【GX-ETS】 有機化学工業 燃料BMと工場全体算定

本稿はサステナビリティスタンダードパートナーズの編集部が、GX推進法に基づく排出量取引制度について、有機化学工業製品製造業がどのように制度対象となり、加熱炉・ボイラー・コジェネレーションの燃焼排出、燃料ガスヘッダー管理、フレア排出を踏まえて、工場等全体の燃料使用量(GJ)を基準活動量とする燃料ベンチマーク(05b)で排出目標量を算定し、排出枠償却に至るのかを整理するものです。なおGX-ETSはCO2直接排出のみを対象とし、硝酸・アジピン酸製造のN2O等の非CO2温室効果ガスは本制度の対象外です。

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目次

結論

有機化学工業製品製造業者は、CO2直接排出量の年度平均が10万t以上となる事業者としてGX-ETSの制度対象となり、有機化学工業製品製造業ベンチマーク(05b、燃料BM)で排出目標量を算定します。ベンチマーク指標は直接排出量/燃料使用量、基準活動量は基準年度における燃料使用量の平均で、目指すべき原単位は2026年度0.06146、2030年度0.05834 tCO2/GJです。同一工場内の多様な加熱炉・ボイラー・コジェネ設備の燃料計量、燃料ガスヘッダーでの混焼按分、フレアリングの把握が実務の軸となり、工場全体の燃料使用量を網羅的に計上しつつ、同一工場内の他ベンチマーク対象プロセスと重複させないバウンダリ管理が求められます。GX-ETSはCO2直接排出のみを対象とし、硝酸・アジピン酸製造のN2O等の非CO2ガスは対象外です。

背景

有機化学工業製品製造業は、日本標準産業分類における小分類の有機化学工業製品製造業のうち発酵工業を除いた事業が該当し、エチレン・プロピレン・BTX等の基礎化学品から、合成樹脂原料、中間体、ファインケミカルに至る幅広い有機化学品を製造する業種です。エネルギー使用量が1,500kl/年(原油換算)以上でSHK制度上の主たる事業が有機化学工業製品製造業として提出公表されている工場等全体の燃料使用に伴う直接排出がベンチマーク算定の対象となります。同一工場内に別のベンチマーク対象事業がある場合は、当該事業に係る工程の排出を除外して算定します。

SSPの定義

SSPはサステナビリティスタンダードパートナーズの略称で、経済産業省 GXリーグ登録検証機関として第三者確認を含む第三者保証業務を主業とする機関です。本稿における有機化学工業製品製造業とは、日本標準産業分類小分類の有機化学工業製品製造業(発酵工業を除く)を指します。燃料ガスヘッダーとは、工場内の複数装置から発生する燃料ガス(オフガス)を集約し、加熱炉やボイラーの燃料として配分する母管系統をいいます。オフガスは反応器出口から分離回収されるメタン・水素・C2リッチ留分等を含み、燃料ガスヘッダーを介して自所の加熱炉・ボイラー燃料として再利用されます。

変更点の要約

  • 有機化学工業製品製造業ベンチマーク(05b)は燃料BMで、基準活動量は燃料使用量(GJ)の平均、目指すべき原単位は2026年度0.06146→2030年度0.05834 tCO2/GJです。
  • 対象はエネルギー使用量1,500kl/年(原油換算)以上で、SHK制度上の主たる事業が有機化学工業製品製造業として公表されている工場等全体の燃料使用です。
  • 燃料ガスヘッダー経由のオフガス自家消費燃焼も熱量比による按分で算定対象に含めます。
  • 同一工場内に別ベンチマーク対象事業(例: ソーダ工業、ゴム製品等)がある場合は、該当工程排出を除外して切り分けます。
  • フレア排出(定常フレアのパイロット燃料および非定常フレアイベント)は工場等の燃料使用に伴う直接排出として計上します。
  • GX-ETSはCO2直接排出のみが対象で、硝酸・アジピン酸製造のN2O等の非CO2ガスや電力由来間接排出は本制度の対象外です。

