GX-ETS第2フェーズでは、排出枠の不足時に未償却相当負担金の納付義務が発生します。また届出義務の不履行や虚偽届出には罰金が科されることとなります。本記事ではSSPの実務経験に基づき、負担金の計算方法、上限価格制度、罰則規定、そして排出枠の不足を回避するための実務的な対応策を整理します。


GX-ETS負担金 要約
GX-ETS第2フェーズでは、排出枠の保有義務を履行できない場合に未償却相当負担金が課されます。計算式は不足分の排出枠の量に上限価格の1.1倍を乗じた額となっています。また届出義務の不履行や虚偽の届出には50万円以下の罰金が科されます。排出枠の不足を回避するための手段として、排出枠取引市場での調達と上限価格での清算が用意されている点も押さえておくべきでしょう。
GX-ETS負担金 背景
GX-ETSの第1フェーズであるGXリーグには法的な制裁措置がありませんでした。企業は自主的に参加し目標を設定していたため、目標を達成できなかった場合でもペナルティは発生しない仕組みとなっていました。
第2フェーズでは法的義務を伴う制度に移行するため、義務不履行に対する制裁措置が制度設計に組み込まれています。具体的には、排出枠の不足に対する未償却相当負担金と、届出義務違反に対する罰金の2つの制裁手段が設けられることとなりました。
なお、負担金の制度設計には上限価格という仕組みが組み込まれています。排出枠の市場価格が一定水準を超えた場合に、企業が上限価格で排出枠に代わる納付を行える制度であり、排出枠の価格高騰による企業経営への過度な影響を緩和する安全弁の役割を果たすものにあたります。
GX-ETS負担金 定義
SSPはGX-ETSにおける負担金と罰則を次のように定義しています。未償却相当負担金とは、保有義務量分の排出枠の償却を受けていない制度対象者が、排出枠の不足分に上限価格の1.1倍を乗じた額を経済産業大臣に納付する義務を指します。
上限価格とは、経済産業大臣が毎年度定める排出枠1tあたりの取引価格の上限であり、GX推進法第39条における参考上限取引価格にあたります。制度対象者は排出枠の不足分について、上限価格を乗じた額を政府に納付することで、排出枠を保有しているものとみなされることとなります。
罰金とは、届出義務の不履行や虚偽の届出を行った場合にGX推進法に基づいて科される50万円以下の刑事罰を意味します。
GX-ETS負担金 基礎
負担金と罰則の仕組みを理解するために必要な基礎概念を以下のとおり整理します。
保有義務量とは、排出実績量の報告後に経済産業大臣から通知される、制度対象者が保有すべき排出枠の量にあたります。排出実績量に相当する量が保有義務量として設定されます。
保有義務の履行期限は割当年度の翌年度1月31日となっています。この日までに法人等保有口座に保有義務量分の排出枠を保有していなければなりません。
償却とは、経済産業大臣が翌年度1月31日に、各制度対象者の保有義務量分の排出枠を法人等保有口座から消滅させる手続きを指します。排出枠の年度による取扱いの差はなく、どの年度に割り当てられた排出枠でも償却に充てることが可能となっています。
排出枠の調達手段は主に3つ用意されています。第一に、GX推進機構が開設する排出枠取引市場における取引、第二に、制度対象者間の相対取引、第三に、上限価格による清算が挙げられます。
GX-ETS負担金 結論
SSPは負担金と罰則への対応において、次の3点を特に重要と考えています。
第一に、排出枠の過不足を早期に把握することが求められます。11月末に排出枠の割当てを受けた後、当年度の排出実績の見通しと照らして過不足を速やかに確認すべきでしょう。不足が見込まれる場合は早めに市場での調達を検討する必要があります。
第二に、上限価格による清算を最終手段として理解しておくことが重要となります。上限価格での清算は排出枠を保有しているものとみなされる措置であり、市場での調達が困難な場合の安全弁にあたります。ただし未償却相当負担金は上限価格の1.1倍であるため、可能な限り市場での調達や上限価格での清算で対応すべきといえます。
第三に、届出義務の不履行リスクを過小評価しないことが不可欠です。50万円以下の罰金は金額としては大きくありませんが、刑事罰である点が重要にあたります。コンプライアンスの観点から、届出期限の管理を経営課題として位置づけることが望まれます。
