【EcoVadis】導入のメリットとは?企業にもたらす影響と活用事例

 EcoVadis評価の導入は、企業のサステナビリティ経営に多方面のメリットをもたらします。取引先との信頼関係強化や調達リスク管理、ESG評価への対応力向上、そして国際競争力の強化など、ビジネス上のインパクトは小さくありません。本記事では、EcoVadisを活用することによる具体的な企業へのメリットと、その効果を示す活用事例について解説します。

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目次

1.取引先との信頼性強化と調達リスク管理

EcoVadis導入最大のメリットの一つは、取引先との信頼関係を強固にできる点です。EcoVadisの評価は第三者機関による客観的なサステナビリティ評価であり、自社が環境・社会・倫理面で適切な取り組みをしている証明となります。サプライヤー企業にとっては、高いEcoVadisスコアを取得することで「この会社は信頼できる」と取引先(バイヤー企業)に示すことができ、新規取引獲得やビジネス拡大に有利に働きます。実際、EcoVadisのプラットフォーム上で自社のスコアカードを共有することで、従来は個別に行っていたサステナビリティ調査への回答作業を簡略化できるため、取引先からの評価も高まります。

一方、バイヤー企業にとっても、サプライヤーにEcoVadis評価取得を促すことで調達先のESGリスクを「見える化」できます。例えば、多数の仕入先を抱えるメーカーがEcoVadisを導入すれば、各仕入先の環境・人権・倫理の取組状況を統一スコアで比較できます。これにより、サプライチェーン上の弱点や潜在的リスクを把握し、問題の起こりそうな取引先を早期に特定して対策を講じることができます。またEcoVadis評価は毎年更新されるため、サプライヤーの改善状況をトラッキングし継続的なリスクモニタリングが可能です。

調達リスク管理

ある日本企業の事例が顕著です。化学品専門商社の三菱商事ケミカルは、2017年に欧州の取引開始条件としてEcoVadis評価取得を求められ初受審しました。その後、社内で全社横断の取組み強化を行い、5年間でスコアを20点以上も向上させて2022年にはブロンズメダルを獲得しています。この過程で社員全体のサステナビリティ意識が向上し、同社の広報によれば「従来から取引先対応でCSR調査は行っていたが、EcoVadis評価を受けたことで社内の弱点が明確になり、改善活動が加速した」とのことです。こうした成功例からも、EcoVadisは単なる評価に留まらず社内改革の契機となり、結果的に取引先からの信頼増大とリスク低減につながったことが伺えます。

2.ESG格付け・規制対応への寄与

EcoVadisで高評価を得ることは、企業のESG格付け対応やサステナ関連規制への適応にも有効です。近年、気候変動対策や人権尊重に関する法規制(EUのCSRDや人権デューデリジェンス法など)が強化されつつあり、サステナビリティ情報の開示要求が世界的に高まっています。EcoVadisの評価基準はこうした国際規範を踏まえて設計されており、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の各要素を網羅しています。そのため、EcoVadisで高スコアを維持する企業は、結果的に各種ESG評価や投資家向けのサステナビリティ格付けでも高く評価されやすくなります。

評価機関との整合性

例えば、EcoVadisの質問項目には温室効果ガス排出量や人権方針の有無、腐敗防止体制などが含まれます。これらはCDP(気候変動の情報開示)やDJSI(ダウ・ジョーンズ持続可能性指数)など主要なESG評価で問われる事項と重なります。したがって、EcoVadis対応を進める中で自社のデータ整備や方針策定が進めば、自ずと他のESG開示への準備も整うのです。実際、日本でも上場企業が有価証券報告書でEcoVadisスコアを開示したり、中期経営計画のKPIにEcoVadis評価向上を掲げる例が出てきています。このように、EcoVadisは企業のESGパフォーマンス向上の指標として社内外で位置付けられつつあります。

法規制対応

さらに法規制対応の観点では、EcoVadis評価で高得点を獲得していることがコンプライアンス遵守の証明となるケースもあります。例えばある企業がEcoVadisでプラチナ評価(上位1%)を得た場合、同社が環境や労働に対して業界最高水準の管理を行っていると示せるため、EUの環境規制や人権デューデリジェンス要求に対して「自社は既に十分な対応を取っている」と説明しやすくなります。実際EcoVadisは、「評価スコアが高ければ法的リスク軽減に役立つ」と述べています。特に海外取引が多い企業ほど、EcoVadis高評価を取得しておくことは将来的な規制強化に備える意味でも有益です。

