CBAMの本格適用期では財に内包される排出量が証書の購入枚数に直結します。本記事では2026年8月に公表された欧州委員会のガイダンスに基づき内包排出量の算定実務を整理します。施設を生産プロセスに分割する考え方から前駆物質の取扱いと間接排出の範囲と業種別の固有ルールまでEU向けに製品を輸出する事業者が押さえるべき論点をSSPの実務知見に基づき解説します。


CBAM内包排出量 要約
内包排出量は施設全体の排出量を生産プロセスごとに配分し機能単位あたりの値として算定します。前駆物質を使う複合財では前駆物質に内包される排出量を積み上げます。
本格適用期では前駆物質の取扱いが変わりました。同一CNコードの前駆物質を複数の供給者から調達する場合は加重平均が既定ルールとなり域外の前駆物質について実データを使う場合は認定検証人の検証報告書に基づくことが求められます。
間接排出はすべての品目に含めるわけではありません。CBAM規則の附属書IIに掲載されていない品目についてのみ間接排出を算入するという整理であり鉄鋼の前駆物質など例外的な扱いもあります。
CBAM内包排出量 背景
移行期のCBAMでは報告のみが求められ算定結果が金銭債務につながることはありませんでした。本格適用期では内包排出量に基づいてCBAM証書の償却枚数が決まるため算定の精度が直接コストに影響します。
欧州委員会は2026年8月14日にGuidance No.3として財に内包される排出量の算定方法を全147ページで公表しました。あわせてセメントと水素と肥料と鉄鋼とアルミニウムと電力の業種別ガイダンス6本を公表しています。
算定方法を定める実施法令は移行期の規定を基礎としつつ複数の点で規定を細かくしています。算定の比較可能性を高め事業者の裁量を狭める方向の改正です。
CBAM内包排出量 定義
内包排出量とはCBAM対象品目の生産に伴って発生した温室効果ガス排出量を当該品目の機能単位あたりで表した値です。直接排出と場合により間接排出を含みます。
直接排出とは生産プロセスにおける燃料の燃焼と工業プロセスに由来する排出です。間接排出とは生産に使用した電力の発電に伴う排出です。
機能単位とはCBAM対象品目の機能または性能の観点から見た分解の最大水準を定める単位です。品目によりトンやクリンカー含有量トンや窒素含有量キログラムが用いられます。
前駆物質とは対象品目の生産に投入される別のCBAM対象品目です。本格適用期では関連前駆物質という限定的な概念は用いられずいずれのCBAM対象品目も他の生産プロセスの前駆物質になり得るという整理になりました。
CBAM内包排出量 基礎
算定の基本的な流れ
内包排出量の算定は次の順序で進みます。
- 施設の排出量を把握する。燃料の燃焼と工業プロセスからの直接排出を排出源ごとに算定します
- 施設を生産プロセスに分割する。機能単位と生産ルートに基づいて分割の単位を決めます
- 排出量を生産プロセスに配分する。複数の生産プロセスに共通する熱や電力の配分ルールを適用します
- 機能単位あたりの値に換算する。生産プロセスの排出量を当該期間の生産量で除します
- 前駆物質の内包排出量を積み上げる。複合財の場合は投入した前駆物質の内包排出量を加算します
生産プロセスの分割とシステム境界
本格適用期の生産プロセスの定義はCNコードのカテゴリ単位ではなく施設単位の共通生産ルートに軸足を移しています。同じ前駆物質と生産工程を共有する複数のCNコードはグループ化することが求められます。鉄鋼製品の形状違いなどが典型例です。
同一施設内で同じ機能単位の財を異なる生産ルートで製造する場合は生産ルートごとに分けるのではなく排出量を平均化します。機能単位が定める分解の最大水準を超えて細かく分けることはできないためです。
システム境界にはインフラと設備の購入および保守は含まれません。移行期にあった5パーセントの質量閾値の規定は削除され境界は機能単位と前駆物質の定義に依拠する形になりました。
報告期間の考え方
報告期間は生産の暦年です。事業年度を選ぶことはできません。輸入財については輸入年に生産されたものとみなす推定が置かれ実際の生産時期を示す十分な証拠があれば反証できます。2026年中に輸入された財については実際の生産時期にかかわらず報告期間は2026年となります。
CBAM内包排出量 結論
算定実務で企業が最も注意すべきポイントは以下の3点です。
- 生産プロセスの分割方針を先に固めること。分割の単位が変われば排出量の配分も機能単位あたりの値も変わるため後戻りのコストが大きい
