水使用量・水資源管理に関する環境データは、企業のサステナビリティ活動において極めて重要な項目です。本記事では、企業が取り組む水使用量削減や水資源保護のためのデータ(取水量、排水量、再利用水量など)について解説し、それらのデータに第三者保証を付与する意義と方法を述べます。水リスクが高まる中、水使用データの正確性と信頼性を確保することはステークホルダーへの説明責任を果たす上で不可欠です。第三者保証を取得することで、企業の水資源管理の実績が客観的に裏付けられ、投資家や地域社会からの信頼を強化できます。

1. 水使用量・水資源管理データの重要性
企業活動には大量の水資源が利用されており、特に製造業や食品・化学業などでは取水量(工場などで使用する水の取り込み量)や排水量(使用後に排出する水量)の管理が環境経営の重要な指標となっています。水資源は有限であり、地域ごとに水ストレス(水不足リスク)の度合いも異なるため、各企業が自社の水使用効率を高め、水リスクに備えることが求められます。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標6「安全な水とトイレを世界中に」でも企業の水使用削減や水循環への貢献が期待されており、グローバルな情報開示枠組みであるGRIスタンダード303(水と排水)でも取水量・排水量・水リサイクルなどの具体的指標の開示が定められています。
典型的な水使用関連指標としては、総取水量(カテゴリー別:上水道水、地下水、雨水利用等)、総排水量(下水放流、河川放流 等)、水消費量(取水量-排水量=蒸発や製品に含まれ持ち出された水量)、再生水利用量・率(社内で回収して再利用した水の量や割合)などがあります。例えば工場を持つ企業では「年間総取水量〇〇千m³、うち△△%をリサイクル水で賄う」といった形で目標と実績を管理します。
こうしたデータは企業の環境報告書やCDPウォーター回答で公表され、利害関係者の評価対象となります。しかし水使用量データの算定には多くの事業所・設備からの集計が必要であり、集計ミスや漏れがあると報告値に大きな誤差が生じかねません。また、水源別の取水量算定や排水の水質情報など高度な内容も含まれるため、その正確性と網羅性を独立した専門家に検証してもらうこと(第三者保証)が有益です。
2. 水使用量データの測定・報告と課題
水使用量は比較的直接測定が可能な指標です。一般的に、上水道からの取水は水道メーター計測値に基づき、地下水取水はポンプ流量計などからの積算値、雨水利用はタンク容量や使用記録、排水量は流出モニターや排水ポンプ計測値で把握します。また、水蒸発損失など直接測定できない水消費量は「取水量-排水量」で間接的に算出します。こうしたデータ収集には、多数の拠点からの自己申告や自動計測システムが関与するため、データ収集フローの標準化やクロスチェックが重要です。例えば、各工場環境担当者が毎月使用水量を本社に報告し、本社で集計する、といったプロセスではヒューマンエラーが介在する余地があります。また海外拠点を含めると単位系の違い(ガロン⇔リットル)や報告範囲のブレも起こり得ます。
報告面では、GRI 303や統一開示基準に従い水源別取水量や高ストレス地域での水使用量などの情報開示が推奨されています。特に「水ストレスの高い地域での取水量割合」を示すことは、水リスク管理の観点から投資家が重視するポイントです。また、CDPウォータープログラムでは企業に対し水関連目標や取組みの開示とともに、報告データの第三者検証取得の有無も質問しており、検証を受けている企業はスコア評価で有利になります。
課題として、水使用量データは季節変動や操業度の影響を強く受け、年ごとの比較評価が難しい点があります。そのためトレンド評価では原単位(例えば製品生産量あたり取水量)の指標化が用いられます。これも各年の生産量データとの掛け合わせになるため、正確な原単位算出にはデータ整合性が欠かせません。
3. 水使用量データに対する第三者保証の必要性
上述のような複雑なデータ収集・算出プロセスゆえに、水使用データは第三者保証の効果が大きい領域です。第三者保証人は、データの発生源から集計までの流れを点検し、以下のようなポイントを検証します。
データ範囲・完全性
すべての関連拠点・設備の水使用が集計対象に含まれているか。不備なくデータが収集されているか。
測定・算定方法の妥当性
メーター校正や計測間隔は適切か。間接算出部分(例:消費量計算)の前提は合理的か。
変化要因の検討
年度間で大きな増減がある場合、事業縮小・拡大や節水施策など説明根拠があるかを確認。
