【排出量取引】ETSとは?仕組みと世界の動向について解説

排出量取引(Emissions Trading System: ETS)は、温室効果ガス(GHG)の排出を抑制するための市場ベースの仕組み(カーボンプライシング)です。企業や団体が設定された排出上限(キャップ)の範囲内で排出量を削減する義務を負い、余剰枠や不足分を取引することで、社会全体として最も低いコストで削減目標を達成することを目指します。

2025年現在、世界中でETSの導入が進んでおり、日本でも「GXリーグ」における試行運用(第1フェーズ)を経て、2026年度からの本格稼働(第2フェーズ:義務的参加・有償オークション導入)に向けた制度設計が大詰めを迎えています。
本記事では、ETSの基本的な仕組み、世界の主要制度(EU、中国、韓国等)の比較、そして日本のGX-ETSの最新動向と企業への影響について解説します。

※令和7年7月2日に経済産業省 GXグループにて発表された「排出量取引制度の詳細設計に向けた検討方針」を反映した内容は下記記事となります。

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目次

1. 排出量取引制度の基本仕組み

引用:キャップ・アンド・トレード方式による 国内排出量取引制度について

キャップ&トレード方式

キャップ&トレード(Cap-and-Trade)方式は、排出量取引制度の最も代表的なモデルです。

排出上限(キャップ)の設定
政府や規制当局が、国全体や特定セクター(発電、鉄鋼など)の年間排出総量に上限(キャップ)を設定します。このキャップは、国の削減目標(NDC)と整合するように年々引き下げられます。

排出枠の配分
・無償配分: 過去の排出実績(グランドファザリング)や効率性基準(ベンチマーク)に基づき、企業に無償で枠を配る方式。急激な負担増を防ぐために導入初期に用いられます。
・有償オークション: 企業が競売(入札)によって排出枠を購入する方式。「汚染者負担原則」に基づき、近年はこの方式への移行が世界的潮流です。

取引(トレード)とコンプライアンス
企業は、自社の実際の排出量に見合うだけの「排出枠」を期末に提出(償却)する義務があります。枠が不足する場合は市場から購入し、余れば売却することができます。遵守できない場合は、市場価格の数倍に相当する厳しい罰金が課されます。

ETSのメリット

ETSは、以下の点で効果的とされています

経済効率
削減コストが低い企業がより多くの削減を行い、高コストの企業は排出枠を購入することで全体のコストを最小化できます。

削減目標の達成
キャップの設定により、目標とする排出量削減を確実に達成するように促します。

イノベーションの促進
排出削減のための新技術や手法の開発を誘発することができます。

罰金制度の役割

ETSには、規定を遵守しない企業に対して罰金が課される仕組みが存在します。
この罰金制度は、規制の実効性を高める重要な要素です。
例えば、以下のようなケースが想定されます。

EU ETS
1トンの超過排出に対して100ユーロ以上の罰金が課されます。

韓国 ETS
罰金額は最大1トンあたり100,000ウォン(約80米ドル)となっています。

カリフォルニア ETS
排出量報告の不履行に対しても厳しい罰金が設定されています。

このように、罰金制度があることで、企業が排出量を適切に管理するインセンティブが働きます。

2. 世界の主要な排出量取引制度(ETS)の比較

引用:JETRO 世界をリードするEUのカーボン・プライシング(1)

EU ETS

・開始:2005年(世界最大・最古)
・特徴:対象は発電・重工業に加え、海運や航空もカバー。2024年からキャップ削減が加速され、無償配分の廃止とCBAM(炭素国境調整メカニズム)への移行が進んでいます。排出枠価格(EUA)は高水準(60-100ユーロ/t前後)で推移しています。

韓国 ETS

・開始:2015年
・特徴:全排出量の約7割をカバーする包括的な制度。有償割当比率を段階的に引き上げています。

中国 ETS

・開始:2021年(排出量カバー率で世界最大)
・特徴:現在は発電部門のみが対象ですが、鉄鋼やセメント等への拡大が計画されています。排出枠は主に無償配分されており、価格は比較的低位で安定しています。

カリフォルニア(米国) ETS

・特徴:ケベック州(カナダ)と市場をリンクさせています。厳格な価格下限(フロアプライス)を設定し、予見可能性を高めている点が特徴です。

3. 排出量取引制度(ETS)と日本GXリーグの違い

日本独自の「GX-ETS」は、企業の自主性を重んじた段階的な導入アプローチをとっています。

フェーズ1(2023~2025年度):自主参加型・試行期間
・対象:GXリーグ参画企業(自主的な目標設定)。
・義務:目標未達時の罰則はなく、超過削減枠の取引も自主的。
・配分:全量無償配分。

フェーズ2(2026年度~):義務的参加・本格稼働へ
・対象:排出量が多い特定事業者(大企業中心)に対し、規律が強化されます。
・義務:目標達成が強く求められ、未達時の「課徴金(サーチャージ)」導入も検討されています。
・配分:発電事業者には有償オークションが一部導入され、多排出産業にはベンチマーク方式に基づく無償配分(排出効率に応じた配分)が適用される見込みです。

海外ETSとの最大の違いは、「自主的枠組みから始まり、徐々に法的拘束力を持つ制度へ進化している(ソフトローからハードローへ)」という点です。

4. 排出量取引制度(ETS)の課題と将来展望

引用:GX実現に向けたカーボンプライシング専門ワーキンググループ 
   排出量取引制度(ETS)における価格安定化機能

課題

カーボンリーケージと産業競争力
炭素価格が高い国の企業が、規制の緩い国へ拠点を移してしまう「カーボンリーケージ」のリスクがあります。これ防ぐため、EUのCBAM(国境炭素税)のような調整措置や、GX-ETSにおける無償配分の適切な設計(特定産業への配慮)が重要課題です。

将来展望

市場の統合と価格収斂
長期的には、各国のETSが連携(リンキング)し、炭素価格が世界的に収斂していく可能性があります。また、日本企業にとっては、GX-ETSでの実績(排出枠の償却)が、国際的なサプライチェーンにおける「低炭素評価」や、CBAMの適用免除要件として認められるかどうかが焦点となります。

排出量取引制度のまとめ

排出量取引(ETS)は、脱炭素を「コスト」から「市場価値」へと転換する仕組みです。2026年度からのGX-ETS本格稼働を見据え、日本企業は単に「削減する」だけでなく、「排出枠を資産として管理する(カーボン・マネジメント)」能力が求められます。正確な算定(MRV)と第三者保証を基盤とし、カーボンプライシングを経営戦略に組み込むことが、次世代の競争力を左右します。

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この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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