GX-ETS第2フェーズでは、化学反応等に由来するCO2排出として28種類の原材料起源排出が定められています。温対法と異なり工場等の敷地外での排出も対象となるため、ドライアイスの配送使用や潤滑油の使用なども算定に含めなければなりません。本記事ではSSPの実務経験に基づき、28種類の原材料起源排出の全体像と見落としやすいポイントを整理します。


原材料起源排出量 要約
原材料起源排出量とは、燃料の使用(エネルギー起源)以外の、原材料その他事業活動の実施に必要な物資の使用に伴うCO2排出(化学反応や工業プロセスに伴う排出のほか、鉄鋼の製造において生じるガスの燃焼等も含む)を指します。GX-ETSでは28種類の対象活動が定められており、セメントクリンカーの製造、生石灰の製造、エチレン等の製造、ドライアイスの使用、潤滑油等の使用などが含まれます。温対法との最大の違いは、工場等の敷地外での排出も対象となる点であり、排出源の洗い出しにあたっては敷地境界にとらわれない視点が求められます。
原材料起源排出量 背景
エネルギー起源のCO2排出は燃料を燃やすことで発生しますが、原材料起源のCO2排出は製造プロセスにおける化学反応から発生するものです。典型例としてはセメント製造における石灰石の脱炭酸反応があり、CaCO3がCaOとCO2に分解される際にCO2が放出されます。
こうした排出は燃料転換やエネルギー効率の改善では削減が困難であり、そのためGF方式の削減率はエネルギー起源と原材料起源で異なる水準が設定されています。
GX-ETSにおいて特に注意すべき点は、原材料起源排出が工場等の敷地境界の外で発生する場合も算定対象に含まれることです。温対法では工場等内の排出のみが対象でしたが、GX-ETSではドライアイスの配送使用や敷地外での潤滑油使用なども含めなければなりません。
原材料起源排出量 定義
SSPは原材料起源排出量を次のように定義しています。燃料の燃焼以外の化学反応等に由来するCO2排出であり、制度で定められた28種類の対象活動から発生する排出量の総体を指します。敷地の内外を問わず算定対象に含まれる点が特徴的です。
この28種類に該当しない排出は、燃料を使用するものであればエネルギー起源として分類されます。原材料起源かエネルギー起源かの区分は、GF方式の削減率に直接影響するため正確な判定が不可欠です。
原材料起源排出量 結論
SSPは原材料起源排出量の算定において、次の3点を特に重要と考えています。
第一に、28種類の対象活動リストと自社の活動を漏れなく照合することが出発点となります。特にドライアイスの使用や潤滑油等の使用は敷地外の活動であっても算定対象であり、見落としやすいポイントです。
第二に、1つのプロセスから複数の原材料起源排出が同時に発生する場合がある点に留意すべきです。セメント工場ではクリンカー製造、炭酸塩使用、炭素電極使用が並行して発生し、それぞれ別の対象活動として個別に算定しなければなりません。
第三に、原材料起源排出はGF方式の削減率に直接関係するため、エネルギー起源との区分を誤ると排出目標量にも影響が及ぶ点を見落としてはなりません。
原材料起源排出量 論点
| 論点 | 実務での重要度 | 判断のポイント | よくある誤解 | SSPの推奨スタンス |
| 敷地外の排出の把握 | 高 | ドライアイスの配送使用、潤滑油の敷地外使用も対象 | 工場敷地内の排出のみが対象という誤解 | 敷地境界にとらわれず全ての原材料起源排出を洗い出す |
| 28種類のリストとの照合 | 高 | 自社の全プロセスを28種類のリストと突合する | 自社に原材料起源排出はないという思い込み | 網羅的に照合し該当する活動を特定する |
| 複数の排出が同時発生するケース | 中 | セメント工場等では複数の対象活動が並行して発生 | 1プロセスに1つの排出活動という誤解 | 対象活動ごとに個別に算定し報告する |
| エネルギー起源との区分 | 中 | 28種類に該当すれば原材料起源、それ以外はエネルギー起源 | 製造プロセスの排出は全て原材料起源という誤解 | 燃料燃焼はエネルギー起源として区分する |
| 温対法との範囲の違い | 中 | 温対法は工場等内のみ。GX-ETSは敷地内外を問わず対象 | 温対法と同じ範囲でよいという誤解 | GX-ETS固有のルールに基づき範囲を確認する |
| マスバランス方式の適用 | 低 | 投入炭素量から産出炭素量を差し引いて算出 | 全ての原材料起源排出にマスバランスが使えるという誤解 | 投入と産出の炭素量が把握できる場合に限定する |
原材料起源排出量 比較
| 比較項目 | 温対法での取扱い | GX-ETSでの取扱い |
| 対象範囲 | 工場等内の原材料起源排出のみ | 工場等の内外を問わず28種類の全排出 |
| ドライアイスの敷地外使用 | 対象外 | 対象 |
