本稿はサステナビリティスタンダードパートナーズが、GX推進法に基づく排出量取引制度について、アルミニウム・同合金圧延及びアルミニウム鍛造品を製造する事業がどのように制度対象となり、上工程(溶解工程)と下工程(製品工程)のベンチマークでCO2直接排出をどう算定し、移行計画と登録確認機関の確認を経て排出枠償却まで至るのかを、マニュアルに基づき整理するものです。


結論
アルミニウム・同合金圧延及びアルミニウム鍛造品を製造する事業者は、CO2直接排出量の年度平均が10万t以上となる事業者としてGX-ETSの制度対象となり、アルミニウム製造業のベンチマーク方式(上工程・下工程)で排出目標量を算定します。GX-ETSは国内におけるCO2直接排出を対象とする制度であり、PFC・HFC・SF6・N2O等の非CO2温室効果ガスや間接排出は対象外です。上工程(溶解工程)は半製品(スラブ・ビレット)の製造、下工程(製品工程)は半製品を均熱処理し圧延・押出等を行う製品製造までが対象で、溶解炉・保持炉・均熱炉・圧延加熱炉・押出工程の燃料燃焼CO2、および溶剤の焼却に伴う原材料起源CO2が算定対象となります。
背景
日本のアルミニウム産業は、一次アルミ精錬がほぼ停止した一方、アルミインゴットやアルミスクラップを溶解して圧延板・押出形材・箔・鍛造品等を製造するアルミ圧延・鍛造業が主力産業として位置づけられています。GX-ETSのアルミベンチマークは「アルミニウム・同合金圧延及びアルミニウム鍛造品を製造する事業」を対象とし、上工程(溶解工程)と下工程(製品工程)の2つのベンチマークが設計されています。上工程では炉サイズ・チャージ数による補正係数で規模差を吸収する設計が特徴です。GX-ETSは国内におけるCO2直接排出のみを対象とし、PFC・HFC・SF6等の非CO2ガスや間接排出は対象外です。
SSPの定義
SSPはサステナビリティスタンダードパートナーズの略称で、経済産業省 GXリーグ登録検証機関として第三者保証業務を主業とする機関です。本稿におけるアルミニウム製造業とは、GX-ETSのベンチマーク対象である「アルミニウム・同合金圧延及びアルミニウム鍛造品を製造する事業」を指し、上工程(溶解工程)で原料を溶解して半製品(スラブ・ビレット)を製造し、下工程(製品工程)で半製品を均熱処理・圧延・押出等してアルミ製品を製造する2系統のベンチマークが設定されています。半製品とはスラブ(板状)・ビレット(棒状・丸棒状)等の中間材で、下工程の原料となります。
変更点の要約
- アルミニウム製造業のベンチマークは上工程(溶解工程)と下工程(製品工程)に分かれる設計とされました。
- 上工程の基準活動量は半製品(スラブ・ビレット)の生産量を炉サイズ・チャージ数の補正係数で除した値です。
- 上工程の目指すべき原単位は2026年度0.2229、2030年度0.2098 tCO2/tで、溶解炉・保持炉・鋳造時の燃料燃焼CO2および溶剤焼却による原材料起源CO2が含まれます。
- 下工程の目指すべき原単位は2026年度0.2696、2030年度0.2682 tCO2/tで、基準活動量はアルミ製品の生産量(トン)です。
- 下工程の対象工程は半製品の均熱処理、圧延、押出、熱処理等の燃料使用および溶剤焼却による原材料起源排出です。
- GX-ETSは国内CO2直接排出のみを対象とし、PFC・HFC・SF6・N2O等の非CO2ガスや電力由来の間接排出は本制度の算定対象外です。
基礎知識