- 前駆物質の調達データを早期に棚卸しすること。加重平均の算定には供給者ごとの数量データが必要であり域外供給者には検証報告書の提出可否を確認する必要がある
- 間接排出を算入すべき品目かどうかを取り違えないこと。附属書IIへの掲載の有無で判断が分かれ鉄鋼の前駆物質のような例外もある
SSPはISO 14064-3に基づくGHG第三者検証の実務を通じて算定データの構造と検証で問われる点の知見を蓄積しています。
CBAM内包排出量 論点
内包排出量の算定に関する主要な論点を以下の表に整理します。
| 論点 | 実務での重要度 | 判断のポイント | よくある誤解 | SSPの推奨スタンス |
|---|---|---|---|---|
| 生産プロセスの分割 | 高 | 機能単位と共通生産ルートに基づき分割する。CNコードごとの細分化はできない | CNコードの数だけプロセスを分ければよい | 分割方針を文書化し検証機関と事前にすり合わせる |
| 同一機能単位の複数ルート | 高 | ルートごとに分けず排出量を平均化する | ルートごとに別々の値を出せる | 平均化の対象範囲と加重の根拠データを整理しておく |
| 前駆物質の加重平均 | 高 | 同一CNコードの全供給者を加重平均するのが既定 | 供給者ごとに個別の値を使える | 個別追跡を主張する場合は使用を裏づける証拠を用意する |
| 域外前駆物質のデータ源 | 高 | 認定検証人の検証報告書由来であることが必要。報告書の対象期間も一致が必要 | 供給者の自己申告値でよい | 調達先へ検証報告書の提出可否を早期に照会する |
| EU域内産前駆物質の扱い | 中 | 直接排出と間接排出はゼロ。ただし使用数量の報告は必要 | 報告自体が不要になる | ゼロ扱いでも数量の記録は残す |
| 間接排出の算入範囲 | 高 | 附属書IIに掲載されていない品目のみ算入する | すべての品目で間接排出を算入する | 品目ごとに掲載の有無を確認し鉄鋼の前駆物質の例外も押さえる |
| 電力の排出係数 | 中 | 複数電源から受電する場合は加重平均が既定 | 自社に有利な電源の係数を選べる | 実測値を使う場合の証拠要件を先に確認する |
CBAM内包排出量 比較
業種別ガイダンスで定められた固有ルールの要点を整理します。
| 業種 | 機能単位 | 固有の算定ルール | 追加の報告項目 |
|---|---|---|---|
| セメント | 焼成粘土とセメントクリンカーとアルミナセメントはトン。セメントはクリンカー含有量トン | プロセス排出は投入原料の炭酸塩含有量による方法Aと産出クリンカー量による方法Bのいずれかを選択する。窯から出るセメントキルンダストとバイパスダストの排出を加算する | セメントの品目区分に応じた項目 |
| 水素 | 純水素のトン | 多機能プロセスの共産物への配分はモル比に基づく | 追加項目なし |
| 肥料 | 窒素含有量キログラムまたは補足単位 | 組成レンジごとに窒素含有量で平均した値を算定する。顧客の要望による個別組成の場合は出荷ごとに窒素含有量の宣言書を発行する | アンモニアは濃度と窒素含有量。硝酸は質量パーセント濃度と窒素含有量 |
| 鉄鋼 | トン | 焼結鉱と銑鉄とフェロマンガンとフェロクロムとフェロニッケルと直接還元鉄と粗鋼と鉄鋼製品のうち2つ以上を生産する施設は施設内で生産した前駆物質を外販していない場合に限り単一のバブルとして扱える | 銑鉄と直接還元鉄は主たる還元材とマンガンとクロムとニッケルおよびその他合金元素の質量パーセント。フェロ合金は各元素と炭素の質量パーセント |
| アルミニウム | トン | 一次アルミニウム生産のPFC排出はアノード効果分数を記録するスロープ法とアノード効果過電圧を記録する過電圧法のいずれかで算定する | アルミニウム1トンあたりのスクラップ使用量とプレコンシューマースクラップの比率とアルミニウム以外の元素が1パーセントを超える場合はその合計比率 |
| 電力 | キロワット時 | 実測値を使うには輸入者と域外発電事業者との電力購入契約や送電容量のノミネーションなど5つの要件をすべて満たす必要がある | 要件充足を認定検証人が証明する。検証人は少なくとも月次の中間報告を受領する |
CBAM内包排出量 重要点
前駆物質の取扱い
前駆物質は複合財と同じ暦年に生産されたものとみなす推定が置かれています。事業者は証拠により反証できます。