基礎知識

有機化学品の排出管理で押さえるべき前提は3点です。第1は工場単位の網羅で、加熱炉、蒸気ボイラー、コジェネ、発動機、燃焼塔、排ガス処理炉など燃料を消費する全ての設備を洗い出し、燃料使用量(GJ)のマスバランスを構築します。第2は燃料ガスヘッダー管理で、オフガスと購入ガスを同一ヘッダーに混合する場合、各装置への供給量を熱量比で按分し、炉別・ボイラー別の燃料使用量を求めます。第3はバウンダリの整合で、同一工場等内に別ベンチマーク対象事業がある場合は、該当工程の燃料使用を除外して切り分けます。なおGX-ETSはCO2直接排出のみを対象とし、硝酸・アジピン酸製造のN2O等の非CO2ガスは本制度の対象外です。

論点整理表

論点制度上の位置づけ有機化学品製造での該当判断基準実務上の留意点
対象判定GX推進法第33条第1項年度平均排出量10万t以上直近3年度のCO2直接排出量の平均石化コンビナート系は対象可能性高い
ベンチマーク区分実施指針有機化学工業製品製造業工場全体の燃料使用SHK制度の主たる事業と整合
加熱炉エネルギー由来各種炉燃料別×係数炉別計量が望ましい
蒸気ボイラーエネルギー由来補助・主力燃料別×係数ユーティリティ一括計量可
コジェネエネルギー由来発電・蒸気同時供給燃料×係数外販分も直接排出で計上
(参考)FCC触媒再生炉 ※05bは燃料BM、原材料起源は別計上プロセス触媒コークス燃焼再生炉排出ガス触媒循環量と整合
(参考)N2O(硝酸) ※GX-ETS対象外非CO2高温反応器処理設備の有無で係数変動GWP265で換算
(参考)N2O(アジピン酸) ※GX-ETS対象外非CO2酸化反応N2O除去装置の有無大きな変動要因
フレア・漏洩算定対象非定常排出流量計と組成運転日誌と連携
排出枠償却GX推進法翌年度1月31日までに保有保有義務量分の排出枠不足分は上限価格の1.1倍を負担金として納付

比較表

排出源主要燃料・ガス算定方法証憑
加熱炉燃料ガス・LPG・重油燃料×発熱量×係数炉別流量計
蒸気ボイラー燃料ガス・天然ガス燃料×発熱量×係数ボイラー日報
コジェネ発電天然ガス・燃料ガス燃料×発熱量×係数発電実績表
FCC再生炉触媒コークス排出ガスCO2計測再生炉排ガス組成
硝酸N2ON2O反応量×係数×GWP生産量と装置情報
アジピン酸N2ON2O反応量×係数×GWP除去装置の有無
フレア燃料ガス放散流量×組成×係数フレア流量計
漏洩炭化水素ガス検知×滞留時間LDAR記録

制度対象判定とスケジュール特例

工場単位と事業者単位

有機化学工業製品の大規模事業所は、単工場の年度平均排出量が数十万tから数百万tに達する例が多く、事業者単位で見れば初年度から制度対象となる可能性が高い業種です。判定は事業者単位で、コンビナート内の複数法人がそれぞれ別事業者として個別判定を行う構造となります。

2026年度特例

2026年度に対象となる場合、2026年9月末までに基礎情報と年度平均排出量のみ届出し、排出目標量等は2027年9月末まで猶予されます。2026年度を活用して、工場全体の燃料使用量(GJ)のマスバランス整備、燃料ガスヘッダー混焼按分の標準化、フレア計量体制、登録確認機関との契約を進めることが推奨されます。

