【GX-ETS】 電炉特殊鋼 合金鋼の排出管理

本稿はサステナビリティスタンダードパートナーズが、GX推進法に基づく排出量取引制度について、電気炉による特殊鋼製造業がどのように制度対象となり、合金鋼・ステンレス鋼の製造工程に特有の熱処理炉・真空脱ガス装置・圧延焼鈍ラインの排出を、上下工程のベンチマークでどう捉え、代替燃料のガス規格化と合わせて排出枠償却に至るのかを整理するものです。

あわせて読みたい
【排出量取引制度】GX-ETS 第2フェーズ 2026年最終確定版セミナー セミナー概要 株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズは、2026年4月1日に施行されるGX-ETS第2フェーズの確定情報と実務対応を解説するオンラインセミナーを...
あわせて読みたい
【排出量取引制度】GX-ETS 排出実績量 2026年最終確定版セミナー セミナー概要 株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズは、2026年4月1日に施行されるGX-ETS第2フェーズの排出実績量を、実務視点で徹底解説するセミナーです...
目次

結論

電気炉による特殊鋼製造業は、CO2直接排出量の年度平均が10万t以上になるとGX-ETSの制度対象となり、電炉特殊鋼の上工程と下工程でそれぞれベンチマーク方式による排出目標量算定を行います。特殊鋼は合金鋼やステンレス鋼を製造するため、高温溶解、真空脱ガス、精密温度管理を伴う熱処理工程が多く、焼鈍、焼入れ、焼戻しなどの熱処理炉の燃料消費が普通鋼比で大きくなる構造です。炭素電極、副原料、補助バーナー、代替燃料の把握に加え、熱処理炉のライン別計量が実務の焦点となります。

背景

特殊鋼は、自動車用高強度鋼、工具鋼、ベアリング鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼、磁性材料など、高度な機械特性と耐環境特性を備える合金鋼を総称するもので、電気アーク炉と真空脱ガス装置や取鍋精錬炉を組み合わせる精緻な製鋼工程を特徴とします。GX-ETSでは電気炉による特殊鋼製造業として独立したベンチマークが設定され、上工程は電気炉で溶解するまでの工程(粗鋼生産まで)、下工程は電気炉より後の鋳片(半製品)生産から圧延・熱処理・表面処理までを対象とする設計です。普通鋼と比較して熱処理工程の比重が大きい点が特徴となります。

SSPの定義

SSPはサステナビリティスタンダードパートナーズの略称で、経済産業省 GXリーグ登録検証機関として第三者確認を含む第三者保証業務を主業とする機関です。本稿における電気炉による特殊鋼製造業とは、電気アーク炉を主たる製鋼設備として合金鋼やステンレス鋼を製造する事業を指します。熱処理とは、焼鈍・焼入れ・焼戻し・溶体化処理・析出硬化処理等を総称し、材料の微細組織を制御する温度管理工程をいいます。真空脱ガス装置とは、取鍋内の溶鋼中の水素や窒素を真空環境下で除去する精錬装置です。

変更点の要約

  • 電気炉による特殊鋼製造業は上工程と下工程に分かれるベンチマーク設計とされました。
  • 熱処理炉の燃料消費が下工程ベンチマーク内で明確に計上されます。
  • 真空脱ガス装置や取鍋精錬炉の加熱燃料も上工程ベンチマークに含まれます。
  • 代替燃料RPF・RDFを使用する場合の排出係数選定と組成分析が要求されます。
  • ガス燃料の規格化、すなわち燃料ガスヘッダーの混焼管理が求められます。
  • ステンレス鋼製造時の脱炭反応や合金添加材料の分解にかかる排出も対象範囲内です。

基礎知識

電炉特殊鋼の排出管理で押さえるべき前提は3点です。第1は熱処理炉の多様性で、連続焼鈍炉、バッチ式焼鈍炉、光輝焼鈍炉、真空焼入炉など、炉種ごとに燃料種と稼働パターンが異なるため、炉ごとの計量ポイントと稼働日誌を整備します。第2は合金材料の管理で、クロム、ニッケル、モリブデン等の合金添加材料のうち炭酸塩系材料の投入がある場合は脱炭酸CO2を別勘定で計上します。第3は代替燃料の組成管理で、RPFやRDFの使用時には化石由来炭素とバイオマス由来炭素の比率を分析し、化石由来分のみ排出計上する運用を標準化します。

論点整理表

論点制度上の位置づけ電炉特殊鋼での該当判断基準実務上の留意点
対象判定GX推進法第33条第1項年度平均排出量10万t以上直近3年度のCO2直接排出量の平均大手特殊鋼メーカーは対象となる可能性が高い
ベンチマーク区分実施指針上工程・下工程の2本立て電気アーク炉から熱処理まで両工程ともに本制度の算定対象
熱処理炉下工程内焼鈍・焼入れ・焼戻し炉別燃料計量炉種ごとに算定単位を分離
真空脱ガス上工程内取鍋精錬炉・VOD・AOD装置別燃料計量真空発生のための加熱燃料が対象
炭素電極プロセスCO2電極消費量×炭素含有率排出係数を乗じる電極別受払台帳が必要
副原料脱炭酸プロセスCO2石灰石・ドロマイト投入量×純度×脱炭酸係数合金添加材料にも適用の可能性
代替燃料燃焼排出RPF・RDF・廃油原料由来の排出係数組成分析が必要
ガス燃料規格化燃焼排出燃料ガスヘッダー混焼熱量比で按分炉別の燃料構成を記録
排出枠償却GX推進法翌年度1月31日までに保有保有義務量分の排出枠不足分は上限価格の1.1倍を負担金として納付

