GX-ETS第2フェーズでは、排出コストが経営を圧迫し企業の海外移転を招くリスクに対応するため、カーボンリーケージ対策の調整措置が設けられています。排出コストが営業利益の4%を超える場合、不足分の50%が追加される仕組みです。本記事ではSSPの実務経験に基づき、リーケージ対策の判定基準と実務上の判断ポイントを整理します。


カーボンリーケージ 要約
カーボンリーケージ対策は、排出枠の不足が発生した場合に適用される勘案事項の一つです。排出コストを営業利益で除した比率が4%を超える場合に該当し、不足分の50%が追加排出枠として付与されます。21のリーケージリスク業種が特定されており、実排出量の確定後に判定されます。登録確認機関の確認対象外であり、自己判定で届け出る仕組みとなっています。
カーボンリーケージ 背景
排出量取引制度の導入は企業に排出削減のコスト負担を課すものですが、その負担が過大になると国際競争力の低下や生産拠点の海外移転を招くリスクがあります。海外に移転した結果、移転先での排出が増加すれば世界全体の排出削減にはつながりません。このような現象をカーボンリーケージと呼び、排出量取引制度の設計においては主要な政策課題のひとつとなっています。
EU-ETSでもカーボンリーケージ対策として無償割当の仕組みが整備されており、GX-ETSもこれに類似した考え方で排出コストの一部を軽減する措置を設けました。ただしGX-ETSでは無償割当の追加ではなく、排出枠の不足が生じた場合に限って適用される事後的な調整措置として設計されている点がEU-ETSとは異なります。
カーボンリーケージ 定義
SSPはカーボンリーケージ対策を次のように定義しています。排出枠の不足が発生した制度対象者のうち、排出コストを営業利益で除した比率が4%を超える場合に、不足分の50%を追加の排出枠として付与する勘案事項による調整措置です。実排出量確定後に判定され、登録確認機関の確認対象外となっています。
カーボンリーケージ 結論
SSPは3点を特に重要と考えています。第一に、排出枠の不足が前提であり、余剰がある場合は適用されません。第二に、21のリスク業種のリストと自社の該当有無を事前に確認しておくことが重要です。第三に、登録確認機関の確認対象外であるため、自社で正確に判定し届け出る必要があります。
カーボンリーケージ 論点
SSPがカーボンリーケージ対策を実務適用するうえで重要と考える論点を整理します。21業種の判定と4%閾値の解釈は、追加割当の可否を左右する重要ポイントです。
| 論点 | 制度上の位置づけ | 実務上の留意点 |
| 21業種の該当判定 | 日本標準産業分類の中分類で判定 | 主たる事業1つで判定、共同届出時は届出事業者基準 |
| 4%閾値の判定 | 営業利益の4%を超える排出コスト負担 | 営業利益と取引価格の確定が判定の前提 |
| 算定式の場合分け | 営業利益が0以上か未満かで式が異なる | 期末数値確定後の再計算プロセスが必要 |
| 追加割当の上限 | 排出枠不足量の1/2が上限 | 過剰算定を防ぐ仕組みとして機能 |
| R&Dとの併用 | 両措置は独立して適用可能 | それぞれの判定基準で別個に該当確認 |
| 申請のタイミング | 算定報告書提出時に申請 | 営業利益確定とのスケジュール調整が必要 |
カーボンリーケージ 比較
カーボンリーケージ対策とR&D投資は、いずれも排出枠の追加割当に関わる調整措置です。両者は併用可能ですが、判定基準と算定式が異なるため、適用要件の違いを正確に理解することが重要です。
| 比較項目 | カーボンリーケージ対策 | R&D投資 |
| 適用要件 | 主たる事業が指定21業種に該当 | 制度で定める要件を満たすR&D投資の実施 |
| 主な判定基準 | 営業利益の4%閾値超過 | 不足量との比例関係 |
| 算定式(営業利益0以上) | (不足量−営業利益×0.04÷取引価格)×1/2 | (前年度排出実績−前年度割当目標)×0.1 |
| 算定式(営業利益0未満) | 不足量×1/2 | 同左の式を適用 |