アルミニウム製造(圧延・鍛造)の排出管理で押さえるべき前提は3点です。第1は上工程の炉別管理で、反射炉・るつぼ炉・保持炉など溶解工程の炉ごとに燃料計量を分離し、炉サイズとチャージ数の把握(仕様書・生産月報等の証憑)が補正係数算定に不可欠です。第2は下工程の工程別計量で、均熱処理炉、圧延ラインの加熱炉、押出プレス加熱炉、熱処理炉など製品工程の燃料消費を工程ごとに分離して把握します。第3はバウンダリの整合で、溶解工程と製品工程のどちらに各設備が属するかを工場レイアウトと一次資料で明確化することが登録確認機関の確認で問われます。なおGX-ETSはCO2直接排出のみを対象とし、PFC・SF6・HFC等は本制度の対象外です。
論点整理表
| 論点 | 制度上の位置づけ | アルミ製造での該当 | 判断基準 | 実務上の留意点 |
|---|---|---|---|---|
| 対象判定 | GX推進法第33条第1項 | 年度平均排出量10万t以上 | 直近3年度のCO2直接排出量の平均 | 大手二次アルミは対象可能性あり |
| ベンチマーク区分 | 実施指針 | 上工程・下工程の2本立て | 一次と二次で対応 | 国内は二次が主流 |
| (参考)一次アルミCO2 ※本BM対象外 | プロセスCO2 | 炭素アノード消費 | アノード質量×炭素率 | 電解槽別の消費把握 |
| (参考)PFC ※GX-ETS対象外 | 非CO2ガス | アノード効果由来 | 槽別発生頻度×時間 | CO2換算で集計 |
| 二次アルミ燃焼 | エネルギー由来 | 溶解炉・保持炉 | 燃料別排出係数 | 炉別計量が必要 |
| SF6 | 非CO2ガス | (参考)SF6 ※GX-ETS対象外(高圧受電設備) | 充填量と漏洩量の差 | GWPでCO2換算 |
| HFC | 非CO2ガス | (参考)HFC ※GX-ETS対象外(冷凍空調機器) | 充填量と補充量 | 機器台帳で追跡 |
| 排ガス処理 | 要確認 | NOx処理等 | 個別設備ごとの分析 | N2O発生有無を確認 |
| 排出枠償却 | GX推進法 | 翌年度1月31日までに保有 | 保有義務量分の排出枠 | 不足分は上限価格の1.1倍を負担金として納付 |
比較表
| 排出源 | 対象ガス | 算定方法 | 証憑 |
|---|---|---|---|
| 電解槽CO2 | CO2 | アノード消費×炭素率×係数 | アノード受払台帳と化学分析 |
| アノード効果PFC | CF4・C2F6 | IPCC係数×発生時間 | 槽別運転記録 |
| 溶解炉燃焼 | CO2 | 燃料×発熱量×係数 | 炉別燃料計量 |
| 保持炉燃焼 | CO2 | 燃料×発熱量×係数 | 炉別燃料計量 |
| 脱ガス処理 | CO2 | 塩素ガス等の使用量 | 受入伝票 |
| SF6漏洩 | SF6 | 充填量-回収量-在庫差 | 機器台帳とメンテ記録 |
| HFC漏洩 | HFC | 補充量を漏洩とみなす | 冷凍機管理台帳 |
制度対象判定とスケジュール特例
判定と事業者単位
アルミ圧延・鍛造事業者は、事業者単位で年度平均CO2直接排出量が10万t以上かで判定されます。大手の圧延・押出メーカーは複数の溶解・圧延拠点を擁するため、事業者単位合算で閾値を超える例が多くなります。判定は事業者単位で毎年度行われ、子会社や関連会社は別事業者として個別判定するため、グループ内に複数の製造会社がある場合は個社ごとに届出の要否を判断します。
2026年度特例
2026年度に制度対象となる事業者は、2026年9月末までに基礎情報と年度平均排出量のみを届け出ればよく、排出目標量等の届出は2027年9月末まで猶予されます。アルミ事業者は2026年度を活用し、溶解炉ごとの炉サイズ・チャージ数・燃料計量の標準化、製品工程の工程別燃料計量、登録確認機関との契約を進めることが推奨されます。
アルミベンチマークの仕組み
上工程(溶解工程)の算定
