本稿はサステナビリティスタンダードパートナーズが、GX推進法に基づく排出量取引制度について、石灰製造業がどのように制度対象となり、石灰石の熱分解による生石灰CaO生成のプロセスCO2、ロータリーキルンや立窯の燃料燃焼、軽焼ドロマイトの原材料起源、構内移動燃焼と循環粉の管理を踏まえて排出目標量を算定し、排出枠償却に至るのかを整理するものです。


結論
石灰製造業者は、CO2直接排出量の年度平均が10万t以上となる事業者としてGX-ETSの制度対象となり、石灰製造業のベンチマーク方式で排出目標量を算定します。排出の大半は石灰石CaCO3の熱分解に由来するプロセスCO2で、そこにキルン燃料の燃焼CO2が重なります。軽焼ドロマイトを製造する事業者は、別の算定式に準拠します。石灰石と生石灰を原料投入と製品出荷の両面でマスバランス管理し、循環粉の再投入に伴う二重計上回避、移動燃焼の計上、燃料種別の排出係数選定を標準化することが実務の要となります。
背景
石灰製造業は、石灰石を採掘・選別し、ロータリーキルンまたは立窯で焼成して生石灰CaOおよび軽焼ドロマイトを製造する業種です。鉄鋼、セメント、化学、建設の各業界の基礎素材として重要な位置にあり、国内生産量は年間約900万tに達します。GX-ETSでは石灰製造業として独立したベンチマークが設定され、生石灰原材料起源と軽焼ドロマイト原材料起源の算定式が整備されました。石灰石の熱分解で生石灰1tあたり約0.79tのCO2(石灰石1t投入あたりは0.428t)が発生し、これに加えて石炭・重油・都市ガスなどの燃料燃焼CO2が重なるため、プロセスCO2と燃焼CO2の切り分けと、原料マスバランスの整合が制度対応の出発点となります。
SSPの定義
SSPはサステナビリティスタンダードパートナーズの略称で、経済産業省 GXリーグ登録検証機関として第三者確認を含む第三者保証業務を主業とする機関です。本稿における石灰製造業とは、石灰石を焼成して生石灰CaOを製造する事業、およびドロマイト鉱を焼成して軽焼ドロマイトを製造する事業を包括的に指します。生石灰とは酸化カルシウムCaOで、水和反応で消石灰に転化する基礎材料です。軽焼ドロマイトとはCaCO3とMgCO3の複塩を部分的に熱分解して得られる材料で、鉄鋼の造滓剤や化学工業の原料として用いられます。循環粉とは、焼成工程で発生する微粉状副産物を再投入して再焼成する物量で、マスバランス管理の要点です。
変更点の要約
- 石灰製造業は生石灰原材料起源、軽焼ドロマイト原材料起源、エネルギー起源の3系統の算定式で構成されます。
- 石灰石投入量と純度、生石灰生産量とCaO純度の両面からのプロセスCO2算定が求められます。
- ロータリーキルンや立窯の燃料燃焼は燃料種別に高位発熱量と排出係数を適用します。
- 構内のフォークリフト等の移動燃焼も算定対象に含まれる運用となります。
- 循環粉の再投入はマスバランスで管理し、プロセスCO2の二重計上を避ける必要があります。
- 複数のキルンラインを持つ事業者は、ライン別の燃料計量と生産量把握が求められます。
基礎知識
石灰製造の排出管理で押さえるべき前提は3点です。第1は3系統の算定式の適用で、生石灰原材料起源(原料石灰石由来のプロセスCO2)、軽焼ドロマイト原材料起源(原料ドロマイト由来のプロセスCO2)、エネルギー起源(生石灰・軽焼ドロマイトの焼成に伴う燃料燃焼CO2)をそれぞれ生産量ベースで算定し合算します。第2は軽焼ドロマイトの扱いで、生石灰とは別の算定式に従うため、同一事業者で両製品を製造している場合はラインと計量を分離します。第3は燃料計量で、石炭、重油、LPG、天然ガス、廃プラ、廃油等多様な燃料を使用する工場では、燃料種別の受入量と消費量を逐次記録し、高位発熱量と排出係数を出典明示で適用する必要があります。
論点整理表
| 論点 | 制度上の位置づけ | 石灰製造業での該当 | 判断基準 | 実務上の留意点 |
|---|---|---|---|---|
| 対象判定 | GX推進法第33条第1項 | 年度平均排出量10万t以上 | 直近3年度のCO2直接排出量の平均 | 中堅事業者でも閾値超過の可能性 |
| ベンチマーク区分 | 実施指針 | 生石灰・軽焼ドロマイトの2系統 | 製品種別に対応 | 混在事業者は個別算定 |
| プロセスCO2 | 非エネルギー由来 | 石灰石の熱分解 | 原料起源または製品起源 | 算定法の継続性を確保 |
| 燃料燃焼 | エネルギー由来 | 石炭・重油・天然ガス等 | 燃料別排出係数 | キルン別の計量を整備 |
