【環境データ】エネルギー使用量・再生可能エネルギー利用量の第三者保証

企業が開示するエネルギー使用量および再生可能エネルギー利用量は、環境データとして気候変動対策の重要指標です。これらのデータに第三者保証を付与することで、計測方法の妥当性や報告数値の正確性が独立した専門家によって検証され、ステークホルダーからの信頼性が向上します。本記事では、エネルギー使用量・再エネ利用量の定義と測定上の課題、第三者保証の意義と採用基準、さらに日本企業における第三者保証の事例と今後の展望について論じます。

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目次

1.エネルギー使用量・再エネ利用量とは

エネルギー使用量とは、企業が事業活動で消費した電力・燃料など全エネルギーの総和であり、温室効果ガス排出の元データとして重要な環境指標です。一方、再生可能エネルギー利用量は、そのエネルギー消費のうち太陽光や風力、バイオマスなど再生可能エネルギー由来のエネルギーが占める量を指します。多くの企業が気候変動戦略として再エネ利用比率向上を掲げており、その進捗管理のため再エネ電力調達量などを測定・開示しています。

環境データの枠組み

企業の環境報告では、エネルギー使用量・再エネ利用量はいずれも「環境データ」に分類され、気候関連財務情報開示(TCFD)やサステナビリティ報告の中核指標となっています。例えばトヨタ合成株式会社では、Scope1・2・3の温室効果ガス排出量に加え、再生可能エネルギー使用量を含む環境パフォーマンスデータ全般に対し第三者検証を受けており、環境目標の達成状況を透明性高く開示しています。

2.測定・報告上の課題と不確実性

エネルギー使用量の測定には、事業所ごとの電力消費計量や燃料購入量の集計が必要ですが、複数拠点にまたがる企業ではデータ収集の統一性が課題となります。計量装置の精度誤差や、人為的な計算ミス、各国・各拠点での報告範囲の違いなどにより不確実性が生じる可能性があります。また、エネルギー使用量を原単位(売上高あたり等)で評価する場合、事業活動量の指標設定にも慎重さが求められます。

再生可能エネルギー

再生可能エネルギー利用量の算定にはさらに特有の難しさもあります。例えば、電力グリッドから調達した電力に占める再エネ割合を把握するためには、電力会社の証書(非化石証書や再エネ証書)の利用や、自家消費太陽光発電量の把握が必要となります。これら再エネ利用量の報告では、二重カウント(同じ再エネ属性を複数で計上してしまう問題)を避けるための厳密な管理が欠かせません。また、自社調達エネルギーのうち再エネ由来か否かの判定基準が明確でないと、企業間で報告数値の比較可能性が損なわれる恐れもあります。

GHGプロトコル

さらに、エネルギー使用量と間接的に関連する温室効果ガス排出量(GHGプロトコルのScope1,2)との整合性も課題です。エネルギー消費をCO₂換算する際の排出係数選定によっては報告値に差異が生じる為、エネルギー起源CO₂排出量の検証と併せて、エネルギー使用量自体のデータトレーサビリティ(各エネルギー源の使用記録の追跡可能性)を確保することが重要になります。

3.第三者保証の意義

こうしたエネルギーデータの第三者保証は、企業の気候関連情報開示における信頼性を飛躍的に高める役割を果たします。独立した検証機関がデータ算定プロセスや内部統制を点検し、数値の妥当性を保証することで、投資家や取引先などステークホルダーは開示情報を安心して利用できるようになります。特に、カーボンニュートラルやRE100(事業運営で100%再エネ電力を使用)の目標を掲げる企業にとって、実績となるエネルギー使用量・再エネ利用量の信頼性確保は不可欠です。

第三者保証での恩恵

第三者保証を受けることで、データ収集・管理プロセス上の課題も洗い出されます。例えば各拠点での計量方法のバラツキや、電力・燃料種別ごとの集計漏れなどが指摘されれば、企業は内部体制を改善し次年度以降のデータ精度を向上できます。すかいらーくホールディングスでは、CO₂排出量(Scope1,2,3)に加えてエネルギー使用量について第三者保証を取得し、施設ごとのデータ精査によってエネルギー多消費拠点や削減機会の特定に役立てている。このように第三者による指摘と保証意見は、単なる確認作業に留まらず、企業の環境マネジメントサイクルを促進する意義を持ちます。

