり取りだけで完結する想定は成り立たない
  • 前駆物質の連鎖により検証のスケジュールが上流から積み上がること。自社の検証だけでなく調達先の検証時期も影響する

SSPはISO 14064-3に基づくGHG第三者検証とGX-ETSの検証を手がけており合理的保証水準の検証で問われる内部統制の評価についても実務知見を有しています。

CBAM検証 論点

CBAM検証に関する主要な論点を以下の表に整理します。

論点実務での重要度判断のポイントよくある誤解SSPの推奨スタンス
保証水準CBAM規則の附属書VIが合理的保証を要求する。限定的保証では不十分他制度と同じく限定的保証で足りる内部統制の文書化とデータフローの可視化を早期に進める
重要性の基準値単位内包排出量と単位内包無償割当のそれぞれ5パーセント施設全体の排出量に対する5パーセント品目単位で誤差がどこまで許容されるかを把握し計測精度を設計する
現地往査物理的往査が原則。条件付きでバーチャル可。極小かつ単純な施設は免除の余地リモートで完結できる往査の受入れ体制と現場の記録原本の所在を事前に整理する
リードオーディターのローテーション同一施設5年連続で3年間の休止が必要同じ担当者に継続して依頼できる長期の検証計画を検証機関と共有し交代時期を見込んでおく
前駆物質データの検証他の検証人の検証報告書に依拠する場合の確認手続が定められている供給者の数値をそのまま使える調達先の検証時期と対象期間を自社の検証スケジュールに織り込む
検証報告書の受領時期申告期限9月30日から逆算し8月中旬までの受領が望ましい年度末までに受ければよい上流の前駆物質の検証から逆算した年間スケジュールを組む
EU ETS検証機関の活用EU ETS認定を持つ検証機関はスコープ拡張として扱われるCBAM専用に新規認定が必要既存認定を持つ機関かどうかを検証機関の選定条件に含める

CBAM検証 比較

CBAM検証と他の主要な保証制度の違いを整理します。

比較項目CBAM検証GX-ETS 第2フェーズCSRD サステナビリティ報告
保証水準合理的保証2026年度から2028年度は限定的保証。2029年度以降は段階的に合理的保証へ移行する計画限定的保証
結論の表明形式積極的形式限定的保証の期間は消極的形式消極的形式
重要性の基準値単位内包排出量と単位内包無償割当のそれぞれ5パーセント制度の定めに従う基準に基づく専門的判断
現地往査原則として物理的往査が必要実施される対象範囲により異なる
検証人の資格EU加盟国の各国認定機関による認定経済産業大臣による登録確認機関の登録法定監査人または独立保証業務提供者
対象域外生産施設の排出報告書対象事業者の直接排出量と排出枠の割当量サステナビリティ報告全般

CBAM検証 重要点

現地往査の要否

CBAM規則の附属書VIと関連する委任法令は検証プロセスの適切な時期に施設への現地往査を行うことを検証人に求めています。往査では施設と生産プロセスの境界とソースストリームと排出源と技術的接続の網羅性を評価します。

往査は計測機器とモニタリングシステムの運用状況の確認とインタビューの実施と証拠の収集のために必要とされています。固定施設については施設の所在地そのものが往査の対象です。モニタリング計画と施設の物理的な実態を実際に照合しなければ合理的保証は得られないという整理です。

システム境界から除外される工程のみを行う施設であっても実際の排出量の値を提供したい場合には検証義務が適用され往査の要件も同様に適用されます。

例外として一定の条件下ではバーチャル往査が認められます。バーチャル往査は原則としてビデオ会議に書面や電子的な連絡を組み合わせたものです。また極めて小規模かつ単純な施設については往査の免除が認められる場合があります。

検証機関の要件

検証機関には継続的な能力管理が求められます。能力の枠組みの設定と能力および実績の評価と監視と個別の検証業務に対する能力の評価が要素です。

公正性と独立性の確保も要件です。同一施設の検証を複数年にわたり担当すると馴れ合いリスクや自己レビューリスクや不当な圧力のリスクが生じます。

その対策としてリードオーディターのローテーションが義務づけられています。同一施設について5年連続で検証を担当した場合は3年間その施設への検証業務の提供を休止する必要があります。2027年に2026年の排出報告書の検証から起算する場合は2030年の排出報告書の検証が5年目となり2031年の排出報告書の検証は別のリードオーディターが担当します。休止したリードオーディターは3年の休止後すなわち2034年の排出報告書の検証から復帰できます。

認定の手続とEU ETS検証機関の扱い

認定はEU加盟国の各国認定機関が行います。ISO 17029またはISO 14065の適用について実証された能力の証拠がある場合は認定手続を簡素化できます。既存の認定はEU域内の認定機関によるものでも第三国の認定機関によるものでも考慮されます。

EU ETS向けに実施規則に基づく認定を受けている検証機関については特別な規定があります。CBAMのために全く新しい認定を申請する必要はなく既存のISO 17029およびISO 14065に基づく認定のスコープ拡張として扱われます。EU ETSの活動グループとCBAMの活動グループの対応表がガイダンスに示されています。

財としての電力の検証と間接排出の検証については個別の認定スコープが設けられています。認定後は各国認定機関によるサーベイランスと再評価と必要に応じた臨時評価が行われます。

