SBTiネットゼロ基準V2.0 暫定提出フォームから逆算する審査準備

SBTi(Science Based Targets initiative)は2026年10月1日、企業ネットゼロ基準V2.0(Corporate Net-Zero Standard Version 2.0)に基づく目標審査に備えるため、暫定版の提出フォームと目標設定ツールの暫定データ項目などを公開しました。V2.0の最終版は2026年6月11日に公表済みで、2027年2月1日からは、V2.0による審査枠の予約と目標の提出が始まります。

今回の資料は暫定版のため、そのまま提出には使えません。ただし、審査で何を問われるかを、入力項目の単位で確認できる資料です。本記事では、GHG排出量の第三者保証を手がける株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ(SSP)が、暫定資料で求められる情報と第1版からの変更点を整理し、2027年2月までに準備しておくべきことを解説します。

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目次

SBTiネットゼロ基準V2.0 要約

SBTiは2026年10月1日、ネットゼロ基準V2.0の審査に向けた暫定提出フォームと暫定データ項目を公開しました。審査の予約と提出は2027年2月1日に始まり、2028年2月1日以降の新規提出はV2.0が必須です。準備の中心は、企業区分の確認、基準年のScope別排出量とScope3カテゴリ別排出量の整備、Category A企業に課される第三者保証の手配です。

審査開始までのスケジュール

V2.0は2回の意見募集を経て、2026年5月に技術評議会の承認と理事会の採択を受け、6月11日に最終版が公表されました。審査に必要な資料は段階的に公開されており、10月1日の公開はその一部にあたります。

時期内容
2026年5月技術評議会が承認(5月8日)、理事会が採択(5月21日)
2026年6月11日V2.0最終版の公表
2026年10月1日暫定提出フォーム、暫定データ項目、審査手順書などの公開
2026年第4四半期(予定)最終版の手法と経路、目標設定ツール、クレームに関する方針の公表
2027年2月1日V2.0による審査枠の予約と提出の受付開始。2028年1月31日までは現行版V1.3.1も選択可能
2028年2月1日すべての新規提出でV2.0が必須

2027年2月の時点では、金融機関はV2.0で提出できないとされています。セクター別基準と連動する審査も準備中のため、該当する企業には当面V1.3.1での提出が推奨されています。2027年1月31日までに提出期限を迎える企業は、V2.0の採用を前提に期限の延長を申請できます。

10月1日に公開された資料の位置づけ

10月1日には、暫定提出フォームと暫定データ項目のほか、審査スケジュール、審査手順書、用語集などが公開されました。まず審査で何を提出するのかを確認します。

提出は3つの書類で構成される

V2.0の審査では、定量データを入力する目標設定ツール、ツールで扱わない情報を記入する提出フォーム、審査用ポータルにアップロードする根拠書類の3つを提出します。提出フォームでは、根拠書類の文書名と該当頁を記入し、審査担当者が裏付けをたどれるようにします。

暫定版であることの意味

暫定提出フォームと暫定データ項目には、提出には使えないこと、質問や様式が変わりうることが明記されています。2026年6月に公開された目標設定ツールのベータ版も、最終的に必要なデータを反映していないとされています。現時点では、社内でどのデータをそろえるべきかを確かめる資料として使うのが適切です。

暫定データ項目で求められる情報

目標設定ツールの暫定データ項目は、Scopeごとに必要な入力を示しています。選ぶ目標手法によって必要なデータが変わる点が特徴です。

区分主な入力項目
共通目標基準年、近期目標年、必要に応じて長期目標年またはネットゼロ年
Scope1対象活動の選択。総量削減なら基準年排出量、原単位削減なら基準年の生産量と単位、地域、目標年の予測生産量、資産移行なら資産ごとの基準年排出量と廃止または転換の年
Scope2購入電力、熱・蒸気・冷却、またはその両方のうち、どれを対象とするか。総量削減なら基準年排出量と地域、低炭素電力目標なら基準年の低炭素電力比率
Scope3カテゴリ1から14の排出量、認められた除外の排出量、手法に応じた基準年購入量と予測購入量、サプライヤーや顧客の整合比率

Scope3では、カテゴリ1から14の排出量を入力すると、ツールが各カテゴリの構成比を計算し、5%以上を占める重要カテゴリを判定します。重要カテゴリは自動的に目標の範囲に入るため、カテゴリ別の算定精度がそのまま目標の範囲を左右します。