外部供給者から受け入れた前駆物質が複数の報告期間にまたがる場合は加重平均の算定が求められます。複数の供給者から同一CNコードの前駆物質を調達する場合も供給者ごとの個別追跡ではなく全供給者の加重平均が既定ルールです。特定の生産プロセスで使用したことを示す十分な証拠がある場合に限り既定ルールから外れることが認められます。
域外の前駆物質について実データを用いる場合は認定検証人が発行した検証報告書から取得したデータであることが必要です。あわせてその検証報告書が当該前駆物質の生産期間を対象としていることも求められます。調達先の検証の有無と対象期間の両方を確認する必要があります。
EU域内または指定地域で生産された前駆物質が域外で複合財の製造に使われEUへ輸入される場合は直接排出と間接排出のいずれもゼロとして扱われます。ただし使用した数量は報告が必要です。
間接排出の算入範囲
間接排出はCBAM規則の附属書IIに掲載されていない品目についてのみ算入します。セメントと肥料と凝集鉄鉱石が該当します。
複合財と前駆物質の組合せにより扱いが分かれます。附属書IIに掲載された複合財が掲載されていない前駆物質を含む場合は前駆物質の間接排出を複合財の内包排出量に算入します。逆に附属書IIに掲載されていない複合財が掲載された前駆物質を含む場合は前駆物質の間接排出は算入しません。
鉄鋼については鉄鋼そのものが附属書IIに掲載されているため間接排出の対象外ですが前駆物質である凝集鉄鉱石の間接排出は算入します。水素とアンモニアの関係も同様の構造で整理されています。
電力の排出係数と証拠要件
施設が系統と電力購入契約など複数の電源から受電している場合は生産した品目について全電源の加重平均を用いることが既定ルールです。
実測値の排出係数を用いるには電源との直接の技術的接続または発電事業者との電力購入契約のいずれかを示す詳細な文書証拠が求められます。
財としての電力を輸入する場合の要件はさらに厳格です。認定CBAM申告者と域外の発電事業者との電力購入契約があることとその発電施設がEUの送電系統に直接接続しているか輸出時点で系統に物理的混雑がなかったことを示せることと発電施設の化石燃料由来の排出が1キロワット時あたり550グラム以下であることと送電容量へのノミネーションが1時間以内の同一期間で対応していることと以上の要件充足を認定検証人が証明することの5点をすべて満たす必要があります。検証人は少なくとも月次の中間報告を受領します。
CBAM内包排出量 手順
内包排出量の算定に向けて事業者が取るべき準備ステップを以下に整理します。
- 対象品目とCNコードを確定する。EUへ輸出する製品のCNコードを特定しCBAM規則の対象範囲に該当するかを確認します。複合財の場合は投入している前駆物質のCNコードも洗い出します。
- 生産プロセスの分割方針を決める。機能単位と共通生産ルートに基づき施設をどの単位で分割するかを決めます。同じ前駆物質と生産工程を共有するCNコードのグループ化も併せて検討します。
- 排出源インベントリを作成する。生産プロセスごとに燃料の燃焼と工業プロセスからの直接排出源を漏れなく特定します。業種別ガイダンスに固有ルールがある場合は該当箇所を確認します。
- 熱と電力の配分ルールを定める。複数の生産プロセスに共通して供給される熱と電力の配分方法を決めて文書化します。
- 前駆物質の調達データを整理する。供給者ごとの調達数量と単位内包排出量を集計できる形にします。域外供給者には検証報告書の提出可否と対象期間を照会します。
- 間接排出の要否を品目ごとに確認する。附属書IIへの掲載の有無を確認し複合財と前駆物質の組合せによる例外を整理します。
- モニタリング計画を英語で作成する。附属書のテンプレートに沿って算定方法とデータソースと管理手順を記載します。
- 検証機関に事前相談する。分割方針と配分ルールについて検証機関の見解を早い段階で確認しておくと後戻りを避けられます。
CBAM内包排出量 FAQ
Q1 施設をどこまで細かく生産プロセスに分けるべきですか
機能単位が定める分解の最大水準までです。同じ機能単位の財を異なる生産ルートで作っている場合はルートごとに分けず平均化します。同じ前駆物質と生産工程を共有する複数のCNコードはグループ化することが求められます。
Q2 前駆物質の供給者から検証報告書をもらえない場合はどうなりますか
その前駆物質について実データを用いることはできません。デフォルト値を用いることになります。デフォルト値は実際の排出量より高く設定される場合があり証書の購入枚数が増える可能性があるため調達先への早期の照会が重要です。
