2026年度から本格運用される排出量取引制度において、製造業ベンチマークWGと発電ベンチマーク検討WGが設置されました。GX推進法改正を受けて、業種特性を踏まえた公平で効果的な排出枠割当制度の構築が進められています。本記事では、これらワーキンググループの設置背景から、多排出産業における効率的な削減推進まで、日本の脱炭素化戦略における重要な制度設計について詳しく解説します。


1.排出量取引制度におけるベンチマークWG設置の背景
2026年度からの排出量取引制度本格運用に向け、製造業ベンチマークWGと発電ベンチマーク検討WGが設置されました。これらは業種特性を踏まえた公平で効果的な排出枠割当制度構築を目的とし、日本の脱炭素化戦略で重要な役割を担います。
GX推進法改正による制度基盤の整備
GX推進法の改正により、排出量取引制度の法的基盤が整備され、2026年度からの本格運用に向けた制度設計が本格化しています。従来の一律的な排出削減目標設定では、製造業や発電業などの多様な業種特性を適切に反映することが困難でした。特に製造業においては、鉄鋼、化学、セメントなど、各業種で生産プロセスや技術的制約が大きく異なるため、業種別のベンチマーク指標の策定が不可欠となっています。これにより、各企業の効率性を適切に評価し、技術革新を促進する制度設計が可能となります。
業種特性を反映した公平な割当制度の必要性
従来の一律的な排出削減目標設定では、業種ごとの生産プロセスや技術的制約の違いを十分に反映できないという課題がありました。製造業においては、鉄鋼、化学、セメント、製紙などの業種ごとに、生産技術や原料使用パターンが大きく異なります。例えば、鉄鋼業では高炉プロセスと電炉プロセスで排出原単位が大幅に異なり、化学工業では製品の多様性により排出パターンが複雑化しています。このような業種特性を適切に反映したベンチマーク指標の策定により、各企業の削減努力を公正に評価し、効率的な排出削減を促進することが可能となります。
2.多排出産業における効率的な排出削減の推進
日本の温室効果ガス排出量の約4割を占める製造業と発電業での効率的な排出削減推進が急務です。ベンチマークWG設置により、多排出産業で国際競争力を維持しながら脱炭素化を進める仕組み構築が期待され、2030年度46%削減目標達成に向けた実効性ある制度運用を実現します。
産業部門の排出削減における戦略的アプローチ
日本の産業部門における温室効果ガス排出量の約7割を占める多排出産業に対して、ベンチマーク方式による排出枠割当は特に重要な意味を持ちます。製造業ベンチマークWGでは、年間排出量が一定規模以上の業種を対象として、生産効率性を反映した指標の開発を進めています。発電部門においても、火力発電の燃料種別や発電効率の違いを適切に評価するベンチマーク指標が必要です。石炭火力、LNG火力、石油火力それぞれの技術的特性を踏まえた指標設定により、発電事業者の効率化投資を促進し、電力部門全体の脱炭素化を加速させることが期待されています。
革新技術導入を促進するベンチマーク指標の策定
日本の産業部門における温室効果ガス排出量の約7割を占める多排出産業での効率的な削減が、国全体の脱炭素目標達成の鍵となります。鉄鋼業、化学工業、セメント製造業、電力業などの主要排出業種では、既に相当程度の省エネ対策が実施されており、追加的な削減には革新的技術の導入や大規模な設備投資が必要です。ベンチマークWGでは、各業種の最先端技術水準や国際競争力を考慮しながら、実現可能かつ野心的な削減目標を設定することを目指しています。例えば、鉄鋼業では水素還元製鉄技術、化学工業では電化・燃料転換技術、セメント業ではCCUS技術の導入可能性を踏まえたベンチマーク指標の策定が検討されています。これにより、企業の技術革新インセンティブを高めながら、産業競争力の維持と排出削減の両立を図ることができます。
3.業種別ベンチマーク指標による制度最適化
多排出産業を優先検討対象として、各業種の最先端技術水準や国際ベストプラクティスを基準とした指標策定が進められています。鉄鋼業では高炉燃料効率、化学工業では製品単位エネルギー消費量など重要指標を設定し、企業の排出効率客観評価と技術革新インセンティブが適切に働く制度設計を実現します。
技術特性を踏まえた科学的な指標設定
製造業においては、鉄鋼業の高炉プロセス、化学工業の触媒反応、セメント製造の焼成工程など、業種ごとに大きく異なる生産技術と排出特性を有しています。これらの特性を無視した画一的な割当では、技術的に削減余地の少ない業種に過度な負担を強いる一方、削減ポテンシャルの高い業種での取り組みが不十分になる可能性があります。ベンチマークWGの設置により、こうした業種特性を科学的に分析し、公平性と効率性を両立した割当制度の構築が可能となります。各業種の技術的特性や国際競争力への影響を詳細に分析し、科学的根拠に基づいた公平な割当制度の構築が可能となります。
企業競争力と排出削減の両立実現
具体的には、業界トップランナーの効率性を基準としたベンチマーク指標を設定することで、企業間の公平性を確保しつつ、継続的な技術革新と効率改善を促進します。これにより、2030年度の温室効果ガス46%削減目標の達成に向けた実効性のある制度運用が実現されます。これらのWGの活動により、産業界全体での排出削減インセンティブが強化され、2050年カーボンニュートラル目標の達成に向けた実効性のある制度構築が進められています。このような業種特性を反映したベンチマーク指標により、企業は自社の排出効率を客観的に評価でき、技術革新や設備投資による削減インセンティブが適切に働く制度設計が実現されます。
引用
製造業ベンチマークWGの設置について 令和7年7月24日 経済産業省 GXグループ
発電ベンチマーク検討WGの設置について 2025年8月 資源エネルギー庁 電力・ガス事業部
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/emissions_trading/pdf/002_03_00.pdf