| 軽焼ドロマイト | 別算定式 | ドロマイト鉱の焼成 | 軽焼ドロマイト原材料起源式 | MgCO3とCaCO3の分解を分離 |
| 構内移動燃焼 | 算定対象 | フォークリフト・ホイールローダー | 車両燃料計量 | 燃料種別ごとに集計 |
| 循環粉 | マスバランス | 微粉再投入 | 投入と再投入の計量整合 | プロセスCO2の二重計上回避 |
| 排出枠償却 | GX推進法 | 翌年度1月31日までに保有 | 保有義務量分の排出枠 | 不足分は上限価格の1.1倍を負担金として納付 |
比較表
| 排出源 | 分類 | 算定方法 | 主な証憑 |
|---|---|---|---|
| 石灰石分解 | プロセスCO2 | 石灰石×純度×脱炭酸係数 | 石灰石受入証と分析 |
| 生石灰生成起源 | プロセスCO2代替 | 生石灰×CaO率×石灰石由来 | 生石灰出荷記録 |
| ドロマイト分解 | プロセスCO2 | 軽焼ドロマイト式 | ドロマイト受入と分析 |
| 石炭燃焼 | エネルギー由来 | 投入×発熱量×係数 | 石炭受入伝票と成分分析 |
| 重油燃焼 | エネルギー由来 | 使用量×発熱量×係数 | 重油払出票 |
| 構内移動燃焼 | エネルギー由来 | 車両別燃料計量 | 給油日誌 |
制度対象判定とスケジュール特例
事業者単位の判定
石灰事業者の排出量は、年間生石灰生産量が数十万t級の工場で年度平均排出量が10万tを超えるケースが多くあります。事業者単位で判定するため、親会社が複数の石灰工場を運営する場合は全社合算、子会社として分かれている場合は個別判定です。鉱業部門の採掘設備や骨材販売部門などの排出も事業者単位の合算に含まれる点に留意が必要です。
2026年度特例
2026年度に制度対象となる事業者は、2026年9月末までに基礎情報と年度平均排出量のみを届け出ればよく、排出目標量等の届出は2027年9月末まで猶予されます。石灰事業者は、石灰石純度分析の標準化、生石灰CaO組成分析の社内手順、キルン別燃料計量、循環粉マスバランスの整備、登録確認機関との契約を2026年度中に進めることが推奨されます。
石灰ベンチマークの仕組み
生石灰原材料起源の算定
生石灰を製造する事業者は、生石灰原材料起源の算定式(目指すべき原単位×基準活動量)により排出目標量を算定します。基準活動量は基準年度における生石灰の生産量(トン)の平均で、目指すべき原単位は2026年度0.7332、2030年度0.7241 tCO2/tです。プロセスCO2は原料石灰石の脱炭酸として算定し、これとは別にエネルギー起源の算定式(2026年度0.2254、2030年度0.2164 tCO2/t)で燃料燃焼CO2を合算する構造です。
軽焼ドロマイト原材料起源の算定
軽焼ドロマイトを製造する事業者は、軽焼ドロマイト原材料起源の算定式に従います。基準活動量は軽焼ドロマイトの生産量(トン)で、目指すべき原単位は2026年度0.8257、2030年度0.8190 tCO2/tです。ドロマイト鉱のCaCO3とMgCO3の含有率、軽焼度合いに応じた脱炭酸率を考慮してプロセスCO2を算定します。生石灰とは異なる排出原単位となるため、同一事業者で両方を製造している場合はラインごとの投入・生産計量で分離する運用が必要です。
ベンチマークとグランドファザリングの境界
工場バウンダリ
石灰工場における石灰石ヤード、原料粉砕、予熱装置、ロータリーキルン、立窯、クーラー、製品粉砕、集塵機、製品出荷設備、燃料受入・供給設備はバウンダリ内です。構内の移動燃焼設備も対象に含めます。製品混合施設や充填包装ラインのうち燃料消費がある設備もバウンダリ内です。
対象外とグランドファザリング
本社事務所、研究棟、別敷地の石灰石鉱山採掘設備、骨材別工場、物流倉庫などはベンチマーク対象外またはグランドファザリング扱いとなります。採掘工程の移動燃焼は鉱山側の別事業者として扱うか、事業者単位で合算するかは法人格の切り分けで決まります。
排出枠割当と未償却相当負担金
排出枠の特徴
石灰製造業はプロセスCO2の比率が極めて高く、製品1tあたりの排出原単位が大きいため、排出枠規模も絶対量で大きくなります。排出枠は1t単位で無償で割り当てられ、GX推進機構の取引市場と相対取引で売買可能です。需給変動と生産量変動に応じた排出枠ポジション管理が求められます。
負担金リスク
翌年度1月31日時点で保有義務量分の排出枠が不足すれば、不足分に参考上限取引価格を乗じ1.1を乗じた額を未償却相当負担金として納付します。石灰製造はプロセスCO2が不可避のため、削減はキルン熱効率向上、廃熱回収、代替燃料利用、CCUSなどが中心となり、投資の経済性と排出枠価格を突き合わせた中長期判断が必要です。
