GX-ETS第2フェーズのベンチマーク方式は、国が定める排出原単位の目標値に基準活動量を掛けて排出目標量を算出する方式です。20業種の特定事業活動に該当するプロセスに適用され、業界の効率上位水準を基準とすることで効率の良い企業ほど有利になる仕組みとなっています。本記事ではSSPの実務経験に基づき、BM方式の考え方と20業種の特定事業活動の全体像、製品BM・燃料BM・発電BMの違いを整理します。


ベンチマーク方式 要約
ベンチマーク方式は、国が告示で公表する目指すべき排出原単位に、制度対象者の基準活動量を掛けて排出目標量を算出する方式です。2026年5月14日改訂時点で20業種(洋紙〜航空運送)の特定事業活動が対象として定められており、製品BM・燃料BM・発電BMの3つの型があります。品種補正や直接排出比率による補正が必要な事業活動もあり、適用にあたっては自社プロセスとの正確な照合が不可欠となります。
ベンチマーク方式 背景
BM方式の根底にある考え方は、同じ製品を作るなら効率の良い企業ほど排出目標量に余裕が生まれるべきだという公平性の原則にあります。GF方式が過去の排出実績をベースに一律削減するのに対し、BM方式では業界全体のデータから算出された効率目標値を使うため、個社の効率改善努力が報われる構造となっています。
目指すべき排出原単位は、日本の同業種全体のデータを集め、活動量で加重した上位50%の排出原単位を国が算出して告示で公表するものです。初年度の上位50%から2030年度の上位32.5%へと線形的に引き下げられるスケジュールが事前に決まっており、5年間の見通しを立てることが可能です。
重要なのは、BM方式が「業種」ではなく「事業活動(プロセス)」に紐づいている点です。石油精製業の会社であることではなく、石油精製工程という事業活動を行っていることが適用の要件にあたります。したがって1社が複数の特定事業活動に該当する場合には、それぞれのBMを個別に適用して合算することになります。
なお、当初の制度設計(2026年3月30日公表時点)では17業種でしたが、2026年5月11日改訂でカーボンブラック製造業・自動車製造業が追加され、2026年5月14日改訂で石油化学系基礎製品製造が追加された結果、現在は20業種となっています。
ベンチマーク方式 定義
SSPはベンチマーク方式を次のように定義しています。国が告示で公表する目指すべき排出原単位と、制度対象者が自社データに基づいて算出する基準活動量を掛け合わせて排出目標量を算出する方式であり、20業種の特定事業活動に該当するプロセスに適用されます。目指すべき排出原単位は自社の排出原単位ではなく、業界全体のデータから国が算出した固定値です。企業はこの値を正しく引用するだけであり、再計算の必要はありません。
ベンチマーク方式 基礎
BM方式には3つの型があり、対象となる特定事業活動ごとにどの型を用いるかが定められています。
| 比較項目 | 製品BM | 燃料BM | 発電BM |
| 算定式の基本 | 目指すべき排出原単位×製品生産量 | 目指すべき排出原単位×燃料使用量 | 燃種別BMと全火力平均BMの加重平均×発電量 |
| 活動量の単位 | 製品の物理量(t、㎡等) | GJ(エネルギー量) | kWh(発電量) |
| 主な対象事業 | 鉄鋼上工程、セメント、石灰、カーボンブラック、石油化学系基礎製品、自動車塗装、発電等 | 有機化学、ゴム製品、高炉下工程、電炉下工程等 | 発電事業(火力発電全般) |
| 補正係数の例 | 品種補正、直接排出比率による補正 | 燃料種別の調整 | 非化石燃料混焼補正、α係数による加重 |
| 特徴的な仕組み | 製品種類により補正係数を適用 | 燃料使用量ベースで簡明 | α係数(26〜28年度0%、29年度20%、30年度40%)で段階移行 |
