削減貢献量の算定を実務で行う際には、参照シナリオ(ベースライン)の設定方法やデータ収集、ライフサイクル範囲の選定など、いくつかの難所があります。本記事ではWBCSDガイダンスに沿った算定の基本ステップを概観しつつ、企業がつまずきやすいポイントや留意すべき課題を整理し、信頼性の高い評価を行うためのヒントを提供します。

1. 削減貢献量算定の基本ステップ
ソリューションの特定と範囲設定
対象とする製品やサービスの機能特性を明確化し、そのライフサイクル全体の中で算定対象とする範囲(システム境界)を定義します。製品の製造から使用・廃棄まで含めるか、あるいは関連サービス提供まで含むかなど、算定範囲の広さを決める重要なステップです。
範囲設定による結果への影響
例えば新型バッテリーの削減貢献量を評価する場合、バッテリー単体の製造段階までを範囲とするか、搭載した電気自動車の使用段階まで含めるかによって結果が変わります。範囲を広げれば効果を包括的に評価できますが、収集すべきデータが増え仮定も多くなるため不確実性が増します。プロジェクトの目的やデータ入手可能性を踏まえ、適切な範囲設定を行います。
参照シナリオ(ベースライン)の設定
ソリューションがない場合にもっとも起こりうる代替シナリオを定めます。これが排出削減の比較対象となります。設定のポイントは、もっともありそうな、かつ具体的で保守的なシナリオを設定することです。保守的とは、過大な削減量が出ないよう慎重な前提を置くという意味です。社内検討だけでなく、業界のデータや公的な指標も参考にしながら、妥当性の高いベースラインを策定します。
GHG排出量の算定
定義したシステム境界内で、ソリューション導入ケースと参照シナリオケースそれぞれのGHG排出量を見積もります。ライフサイクル全体における排出量を算出する点が特徴で、特に使用段階やエネルギー起源の排出に大きな差が出るケースが多いです。算定には一次データと二次データを組み合わせて用います。可能な限り実測値を用い、入手困難な部分のみ文献値やデータベース等で補完します。
削減貢献量の算出
両シナリオの排出量差分を計算します。具体的には「参照シナリオの排出量 - ソリューション導入時の排出量」が削減貢献量となります。結果の表現は年間削減量や製品単位あたり削減量など、文脈に応じて定めます。複数年にわたる効果を積算する場合は、想定される普及台数や使用期間を掛け合わせて算出しますが、将来の技術進歩なども考慮し、過度に楽観的な数字とならないよう注意が必要です。
結果の検証とドキュメンテーション
算出した削減貢献量が妥当で信頼できるかを検証します。WBCSDガイダンスv2.0では貢献の正当性を検証するステップが新設され、根拠や前提条件を再点検することが推奨されています。参照シナリオの選択に誤りがないか、他企業との二重計上になっていないかなどをチェックします。合わせて、使用したデータや計算手順を文書化し、第三者が追跡できる形で記録します。
2. 算定実務でつまずきやすいポイントと対策
参照シナリオの妥当性確保
どのような参照シナリオを選ぶかによって削減貢献量は大きく変動します。不適切なベースラインを置けば、算定結果が過大にも過小にもなり信頼性を損ないます。例えば極端に古い非効率な技術を引き合いに出せば削減効果は大きく見えますが、それは現実的な比較とは言えません。
シナリオ設定における客観性の担保
現行市場で主流の技術水準や平均性能値を基準としつつ、将来の技術進歩や規制動向も考慮に入れます。業界団体や公的機関が発行するベンチマークデータを活用すると客観性が増します。また複数の候補シナリオで試算し、結果を比較することでシナリオへの依存性を把握することも有益です。最終的な選択理由や根拠データは詳細に文書化し、第三者が妥当と判断できる状態にしておきます。
システム境界の設定と二重計上リスク
範囲を広く取れば関連する排出削減効果を網羅できますが、他社の貢献分まで含まれる恐れがあります。逆に狭くしすぎると全体像を示せません。また複数企業が関与するソリューションでは、どの範囲を誰が計上するかを決めないと、同一の削減を重複カウントするリスクがあります。
削減貢献量の適切な配分
基本は自社が提供する価値に直接ひもづく範囲を明確にし、その部分にフォーカスして算定します。他社の関与部分については原則その企業が計上すべきであり、自社の主張範囲と混同しないよう注意します。WBCSDガイダンスv2.0では、必要に応じて削減貢献量の配分を行うこともオプションとして示されています。関係企業間で十分に協議し、整合的な開示を行うことが求められます。
データ収集と品質管理
ライフサイクル全体の排出量を算定するには多岐にわたるデータが必要です。自社で把握できない上流や下流のデータも多く、推計に頼らざるを得ない箇所が生じます。データソースごとの信頼性を評価し、可能な限り一次データを優先します。社内で取得困難な情報については、サプライヤーや顧客と連携してデータ提供を受けられないか検討します。
データ精度向上のための取り組み
データ不足部分が算定結果に与える影響度を分析し、重要度の高いデータには重点的にリソースを割いて精度向上に努めます。品質管理の一環として、社内別部門のチェックや外部専門家のレビューを受け、見落としやミスを防ぐ体制を構築しましょう。
不確実性と前提条件の開示
削減貢献量の算定には将来予測や仮定がつきものです。製品の寿命中に電力の排出係数が変動する可能性やユーザーの行動変容など、不確実な要素が存在します。前提条件をきちんと開示する姿勢が不可欠です。主要な仮定はレポート中に明示し、数値の解釈に幅があることを伝えます。誠実な情報開示によって、ステークホルダーからの信頼を高めることができます。
グリーンウォッシングへの懸念
自社排出は減っていないのに削減貢献量だけ大きく打ち出すようなケースでは、グリーンウォッシュと批判されるリスクがあります。まず前提として、自社の直接的な排出削減努力と併せて語ることが重要です。自社も削減努力中だが、さらに社会全体の削減にこれだけ貢献している、という文脈であれば理解も得やすくなります。
第三者による客観性の付与
算定プロセスや結果のレビューに第三者を関与させ、客観性を付与することも有効です。例えば外部検証を受け、その事実を開示資料に記載します。自社に不利になりうる情報、たとえばソリューション普及によって自社の製造時排出が増加する可能性なども隠さず示すことで、誠実さを示すことができます。
3. おわりに
削減貢献量の算定実務では、技術的な手法の理解のみならず、シナリオ設定のセンスや説明力が求められます。実装時の課題は各社ごとに異なりますが、重要なのは国際ガイダンスを踏まえ、自社の実情に即した形で透明性高く算定することです。継続的に手法を改善していく姿勢が信頼性向上につながります。正しく取り扱えば、削減貢献量は企業のサステナビリティ戦略を強化する強力なツールとなるでしょう。
引用
- WBCSD 削減貢献量ガイダンス v2.0
- 経済産業省 削減貢献量の算定・活用に関する指針
- 環境省 企業の気候貢献を示す指標に関する事例集



