排出枠の割当方式検討小委員会は、成長志向型カーボンプライシング構想に基づく排出量取引制度(GX-ETS)導入に向け、運輸部門の排出枠の割当方式を検討するために2025年8月に設置されました。第1回から第3回会合では論点整理と意見聴取が重ねられ、2025年12月の最終会合でベンチマーク方式案が基本方針として了承されました。


GX-ETS 要約
国土交通省の排出枠の割当方式検討小委員会は2025年8月に設置され、GX-ETS(排出量取引制度)導入に先立ち運輸分野の排出枠割当方式(ベンチマーク方式・グランドファザリング方式)を検討した会議体です。第1回から第3回会合で論点整理と意見聴取を経て、2025年12月にベンチマーク方式案が基本方針として了承されました。
GX-ETS 定義
排出枠とは、企業が一定期間に排出できる温室効果ガス量の上限です。GX-ETSでは、政府が対象企業に排出枠を無償で割り当て、排出実績と割当枠との差分を取引可能とする制度です。排出枠の割当方式には、業種ごとの排出原単位を用いて上位一定比率の実績水準を基準とするベンチマーク方式と、基準年の排出量から年率で一定割合ずつ削減していくグランドファザリング方式があります。排出枠の割当方式検討小委員会は、これら割当方式の具体案を検討するため2025年8月に国交省環境部会の下に設置された会議体です。
GX-ETS 論点
| 論点 | 実務での重要度 | 判断のポイント | よくある誤解 | SSPの推奨スタンス |
| 割当方式の選択 | 高 | 対象業種の特性とデータ可用性からBM方式/GF方式を選択します。 | GF方式なら簡単に削減できます。 | 業界特性に応じBM方式を基本としつつ、GF方式の必要性も検討します。 |
| 対象事業者の範囲設定 | 高 | 制度対象となる企業の規模と範囲を明確化します。 | 大企業だけ対象でよいです。 | 対象を明確に定め、業界全体での公平性を図ります。 |
| ベンチマーク算定基礎 | 高 | 排出原単位の算出指標(例:輸送トンキロなど)を選定します。 | 複雑な新指標を導入すれば解決します。 | 実務的な指標を用い、現行制度と整合性ある設定を推奨します。 |
| ベンチマーク水準の設定 | 高 | 上位X%や基準年の選定で現実的な削減目標とします。 | 目標が低ければ成果が出ません。 | 過去実績等を踏まえつつ野心的な目標値設定を検討します。 |
| 運用後のフォローアップ | 高 | 制度運用後の評価・見直し時期を決めます。 | 一度決めれば変更不要です。 | 運用2年程度をめどに見直しを実施することを推奨します。 |
| 補完策との連携 | 中 | EV導入支援やインフラ整備など補完政策を検討します。 | ETSだけで脱炭素が達成できます。 | ETS導入と並行し、政府施策との連携を図ります。 |
GX-ETS 比較
| 項目 | ベンチマーク方式 | グランドファザリング方式 |
| 概要 | 各企業の排出原単位を業種ごとに基準化し、上位一定割合の達成水準をもとに割当量を算定します。 | 基準年(過去)の排出量から毎年一定割合(年率Y%)で一律削減し、割当量を算定する方式です。 |
| メリット | 業種特性を反映して割当量を設定できます。 | シンプルでデータ要件が低いです。 |
| デメリット | 指標設定やデータ収集が複雑になる場合があります。 | 産業特性を無視しやすく、負担が不均等になる恐れがあります。 |
| 適用例 | エネルギー多消費産業や輸送部門(トラック、航空、海運など) | 比較データが乏しい事業や、業種間で統一的な削減率を適用する場合 |
| SSP推奨スタンス | データを整備し透明性の高い指標設定を推奨します。ベンチマークを基本とします。 | 割当基準としては補完的な手法とします。 |
GX-ETS 章解説
第1回(2025年8月27日)
初会合では国交省の鶴田局長が開会挨拶を行い、運輸分野の脱炭素化では技術的ハードルが高く社会インフラを支えている点を指摘した上で、環境負荷低減と輸送効率化の両立(モーダルシフト促進)の重要性を述べました。続いて国交省から、排出量取引制度導入に伴い排出枠の割当方式としてベンチマーク方式とグランドファザリング方式を予定しており、運輸分野のベンチマーク指標設定を同省が主体で行うことなどが説明されました。その後、トラック運送業界や航空業界団体からのヒアリングが行われました。全日本トラック協会などは、報告義務のある大企業のみを対象にした場合、業界全体の水準よりも高いベンチマークとなる懸念があるため、広範な事業者を含めて設定すべきと主張しました。定期航空協会からは、基準活動量として輸送トンキロメートル指標の採用を要望し、コロナ影響を除くデータ選定が適切との意見も示されました。
第2回(2025年11月4日)
第2回では、まず日本内航海運組合総連合会がヒアリングに参加し、内航海運が国内貨物輸送の大きな割合を担っている点や、船種・航路条件によるCO₂原単位のばらつきを説明しました。これを受けて国交省の担当者が資料を用いて議論を主導し、業種横断的にベンチマーク方式の考え方(上位X%案の概念など)を説明しました。引き続き、内航海運・貨物自動車・国内航空それぞれの分野で指標案が示されました。例えば内航海運では、貨物船・コンテナ船・RORO船・タンカーなど船種間で効率差が生じることが資料で示されました。会合では業界団体からの要望と照合しながら各案について議論が交わされました。
第3回(2025年12月2日)