Q3 鉄鋼の施設で複数の工程を持つ場合に一括で算定できますか
焼結鉱と銑鉄とフェロマンガンとフェロクロムとフェロニッケルと直接還元鉄と粗鋼と鉄鋼製品のうち2つ以上を生産する施設は施設内で生産した前駆物質を外販していない場合に限り単一の生産プロセスとして扱うことが認められます。バブルアプローチと呼ばれる扱いです。外販がある場合は適用できません。
Q4 間接排出はどの品目で算入するのですか
CBAM規則の附属書IIに掲載されていない品目について算入します。セメントと肥料と凝集鉄鉱石が該当します。ただし附属書IIに掲載された複合財が掲載されていない前駆物質を含む場合はその前駆物質の間接排出を算入するなど組合せによる例外があります。
Q5 再生可能エネルギーの電力購入契約があれば間接排出をゼロにできますか
実測値の排出係数を用いるには発電事業者との電力購入契約または電源との直接の技術的接続を示す詳細な文書証拠が必要です。複数の電源から受電している場合は全電源の加重平均が既定ルールとなるため契約分だけを取り出して適用できるとは限りません。
Q6 セメントの機能単位がクリンカー含有量に変わると何が起きますか
同じ質量のセメントでもクリンカーの比率により機能単位あたりの内包排出量が変わります。混合材の比率が高い製品ほどクリンカー含有量が小さくなるため製品ごとのクリンカー比率を把握して記録する必要があります。組成レンジごとの平均も求められます。
Q7 アルミニウムのスクラップ使用は内包排出量を下げますか
スクラップを使用した場合は使用量と種別の報告が求められます。アルミニウム1トンあたりのスクラップ使用量とプレコンシューマースクラップの比率が追加の報告項目です。算定上の扱いは業種別ガイダンスの規定に従います。
CBAM内包排出量 まとめ
本格適用期の内包排出量の算定は生産プロセスの分割と前駆物質の取扱いと間接排出の算入範囲の3点が実務の中心です。いずれも移行期から規定が細かくなり事業者の裁量が狭まっています。
企業が今取るべきアクションは生産プロセスの分割方針の確定と前駆物質の調達データの棚卸しと間接排出の要否の品目別確認です。分割方針は後から変えるとデータ収集の設計まで戻ることになるため早い段階で固めるべきです。
SSPはGHG第三者検証の実務を通じて算定データの構造と検証で問われる点を把握しています。算定方針の整理からご相談を承ります。
CBAM内包排出量 次のステップ
- 公表されたガイダンスの全体像を知りたい方はCBAM本格適用期の公式ガイダンス公表の記事をご覧ください
- CBAM証書の枚数の決まり方を知りたい方はCBAM無償割当調整の記事をご覧ください
- 検証で何を確認されるかを知りたい方はCBAM検証と認定ガイダンスの記事をご覧ください
- SSPの検証サービスの詳細はサービスページをご覧ください
参考リンク
- 欧州委員会 Guidance No.3 CBAM methods for the calculation of emissions embedded in goods 2026年8月14日
- 欧州委員会 Guidance No.5a Sector-specific guidance document on cement 2026年8月14日
- 欧州委員会 Guidance No.5b Sector-specific guidance document on hydrogen 2026年8月14日
- 欧州委員会 Guidance No.5c Sector-specific guidance document on fertilisers 2026年8月14日
- 欧州委員会 Guidance No.5d Sector-specific guidance document on iron and steel 2026年8月14日
- 欧州委員会 Guidance No.5e Sector-specific guidance document on aluminium 2026年8月14日
- 欧州委員会 Guidance No.5f Sector-specific guidance document on electricity 2026年8月14日
- 欧州委員会 CBAM legislation and guidance https://taxation-customs.ec.europa.eu/carbon-border-adjustment-mechanism/cbam-legislation-and-guidance_en



