ESRS-40aでSSBJ開示は使えるか 参照による組込みの条件

EFRAG(欧州財務報告諮問グループ)は2026年7月23日、EU域外企業向けのサステナビリティ報告基準「ESRS-40a」の公開草案を公表し、10月31日まで意見を募集しています。EU域内で一定の売上高がある日本企業グループは、2028年1月1日以後に始まる事業年度から、この基準に沿った報告の対象になります。

日本企業にとっての焦点は、SSBJ基準で作成した開示をESRS-40aの報告にどこまで使えるかです。公開草案は、他の基準で作成した開示を「参照による組込み」で取り込む仕組みを設けていますが、そのための条件も定めています。本記事では、第三者保証を提供する株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ(SSP)が、ESRS-40aの対象と中身、SSBJ開示を参照して使うための条件を整理します。

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目次

ESRS-40a 要約

ESRS-40aは、会計指令第40a条の対象となるEU域外企業グループのために、EFRAGが2026年7月23日に公開草案を公表した報告基準です。開示はサステナビリティに関する影響に限られ、IFRS S1・S2を基礎とする各国基準の開示を、5つの条件を満たせば参照によって組み込めます。日本企業では、翻訳と保証の水準が主な論点になります。

ESRS-40aとは何か

ESRS-40aは、通常のESRSとは別に、EU域外の企業グループのために作られる報告基準です。根拠となる条文と、基準が確定するまでの手続きを確認します。

会計指令第40a条に基づく域外企業向けの基準

ESRS-40aの正式名称は、会計指令第40a条に基づく特定のEU域外企業向けのESRSです。CSRD(企業サステナビリティ報告指令)は会計指令(Directive 2013/34/EU)を改正し、EU域外の企業グループにもサステナビリティ報告を求める第40a条を設けました。同条の報告で用いる基準は欧州委員会が委任法令で定めることとされ、その原案を作成しているのがEFRAGです。

報告の既定の基準はESRS-40aですが、企業はESRS全体、または欧州委員会が同等と認めた基準で報告することも選べます。日本の基準について、同等性の決定はまだ行われていません。

意見募集と今後の予定

公開草案は、2026年7月に欧州委員会が採択した改訂版ESRSを土台に作られています。今後の主な予定は次のとおりです。

時期内容
2026年7月23日EFRAGが公開草案を公表し、意見募集を開始
2026年9月25日EFRAGとSSBJがブリュッセルで日本の関係者向けの説明会を共同開催
2026年10月31日意見募集の締切
2027年1月(予定)EFRAGが欧州委員会に技術的助言を提出
時期未定欧州委員会が独自の意見募集を経て、委任法令として採択

欧州委員会による採択の時期は、一次資料では示されていません。会計指令で定められていた採択期限の2026年6月30日は、すでに過ぎています。

対象となる企業と適用時期

域外企業への報告義務の要件は、2026年2月26日に官報に掲載されたOmnibus I(Directive (EU) 2026/470)によって大きく引き上げられました。

要件改正前Omnibus Iによる改正後
グループのEU域内純売上高直近2期連続で1.5億ユーロ超直近2期連続で4.5億ユーロ超
EU子会社CSRDの対象となる子会社直前事業年度の純売上高が2億ユーロ超
EU支店純売上高4,000万ユーロ超対象となる子会社がない場合に限り、純売上高2億ユーロ超

報告書を作成し公表する法的な義務を負うのは、日本の親会社ではなく、要件を満たすEU子会社または支店です。報告の内容は、最終親会社のグループ全体の情報です。報告書には、法令で認められた者による保証意見を付ける必要があります。

適用は2028年1月1日以後に始まる事業年度からで、3月決算の企業では2028年4月に始まる事業年度が最初の対象です。公表期限は決算日から12か月以内で、少なくとも1つのEU公用語で作成します。EFRAGは、改正によって対象企業が約10,000社から約1,200社に減ると暫定的に推計しており、日本はスイスとともに100社から150社の帯に分類されています。

通常のESRSとの違い

ESRS-40aは改訂版ESRSを土台にしていますが、開示の範囲と負担軽減の措置に独自の違いがあります。

開示は影響に限られる

ESRS-40aでは、企業が環境や社会に与える影響と、その管理方法を開示します。サステナビリティに関するリスクと機会、事業のレジリエンス、依存関係は開示の対象外です。これは会計指令第40a条の規定によるもので、財務への影響を中心とするIFRS S1・S2とは開示の軸が異なります。