| 潤滑油の敷地外使用 | 対象外 | 対象 |
| 排出係数の選択 | 制度の規定による | デフォルト値または実測値。実測値は事前申請不要 |
| 報告の区分 | 事業者単位でまとめて報告 | 割当区分ごとに分けて報告 |
原材料起源排出量 重要点
見落としやすい原材料起源排出
28種類の対象活動のうち、製造業の大規模プロセスは比較的把握しやすいものの、ドライアイスの使用や潤滑油等の使用は見落とされやすい排出源です。
ドライアイスは冷凍食品の配送や医薬品の輸送などで広く使用されており、使用時に全量がCO2として大気中に放出されます。工場敷地外での使用であっても算定対象であるため、配送部門が使用するドライアイスの量を正確に把握する必要があります。
潤滑油等は機械設備のメンテナンスに広く使用され、使用過程で一部が酸化してCO2を排出します。敷地外で稼働する設備に使用する分も対象となるため、購入量と在庫の管理が重要な管理ポイントとなります。
なお鉄鋼の製造において生じるガスの燃焼(フレアリング)、溶剤の焼却、ドライアイスの製造、CO2封入製品の製造、炭酸ガスの使用、耕地における肥料の使用、廃棄物の焼却(熱回収を伴うものを除く)の7種類が追加され、特にドライアイスについては、従来の「使用」に加えて「製造」時の漏出も新たに算定対象となった点に留意が必要です。
1つの工場で複数の原材料起源排出が発生するケース
セメント工場を例にとると、クリンカー製造における石灰石の脱炭酸反応、原料として投入される炭酸塩の使用、電気炉における炭素電極の消耗など、複数の対象活動が同時に発生します。これらは別々の対象活動として個別に算定し、それぞれの排出量を報告しなければなりません。
鉄鋼製造においても、鉱物の使用に伴う排出と炭素電極の使用に伴う排出が同時に発生するケースがあり、対象活動ごとの正確な区分が求められます。
原材料起源排出量 手順
1. 28種類の対象活動リストと自社の全活動を照合する。敷地内の製造プロセスだけでなく、配送や敷地外での活動も含めて網羅的に照合します。
2. 敷地外の原材料起源排出を把握する。ドライアイスの配送使用、潤滑油の敷地外使用など、工場敷地外での排出も見落とさずに特定します。
3. 各対象活動の活動量データを収集する。生産量、原料使用量、消耗量などの活動量データを正確に把握します。
4. 適用する排出係数を確認する。デフォルト値を使用するか実測値を使用するかを判断し、必要な場合は分析データを準備します。
5. 対象活動ごとに排出量を算定する。活動量に排出係数を掛けて算出し、割当区分ごとに整理します。
6. 登録確認機関の確認を受ける。原材料起源排出の範囲が適切か、エネルギー起源との区分が正確かを含め確認を受けます。
原材料起源排出量 FAQ
Q1 原材料起源排出は全ての企業に関係しますか
28種類の対象活動に該当する場合のみ関係します。セメント、鉄鋼、化学品の製造など重化学工業に多く見られますが、ドライアイスの使用や潤滑油等の使用は幅広い業種で該当する可能性があります。
Q2 温対法で報告している原材料起源排出と範囲は同じですか
同じではありません。GX-ETSでは工場等の敷地外での排出も対象となる点が最大の違いです。温対法で報告していない排出源がGX-ETSでは算定対象となる可能性があるため、改めて確認が必要です。
Q3 マスバランス方式はどのような場合に使えますか
投入する原料中の炭素量と産出する製品中の炭素量が把握できる場合に適用可能です。石油化学のナフサクラッカーなどが典型例であり、投入炭素量から産出炭素量を差し引いて排出炭素量を算出します。
Q4 原材料起源排出の排出係数は実測値を使えますか
使用可能です。第2フェーズでは事前申請なしで実測値を使用できるようになっています。報告時に設定方法を記載し、登録確認機関がその妥当性を確認します。
Q5 潤滑油の使用がCO2排出に該当するのはなぜですか
潤滑油に含まれる炭素が使用過程で酸化し、CO2として大気中に放出されるためです。使用量に排出係数を掛けて算出します。少量であっても裾切り値がないため算定対象に含まれます。
原材料起源排出量 全体像
GX-ETS排出量算定の全体像については、5つの原則と報告手順を包括的に解説した記事をご覧ください。
原材料起源排出量 まとめ
原材料起源排出量の正確な算定は、GX-ETSにおける排出実績量の信頼性を確保するうえで欠かせない要素です。28種類の対象活動との網羅的な照合と、敷地外の排出を含めた幅広い視点での排出源の把握が求められます。
温対法の報告範囲をそのまま適用することはできないため、GX-ETS固有のルールに基づいた見直しが不可欠です。特にドライアイスや潤滑油など見落としやすい排出源の把握を早期に行い、登録確認機関との確認に備えることをSSPとして推奨します。

