【GX-ETS】 紙パルプ産業 黒液回収ボイラーの管理

本稿はサステナビリティスタンダードパートナーズが、GX推進法に基づく排出量取引制度について、紙パルプ産業がどのように制度対象となり、黒液回収ボイラーのバイオマス燃料、洋紙・板紙の製造工程、補助化石燃料の燃焼、含水率管理と絶乾換算の実務を踏まえて排出目標量を算定し、排出枠償却に至るのかを整理するものです。なおGX-ETSはCO2直接排出のみを対象とし、廃水処理由来のメタン・N2O等の非CO2ガスは本制度の対象外です。

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目次

結論

紙パルプ製造業者は、CO2直接排出量の年度平均が10万t以上となる事業者としてGX-ETSの制度対象となり、洋紙製造業(目指すべき原単位2026年度1.086→2030年度1.010 tCO2/t)と板紙製造業(2026年度0.4668→2030年度0.4345 tCO2/t)のベンチマーク方式(いずれも直接排出比率を乗じる構造)で排出目標量を算定します。排出構造の特徴は、黒液回収ボイラーで燃焼されるバイオマス燃料のCO2は算定対象外とする一方、補助化石燃料(重油・都市ガス等)の燃焼CO2は算定対象となる点です。バイオマス燃料の含水率管理と絶乾換算、化石燃料の計量精度が実務の焦点となります(GX-ETSはCO2直接排出のみを対象とし、廃水処理のメタン・N2O等の非CO2ガスは対象外)。

背景

紙パルプ産業は、木質チップを原料にクラフト法や機械パルプ法でパルプを製造し、抄紙機で洋紙や板紙を製造する一連の工程を運営する業種です。エネルギー集約型産業として国内CO2排出の主要業種の一つで、クラフト法パルプでは廃液として発生する黒液を濃縮してバイオマス燃料として燃焼する黒液回収ボイラーが中心設備となります。GX-ETSでは洋紙製造業と板紙製造業それぞれに独立したベンチマークが設定され、直接排出比率を乗じる構造の算定式が採用されています。

SSPの定義

SSPはサステナビリティスタンダードパートナーズの略称で、経済産業省 GXリーグ登録検証機関として第三者確認を含む第三者保証業務を主業とする機関です。本稿における紙パルプ産業とは、洋紙製造業および板紙製造業、並びにパルプ製造を一体で行う事業を指します。黒液は、クラフト蒸解工程で生じる黒色の廃液で、有機成分を濃縮して回収ボイラーで燃焼する際にバイオマス由来のCO2を放出します。絶乾換算とは、バイオマス燃料の水分を除いた乾燥重量での計量をいい、燃焼CO2算定と発熱量管理の基礎となります。

変更点の要約

  • 洋紙製造業と板紙製造業のベンチマークが独立して設定されました。
  • バイオマス燃料のCO2は算定対象外とする運用が明確化されました。
  • 補助化石燃料や都市ガス・重油のCO2は算定対象として明示されました。
  • GX-ETSはCO2直接排出のみを対象とし、廃水処理由来のメタン・N2Oや間接排出は本制度の対象外です。
  • 廃プラ・廃タイヤ等を燃料として使用する場合は、化石由来炭素とバイオマス由来炭素を区分し、化石由来分にのみ排出係数を適用します。
  • バイオマス燃料の含水率管理と絶乾換算は最重要項目として位置づけられました。

基礎知識

紙パルプの排出管理で押さえるべき前提は3点です。第1はバイオマスと化石燃料の切り分けで、黒液、木質バイオマス、バーク、廃材由来燃料はCO2算定対象外とし、重油・都市ガス・LPG・石炭などの化石燃料は算定対象とします。混焼時は熱量比で按分します。第2は絶乾ベースでの計量で、バイオマス燃料は水分含有率が30-60%に達するため、湿潤重量と含水率を計量して絶乾換算する標準手順を運用します。第3はGX-ETSの対象範囲の理解で、本制度はCO2直接排出のみを対象とし、廃水処理由来のメタン・N2Oや間接排出は対象外です。

論点整理表

論点制度上の位置づけ紙パルプ産業での該当判断基準実務上の留意点
対象判定GX推進法第33条第1項年度平均排出量10万t以上直近3年度のCO2直接排出量の平均大手製紙は対象となる可能性が高い
ベンチマーク区分実施指針洋紙・板紙の2系統製品種別に対応同一事業所で混在あり
黒液回収ボイラーバイオマスCO2算定対象外バイオマス由来炭素補助燃料は別計上
化石燃料ボイラーエネルギー由来重油・都市ガス等燃料別排出係数ボイラー別計量
バーク・木質バイオマスCO2算定対象外バイオマス由来絶乾換算で管理
パルプ漂白要確認ClO2・O3等製造プロセスでのCO2個別工程で確認
廃水メタン非CO2嫌気処理由来BOD×係数×GWPサンプリング分析
廃水N2O非CO2硝化脱窒由来窒素負荷×係数×GWP処理場で分析
廃棄物焼却エネルギー由来スラッジ等化石炭素比率×係数組成分析が必要
排出枠償却GX推進法翌年度1月31日までに保有保有義務量分の排出枠不足分は上限価格の1.1倍を負担金として納付