GX-ETS負担金 論点
論点
| 論点 | 実務での重要度 | 判断のポイント | よくある誤解 | SSPの推奨スタンス |
| 未償却相当負担金の計算 | 高 | 不足分の排出枠量に上限価格の1.1倍を乗じる | 上限価格そのものが負担金額という誤解 | 負担金は上限価格の1.1倍であることを正確に理解する |
| 上限価格での清算と負担金の違い | 高 | 上限価格での清算は自主的な措置。負担金は不足時の強制措置 | 上限価格で清算すれば負担金は免れるという理解は正しいが、清算は事前に行う必要がある | 保有義務の履行期限前に上限価格での清算を完了する |
| 排出枠の市場調達 | 高 | GX推進機構の取引市場と相対取引の2つの手段がある | 排出枠は政府からのみ入手できるという誤解 | 市場価格の動向を把握し、適切なタイミングで調達する |
| 罰金の性格 | 高 | 50万円以下の刑事罰。届出不履行と虚偽届出が対象 | 行政指導で済むという誤解 | コンプライアンス体制に組み込み、届出期限を厳守する |
| 排出枠の年度間利用 | 中 | どの年度に割り当てられた排出枠でも償却に使用可能 | 当年度の割当枠のみ使用可能という誤解 | 余剰排出枠の繰越しや前年度の余剰分の活用を検討する |
| 調整措置による不足の軽減 | 中 | カーボンリーケージとR&D投資で排出枠を追加取得可能 | 調整措置は届出時にのみ適用されるという誤解 | リーケージとR&Dは実排出量確定後に判定されるため、不足時の救済策として活用する |
| 保有義務の履行確認 | 中 | 翌年度1月31日時点の法人等保有口座の残高で判定 | 排出枠を購入すれば自動的に保有義務が履行されるという誤解 | 購入した排出枠が口座に反映されているか確認する |
GX-ETS負担金 比較
| 比較項目 | 上限価格での清算 | 未償却相当負担金 |
|---|---|---|
| 性格 | 自主的な措置 | 強制的な措置 |
| タイミング | 保有義務の履行期限前 | 保有義務の不履行確定後 |
| 金額 | 不足分の排出枠量に上限価格を乗じた額 | 不足分の排出枠量に上限価格の1.1倍を乗じた額 |
| 排出枠の扱い | 排出枠を保有しているものとみなされる | 不足のまま。追加の負担金を支払う |
| 経済産業大臣の告示 | 措置を講じる必要性がある場合に告示 | 不足が確定した場合に通知 |
| 企業の選択 | 任意で利用可能 | 義務として納付 |
| コスト | 上限価格の等倍 | 上限価格の1.1倍 |
| 実務上の位置づけ | 市場調達が困難な場合の安全弁 | 保有義務不履行に対する制裁 |
GX-ETS負担金 重要点
未償却相当負担金の計算方法
未償却相当負担金の計算式は次の通りとなっています。不足分の排出枠の量に上限価格の1.1倍を乗じた額が負担金額に該当します。
具体例として、排出実績量が100万tで排出枠の保有量が95万tの場合、不足分は5万tとなります。上限価格が4,300円/tであると仮定すると、未償却相当負担金は5万t掛ける4,300円掛ける1.1で、2億3,650万円に達します。
この金額は上限価格での清算と比較して10%割増しとなっています。上限価格で事前に清算していれば5万t掛ける4,300円で2億1,500万円であり、2,150万円の差額が生じることとなります。こうした差額は保有義務を履行しなかったことに対する制裁的な意味を持つものにあたります。
なお、経済産業大臣は2月1日以降に未償却相当負担金の額と納付期限を対象となる制度対象者に通知することとなっています。
上限価格制度の仕組みと活用
上限価格は排出枠取引市場の価格が過度に高騰することを防ぐための安全弁として位置づけられています。経済産業大臣が毎年度定め、制度対象者は上限価格を利用して排出枠の不足分を清算することが可能となります。
上限価格での清算が可能となるのは、経済産業大臣が排出枠の償却に支障を生じることが明らかであり措置を講じる必要性があるとして告示をした場合に限られます。この告示がない場合は上限価格での清算を利用することはできません。