基準の構成は改訂版ESRSと同じ12本で、横断的な基準2本とテーマ別の基準10本からなります。EUタクソノミーに関する開示は除かれています。

気候以外はEU関連の影響に絞れる選択肢

公開草案には、気候変動はグループ全体で開示し、それ以外のテーマはEU市場で販売する製品やEU域内の活動に関わる影響に絞って開示できる選択肢が盛り込まれています。この選択肢は欧州委員会の要請で意見募集に加えられたもので、EFRAGの内部からは比較可能性への懸念も示されています。確定した制度ではない点に注意が必要です。

初年度の経過措置

初年度は比較情報の開示が不要です。生物多様性と、バリューチェーンの労働者、影響を受けるコミュニティ、消費者に関する基準は、最初の2年間は開示を省略できます。バリューチェーンの情報が入手できない場合は、3年間に限り、入手に向けた取組みの説明で代えることができます。

SSBJ開示を参照して使うための条件

公開草案は、他の文書に記載した情報を報告書に取り込む「参照による組込み」を認めています。取り込むには、次の5つの条件をすべて満たす必要があります。

条件日本企業にとっての論点
元の文書で、対応する開示要求に該当する情報だと明確に識別されているSSBJ開示の各記載がESRS-40aのどの要求に当たるかを対応づける作業が必要
ESRS-40aの報告書と同時かそれ以前に公表されている有価証券報告書の提出時期と、EU側の公表期限の関係を確認する
EU公用語で作成されているか、翻訳されている有価証券報告書は日本語で作成されるため、翻訳が必要になる
報告書の他の部分と少なくとも同水準の保証を受けている金融商品取引法の保証は開示義務化の翌年から始まり、当初2年間は範囲も限られるため、法定の保証を受けていない情報を取り込む場合は追加の保証が必要になる可能性がある
他の情報と同じデジタル化の要件を満たせる抽出可能な形式での提出が求められる

取り込める元の文書は、法令に基づく報告に限られます。任意で作成したサステナビリティ報告書からの組込みは認められていません。

日本では、改正金融商品取引法が2026年7月15日に成立しました。東証プライム市場の上場企業のうち、5事業年度末の平均時価総額が3兆円以上の企業は2027年3月期から、1兆円以上は2028年3月期から、5千億円以上は2029年3月期から、SSBJ基準による開示が義務になります。3月決算企業でESRS-40aの最初の対象となる2029年3月期には、これらの企業で法定のSSBJ開示がそろう計算です。一方、法定の保証は開示義務化の翌年から始まるため、5千億円以上の区分ではこの期の開示に法定の保証が付きません。

報告書の大部分を参照による組込みで構成することもでき、その場合は情報の所在を頁や段落の番号で示す目次を付けます。ESRS-40aとIFRS S1・S2を基礎とする各国基準の両方に準拠した、1冊の報告書を作成する選択肢も示されています。ただし、こうした方法をとると、ESRS-40a独自の追加の負担軽減措置は使えなくなります。

誤解されやすい点

ESRS-40aと同等性、EU子会社の報告義務の関係は混同されやすいため、3つの点を整理します。

同等性が認められなければESRS全体が必要になるわけではない

日本の基準に同等性が認められなくても、ESRS全体に準拠する必要はありません。域外企業に既定で適用されるのはESRS-40aで、ESRS全体による報告は選択肢の1つです。

ESRS-40aで報告してもEU子会社自身の報告は免除されない

EU子会社が自らCSRDの報告義務を負う場合、親会社がその子会社を含む報告をESRS全体か同等の基準で作成し、保証意見の公表などの法定条件を満たせば、子会社の報告は免除されます。ESRS-40aによる報告では、この免除は受けられません。EU子会社の報告義務とグループの報告を、別々に整理しておく必要があります。

SSBJ基準が個別に認められたわけではない

公開草案は、IFRS S1・S2を基礎とする各国基準という表現を使っており、日本やSSBJ基準を名指ししていません。EFRAGとSSBJの協議でも、組込みや同等性について具体的な合意は発表されていません。

