GX-ETS第2フェーズでは、制度対象者は毎年度の排出実績量を算定し、登録確認機関の確認を受けたうえで報告する義務を負います。算定にあたっては適合性、完全性、一貫性、透明性、正確性の5つの原則が求められ、温対法やSHK制度とは異なるルールが多数存在します。本記事ではSSPの実務経験に基づき、排出量算定の全体像と報告の流れを整理します。


GX-ETS排出量算定 要約
GX-ETS第2フェーズにおける排出量算定は、5つの原則に基づいて実施されます。対象はCO2の直接排出のみであり、間接排出は含まれません。算定結果は割当区分ごとに分けて報告する必要があり、温対法とは対象ガス、報告単位、裾切り値の有無など7つの重要な相違点があります。報告期限は割当年度の翌年度9月30日であり、登録確認機関による事前確認が義務づけられています。
GX-ETS排出量算定 背景
排出量の算定と報告は、排出枠の保有義務量を確定させるための基礎となる作業です。排出目標量が「今年どれだけ排出してよいか」を定めるものであるのに対し、排出実績量は「今年実際にどれだけ排出したか」を示す数値にあたります。両者の差が排出枠の過不足を決定するため、算定の正確性は制度全体の信頼性を左右する要素といえます。
温対法やエネルギーの使用の合理化に関する法律で排出量の報告に慣れている企業であっても、GX-ETSでは新たに対応すべき点が多く存在します。最も大きな変化は、割当区分ごとに排出量を分けて報告する義務が課される点です。従来の工場単位やタ者単位の報告から、BM方式やGF方式のプロセスごとに排出量を区分して報告する体制への転換が求められます。
さらにGX-ETSでは裾切り値が設けられていないため、少量の排出源であっても毎年算定しなければなりません。他者への供給電力の排出を控除できない点も温対法との重要な違いです。
GX-ETS排出量算定 定義
SSPはGX-ETSにおける排出量算定を次のように定義しています。制度対象者が割当年度に排出したCO2の直接排出量を、5つの原則に基づいて算定し、割当区分ごとに区分したうえで登録確認機関の確認を経て報告する一連のプロセスです。
排出実績量は、算定したCO2直接排出量からJ-CreditやJCMクレジットの無効化量を控除し、J-Creditの第三者への移転量を加算して確定されます。この排出実績量が保有義務量の基礎となります。
GX-ETS排出量算定 基礎
5つの原則の内容を整理します。
適合性とは
選択された算定対象範囲(バウンダリ)の設定やモニタリング、算定の方法は、情報の利用者の意思決定に資する情報が生成される方法であることを意味します。算定方法や報告様式が制度の定めに沿っていなければなりません。
完全性とは
すべての排出源を漏れなく含めることを求めるものです。裾切り値がないため、少量の排出源であっても対象から除外することはできません。
一貫性とは
算定方法を年度間で一貫して適用することにあたります。モニタリングパターンや排出係数の選択を年度ごとに不必要に変更してはなりません。
透明性とは
算定根拠や方法を第三者が検証可能な形で記録することを求めるものです。登録確認機関による確認を受けるうえでも、この原則は実務的に極めて重要となります。
正確性とは
偏りと不確かさが可能な限り低減されていることを意味します。精度の向上のために過度なコストをかけることは求められていませんが、達成可能な精度は確保しなければなりません。
対象となるCO2直接排出量は3つのカテゴリに分かれています。工場等における燃料の使用に伴う排出、原材料の使用に伴う排出、輸送事業に係る燃料使用に伴う排出の3つです。間接排出や他者への供給電力の排出は対象外となっています。
GX-ETS排出量算定 結論
SSPは排出量算定と報告において、次の3点を特に重要と考えています。
第一に、割当区分ごとのモニタリング体制を構築することが不可欠です。従来の工場単位の報告体制では、プロセスごとの排出量を把握できません。モニタリングポイントの設計段階から割当区分を意識した体制づくりが求められます。
第二に、温対法やSHK制度との違いを正確に把握する必要があります。対象ガスがCO2のみである点、裾切り値がない点、他者への供給電力を控除できない点、割当区分ごとの報告が求められる点は、いずれも実務に直接影響する変更です。
第三に、毎年9月30日に当年度の目標届出と前年度の実績報告が重なるスケジュールを見据え、年間を通じた計画的な作業進行が欠かせません。算定の開始は割当年度の終了直後から着手し、7月から8月には登録確認機関の確認を受けられる状態にしておくことを推奨します。
GX-ETS排出量算定 論点
| 論点 | どの領域で詳述するか | 実務での重要度 | 判断のポイント |
| 割当区分ごとのモニタリング設計 | モニタリング | 高 | プロセスごとに排出量を把握できる体制が必要。按分が必要な場合は合理的根拠を準備する |
| 温対法やSHK制度との7つの違い | 温対法との違い | 高 | 対象ガス、裾切り値、他者供給電力、報告単位、原材料起源範囲、小数点処理、間接排出の7点 |
| モニタリングパターンの選択 | モニタリング | 高 | A-1、A-2、B、A+Bの4パターンから適切なものを選択する |
| 原材料起源排出の28種類 | 原材料起源排出量 | 高 | 敷地外の排出も含む点が温対法と異なる。28種類のリストとの照合が必要 |
| クレジットの活用 | クレジット活用 | 中 | J-CreditとJCMクレジットのみ。実排出量の10%が上限 |
| Tier制に基づくモニタリング精度 | モニタリング | 中 | 燃料種別と使用規模でTier要求が変わる。一律Tier3ではない |
| 期ズレの扱い | モニタリング | 中 | 検針日が月末でない場合、直近検針日から12ヶ月分で対応可能 |
| 実測値の使用手続き | モニタリング | 中 | 第2フェーズでは事前申請不要。報告時に記載し登録確認機関が確認 |
GX-ETS排出量算定 比較
| 比較項目 | 温対法やSHK制度 | GX-ETS第2フェーズ |
| 対象ガス | 7種類の温室効果ガス | CO2のみ |
| 間接排出 | 対象 | 対象外 |
| 他者への供給電力 | 控除可能 | 控除できない |
| 裾切り値 | あり | なし。少量でも毎年算定が必要 |
| 報告単位 | 事業者単位 | 事業者単位に加え割当区分単位 |
| 原材料起源の範囲 | 工場等内のみ | 工場等の内外を問わず対象 |
| 小数点処理 | 事業者単位で四捨五入 | 割当区分単位で切り捨てたうえで合計 |
| 実測値の承認 | 制度ごとの手続きによる | 事前申請不要。報告時に登録確認機関が確認 |
GX-ETS排出量算定 ナビゲーション
モニタリングパターンの選び方やTier制の詳細については、モニタリングに特化した記事をご活用ください。