有機化学品ベンチマークの仕組み

算定式と活動量

有機化学工業製品製造業ベンチマーク(05b)は燃料BMで、排出目標量=目指すべき原単位×基準活動量の構造です(直接排出比率は適用外)。基準活動量は基準年度における工場等の燃料使用量(ギガジュール)の平均で、目指すべき原単位は2026年度0.06146、2030年度0.05834 tCO2/GJです。燃料使用量は購買量、購買量+在庫変動、または燃料使用量の計測で把握し、単位発熱量はデフォルト値・実測値・燃料供給事業者提供値・事業者が組成等から算定した発熱量から選定します。SHK制度で公表されている事業分類と整合させ、工場単位で燃料使用量を網羅します。

同一工場内の他BM対象事業との調整

同一工場等内で有機化学工業製品製造業以外のベンチマーク対象事業(例としてソーダ工業、紙パルプ、05a石油化学系基礎製品製造など)が並存する場合、各ベンチマークのバウンダリを排出源レベルで切り分け、二重計上を避ける運用が必要です。特にナフサクラッカーを保有する場合は、2026年5月14日改訂で新設された「05a 石油化学系基礎製品製造」ベンチマーク(製品BM、目指すべき原単位2026年度0.4791→2030年度0.4647 tCO2/t、☑直接排出比率)が適用されるため、ナフサクラッカー部分は05aで個別算定し、それ以外の有機化学工業製品製造を05b(燃料BM)で算定する切り分けが必要です。バウンダリ図と排出源台帳で事業所全体の整合を示します。

ベンチマークとグランドファザリングの境界

対象工程

加熱炉、蒸気ボイラー、コジェネレーション、反応器、蒸留塔、抽出塔、分離装置、排ガス処理炉、燃焼塔、ユーティリティ設備、工場内動力設備はバウンダリ内です。工場等内で自らが電気・熱を生成する場合、バウンダリ内で使用する電気・熱に加え、自社の他の工場等や他者に供給する電気・熱の生成に係る排出量も含めます(発電ベンチマーク対象となる排出は除く)。

対象外とグランドファザリング

事務所、研究所、別敷地の試験プラント、物流拠点、販売拠点などはベンチマーク対象外またはグランドファザリング扱いです。

排出枠割当と未償却相当負担金

排出枠の運用

有機化学品事業者は、エチレンプラントやアンモニアプラント、石油化学コンビナート全体を通じた最適化が排出削減の中心となります。排出枠は1t単位で無償で割り当てられ、取引市場と相対取引で売買可能です。原燃料価格と排出枠価格を同時に見据えたオペレーション最適化が求められます。

負担金リスク

翌年度1月31日時点の排出枠不足時には不足分×参考上限取引価格×1.1を未償却相当負担金として納付します。コンビナート全体の稼働率と排出量が直結するため、市況に応じた生産調整と排出枠ポジション管理が財務上の要となります。

移行計画と登録確認機関

移行計画の記載

有機化学品事業者の移行計画では、加熱炉のバーナー更新、水素混焼、アンモニア燃焼、CCUS、電化、バイオ原料採用、廃熱回収の強化などを投資計画に記載します。コンビナート全体の最適化計画も記載項目として想定されます。

確認業務のポイント

登録確認機関は、工場全体の燃料使用量(GJ)の網羅性、ヘッダー按分の妥当性(熱量比)、単位発熱量と排出係数の選定根拠、フレア流量の計測、同一工場内BM対象事業との切り分け、SHK制度分類との整合を確認します。

実務フロー

  • Step1 事業者単位の年度平均排出量を確認し、制度対象判定を確定する。
  • Step2 ERMSアカウントとGビズIDを準備し、法人等保有口座を開設する。
  • Step3 工場全体の燃料使用量(GJ)マスバランス、ヘッダー熱量比按分、フレア計量の体系を整備する。
  • Step4 登録確認機関と契約し、フロー図と装置別計量の証憑を共有する。
  • Step5 9月30日までに排出目標量等の届出と移行計画をERMSで提出する。
  • Step6 11月末頃に排出枠の無償割当を受け、法人等保有口座で残高を確認する。
  • Step7 翌年度4月から9月に排出実績量の算定と登録確認機関の確認を受け、9月30日までに報告する。
  • Step8 翌年度1月31日までに保有義務量分の排出枠を保有し、不足時は市場調達か負担金納付で対応する。