前駆物質データの検証

複合財を生産する施設の検証では前駆物質のデータを他の検証人の報告書に依拠して確認する場面が生じます。ガイダンスにはその際の確認手続が定められています。

域外の前駆物質について実データを用いる場合は認定検証人が発行した検証報告書から取得したデータであることとその報告書が当該前駆物質の生産期間を対象としていることが求められます。自社の検証スケジュールを組む際には調達先の検証完了時期を織り込む必要があります。

CBAM検証 手順

CBAM検証に備えて事業者が取るべき準備ステップを以下に整理します。

  • 検証機関を選定する。EU加盟国の各国認定機関から認定を受けた検証人であることを確認します。EU ETSの認定を持つ機関はスコープ拡張により対応できる場合があります。
  • モニタリング計画を英語で整備する。検証人はモニタリング計画の妥当性を評価します。附属書のテンプレートに沿って算定方法とデータソースと管理手順を記載します。
  • データフローと統制活動を文書化する。合理的保証では統制活動のテストが行われます。データの入力から集計までの流れと承認手続とチェックの仕組みを文書に落とします。
  • 証憑の保管体制を整える。活動量データの原本と計測記録と校正記録を6年間保管できる体制を作ります。現地往査で原本を提示できる状態にします。
  • 現地往査を受け入れる準備をする。施設の境界と排出源と技術的接続を説明できる資料を用意し計測機器の設置状況と読み取り方法を確認できるようにします。
  • 前駆物質の調達先に検証状況を照会する。実データを用いる前駆物質について調達先が認定検証人の検証を受けているかと対象期間が一致するかを確認します。
  • 年間スケジュールを逆算で組む。認定CBAM申告者への検証報告書の提供を8月中旬に置き前駆物質の検証完了時期から逆算して自社の検証時期を決めます。

CBAM検証 FAQ

Q1 CBAMの検証は限定的保証では足りないのですか

足りません。CBAM規則の附属書VIが合理的保証を要求しておりガイダンスは限定的保証ではCBAMの要件を満たすには不十分であると明記しています。合理的保証ではデータフローと統制活動の確認が行われ結論は積極的形式で表明されます。

Q2 重要性の5パーセントは何に対する5パーセントですか

CNコードで特定される品目ごとの単位内包排出量の合計に対する5パーセントと単位内包無償割当の合計に対する5パーセントです。施設全体の排出量に対する割合ではありません。実務上の簡素化として同一の生産プロセスから生じるすべての品目について同じ重要性の基準値を用いることが認められています。

Q3 現地往査は必ず必要ですか

原則として必要です。固定施設についてはモニタリング計画と施設の物理的な実態を照合しなければ合理的保証は得られないという整理です。一定の条件下でバーチャル往査が認められ極めて小規模かつ単純な施設については免除の余地があります。

Q4 同じ検証機関に継続して依頼できますか

検証機関そのものを継続して使うことはできます。ただしリードオーディターについては同一施設で5年連続の担当後に3年間の休止が義務づけられています。長期の検証計画を検証機関と共有し交代時期を見込んでおくことが実務上は有効です。

Q5 EU ETSの検証機関はCBAMの検証もできますか

EU ETS向けに実施規則に基づく認定を受けている検証機関はCBAMのために全く新しい認定を申請する必要はありません。既存の認定のスコープ拡張として扱われます。EU ETSの活動グループとCBAMの活動グループの対応表がガイダンスに示されています。

Q6 検証報告書はいつまでに受け取ればよいですか

CBAMには検証報告書の提出期限そのものは定められていません。ただし認定CBAM申告者の申告期限が9月30日でありその前に証書を購入する必要があることから遅くとも8月中旬までに受領することが望ましいとされています。

Q7 検証で指摘を受けた場合はどうなりますか

検証の過程で虚偽表示や不適合が発見された場合は事業者に修正が求められます。重要性の基準を超える虚偽表示が解消されない場合は検証人が肯定的な結論を出せないことになります。実データを用いた申告ができなくなるためデフォルト値によることになります。

CBAM検証 まとめ

CBAMの検証は合理的保証水準で行われます。CSRDのサステナビリティ報告やGX-ETSの現行水準が限定的保証であるのとは異なり内部統制の評価まで踏み込まれる点が最大の違いです。

重要性の基準値は品目ごとの単位内包排出量と単位内包無償割当のそれぞれ5パーセントです。現地往査は原則として物理的な訪問が必要でありリモートで完結する想定は成り立ちません。

企業が今取るべきアクションはデータフローと統制活動の文書化と証憑の保管体制の整備と前駆物質の調達先への検証状況の照会です。検証報告書は申告期限から逆算して8月中旬までに受領する必要があり前駆物質の検証時期から積み上げた年間スケジュールが求められます。

SSPはGHG第三者検証の実務を通じて合理的保証水準で問われる内部統制の評価に関する知見を蓄積しています。検証準備の進め方についてお気軽にご相談ください。

CBAM検証 次のステップ

参考リンク

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この記事を書いた人

SSP編集部は、非財務情報の第三者保証を専門とする株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズの実務者チームです。公認会計士やISO審査・サステナビリティ開示の実務経験を持つ専門職員で構成され、ISO 14064-3・ISAE 3000・ISSA 5000等の国際基準に基づくGHG排出量(Scope1・2・3)の検証・保証や、GX-ETS(排出量取引制度)の登録確認機関としての確認業務に従事しています。SSBJ・CDP・SBTなど最新の制度動向を一次情報にあたって追い、算定・開示の現場実務に即した、正確でわかりやすい解説をお届けします。

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