提出フォームで問われる定性情報

提出フォームは、会社情報とガバナンス、基準年の評価、GHGインベントリ、目標設定、セクター別の確認などの章で構成されています。最高意思決定機関による説明責任、移行計画の承認と公表状況、基準年を選んだ理由、基準年の再計算を判断する重要性の閾値(5%以下)などを記入します。

インベントリの章では、Scope2をロケーション基準とマーケット基準の両方で記入します。Scope3についても、カテゴリ1をcradle-to-gateで算定しているか、カテゴリ6から宿泊を除いているかなど、算定範囲をカテゴリごとに確認する設問があります。既存のインベントリがこれらの前提と合っているかは、早い段階で点検しておく必要があります。

第1版から変わった主な要件

暫定資料の設問の多くは、V2.0で新たに加わった要件に対応しています。準備に大きく影響する4つの変更点を取り上げます。

企業区分 Category AとCategory B

V2.0では、第1版の中小企業向けの別ルートに代わり、すべての企業をCategory AとCategory Bに区分します。区分は最終親会社の設立国と、グループ全体の連結数値の直近2期平均で判定し、登録時に決まって5年の目標サイクルの間は固定されます。

条件地域区分
純売上高4.5億ユーロ以上、または常勤換算の従業員数1,000以上全地域Category A
Scope1・2排出量1万tCO2e以上、または総資産2,500万ユーロ以上、純売上高5,000万ユーロ以上、常勤換算の従業員数250以上のうち2つ以上高所得国Category A
上記のいずれにも該当しない全地域Category B

Scope1とScope2の近期目標はすべての企業に必須で、Scope3の近期目標と基準年データの保証はCategory Aにのみ必須です。移行計画の作成はすべての企業に求められ、Category Aは審査完了から15か月以内に公表します。Scope1で原単位削減や資産移行の目標を選ぶ場合は、区分にかかわらず審査時に移行計画を公表する必要があります。

Scope1とScope2は別々の目標に

第1版では認められていたScope1と2の合算目標は、V2.0では進捗評価の対象になりません。Category AはScope1、2、3を、Category BはScope1と2を、それぞれ別の目標として設定します。Scope1とScope2の目標範囲はそれぞれ100%で、第1版の「Scope1と2の95%」という基準はなくなりました。

購入電力には低炭素電力の比率を高める目標か総量削減目標を、購入した熱・蒸気・冷却には総量削減目標を設定します。目標期間の電力消費量が年20%を超えて増えると見込まれるCategory A企業は、総量削減目標が必須です。Scope2の原単位目標は廃止され、目標水準はロケーション基準の排出量で設定します。

Scope3は重要カテゴリを網羅する方式に

近期目標の範囲は、第1版の「Scope3排出量の67%」という固定比率から、5%以上を占めるカテゴリをすべて含める方式に変わりました。カテゴリ7(雇用者の通勤)はカテゴリ全体を、カテゴリ3、8、9、10、14などは一定の条件を満たす排出を除外できますが、除外する場合は適用した条件、除外量、緩和策を報告します。カテゴリ4、5、6、11、12、13は除外できません。

目標の立て方は、総量削減、サプライヤーや顧客の整合度を高める方式、カテゴリや活動ごとに設定する方式の3つから選びます。第1版にあった経済原単位や物理原単位を毎年7%削減する手法は廃止され、原単位目標はセクター別の削減経路がある場合に限って使えます。長期のScope3目標は、すべての企業で任意になりました。

カーボンクレジットの扱い

カーボンクレジットは目標の進捗に算入できません。その一方で、移行途中の排出に責任を持つための任意の認定プログラム「継続排出責任(Ongoing Emissions Responsibility)」が設けられ、参加するかどうかの表明はすべての企業に求められます。Category Aには2035年以降の炭素除去の支援も定められていますが、基準自体がこれを例示的な要件とし、次の版で見直すとしています。

Category Aの第三者保証

Category A企業は、基準年のScope1、2、3排出量、低炭素電力の計算、重要な排出集約活動の排出量など、目標設定に使う指標について独立した第三者の保証を受ける必要があります。保証水準は最低でも限定的保証で、認定を受けた第三者が国際的に認められた保証基準で実施します。審査時には、署名と日付の入った保証報告書を根拠書類として提出します。

保証を担う機関の認定を示す証拠としては、ISO 14065の認定証などが例示されています。審査でインベントリをどこまで確認するかは、今後公表される保証に関するマニュアルで定めるとされています。保証の手配には算定データの整備期間も含めて数か月を要するため、審査の予約時期から逆算して、基準年の選定と保証の日程を合わせておくことが重要です。