比較表

排出フロー算定区分計算方法証憑
黒液燃焼バイオマスCO2(対象外)記録はするが集計せず黒液流量と固形分
補助燃料化石CO2(対象)燃料×発熱量×係数燃料払出票
バーク燃焼バイオマス(対象外)記録のみ受入伝票と絶乾
抄紙機加熱化石CO2ガス・重油計量ラインボイラー記録
漂白工程プロセス要確認マニュアル準拠工程日誌
廃水メタン非CO2BOD×係数×GWP25排水分析
廃水N2O非CO2N負荷×係数×GWP265処理場記録
汚泥焼却化石CO2組成×化石比率×係数焼却管理票

制度対象判定とスケジュール特例

事業者単位の判定

紙パルプ製造事業者は、単工場で年度平均排出量10万tを超える大規模製紙工場が多く、事業者単位でも主要メーカーは初年度から対象となる可能性が高いです。判定は事業者単位で、子会社や関連会社は別事業者として個別判定されます。製紙・パルプ一貫工場を複数保有する事業者はグループ全体で排出量規模が大きく、共同届出の枠組みも視野に入ります。

2026年度特例

2026年度に対象となる場合、2026年9月末までに基礎情報と年度平均排出量のみ届出し、排出目標量等は2027年9月末まで猶予されます。2026年度中に、絶乾換算手順の標準化、化石燃料・バイオマス燃料の計量体系整備、黒液固形分計測の校正、登録確認機関との契約を進めることが実務上必要です。

紙パルプベンチマークの仕組み

洋紙製造業ベンチマーク

洋紙製造業のベンチマーク(01)は、排出目標量=目指すべき原単位×基準活動量×直接排出比率で算定します。基準活動量は品種毎の特性による排出原単位差を補正した洋紙生産量(トン)の平均で、品種補正係数は新聞巻取紙1.30、非塗工印刷用紙1.03、微塗工印刷用紙0.969、塗工印刷用紙0.761、情報用紙1.07、包装用紙0.803、衛生用紙1.44、雑種紙0.918です。目指すべき原単位は2026年度1.086、2030年度1.010 tCO2/tで、直接排出比率は割当年度前年度における直接排出量と間接排出量の合計に占める直接排出量の割合です。

板紙製造業ベンチマーク

板紙製造業のベンチマーク(02)も同様の算定式構造(排出目標量=目指すべき原単位×基準活動量×直接排出比率)で、基準活動量はライナー、中しん紙、白板紙、黄板紙、色板紙、雑板紙の品種補正後の板紙生産量(トン)の平均です。目指すべき原単位は2026年度0.4668、2030年度0.4345 tCO2/tです。

ベンチマークとグランドファザリングの境界

対象工程

パルプ化工程(蒸解釜、黒液濃縮装置、黒液回収ボイラー、苛性化プラント、漂白工程)と製紙工程(抄紙機の抄紙工程、コーターライン等の塗工工程、仕上工程)がバウンダリ対象です。ただし、情報用紙のうち感熱紙・感圧紙の製造における塗工・仕上工程、外販パルプの製造工程のうち抄上げ・流送工程はマニュアル01節により本BMの算定対象から除外されます。間接部門、用排水処理設備、廃棄物処理設備等の共用設備のエネルギー消費量は、洋紙・板紙製品と紙・板紙以外のエネルギー消費量に応じて按分します。

対象外とグランドファザリング

事務所、研究棟、社員食堂、別敷地の植林地、物流拠点、販売拠点などはベンチマーク対象外またはグランドファザリング扱いです。自家発電を持つ場合の発電ベンチマーク境界、外販電力・蒸気の扱いは個別整理が必要です。

排出枠割当と未償却相当負担金

排出枠の運用

紙パルプ事業者は、バイオマス燃料利用比率が高いほど化石CO2直接排出が相対的に小さく、排出枠規模も抑えられる構造です。排出削減はバイオマス燃料利用拡大、廃熱回収、化石燃料転換(重油から都市ガスへ、都市ガスから水素へ)、CCUS導入などが中心です。排出枠は1t単位で無償で割り当てられ、取引市場で売買可能です。

負担金リスク

翌年度1月31日時点の排出枠不足時には不足分×参考上限取引価格×1.1を未償却相当負担金として納付します。バイオマス比率の変動、紙需要の変動、化石燃料価格の変動が排出実績量に影響するため、月次モニタリングと排出枠市場のポジション管理が経営上の要となります。

移行計画と登録確認機関

移行計画の記載

紙パルプ事業者の移行計画では、バイオマスボイラー増設、黒液回収効率化、化石燃料転換、廃熱発電、CCUS導入、水素混焼、未利用材活用などを投資計画に記載します。該当工場等にはボイラーラインや抄紙機ラインを個別に示します。