| 追加割当の上限 | 算定式の結果まで | 不足量の10%まで |
| 申請時期 | 算定報告書提出時 | 算定報告書提出時 |
| 併用可否 | R&Dと併用可能 | カーボンリーケージと併用可能 |
カーボンリーケージ 重要点
21のリーケージリスク業種
日本標準産業分類の中分類で以下の21業種が指定されています:①食料品製造業、②飲料・たばこ・飼料製造業、③繊維工業、④木材・木製品製造業(家具・装備品製造業を除く)、⑤家具・装備品製造業、⑥パルプ・紙・紙加工品製造業、⑦化学工業、⑧石油製品・石炭製品製造業、⑨プラスチック製品製造業、⑩ゴム製品製造業、⑪なめし革・同製品・毛皮製造業、⑫窯業・土石製品製造業、⑬鉄鋼業、⑭非鉄金属製造業、⑮はん用機械器具製造業、⑯生産用機械器具製造業、⑰業務用機械器具製造業、⑱電子部品・デバイス・電子回路製造業、⑲電気機械器具製造業、⑳情報通信機械器具製造業、㉑輸送用機械器具製造業。これらは国際競争にさらされやすく、排出コストの負担が海外移転のリスクにつながりやすいと評価された業種です。「主たる事業」が上記21業種のいずれかに該当する必要があり、共同届出を行う場合は届出をしようとする事業者の主たる事業で判断します。
R&D投資との併用効果
カーボンリーケージとR&D投資の両方に該当する場合、両措置を併用できます。R&Dの追加割当量は「(前年度の排出実績量−前年度の割当量のうち排出目標量に相当する量)×0.1」で算定され、不足量の10%が上限です。カーボンリーケージの算定式は営業利益0以上の場合「(排出枠の不足量−営業利益×0.04÷取引価格)×1/2」、営業利益0未満の場合「排出枠の不足量×1/2」となります。両者は独立した判定基準を持つため、それぞれ個別に該当有無を確認する必要があります。
カーボンリーケージ 手順
1. 21のリスク業種リストと自社の該当有無を確認する。
2. 実排出量確定後に排出枠の不足が発生しているか確認する。
3. 排出コストを算出する。不足分の排出枠量に排出枠の市場価格を乗じて算出します。
4. 営業利益に対する排出コストの比率を計算する。4%を超えるか否かを判定します。
5. 該当する場合は調整量を算定し届け出る。営業利益0以上の場合:追加割当量=(排出枠の不足量 − 営業利益×0.04÷排出枠の年間平均取引価格)×1/2。営業利益0未満の場合:追加割当量=排出枠の不足量×1/2。
カーボンリーケージ FAQ
Q1 4%以下ならリーケージ調整はゼロですか
ゼロとなります。4%はあくまで閾値であり、4%以下の場合はカーボンリーケージ対策の対象外です。
Q2 余剰がある場合でもリーケージ対策は適用されますか
適用されません。排出枠に不足が発生していることが前提条件であり、余剰がある場合は判定自体が不要となります。
Q3 21業種以外はリーケージ対策を受けられないのですか
21業種への該当は必須条件です。マニュアル3.2.2(1)により、自社の主たる事業が指定された21業種(日本標準産業分類の中分類)のいずれかに該当している必要があります。21業種に含まれない事業者は、4%閾値を超えていてもリーケージ対策の対象とはなりません。
Q4 排出コストの計算に使う市場価格は何時点のものですか
届出年度の前年度における排出枠取引市場の取引価格の平均額(年間平均)を使用します。ただし、当該前年度において一度も排出枠取引市場において取引がされなかった場合には、当該前年度の参考上限取引価格の額を使用します。
カーボンリーケージ まとめ
カーボンリーケージ対策は、排出コストの経営への過大な影響を緩和し、企業の海外移転リスクを抑制するための重要な調整措置です。排出枠の不足時に排出コストが営業利益の4%を超える場合、営業利益0以上なら「(不足量−営業利益×0.04÷取引価格)×1/2」、営業利益0未満なら「不足量×1/2」が追加される仕組みは、企業経営への配慮と排出削減の実効性の両立を図った制度設計といえます。R&D投資との併用も可能であり、該当する企業は積極的に活用することをSSPとして推奨します。