EFRAGとSSBJの対話

EFRAGと日本の基準設定主体は、2023年3月30日と31日にブリュッセルで会合を開き、定期的に意見を交換することで合意しました。2025年5月にも、ISSB基準との相互運用性やESRSの簡素化について意見を交換しています。

2026年9月25日には、両者がブリュッセルでESRS-40aの公開草案に関する日本の関係者向け説明会を共同で開き、非公開の会合も行いました。SSBJの川西安喜委員長は、SSBJ基準を適用する日本企業の多くがESRS-40aの対象にもなる見込みだとして、両基準を適用する負担を最小限にしたいと述べています。

日本企業が今から確認すべきこと

最終的な基準は欧州委員会の採択を待つ必要がありますが、対象の判定や体制づくりは今から進められます。

確認事項内容
対象かどうかの判定グループのEU域内純売上高と、EU子会社・支店の純売上高を、改正後の要件で確認する
報告の担い手の整理報告義務を負うEU子会社または支店と、親会社からの情報提供の体制を決める
SSBJ開示との対応づけ自社のSSBJ開示がESRS-40aのどの開示要求に対応し、何が不足するかを洗い出す
翻訳と保証の計画組み込む情報の翻訳と、報告書と同水準の保証をどう確保するかを検討する
影響の評価ESRS-40aが求める影響の開示に向けて、重要な影響を特定する手順を整える

よくある質問

ESRS-40aについて、日本企業の担当者から寄せられることの多い質問をまとめます。

SSBJ基準で作成した開示は、そのままESRS-40aの報告書として使えますか

そのままでは使えません。参照による組込みの5つの条件を満たした情報に限って取り込めます。ESRS-40aは影響の開示を求めるため、財務への影響を中心とするSSBJ開示だけでは、気候以外のテーマを中心に不足が生じます。

報告義務を負うのは日本の親会社ですか

法的な義務を負うのは、要件を満たすEU子会社または支店です。報告の内容は最終親会社のグループ全体の情報で、親会社が情報を提供しない場合、子会社は入手できる情報で作成し、その旨を記載します。

日本の基準の同等性はいつ判断されますか

欧州委員会は、日本の基準について同等性の決定をしておらず、判断の時期も示されていません。同等性の決定はESRS-40aとは別の手続きです。

ESRS-40aの報告書に保証は必要ですか

必要です。会計指令第40a条は、法令で認められた者による保証意見を報告書に付けることを求めています。保証の水準については同条に明記されていないため、今後の制度の詳細を確認する必要があります。

ESRS-40a まとめ

ESRS-40aは、Omnibus Iで絞り込まれた大規模な域外企業グループを対象に、影響に焦点を当てた報告を求める基準です。日本企業にとっては、同等性の判断を待つよりも、参照による組込みの条件を満たせるかどうかが、報告負担を左右する現実的な論点になっています。

公開草案の段階ではありますが、対象かどうかの判定、SSBJ開示との対応づけ、翻訳と保証の計画は、最終基準を待たずに進められます。EFRAGの技術的助言と欧州委員会の採択の動向を確認しながら、2028年度からの適用に備えることをおすすめします。

参考リンク

EFRAG https://www.efrag.org/en/news-and-calendar/news/efrag-launches-public-consultation-on-the-esrs40a-exposure-draft-for-certain-noneu-undertakings

EFRAG https://www.efrag.org/en/esrs-for-certain-noneu-undertakings-in-accordance-with-article-40a-of-the-accounting-directive

EUR-Lex https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=OJ:L_202600470

サステナビリティ基準委員会 https://www.ssb-j.jp/en/wp-content/uploads/sites/7/news_release_efrag_ssbj_20260925_e.pdf

金融庁 https://www.fsa.go.jp/common/diet/221/02/03.pdf

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この記事を書いた人

SSP編集部は、非財務情報の第三者保証を専門とする株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズの実務者チームです。公認会計士やISO審査・サステナビリティ開示の実務経験を持つ専門職員で構成され、ISO 14064-3・ISAE 3000・ISSA 5000等の国際基準に基づくGHG排出量(Scope1・2・3)の検証・保証や、GX-ETS(排出量取引制度)の登録確認機関としての確認業務に従事しています。SSBJ・CDP・SBTなど最新の制度動向を一次情報にあたって追い、算定・開示の現場実務に即した、正確でわかりやすい解説をお届けします。

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