上工程(溶解工程)は、原料を事業所に搬入してから溶解等を行い、半製品(スラブ・ビレット)を製造するまでの工程における燃料使用および原材料起源(溶剤の焼却)の直接排出を対象とします。算定式は目指すべき原単位×基準活動量で、基準活動量は炉サイズとチャージ数を加味した補正係数で半製品生産量を除した値です。補正係数=(0.205×事業所の半製品生産量合計)÷Σ{1.903×(炉サイズ)^-0.241×(炉のチャージ数)^-0.210×炉の半製品生産量}。目指すべき原単位は2026年度0.2229、2030年度0.2098 tCO2/tで、炉の仕様書と生産月報を証憑として整備します。
下工程(製品工程)の算定
下工程(製品工程)は、半製品を均熱処理し、圧延・押出等を行い、アルミ製品を製造する工程における燃料使用および原材料起源(溶剤の焼却)の直接排出を対象とします。均熱炉、圧延加熱炉、押出プレス加熱炉、熱処理炉、表面処理ラインの燃料消費を工程別に把握します。算定式は目指すべき原単位×基準活動量で、基準活動量はアルミ製品の生産量(トン)の平均、目指すべき原単位は2026年度0.2696、2030年度0.2682 tCO2/tです。
ベンチマークとグランドファザリングの境界
対象工程
溶解炉、保持炉、脱ガス装置、鋳造(半製品製造)工程、均熱炉、圧延加熱炉、押出プレス、熱処理炉、表面処理ライン等はそれぞれ上工程または下工程のバウンダリ内です。付帯設備として原料受入、排ガス処理、排水処理、工場内動力設備も対応する主工程のバウンダリに含めます。
対象外とグランドファザリング
事務所、研究棟、別敷地の金型製造、製品検査ラボ、輸送車両の構外分などはベンチマーク対象外またはグランドファザリング扱いです。なお溶解工程のみを有する工場等(半製品のみ製造し自社で圧延・鍛造を行わない工場等)は本ベンチマークの対象外です。自家発電を保有する場合は発電ベンチマークとの境界整理が必要です。
排出枠割当と未償却相当負担金
排出枠の運用
アルミ圧延・鍛造事業者は電力消費が大きい業種ですが、GX-ETSの排出枠割当てはCO2直接排出(溶解・圧延・熱処理の燃料燃焼および溶剤焼却)のみを対象とします。排出枠は1t単位で無償で割り当てられ、取引市場や相対取引で売買可能です。電力由来の間接排出は割当対象外ですが、移行計画には間接排出量として記載し、電化・再エネ調達の脱炭素投資を対外的に示す位置づけとなります。
負担金リスク
翌年度1月31日時点で保有義務量分の排出枠が不足すれば、不足分に参考上限取引価格を乗じ1.1を乗じた額を未償却相当負担金として納付します。アルミ圧延・鍛造事業は製品需要の変動や合金・製品構成の切替により燃料消費量が変動するため、月次モニタリングと排出枠の先行取得、生産計画と連動した調達方針の設計が財務管理上重要です。
移行計画と登録確認機関
移行計画の記載
アルミ圧延・鍛造事業者の移行計画では、電化炉の導入、水素バーナー・アンモニア混焼、高効率保持炉・均熱炉、廃熱回収の強化、熱処理工程の最適化、再生アルミ利用拡大などを投資計画に記載します。該当工場等として溶解拠点と圧延・押出・鍛造拠点を個別に示し、排出削減効果を定量的に表現します。研究開発欄には関連するGX技術区分特許やグリーンイノベーション基金プロジェクトを記載します。
確認業務のポイント
登録確認機関は、上下工程のバウンダリ設定、溶解炉ごとの炉サイズ・チャージ数の把握とその補正係数計算の妥当性、炉別燃料計量の網羅性、単位発熱量と排出係数の選定根拠、溶剤焼却に係る原材料起源排出の計上、半製品・アルミ製品の生産量把握の証憑(生産月報・販売伝票・在庫管理表等)の整合を確認します。
実務フロー
- Step1 事業者単位の年度平均排出量を確認し、制度対象判定を確定する。
- Step2 ERMSアカウントとGビズIDを準備し、法人等保有口座を開設する。
- Step3 上下工程のバウンダリ、炉サイズ・チャージ数の台帳、半製品・アルミ製品の生産量計量体制を整備する。