| 系統分割の有無 | 原則なし | 原則なし | 沖縄島と沖縄以外で別系統のBM |
製品BM
目指すべき排出原単位に製品の生産量(補正係数適用後の場合あり)を掛けて算出する型であり、鉄鋼上工程・セメント・石灰・カーボンブラック・石油化学系基礎製品・自動車塗装・発電など製造業の多くの事業活動がこの型に該当します。
燃料BM
目指すべき排出原単位に燃料使用量を掛けて算出する型であり、活動量の単位がGJとなる点が特徴です。有機化学工業製品製造、ゴム製品、高炉下工程、電炉普通鋼下工程、電炉特殊鋼下工程などに適用されます。
発電BM
燃種別の目指すべき排出原単位と全火力平均の目指すべき排出原単位を年度ごとに変化する比率αで加重平均して算出する特殊な型です。このαは2026〜2028年度は0%(燃種別100%)、2029年度は20%、2030年度は40%と段階的に引き上げられます。沖縄島と沖縄以外で別系統の目指すべき原単位が定められています。
一部の事業活動では、品種補正や直接排出比率による補正が必要となります。品種補正は、同じ事業活動でも製品の種類によって製造難易度が異なる場合に、品種ごとの係数で活動量を補正する仕組みです(洋紙・板紙・カーボンブラック・板ガラス・自動車・貨物自動車・内航海運の各事業活動等)。直接排出比率による補正は、電力由来の排出が発電事業者のBMで別途カバーされることによる二重計上を防ぐための仕組みで、洋紙・板紙・ソーダ・石油化学系基礎製品・石油精製・セメント・電炉普通鋼上・電炉特殊鋼上・自動車・発電(一部)等の事業活動に適用されます。
ベンチマーク方式 結論
SSPはBM方式の適用にあたって、次の3点を特に重要と考えています。
第一に、自社プロセスと20業種の特定事業活動との照合を正確に行うことです。該当判定を誤ると、本来BM方式で算出すべきプロセスをGF方式で処理してしまい、排出目標量が過大または過少になるリスクがあります。特に2026年5月の改訂で追加されたカーボンブラック・自動車・石油化学系基礎製品は最新情報の確認が必要です。
第二に、品種補正と直接排出比率による補正の要否を事業活動ごとに確認することです。20業種それぞれで補正の要否が明確に定められており、必要なデータの準備を早期に着手すべきです。
第三に、副生燃料が発生する事業活動では、BM方式の算定と副生燃料起源排出量の別枠計算の関係を正確に理解することです。特に高炉上工程・カーボンブラック製造業では、目指すべき原単位が副生燃料全量自家消費前提で算定されているため、外部供給時の控除ルールに留意が必要です。
ベンチマーク方式 重要点
20業種の特定事業活動 全体像
20業種の特定事業活動は、紙パルプ、化学、窯業土石、鉄鋼非鉄金属、自動車、エネルギー、輸送という幅広い産業分野をカバーしています。洋紙と板紙、石油化学系基礎製品と有機化学工業製品、電炉普通鋼上工程と電炉特殊鋼上工程のように、似た事業活動でも別のBMとして定められているケースがある点に注意が必要です。
また高炉、電炉普通鋼、電炉特殊鋼、アルミニウムは上工程と下工程に分かれており、上工程は製品BM(粗鋼・半製品の生産量、アルミは半製品/補正係数)、下工程は燃料BMが適用される構造となっています(ただしアルミニウム下工程は製品BM)。道路貨物運送、内航海運、航空運送の輸送3業種は副生燃料が発生しないため別枠計算の対象外です。
目指すべき排出原単位の変化スケジュール
目指すべき排出原単位は毎年変化しますが、その変化のルールは事前に定められています。初年度の2026年度は業界の上位50%の水準を起点とし、2030年度の上位32.5%に向けて線形的に引き下げられます。この予見可能性は設備投資計画や排出削減ロードマップの策定に有用であり、5年間を見通した中期的な対応が可能な制度設計といえます。
ベンチマーク方式 手順