2027年2月までに準備すべきこと

暫定資料の内容を踏まえると、次の6項目が準備の柱になります。

準備項目内容
企業区分の試算最終親会社の設立国と、連結の純売上高、総資産、常勤換算の従業員数、Scope1・2排出量の直近2期平均から、Category AかBかを確認する
基準年インベントリの点検Scope2をロケーション基準とマーケット基準の両方で算定し、Scope3はカテゴリ1から14を提出フォームの算定範囲に合わせる
重要カテゴリと除外の整理5%以上のカテゴリを特定し、除外する場合の条件、除外量、緩和策を整理する
目標手法と予測データ原単位や数量の整合度を使う場合に必要な生産量、購入量の基準年値と予測を用意する
移行計画とガバナンス最高意思決定機関の承認体制と計画の必須要素を整える。Category Aは審査完了から15か月以内、Scope1で原単位削減や資産移行を選ぶ場合は審査時に公表する
第三者保証の手配Category Aは審査時に基準年データの保証報告書が必要となるため、保証機関との日程を早めに固める

最終版の手法と目標設定ツールは2026年第4四半期に公表される予定です。暫定資料で準備を進めつつ、最終版が出た段階で差分を確認する進め方が現実的です。

よくある質問

V2.0への移行について、企業の担当者から寄せられることの多い質問をまとめます。

第1版で認定を受けた企業は、すぐにV2.0で再申請する必要がありますか

すぐに対応する必要はありません。再審査の期限は、目標年の翌年末か5年ごとの見直しのいずれかで決まります。SBTiは2026年7月、既存の認定企業が新基準への準備状況を確認できるReadiness Assessment Serviceを開始していますが、事前審査ではないと明記しています。

暫定提出フォームを使って申請できますか

できません。暫定提出フォームと暫定データ項目は提出に使えないと明記されており、最終版で内容が変わる可能性があります。社内のデータ整備とギャップの確認に使う資料と位置づけるのが適切です。

Category Bの企業にも移行計画は必要ですか

移行計画の作成はすべての企業に求められます。Category Bでは、移行計画の公表、基準年データの保証、Scope3目標は原則として任意です。ただし、Scope1で原単位削減や資産移行の目標を選ぶ場合は、審査時に移行計画を公表する必要があります。Scope1と2だけを設定するCategory B企業は、計画の範囲もScope1と2に限ることができます。

カーボンクレジットを目標達成に使えますか

使えません。クレジットは目標の進捗に算入できず、継続排出責任の認定プログラムは目標とは別建てで評価されます。ネットゼロ年以降に残る排出は、適格な炭素除去で中和することが求められます。

SBTiネットゼロ基準V2.0 まとめ

10月1日に公開された暫定資料により、V2.0の審査で求められるデータが項目単位で見えるようになりました。企業区分によって必須要件が大きく変わるため、最初に自社がCategory AとBのどちらにあたるかを確かめることが、準備全体の出発点になります。

Category A企業にとっては、Scope3の重要カテゴリの算定と、基準年データの第三者保証が最も時間のかかる工程です。2027年2月の受付開始と2028年2月の必須化を見据え、算定範囲の点検と保証の手配を並行して進めることをおすすめします。

参考リンク

SBTi https://sciencebasedtargets.org/corporate-net-zero-standard-v2

SBTi https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/Corporate-Net-Zero-Standard-version-2.pdf

SBTi https://sciencebasedtargets.org/blog/countdown-to-validation-new-resources-to-prepare-for-the-corporate-net-zero-standard-v2-0

SBTi Services https://docs.sbtiservices.com/resources/PreliminaryDataPointsfortheTargetSettingToolCNZSV2.pdf

SBTi Services https://docs.sbtiservices.com/resources/GuideTransitionCorporateNetZeroStandardV2.pdf

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この記事を書いた人

SSP編集部は、非財務情報の第三者保証を専門とする株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズの実務者チームです。公認会計士やISO審査・サステナビリティ開示の実務経験を持つ専門職員で構成され、ISO 14064-3・ISAE 3000・ISSA 5000等の国際基準に基づくGHG排出量(Scope1・2・3)の検証・保証や、GX-ETS(排出量取引制度)の登録確認機関としての確認業務に従事しています。SSBJ・CDP・SBTなど最新の制度動向を一次情報にあたって追い、算定・開示の現場実務に即した、正確でわかりやすい解説をお届けします。

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