開示値と内部記録の一致
報告書記載の取水量・排水量が、現場記録の集計と一致しているか。
第三者保証を受けることで、これらについて問題がないことが保証されます。その結果、社内的には「データに抜け漏れがない」という安心感を持って改善活動(節水やリサイクル施策)に集中できますし、社外的には「この企業の水使用実績データは信頼できる」という評価につながります。
特に水リスクが顕在化しやすい半導体・食品・飲料業界などでは、水使用量データの正確さが事業継続計画にも影響します。そのため積極的に第三者検証を導入する動きが見られます。CDPウォーターの2023年報告ガイダンスでも、独立検証済みデータの提供が高スコア獲得の重要要素として挙げられており、水関連の世界的な投資家の関心も高いことがうかがえます。
4. 水使用量データ第三者保証の事例
日本企業でも、水使用量データに第三者保証を付している事例が増えてきました。以下に代表的な例を紹介します。
京セラ
環境データの第三者保証取得状況として、GHG排出量、水使用量(取水量・排水量)、廃棄物排出量、VOC排出量などをLRQAによる検証範囲に含めています。この中で水使用量も保証対象となっており、京セラが集計した全社の取水量・排水量が正確であると第三者に認められています。
引用:https://global.kyocera.com/sustainability/verification/index.html
キヤノン
2025年版サステナビリティ報告書にて、2024年のGHG排出量、エネルギー消費量、水使用量についてLRQAリミテッドから第三者保証を取得したと公表しました。具体的な保証書も添付公開されており、Scope1・2排出量だけでなくエネルギーと水の使用実績まで網羅して保証を受けている点が特徴です。
引用:https://global.canon/en/sustainability/assurance/index.html
KDDI
ESGデータページで、Scope1・2排出量、エネルギー使用量、水使用量、産業廃棄物が第三者保証(LRQAによる限定的保証)の対象データであることを明記しています。通信業で工場は少ないものの全国のビル・基地局で水を使用するため、水使用量も保証対象に含め透明性を高めています。
引用:https://www.kddi.com/english/corporate/sustainability/report/esgdata/assurance/
楽天グループ
生物多様性の取り組みの中で、「グループ全体で廃棄物と水のデータを収集し、第三者保証を取得している」と述べています。具体的な数値は開示されていませんが、複数拠点からの水データをまとめ上げ保証を受けている例といえます。水使用データの保証取得により、同社は水取水量削減や従業員への節水意識啓発にデータを活かしているとも記載されています。
引用:https://corp.rakuten.co.jp/sustainability/biodiversity/#
これらの事例から、単に製造業だけでなく、オフィス中心の企業でも自社の水使用量データの信頼性確保に取り組んでいることがわかります。第三者保証の有無は企業の環境コミットメントの度合いを示す一つの指標とも受け取られるため、今後さらに多くの企業が水関連データの保証取得を進めることが予想されます。
4. 水データ保証の意義
水使用量・水資源管理データは、地球環境と事業継続性の両面に関わる重要情報です。その信頼性を高める第三者保証の導入は、企業にとって以下のような意義を持ちます。
ステークホルダー信頼の向上
保証付きデータは信ぴょう性が高く、投資家や顧客に対し企業の持続可能性への真摯な取り組みを訴求できます。
データ管理水準の向上
第三者のチェックを経ることで、内部のデータ収集・集計プロセスが洗練され、ミス防止や体制強化につながります。
リスク管理の強化
正確な水使用量データに基づき、水関連リスク(渇水や規制)の把握と対策立案がより確実になります。
国際評価での優位性
CDPやDSJIなど各種評価において、第三者保証を取得している企業は高く評価される傾向があります。
水という貴重な資源の利用状況を正しく測定し公表することは、企業の社会的責任の一端です。そして、それを支える第三者保証は単なる形式ではなく、企業活動と環境の調和を追求する上での強力なツールとなります。サステナビリティ推進室の担当者としては、自社の水データについて保証取得を検討し、社内外の信頼性を高める施策として活用していくことが望ましいでしょう。