第3回は書面開催となり、これまでの検討結果を踏まえたベンチマーク指標案の最終とりまとめが行われました。委員会では、提示された案への特段の反対意見なく基本方針として了承されました。委員からは、運用開始後2年程度を目途に制度の効果と負担を評価し見直しを行うよう提案がありました。加えて、脱炭素に向けEV導入などを進める補完的施策の必要性も指摘されました。同日は国交省の報道発表でも、ベンチマーク指標が決定されたことが報じられています。
GX-ETS 重要点
ベンチマーク方式の検討ポイント
ベンチマーク方式では、各企業の排出原単位(排出量÷活動量)を指標とし、業界内で上位一定割合の達成水準を目標とします。実務では指標の設定と対象データが課題で、既存の指標活用が焦点となります。国交省からは、輸送トンキロメートルを基準活動量とし上位50%達成水準を目指す案が示されました。しかしトラック業界は、報告義務外の事業者も含めて業界全体をベースにするべきと要望し、航空業界はコロナ禍前後のデータ選定の適正化と輸送トンキロの利用を求めました。内航海運については船型・航路の違いでCO2排出効率が大きく異なるため、さまざまなケースに対応する指標設計が重要です。
制度運用後の見直し・補完策
委員からは、制度開始後のフォローアップの必要性が強調されました。有村委員は運用開始後約2年で制度効果を評価し、必要に応じて見直すことを提案しています。また、EV導入支援などの補完施策が脱炭素移行の円滑化に寄与すると指摘されました。航空業界からは制度運用の柔軟性が重要との意見もありましたが、頻繁なルール変更が投資回収にマイナスになる懸念も示されました。これらを踏まえ、見直しスケジュールの明確化と他政策との連携を図ることが重要です。
GX-ETS 手順
- 対象判定・排出量把握
自社の直接排出量を算定し、2026年度から始まるGX-ETSの適用対象になるか確認します。 - 排出量検証体制の整備
排出量計算ルールを整え、第三者検証機関との連携準備を進めます。GX-ETSでは検証済み排出量報告が要件となるため、早めに検証可能な体制を構築します。 - 割当量算定
政府ガイドライン公開後、ベンチマーク指標や割当計算方法に基づき自社割当量を推計します。同時に排出削減計画を検討し、不要な割当枠の売却や不足枠の調達戦略を策定します。 - 制度登録と報告準備
GX-ETSへの参画登録や報告フォーマットの確認を行います。制度担当者を決め、社内体制を整備して制度移行に備えます。 - 取引市場への対応
排出枠取引市場や価格下限・上限制度の情報収集を行い、取引参加方法を検討します。 - 排出削減施策の実行
EV化・燃費向上・SAF導入など自社の排出削減策を推進し、将来の取引負担を低減します。 - 情報収集・社内共有
政府や業界団体による動向をウォッチし、規制内容の変更や関連支援策を社内に速やかに周知します。
GX-ETS FAQ
Q1 排出枠の割当方式検討小委員会とは何ですか?
国土交通省交通政策審議会環境部会の下に2025年8月に設置された会議体であり、GX-ETS(成長志向型排出量取引制度)導入に際して運輸部門における排出枠の割当方式を検討する目的で活動しています。
Q2 ベンチマーク方式とは何ですか?
各事業者の排出原単位を業種ごとに設定し、業界内で上位一定割合の達成水準を目標とする割当方式です。同業者の実績を基準とするため、業種特性を反映した割当設定が可能となります。
Q3 グランドファザリング方式とは何ですか?
基準年の排出量実績から毎年一定割合で削減していく方式で、過去の排出量がベースとなる割当方法です。産業特性の違いを考慮せず一律削減するため、データが不足する分野で適用されることがあります。
Q4 どの業種が対象ですか?
国交省では、運輸部門のうち貨物自動車運送事業、国内定期航空運送事業、内航海運業の3分野についてBM方式適用の検討を進めています。これらは輸送トンキロメートルを基準活動量とし、産業の特徴に応じたベンチマークが設定される予定です。
Q5 GX-ETSの開始時期はいつですか?
改正GX推進法の下、GX-ETSは2026年度(令和8年度)から法定化され、本格稼働する予定です。
Q6 排出枠は有償ですか無償ですか?
法改正案では、対象企業には産業別指針に基づいて排出枠を無償割り当てることが明記されています。割り当てられた枠と実排出量の差は企業間で売買できる市場で取引されます。
Q7 企業は何を準備すべきですか?
まず自社の2026年度排出量を算定し、GX-ETSの適用対象となるか確認します。適用対象となる場合、排出量算定ルールを整備し第三者検証を受けられる体制を構築します。次に政府指針を踏まえて割当量を推計し、必要な排出削減策を検討する必要があります。
GX-ETS まとめ
排出枠の割当方式検討小委員会では、2025年8月の設置以来、運輸部門のGX-ETS導入に向けた割当方式の検討が行われてきました。第1回会合で課題整理と関係者ヒアリングを実施し、第2回で各業種のベンチマーク案を検討、最終の第3回でベンチマーク方式案が基本方針として了承されました。今後、実務上は各企業が対象範囲の確認や排出量の検証体制整備を行い、割当運用に備える必要があります。本稿ではこれらの経緯と論点を整理しました。
参考リンク
- 国土交通省:排出枠の割当方式検討小委員会(設置・委員名簿)
- 国土交通省:排出枠の割当方式検討小委員会 開催状況(資料・議事録)
- 国土交通省:第3回排出枠の割当方式検討小委員会 報道発表資料
- 経済産業省:脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)
- 国土交通省:運輸部門における排出量取引制度の設計について