確認業務のポイント

登録確認機関は、バイオマス燃料の絶乾換算、化石燃料計量、直接排出比率(前年度の直接排出量/(直接+間接)排出量)の算出根拠、混焼時の熱量按分、品種補正係数の適用、共用設備エネルギーの按分方法、黒液固形分の計測校正を確認します。

実務フロー

  • Step1 事業者単位の年度平均排出量を確認し、制度対象判定を確定する。
  • Step2 ERMSアカウントとGビズIDを準備し、法人等保有口座を開設する。
  • Step3 洋紙・板紙別、バイオマス・化石燃料別の計量体系と品種別生産量の集計体制を整備する。
  • Step4 登録確認機関と契約し、絶乾換算手順と分析記録を共有する。
  • Step5 9月30日までに排出目標量等の届出と移行計画をERMSで提出する。
  • Step6 11月末頃に排出枠の無償割当を受け、法人等保有口座で残高を確認する。
  • Step7 翌年度4月から9月に排出実績量の算定と登録確認機関の確認を受け、9月30日までに報告する。
  • Step8 翌年度1月31日までに保有義務量分の排出枠を保有し、不足時は市場調達か負担金納付で対応する。

FAQ

黒液のCO2は本当に算定対象外ですか

黒液はバイオマス由来の有機物を主成分とするため、燃焼時のCO2はバイオマス由来として扱い、直接排出量の算定に含めない運用が標準です。ただし、黒液中に混入する化石由来添加剤がある場合、その分は別計上が必要になる可能性があります。取扱いは排出量算定・報告マニュアルの該当節を参照します。

バーク・木質チップの絶乾換算はどう行いますか

受入ロットごとに含水率を計測し、湿潤重量に含水率に対応する変換係数を乗じて絶乾重量を算出します。計測はサンプリング方式で行い、ロット間の変動を反映した季節別・樹種別の管理が望ましい運用です。計測頻度と手順を社内標準化し証憑として整備します。

共用設備(排水処理・廃棄物処理等)のエネルギー消費はどう扱いますか

間接部門、用排水処理設備、廃棄物処理設備等の共用設備のエネルギー消費量は、洋紙・板紙製品と紙・板紙以外のエネルギー消費量に応じて按分し、ベンチマークのバウンダリ内に含めます。按分方法の継続性を確保し、按分比率の算出根拠を証憑として整備します。なおGX-ETSはCO2直接排出のみを対象とするため、排水処理の嫌気性分解に伴うメタン・硝化脱窒のN2Oは本制度の算定対象外です。

漂白工程のCO2排出はありますか

漂白工程で使用する二酸化塩素、オゾン、酸素、アルカリ剤などの薬剤自体によるCO2排出は限定的ですが、漂白薬剤の製造・輸送に伴う排出は間接排出の範囲です。工程内の加熱蒸気消費分は工場ボイラーの直接排出に含まれる形で計上します。

廃棄物汚泥の焼却はどう計上しますか

パルプ汚泥や製紙汚泥の焼却は、汚泥の組成分析から化石炭素比率を求め、化石由来分にのみ排出係数を適用して算定します。バイオマス由来部分は別途記録しますが算定対象外です。焼却量と組成分析の証憑を整備します。

コジェネから外部に電力・蒸気を供給している場合は

コジェネレーションの燃料消費のうち、本ベンチマーク対象工程(パルプ化工程・製紙工程)で消費する電気・熱の生成に係る分のみが当社のバウンダリ内で直接排出として計上されます。マニュアル01節・02節では「他者や自社の他の工場等または同工場等内の他の工程に供給したものに係る排出」を本BM対象から除外することを明記しています。したがって、外販電力・蒸気はもとより、自社他工場や同工場内他工程への供給分の燃料消費もBM対象外となり、外販分の使用に伴う排出は受入側事業者が自社の間接排出で計上する整理です。外販量・他工程供給量を計量し、契約と証憑で整合を取ります。

まとめ

紙パルプ産業にとってGX-ETSは、洋紙製造業(2026年度1.086→2030年度1.010 tCO2/t)と板紙製造業(2026年度0.4668→2030年度0.4345 tCO2/t)のベンチマークで、目指すべき原単位×基準活動量×直接排出比率の算定構造を用いる制度設計です。黒液やバーク等のバイオマス燃料はCO2算定対象外としつつ、補助化石燃料の燃焼CO2は算定対象となります。GX-ETSはCO2直接排出のみを対象とし、廃水処理のメタン・N2O等の非CO2ガスや電力由来の間接排出は対象外です。バイオマス燃料の含水率管理と絶乾換算、化石燃料の計量、品種補正係数の適用、直接排出比率の算出根拠の整備を登録確認機関の確認に耐える形で進めることが実務の核心となります。排出枠市場の活用と未償却相当負担金リスクの管理、バイオマス拡大・化石燃料転換・CCUS・水素混焼を移行計画で対外公表することが、この制度下での紙パルプ事業者の対応の骨格となります。

参考リンク

  • 経済産業省 排出量取引制度のページ
  • GX推進機構 排出量取引制度関連情報
  • デジタル庁 GビズID
  • GX推進法 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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