FAQ

FCC触媒再生炉は有機化学BMの対象ですか

FCC触媒再生炉は典型的には石油精製の設備であり、有機化学工業製品製造業ベンチマークの対象は有機化学工業製品製造業として公表される工場等全体の燃料使用です。FCC再生炉の触媒コークス燃焼は原材料起源CO2に該当し、本ベンチマーク(燃料BM)の対象ではなく、排出実績量算定時には別途原材料起源CO2として計上します。詳細は排出量算定・報告マニュアルおよび届出・排出目標量等算定マニュアルを参照します。

燃料ガスヘッダーの按分方法は

複数装置のオフガスと外部購入燃料を混合して各装置に供給する場合、各装置の燃料流量計と熱量計測から熱量ベースで按分します。熱量は高位発熱量を使用し、混合ガスの組成分析を継続的に行って算定根拠とします。

同一工場内に別ベンチマーク対象事業がある場合は

同一工場等内でソーダ工業(03)、ゴム製品製造業(07)など別のベンチマーク対象事業を営んでいる場合、該当事業に係る工程における燃料使用分を本ベンチマークの対象から除外します。バウンダリ図と排出源台帳で切り分け根拠を整備し、登録確認機関の確認に備えます。なおGX-ETSはCO2直接排出のみを対象とし、アジピン酸製造のN2O等の非CO2ガスは本制度の対象外です。

フレアリングの排出はどう計上しますか

定常フレアのパイロット燃料および非定常フレアイベントによる放散は、工場等の燃料使用に伴う直接排出として計上します。フレア主管に流量計を設置し、イベント別に日時・放散量・ガス組成・原因を記録、定常時のパイロット燃料消費は別記録、月次・年次でイベント合計を集計します。なおフランジ・バルブ・ポンプシール等からの炭化水素漏洩(LDAR対象)のうちCH4成分はGX-ETSの対象外です(CO2成分は直接排出として計上)。

コジェネ電力を外販した場合は

コジェネ燃料燃焼による直接排出は全量当社バウンダリで計上し、外販電力・蒸気の使用に伴う排出は受入側が間接排出として計上する整理です。売電契約書と計量記録で整合を取ります。

SHK制度の分類と本制度の事業分類はどう整合しますか

SHK制度(温対法の算定報告公表制度)の主たる事業が有機化学工業製品製造業として提出公表されている工場がベンチマーク対象となる運用のため、両制度の分類を整合させた上で登録確認機関に示します。

まとめ

有機化学工業製品製造業にとってGX-ETSは、工場等全体の燃料使用量(GJ)を基準活動量とする燃料ベンチマーク(05b、目指すべき原単位2026年度0.06146→2030年度0.05834 tCO2/GJ)で排出目標量を算定する制度設計です。GX-ETSはCO2直接排出のみが対象で、硝酸・アジピン酸製造のN2O等の非CO2ガスや電力由来の間接排出は対象外です。工場全体の燃料使用量マスバランスと装置別計量、燃料ガスヘッダーの熱量比按分、フレア排出の把握を整備し、同一工場内の他ベンチマーク対象事業との切り分けを明確化したうえで、登録確認機関の第三者確認を通過させることが実務の核心となります。排出枠市場の活用と未償却相当負担金リスクの管理、加熱炉更新・水素混焼・CCUS・電化などの投資を移行計画で対外公表することが、この制度下でのコンビナート事業者の対応の骨格となります。

参考リンク

  • 経済産業省 排出量取引制度のページ
  • GX推進機構 排出量取引制度関連情報
  • デジタル庁 GビズID
  • GX推進法 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律
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この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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