上限価格で清算した場合、当該制度対象者は納付した額分の排出枠を保有しているものとみなされます。すなわち、上限価格での清算は保有義務の履行手段の一つとして機能するものにあたります。
一方で、排出枠の市場価格が上限価格を下回っている場合は、市場での調達の方が経済的に有利となります。上限価格はあくまで市場価格が上限に達した場合の最終手段として理解しておくべきでしょう。
GX-ETS負担金 手順
1. 排出枠の割当量と排出実績の見通しを比較する。11月30日に排出枠の割当てを受けた後、当年度の排出実績の見通しと照らして過不足を試算します。
2. 不足が見込まれる場合は調達計画を策定する。市場での調達、相対取引、上限価格での清算の3つの手段を比較検討します。
3. 排出枠取引市場の動向を把握する。GX推進機構が開設する取引市場の価格動向を定期的に確認し、調達のタイミングを判断することが求められます。
4. 調整措置の該当可能性を確認する。カーボンリーケージ対策とR&D投資の調整措置は実排出量確定後に判定されます。該当する場合は追加の排出枠を取得可能となります。
5. 保有義務量の通知を確認する。排出実績量の報告後に経済産業大臣から通知される保有義務量を確認しなければなりません。
6. 保有義務の履行期限までに排出枠を確保する。翌年度1月31日までに法人等保有口座に保有義務量分の排出枠が保有されていることを確認します。
7. 不足が生じた場合は未償却相当負担金の通知に対応する。経済産業大臣からの通知に従い、指定された期限までに負担金を納付する義務が発生します。
GX-ETS負担金 FAQ
Q1 未償却相当負担金はいくらですか
不足分の排出枠の量に上限価格の1.1倍を乗じた額となります。上限価格は経済産業大臣が毎年度定めるものであり、2026年度の上限価格については今後公表される予定となっています。
Q2 上限価格での清算と未償却相当負担金の違いは何ですか
上限価格での清算は保有義務の履行期限前に自主的に行う措置であり、上限価格の等倍が適用されます。一方、未償却相当負担金は保有義務の不履行が確定した後に強制的に課される措置であり、上限価格の1.1倍が適用されます。この10%の差額が制裁的な意味を持つものにあたります。
Q3 排出枠はどこで購入できますか
GX推進機構が開設する排出枠取引市場での購入と、制度対象者間の相対取引の2つの手段が用意されています。取引市場の詳細は今後GX推進機構から公表される予定となっています。
Q4 余った排出枠は翌年度に繰り越せますか
排出枠の年度による取扱いの差はありません。法人等保有口座に保有している排出枠は、どの年度に割り当てられたものでも償却に充てることが可能となっています。したがって、余剰分を翌年度以降の保有義務の履行に活用することもできます。
Q5 罰金50万円は安すぎませんか
金額の大小よりも刑事罰であることが重要な論点にあたります。法人の代表者や従業員が違反行為を行った場合、行為者に罰金が科されるだけでなく、法人にも罰金が科されることとなります。さらに刑事罰の前科がつくことのレピュテーションリスクも考慮すべきでしょう。
Q6 調整措置で負担金を減らせますか
カーボンリーケージ対策とR&D投資の調整措置は排出枠の追加取得に相当するため、結果として排出枠の不足分を軽減できる可能性があります。ただしこれらの調整措置は実排出量確定後に判定されるため、事前に確実に適用されるとは限らない点に注意が必要です。
GX-ETS負担金 全体像
GX-ETS第2フェーズの制度全体像については、制度の骨格から届出、償却までの流れを網羅的に解説した記事をご覧ください。
GX-ETS負担金 まとめ
GX-ETSの負担金と罰則は、制度の実効性を担保する重要な仕組みにあたります。排出枠が不足した場合は未償却相当負担金として上限価格の1.1倍を納付しなければなりません。また届出義務の不履行や虚偽届出には50万円以下の罰金という刑事罰が設けられています。
排出枠の不足を回避するためには、割当て後の早期の過不足把握、市場動向の継続的な監視、調整措置の活用検討が重要となります。上限価格での清算は最終手段として理解し、可能な限り市場での調達で対応することをSSPとして推奨いたします。