原材料起源排出量の28種類の算定方法や注意点については、原材料起源排出量の記事で整理しています。

温対法やSHK制度との具体的な相違点とその実務への影響については、制度比較の記事が参考になります。

J-CreditやJCMクレジットの活用条件と上限については、クレジット活用の記事で詳しく取り上げています。

GX-ETS排出量算定 手順
1. 算定対象となる排出源を棚卸しする。工場等の燃料使用、原材料起源の28種類、輸送事業の3カテゴリについて、自社の全排出源を洗い出します。裾切り値がないため小規模な排出源も含めなければなりません。
2. 割当区分ごとにモニタリング方法を策定する。各排出源についてモニタリングパターンを選択し、モニタリングポイントを設定します。複数の割当区分に跨る排出源は按分方法も検討が必要です。
3. モニタリング体制と算定体制を構築する。担当者の配置、データ収集のフロー、品質管理の手順を整備し、記録が第三者に検証可能な状態を確保します。
4. 年度を通じてモニタリングを実施する。4月1日から翌3月31日までの排出量データを継続的に収集します。期ズレがある場合は直近検針日からの12ヶ月分で対応します。
5. 排出量を算定し、割当区分ごとに集計する。燃料使用量に単位発熱量と排出係数を乗じて排出量を算出し、割当区分ごとに整理したうえでクレジットの無効化量や移転量を反映します。
6. 登録確認機関の確認を受ける。算定結果とその根拠データについて確認を受け、確認報告書を取得します。是正が必要な場合は対応したうえで再確認を受けます。
7. ERMSで排出実績量を報告する。割当年度の翌年度9月30日までにERMSを通じて報告を完了させます。報告困難な場合も同日までに遅延届出が必要です。
GX-ETS排出量算定 FAQ
Q1 温対法の報告値をそのままGX-ETSの報告に使えますか
そのまま転用することはできません。対象ガスがCO2のみであること、間接排出を含まないこと、割当区分ごとの報告が求められることなど、算定の前提が大きく異なっています。温対法の報告値は参考にしつつ、GX-ETS固有のルールに基づいて改めて算定する必要があります。
Q2 小規模工場等は算定対象から除外できますか
除外することはできません。GX-ETSには裾切り値が設けられておらず、少量の排出源であっても毎年算定が求められます。ただし極めて少量で合理的なモニタリングが困難な排出源については、推計による算定が認められる場合があります。
Q3 他者に供給した電力の排出を控除できますか
控除することはできません。温対法やエネルギーの使用の合理化に関する法律では売電分の排出を差し引くことが可能でしたが、GX-ETSではこの控除が認められていません。自家発電設備を持つ企業にとっては排出実績量が温対法よりも大きくなる可能性がある点に留意が必要です。
Q4 クレジットはどの種類が使えますか
J-Creditの省エネルギー由来および再生可能エネルギー由来と、JCMクレジットが使用可能です。森林管理由来のJ-Creditやボランタリークレジットは使用が認められていません。また使用上限は実排出量の10%と定められています。
Q5 排出量の算定で実測値を使う場合、事前申請は必要ですか
第2フェーズでは事前申請は不要となりました。第1フェーズではGXリーグ事務局への事前申請が必要でしたが、第2フェーズでは報告時にその設定方法を記載し、登録確認機関が妥当性を確認する方式に変更されています。
Q6 割当区分ごとの報告とは具体的に何をするのですか
BM方式やGF方式で区分されたプロセスごとに排出量を分けて報告することを意味します。たとえばBM方式の対象である製造工程とGF方式の対象であるユーティリティ設備では、それぞれ個別に排出量を算定して報告しなければなりません。モニタリング段階から割当区分を意識した設計が不可欠となります。
Q7 排出量に1t未満の端数がある場合はどう処理しますか
割当区分単位で小数点以下を切り捨てたうえで合計します。温対法の事業者単位での四捨五入とは異なる処理方法である点に注意が必要です。
GX-ETS排出量算定 まとめ
GX-ETS排出量算定は、5つの原則に基づく正確な算定と、割当区分ごとの報告という新たな要件への対応が核心となります。温対法やSHK制度で培った算定の知見は活用しつつも、GX-ETS固有のルールを正確に把握し、モニタリング体制の再設計に取り組むことが不可欠です。
毎年9月30日の報告期限に向けた計画的な作業進行と、登録確認機関との早期の連携を確保することが、円滑な制度対応の鍵を握っています。算定の品質は排出枠の過不足に直結するため、5つの原則を実務に落とし込んだ体制整備をSSPとして強く推奨します。