3.グローバル競争力の強化と取引機会の拡大

EcoVadis導入は、企業のグローバル競争力向上にも直結します。近年、欧米を中心に「サステナブル調達」でない企業とは取引しないという動きが広がりつつあります。実際に欧州ではEcoVadis評価を取引条件に課す企業も出ており、サプライヤーに対してEcoVadisの回答を要請するケースが増えています。したがって、輸出や海外顧客との取引を目指す企業にとって、EcoVadis評価を取得しておくことは市場参入パスとも言えるでしょう。

競争力強化

高スコアを獲得すれば、「持続可能性に配慮した優良企業」として国際的な認知も得られます。たとえば住友化学は2021年にEcoVadisゴールド評価を獲得し、プレスリリースで「海外顧客からの信頼獲得につながった」と発表しています。また、エプソンは2019年~2021年にかけてゴールドからプラチナ評価までランクアップし、「信頼に値する企業であることを示せた」としています。このように、EcoVadis高評価の企業は取引先から選ばれやすくなり、国際入札やサプライヤー認定でも有利な立場を得られるのです。

取引機会の拡大

またサプライヤー企業側から見ても、EcoVadis評価の業界内ランキングが可視化されることで、自社の取り組みをアピールする機会が増えます。例えば「業界平均50点に対し当社は70点(ゴールド)」といった情報は営業PR材料となり、環境・社会に配慮する顧客企業からの引き合いが増える可能性があります。昨今は完成品メーカーが調達先を選定する際にサステナビリティスコアを勘案することも多いため、EcoVadis高評価は差別化要因となって企業間競争での優位性をもたらします。

4.EcoVadis活用例

最後に、EcoVadis導入が企業にもたらした具体的な影響を示す事例を紹介します。

トラックメーカーA社(バイヤー側)

 A社は数百社にのぼる部品サプライヤーのCSR管理に課題を感じ、2020年にEcoVadisを導入。全サプライヤーにEcoVadis評価取得を依頼したところ、初回評価で複数の取引先において人権方針未整備や環境データ未計測などの課題が判明しました。A社はその結果を踏まえ、各取引先に是正計画の提出を求めるとともに、自社もサプライヤー支援プログラムを立ち上げ研修を提供しました。その結果、サプライチェーン全体のESG水準が底上げされ、2年後には主要サプライヤーの平均スコアが10点以上向上しました。またA社はこの取組みをサステナビリティレポートで公表し、投資家からの評価も高まりました。

化学メーカーB社(サプライヤー側)

B社は欧州大手企業との取引条件としてEcoVadis評価が求められ、2018年に初めて評価を受審しました。初回スコアは45点(シルバー未満)でしたが、強み・弱みのフィードバックを受けて社内体制を強化。具体的には環境ISO認証の取得、人権デューデリジェンスの導入、腐敗防止ポリシー策定などを行い、証拠書類を整備しました。その結果、2021年には64点(シルバー)に上昇し、欧州企業との取引継続に成功しました。担当者は「EcoVadisを通じて自社の課題が明確になり、組織全体で改善に取り組む良いきっかけとなった」と述べています。またB社はEcoVadis評価向上を契機に、自社製品の売り込みの際にも「当社は第三者評価で高いCSR水準」とアピールでき、国内外で新規顧客開拓に役立てています。

コンサルティング会社C社 

C社自身は評価対象ではありませんが、EcoVadis認定パートナーとして顧客企業のスコア改善支援を行っています。ある顧客(食品メーカー)はEcoVadisスコア50点台から抜け出せず苦慮していましたが、C社の助言により社内のデータ収集プロセスや文書化を徹底し、わずか半年でスコアを15点向上させゴールド評価を獲得できましたbluedotgreen.co.jp。C社は「EcoVadisスコアは企業価値向上の指標となる」と強調しており、高スコア達成が社員のモチベーション向上にもつながったと報告しています。

以上のように、EcoVadisの導入は企業文化の変革から取引拡大、ステークホルダー評価向上まで幅広いプラス効果をもたらします。単にスコアを取ること自体が目的ではなく、そのプロセスで社内体制が強化され、結果として持続可能な経営が実現し、ビジネスチャンスが広がる点が重要です。サステナビリティが企業価値に直結する現代において、EcoVadisを上手に活用することは他社との差を生み出す戦略的な一手となるでしょう。

引用

EcoVadis公式サイト「EcoVadisが与える影響」
https://resources.ecovadis.com/sustain-conference/unilever

三菱商事ケミカル事例「評価受審がもたらした意識変革」
https://resources.ecovadis.com/ja/suppliers-customer-stories/how-the-ecovadis-assessments-ignited-a-company-wide-mindset-shift-for-mitsubishi-shoji-chemical-corporation

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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