移行計画と登録確認機関
移行計画の記載
石灰事業者の移行計画では、予熱装置の更新、クーラー改良、バーナーの高効率化、廃プラ・バイオマス燃料の活用、アンモニア混焼、CCUS導入などを投資計画に記載します。該当工場等にはキルンラインごとまたは工場ごとの単位で記述し、排出削減効果を定量的に示します。
確認業務のポイント
登録確認機関は、プロセスCO2算定法の選定と継続性、石灰石純度分析とCaO組成分析の整合、循環粉のマスバランス、燃料計量、軽焼ドロマイトの分離計算、構内移動燃焼の網羅性、外販ダストの取り扱いなどを確認します。
実務フロー
- Step1 事業者単位の年度平均排出量を確認し、制度対象判定を確定する。
- Step2 ERMSアカウントとGビズIDを準備し、法人等保有口座を開設する。
- Step3 生石灰と軽焼ドロマイトのライン分離、循環粉マスバランスの体系を整備する。
- Step4 登録確認機関と契約し、証憑資料一式を共有する。
- Step5 9月30日までに排出目標量等の届出と移行計画をERMSで提出する。
- Step6 11月末頃に排出枠の無償割当を受け、法人等保有口座で残高を確認する。
- Step7 翌年度4月から9月に排出実績量の算定と登録確認機関の確認を受け、9月30日までに報告する。
- Step8 翌年度1月31日までに保有義務量分の排出枠を保有し、不足時は市場調達か負担金納付で対応する。
FAQ
生石灰と軽焼ドロマイトを同一キルンで製造することはできますか
同一キルンで品種切替えを行う場合、品種別の運転時間、原料投入量、製品出荷量を記録し、それぞれに対応する算定式で分けて計上します。切替前後の端材処理や在庫調整を含めて、品種別の証憑整備が必要となります。
石灰石純度はどのように把握しますか
石灰石の受入ロットごとに化学分析結果を取得し、CaCO3含有率とMgCO3含有率、不純物含有率を記録します。自社鉱山から採掘している事業者は定期的にサンプリング分析を行い、受入業者から調達する場合は証明書を保管します。純度変動を平準化して年度計算に反映する方法を社内標準とします。
循環粉の取り扱いはどうしますか
集塵機で回収された微粉をキルンに再投入する場合、初回焼成時点でプロセスCO2は既に計上されているため、再投入で再計上しない運用とします。回収量と再投入量の計量記録を整え、マスバランスで二重計上を避けます。外販する場合は外販量と自所消費量を区別します。
廃プラスチックを燃料として使う場合の扱いは
廃プラスチックをキルン燃料として使用する場合、ロットごとに組成分析を行い、化石由来炭素とバイオマス由来炭素の比率を決定します。化石由来分にのみ排出係数を適用し、受入伝票と組成分析書を証憑として整備します。
構内のホイールローダーの燃料はどこに計上しますか
構内で原料や製品を運搬するホイールローダー、フォークリフト等の燃料消費は、事業者の直接排出として本ベンチマークのバウンダリ内に含めます。車両別の給油記録や燃料払出記録から集計し、燃料種別に排出係数を適用します。
キルン廃熱を外販蒸気として売却している場合は
キルン廃熱を蒸気回収し外販する場合、当該外販分の電気・熱の生成に係る燃料消費は本ベンチマークのバウンダリ外となります(マニュアル11節「他者や自社の他の工場等や他者に供給したりする電気・熱の生成に係る排出量は含めない」)。自所内バウンダリで使用する分のみが本BMの直接排出として計上されます。蒸気外販契約と計量記録で自所消費分と外販分を区分する必要があります。
まとめ
石灰製造業にとってGX-ETSは、石灰石熱分解によるプロセスCO2が排出の主体となる特徴を踏まえ、生石灰原材料起源と軽焼ドロマイト原材料起源の2系統の算定式で排出目標量を算定する制度設計です。プロセスCO2算定法の選定と継続、循環粉のマスバランス、燃料種別計量、構内移動燃焼の計上を整備し、登録確認機関の第三者確認を通過させることが実務の核心となります。排出削減はキルン熱効率改善、代替燃料、CCUSが中心で、排出枠市場の活用と未償却相当負担金リスクを移行計画の投資計画と連動させた経営プロセスとして設計することが、この制度下での対応の骨格となります。
参考リンク
- 経済産業省 排出量取引制度のページ
- GX推進機構 排出量取引制度関連情報
- デジタル庁 GビズID
- GX推進法 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律