- 20業種の特定事業活動のリストと自社プロセスを照合する。各工場が行っている事業活動を洗い出し、20業種のリストとの該当有無をプロセス単位で確認します。
- 該当するBMの型を特定する。製品BM、燃料BM、発電BMのいずれが適用されるかを確認します。上下工程が分かれる事業活動ではそれぞれの型を特定する必要があります。
- 品種補正と直接排出比率の要否を確認する。告示で指定された事業活動について、品種分類と補正係数、直接排出比率の計算に必要なデータを把握します。
- 基準活動量のデータを収集する。2023年度から2025年度の3年間について、活動量データを正確に収集し3年平均を算出します。
- 副生燃料の発生有無と使用先を確認する。副生燃料が発生する事業活動では、自家消費量・他工程供給量・外部供給量を区分して把握します(特に高炉上工程・カーボンブラック製造業は供給側控除の根拠データとして必須)。
- 登録確認機関の確認を受ける。算定結果とその根拠データについて、登録確認機関による確認を受け確認報告書を取得します。
ベンチマーク方式 FAQ
Q1 BM方式で排出目標量が実際の排出量より大きくなることはありますか
あり得ます。自社の排出原単位が目指すべき排出原単位よりも低い場合、排出目標量に余裕が生まれます。この余剰分は排出枠市場で売却することも可能です。
Q2 目指すべき排出原単位は毎年変わるのですか
変わります。ただし変化のルールが事前に決まっているため、5年間の値を見通すことが可能です。初年度の上位50%から2030年度の上位32.5%へ線形的に低下していきます。
Q3 BM方式の対象かどうかは業種で決まるのですか
業種ではなくプロセス(事業活動)単位で決まります。20業種の特定事業活動は事業活動を対象としているため、どの業種に属する企業であっても該当する事業活動を行っていればBM方式が適用されます。
Q4 品種補正係数はどこで確認できますか
国の告示およびベンチマーク方式マニュアル別冊で公表されています。品種の分類方法と各品種の補正係数が明記されており、企業はこれを参照して適用します。例えばカーボンブラック製造業では用途(通常/特殊)×窒素吸着比表面積による11区分の補正係数、洋紙では新聞巻取紙1.30〜衛生用紙1.44までの8区分の補正係数等があります。
Q5 直接排出比率は毎年再計算するのですか
毎年再計算します。直接排出比率は「割当年度の前年度における直接排出量と間接排出量の合計に占める直接排出量の割合」と定義されており、前年度実績に基づき毎年度更新します。電気・熱の自社内供給状況の変化に応じて値が変動する点に留意が必要です。
Q6 発電BMのαの変化はどのような影響がありますか
αが上がると、石炭火力の排出目標量が減少し、LNG火力の排出目標量が相対的に増加します。全火力平均の目指すべき排出原単位に近づくため、燃種間の差が縮小していく方向に作用します。具体的にはα=2026〜2028年度0%、2029年度20%、2030年度40%と段階的に引き上げられ、2030年度には石炭火力の負担が最大となります。
ベンチマーク方式 まとめ
ベンチマーク方式は、業界の効率上位水準を基準に排出目標量を算出する仕組みであり、効率改善に取り組む企業を制度上も後押しする設計となっています。2026年5月14日改訂時点で20業種の特定事業活動が定められており(2026年3月時点の17業種から3業種追加)、該当するかの判定を正確に行い、品種補正や直接排出比率による補正の要否を漏れなく確認することが、算定作業の出発点として最も重要です。副生燃料の扱いや上下工程の分離、発電BMのα係数の年度推移など、BM方式には複数の固有ルールが存在しますが、いずれも制度上のルールとして明確に定められています。基準年度データの早期整備と登録確認機関との円滑な連携を、SSPとして引き続き推奨します。