比較表

工程主要排出源燃料の特徴留意点
電気アーク炉補助バーナー燃料と炭素電極酸化天然ガス・LPG・酸素バーナー電極消耗量と副原料を個別把握
取鍋精錬・真空脱ガス加熱燃料とアルゴンガス主に天然ガス真空発生時の補助燃料に注意
連続鋳造加熱バーナーLPG・天然ガス保持温度に応じて変動
熱間圧延加熱炉の燃料都市ガス・LPG・A重油生産量と直結するため基準活動量の中核
焼鈍・焼入れ連続炉・バッチ炉都市ガス・LPG・N2保護ガス炉種ごとの計量を徹底
表面処理・研磨ライン別燃料電力中心だが補助燃料あり電力は間接排出として別管理

制度対象判定とスケジュール特例

事業者単位の判定

特殊鋼メーカーは、単工場での排出量が10万tに達しないケースでも、複数の特殊鋼工場と熱処理工場を擁する事業者単位では閾値を超える例が多くみられます。判定は事業者単位で毎年度行われるため、事業再編や生産拡大に伴い対象年度が変動する場合があります。熱処理専業の子会社を別法人として運営している場合は、各社個別判定が原則です。

2026年度特例

2026年度に制度対象となる特殊鋼事業者は、2026年9月末までに基礎情報と年度平均排出量のみを届け出ればよく、排出目標量等の届出は2027年9月末まで猶予されます。2026年度を準備期間として、熱処理炉のライン別計量、合金材料の組成データ整備、代替燃料の組成分析標準化、登録確認機関との契約を進めることが推奨されます。

電炉特殊鋼ベンチマークの仕組み

上工程の算定式

上工程は、原料搬入から電気炉等で溶解するまでの工程(粗鋼生産まで)における燃料使用および原材料起源の直接排出を対象とします。取鍋精錬・真空脱ガス装置の加熱・保持に係る燃料はこの上工程のバウンダリに含めます。算定式は目指すべき原単位×基準活動量×直接排出比率で、基準活動量は粗鋼(良塊)生産量(トン)、目指すべき原単位は2026年度0.2910、2030年度0.2708 tCO2/tです。合金添加材料のうち炭酸塩系の材料分解CO2や電極消費CO2を、燃焼由来CO2と合算します。なお連続鋳造は下工程側のバウンダリとなります。

下工程の算定式

下工程は、電気炉より後の鋳片(半製品)生産、圧延、熱処理(連続炉・バッチ炉・光輝焼鈍炉・真空焼入炉)、表面処理ラインの燃料消費を対象とします。下工程のベンチマーク指標は直接排出量/燃料使用量で、基準活動量は基準年度における燃料使用量(ギガジュール)の平均、目指すべき原単位は2026年度0.05143、2030年度0.05129 tCO2/GJです。熱処理炉ごとの稼働時間と燃料消費のマッチング、単位発熱量の出典管理が証憑整備の要点です。

ベンチマークとグランドファザリングの境界

対象工程

電気アーク炉、取鍋精錬、真空脱ガス、連続鋳造、熱間圧延、冷間圧延、熱処理、表面処理は上下工程のベンチマーク対象となります。付帯設備として、合金材料受入設備、排ガス処理設備、副原料ハンドリング、排水処理、工場動力設備も関連する主工程のバウンダリ内で処理します。

対象外とグランドファザリング

同一工場等内にある事務所、研究所等の共通施設は下工程ベンチマークのバウンダリ内に含めます(マニュアル14b)。研究棟の実験炉や試験分析室は同一工場等内であっても本BM対象外となる場合があるため、組織境界の明確化が必要です。一方、別敷地の本社事務所、別敷地の営業所、別敷地の物流拠点などはベンチマーク対象外またはグランドファザリングで処理します。自家発電を持つ場合の発電ベンチマーク境界、外販する副産物スラグや酸化鉄類の扱いも個別整理が必要です。

排出枠割当と未償却相当負担金

無償割当と取引

経済産業大臣は届出が適切と認める場合に排出枠を1t単位で無償で割り当てます。特殊鋼事業者は製品ポートフォリオが多様で、市況に応じた生産構成変化が排出量に直結するため、排出枠の先行取得と余剰時の売却を組み合わせたアクティブ運用が想定されます。共同届出体の場合は届出を実施した事業者の口座に密接関係者分も含めて記録されます。

負担金リスク

翌年度1月31日時点で保有義務量分の排出枠が不足すれば、不足分に参考上限取引価格を乗じ1.1を乗じた額を未償却相当負担金として納付します。熱処理炉の稼働率が生産量変動を直接反映するため、排出枠残高の月次モニタリングと、生産計画と連動した調達方針の設計が財務管理上の要となります。