- Step4 登録確認機関と契約し、炉別燃料計量・工程別燃料計量の証憑一式を共有する。
- Step5 9月30日までに排出目標量等の届出と移行計画をERMSで提出する。
- Step6 11月末頃に排出枠の無償割当を受け、法人等保有口座で残高を確認する。
- Step7 翌年度4月から9月に排出実績量の算定と登録確認機関の確認を受け、9月30日までに報告する。
- Step8 翌年度1月31日までに保有義務量分の排出枠を保有し、不足時は市場調達か負担金納付で対応する。
FAQ
上工程の炉サイズ・チャージ数補正係数はどう算定しますか
補正係数=(0.205×事業所の半製品生産量合計)÷Σ{1.903×(炉iのサイズ)^-0.241×(炉iのチャージ数)^-0.210×炉iの半製品生産量}の式に従い、炉ごとの炉サイズ(t)とチャージ数(回/年)を把握して算定します。炉サイズは原料を処理できる重量で炉の仕様書から、チャージ数は時間当たりの鋳造回数(半製品の年間生産量÷炉サイズ)から求めます。事業所ごとに集計した補正係数で半製品生産量を除した値が活動量となります。
溶剤の焼却は算定対象ですか
原材料起源の直接排出として、排出量算定・報告マニュアル第Ⅱ部2.22「溶剤の焼却」が算定対象に含まれます。使用する溶剤の種類と使用量を記録し、マニュアル指定の算定方法に従って排出量を計上します。なお塩化物系や弗化物系のフラックスの分解によるガス状排出(非CO2)はGX-ETSの対象外です。
半製品のみを製造する工場は対象になりますか
溶解工程のみを有する工場等(自社内で圧延・鍛造等の製品工程を行わず、半製品を外販のみする工場等)は、アルミニウム製造業ベンチマークの対象外となります。アルミ製品まで一貫して製造する事業所の溶解工程が上工程ベンチマークの対象です。
電力由来排出は排出枠割当の対象ですか
GX-ETSは国内におけるCO2直接排出のみを対象とする制度であり、外部購入電力に由来する間接排出は排出枠割当の対象外です。ただし、移行計画には間接排出量として記載する必要があり、グリーン電力の調達、PPA活用、再エネ自家発の導入による削減効果を投資計画で示すことになります。
アルミスクラップの前処理時の燃料消費はどこに計上しますか
アルミスクラップに付着するラベル・塗膜・油分等を前処理工程で熱処理する場合、当該熱処理炉が上工程(溶解工程)のバウンダリ内に設置され半製品製造と直接連動している場合は、その燃料消費を上工程の直接排出として計上します。剥離ガス処理(後燃焼・触媒燃焼等)も燃料消費として捕捉します。
まとめ
アルミニウム・同合金圧延及びアルミニウム鍛造品を製造する事業にとってGX-ETSは、上工程(溶解工程、目指すべき原単位2026年度0.2229→2030年度0.2098 tCO2/t)と下工程(製品工程、2026年度0.2696→2030年度0.2682 tCO2/t)の2つのベンチマークでCO2直接排出を算定する制度設計です。GX-ETSはCO2直接排出のみを対象とし、PFC・SF6・HFC・N2O等の非CO2ガスや電力由来の間接排出は対象外です。溶解炉ごとの炉サイズ・チャージ数の把握と補正係数計算、製品工程の工程別燃料計量、溶剤焼却の把握を整備し、登録確認機関の第三者確認を通過させることが実務の要です。排出枠市場の活用と未償却相当負担金リスクの管理、電化炉・水素バーナー・再生アルミ活用などの投資を移行計画で対外公表することが、この制度下でのアルミ圧延・鍛造事業者の対応の骨格となります。
参考リンク
- 経済産業省 排出量取引制度のページ
- GX推進機構 排出量取引制度関連情報
- デジタル庁 GビズID
- GX推進法 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律