また、金融当局や証券取引所もサステナビリティ情報の信頼性に注目しており、日本でも将来的に財務情報と同様に環境情報への保証が求められる見通しです。その中で、エネルギー使用量・再エネ利用量の保証取得は、企業が気候変動対策を真摯に取り組んでいる証左となり、ESG評価や投資判断にも好影響を与えます。

4.採用される保証基準と枠組み

エネルギー使用量・再エネ利用量の第三者保証には、一般的にサステナビリティ情報保証の国際基準であるISAE 3000(監査・保証基準審議会の国際保証業務基準)が適用されます。ISAE 3000は財務以外の情報全般を対象に保証業務を行うための枠組みで、保証レベル(限定的保証か合理的保証か)や手続の範囲を定めています。

さらに、報告指標そのものの標準としてGRIスタンダードが用いられます。GRI 302(エネルギー)では組織全体のエネルギー消費量(302-1)や再生可能エネルギー消費量(302-1の補足)を定義しており、多くの企業がGRIに則ったデータ開示を行います。この場合、第三者保証も報告がGRI基準に沿っているかを確認する形で実施され、保証意見書に「GRI基準に準拠して報告されている」旨が記載されることが多いです。

ISAE 3000とAA1000AS

会計監査法人系の保証ではISAE 3000が主流である一方、サステナビリティ専門機関による保証ではAA1000AS(AccountAbility Assurance Standard)も活用されます。ただし日本国内ではISAE準拠の保証が主流であり、保証プロバイダー(監査法人や認証機関)は必要に応じてISOやGRIの基準も織り交ぜつつ、エネルギーデータの検証を行っています。

5.日本企業の事例と保証機関

日本企業でも近年、エネルギー使用量や再エネ利用量に第三者保証を付与するケースが増えています。例えば、村田製作所は温室効果ガス排出量やエネルギー消費量、再エネ調達量などの保証を受け、独立した第三者保証報告書を開示しています。また、豊田合成では2023年度の再生可能エネルギー使用量を含む環境データについて第三者検証を実施し、データの透明性向上に役立てています。他にも、飲食業のすかいらーくホールディングスは2023年度よりエネルギー使用量に関して第三者保証を取得し、翌年には保証対象をScope3排出量の一部にまで拡大したと報告しています。

環境データへの拡大

このように、保証範囲を段階的に広げる企業も見られ、まずは自社の直接的な環境データ(エネルギー消費・GHG排出量等)から保証を開始し、徐々に間接領域(Scope3やサプライチェーンのデータ)へ適用する動きがあります。例えば旭化成株式会社では、自社のエネルギー起源CO₂排出量やエネルギー使用量データに検証マークを付し、保証済みであることを明示しています。

参考:https://www.asahi-kasei.com/jp/sustainability/environment/climate_change/# 

6.今後の展望

エネルギー使用量・再生可能エネルギー利用量の第三者保証は、今後ますます標準化していくと見込まれます。欧州連合ではサステナビリティ情報開示が義務化されつつあり(CSRD指令等)、開示情報に対する保証も段階的に必須となる方向です。日本国内でも金融庁のサステナビリティ基準(SSBJ)において、2027年以降、大企業から順次サステナビリティ情報の開示と第三者保証が求められる見通しです。エネルギー消費や再エネ利用実績は気候変動対応の根幹情報であるため、その保証実施は企業価値評価の新たな軸として重視されるでしょう。

技術面

エネルギー管理システムの高度化やデジタルツールの導入によりリアルタイムで精緻なデータ収集が可能になりつつあります。将来的にはブロックチェーン等を活用したエネルギーデータの改ざん防止策や、自動検証システムの開発も期待されますが、そうなれば第三者保証業務も効率化・高度化し、より広範な環境データに迅速な保証を付与できるようになります。

一方で、再生可能エネルギー証書の国際的な流通拡大や、電力由来CO₂排出係数の標準化など、エネルギーデータを取り巻く制度整備も進展しています。企業はこうした動向を注視しつつ、自社のエネルギー使用実態を正確に測定・報告できる体制を整える必要がります。第三者保証はその体制強化を後押しするものであり、信頼性ある環境コミュニケーションの鍵と言える為、今後はより多くの企業が環境データの第三者保証を通じて透明性・説明責任を果たし、低炭素経済への移行を支えていくことが期待されています。

この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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