移行計画と登録確認機関

移行計画の記載

特殊鋼事業者の移行計画には、熱処理炉の電化、水素バーナー導入、炉体断熱強化、廃熱回収設備、バイオ燃料の採用、真空炉システム効率化などを投資計画に記載します。該当工場等として特殊鋼工場と熱処理工場を個別に示し、排出削減効果を定量的に表現します。GX技術区分特許やグリーンイノベーション基金プロジェクトは研究開発欄に記載します。

確認業務のポイント

登録確認機関は、組織境界の設定、上下工程区分、炭素電極マスバランス、副原料・合金材料の脱炭酸計算、熱処理炉のライン別計量、代替燃料の組成分析、ガス燃料混焼の按分妥当性、バウンダリの整合を確認します。特殊鋼は炉種と工程が多様で、バウンダリ定義の網羅性が結論形成上の重要論点です。

実務フロー

  • Step1 事業者単位で年度平均排出量を確認し、制度対象判定を確定する。
  • Step2 ERMSアカウントとGビズIDを準備し、法人等保有口座を開設する。
  • Step3 上下工程のバウンダリ、炭素電極と副原料、熱処理炉のライン別計量体制を整備する。
  • Step4 登録確認機関と契約し、ライン別の証憑資料一式を共有する。
  • Step5 9月30日までに排出目標量等の届出と移行計画をERMSで提出する。
  • Step6 11月末頃に排出枠の無償割当を受け、法人等保有口座で残高を確認する。
  • Step7 翌年度4月から9月に排出実績量の算定と登録確認機関の確認を受け、9月30日までに報告する。
  • Step8 翌年度1月31日までに保有義務量分の排出枠を保有し、不足時は市場調達か負担金納付で対応する。

FAQ

熱処理炉のライン別計量はどこまで細かく行いますか

原則として炉ごとに燃料計量を設置し、炉種別・工程別の燃料消費を把握します。連続焼鈍炉、バッチ式焼鈍炉、光輝焼鈍炉、真空焼入炉、真空焼戻炉など、炉種ごとの特性と稼働パターンに応じて計量ポイントを設計します。燃料ガスヘッダーで複数炉を給気している場合は、各炉の稼働時間と圧力・流量記録から熱量比で按分します。

合金添加材料の脱炭酸は算定対象ですか

クロム、マンガン、ニッケルなど合金添加材料のうち、炭酸塩として供給される材料は炉内で分解しCO2を放出します。投入量と純度分析結果、脱炭酸排出係数を乗じて算定し、プロセスCO2として別勘定で集計します。非炭酸塩形態の合金材料は脱炭酸CO2を生じないため対象外です。

ステンレス鋼製造時の脱炭反応はどう計上しますか

ステンレス鋼ではVODやAODで脱炭反応によりCO2が発生します。酸素供給量、溶鋼中の炭素濃度変化、ガス排出測定などから脱炭由来CO2を算定し、プロセス排出として計上します。算定方法の詳細は排出量算定・報告マニュアルを参照してください。

光輝焼鈍炉の保護ガスはどう扱いますか

光輝焼鈍炉で使用する水素・窒素・アルゴンなどの保護ガスはCO2を伴わないため直接排出の対象にはなりません。ただし、保護ガス供給設備の加熱や排気処理燃焼は燃料燃焼として計上します。保護ガスの受入ログと設備の燃料計量を証憑化します。

試作材の生産も算定対象ですか

研究開発用の試作材であっても、工場内の製鋼・熱処理設備で製造している場合は当該設備のバウンダリ内に含めて計上します。一方、研究棟の試験炉や実験室スケールの設備は、原則としてベンチマーク対象外の扱いとなる可能性が高く、境界定義を明確に資料化します。

真空脱ガス装置の燃料消費はどの工程に入りますか

真空脱ガス装置VOD・RH・DHや取鍋精錬炉LFの加熱・保持に使用する燃料は、上工程ベンチマークのバウンダリに含まれます。装置別の燃料計量と、取鍋出湯時間・処理時間との整合を証憑として整備します。

まとめ

電炉特殊鋼製造にとってGX-ETSは、電気アーク炉から真空脱ガス、連続鋳造までの上工程と、圧延、熱処理、表面処理を含む下工程を別々のベンチマーク算定式で捉える制度設計です。普通鋼と異なり熱処理工程の比重が大きく、炉種ごとのライン別計量、合金添加材料の脱炭酸、ステンレス鋼の脱炭反応、代替燃料RPF・RDFの組成管理を、マスバランスに整合する形で整備することが登録確認機関の確認における要となります。排出枠の市場運用と未償却相当負担金のリスク管理、移行計画による投資計画の対外公表を一連の経営プロセスとして設計することが、この制度下での特殊鋼事業者の実務対応の骨格となります。

参考リンク

  • 経済産業省 排出量取引制度のページ
  • GX推進機構 排出量取引制度関連情報
  • デジタル庁 GビズID
  • GX推進法 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

目次