【排出量取引】排出量取引制度と第三者保証の重要性

排出量取引制度(ETS)は、温室効果ガス(GHG)削減のための市場メカニズムの一つであり、GXリーグにおいても2026年度からの第2フェーズで義務化されます。この制度の信頼性と透明性を確保するためには、排出量の正確な報告と第三者保証が不可欠です。本記事では、GXリーグのETSにおける第三者保証の役割、制度の詳細、SHK制度(省エネ法・温対法)との関係について解説します。

目次

1. 排出量取引制度における第三者保証の必要性

引用:環境省 温室効果ガス排出量の算定と検証について(ISO14064, 14065関連)

ETSの信頼性を担保する第三者保証

排出量取引制度では、各企業が自己申告で排出量を報告するため、データの正確性が重要になります。もし排出量の過少申告やデータの不正確さが発生すると、制度全体の信頼性が損なわれます。
このため、GXリーグでは第三者機関による保証が義務付けられています。

第三者保証には以下の目的があります。

データの透明性を確保
企業の排出量報告を客観的に評価する

排出枠の正確な取引を保証
不正確な排出枠売買を防ぐ

制度の国際的な信用性を確立
国際的なETSと整合性を持たせる

第三者保証の適用範囲

GXリーグのETSでは、以下のデータに対して第三者保証が求められます。

・企業の排出量報告(Scope 1)
・排出枠の割当申請

2. GXリーグにおける第三者保証の仕組み

GXリーグにおける第三者保証は、企業の排出量データや排出枠の取引を厳格に管理し、制度の透明性を確保するために導入されています。特に、企業ごとに異なる排出特性を考慮し、適用される保証レベルが設定されています。国際基準(ISO 14064-3、ISAE 3000、ISAE 3410)に準拠し、企業の信頼性向上にも寄与する仕組みです。

保証の種類と適用範囲

GXリーグでは、企業規模や排出量に応じて以下の2種類の保証方法が適用されます。

・合理的保証(Reasonable Assurance)
10万トンCO₂以上の排出事業者が対象。
現地監査を含む詳細なデータ検証。
排出データに加え、排出枠取引の正確性も保証対象となる。
不備が発見された場合、詳細な修正報告が求められ、監査が再実施されることもある。

・限定的保証(Limited Assurance)
書類ベースの簡易的な審査。
実地検査は原則不要だが、サンプル検査が行われる可能性がある。
過去の報告との一貫性や異常値の有無などが重点的に審査される。

第三者保証プロセスの流れ

データ収集・整理
企業は排出量データを算定し、必要に応じて内部監査を実施。

第三者機関による審査
限定・合理的保証を求める企業は、オンサイト監査を含む検証を受ける。

保証意見の発行
第三者機関が保証報告書を作成し、政府に提出。

政府の承認と排出枠取引
検証を通過したデータのみが正式な排出枠取引の対象となる。

不備があった場合の対応
修正申請や追加手続の実施。

このプロセスを通じて、企業の排出量データの正確性が担保され、制度全体の信頼性が確保されます。

保証の種類と適用範囲

GXリーグでは、企業規模や排出量に応じて以下の2種類の保証方法が適用されます。

合理的保証(Reasonable Assurance)
国際基準(ISO 14064-3、ISAE 3000、ISAE 3410)に準拠。

限定的保証(Limited Assurance)
書類ベースの簡易的な審査や現地検証。

これにより、企業の負担を考慮しつつも、制度全体の透明性を確保します。

3. SHK制度(省エネ法・温対法)と第三者保証の関係

引用:環境省 温対法に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)の令和6年度報告からの変更点

省エネ法・温対法との連携

GXリーグのETSは、既存のエネルギー管理・温室効果ガス排出量報告制度と密接に関連しています。
特に、省エネ法(SHK制度)や温対法のデータを活用することで、排出量算定の一貫性を保つことが可能です。これらの法律は、企業の排出データの正確性を確保するだけでなく、GXリーグの第三者保証プロセスを補完する役割も果たしています。

省エネ法(SHK制度)とは?
大規模事業者(エネルギー使用量1500kl以上)にエネルギー管理義務を課す。
燃料・電力消費データの報告義務があり、GXリーグの排出量算定の基礎データとして活用される。
企業は定期的なエネルギー監査を受ける必要があり、これが排出量算定の信頼性向上につながる。
GXリーグのETS制度との統合が進めば、エネルギー使用データと排出量データの一元管理が可能となる。

温対法(地球温暖化対策推進法)とは?
企業の二酸化炭素排出量の報告義務を規定し、GHG管理の枠組みを提供。
企業の排出削減目標とGXリーグETSの枠組みが整合性を持つことが求められる。
GXリーグの排出量報告と一部の指標が共通化される可能性があり、データの一貫性が強化される。

SHK制度とGXリーグETSの統合の可能性

SHK制度(省エネ法・温対法)のデータは、GXリーグETSの排出量報告にも活用される可能性があります。そのメリットとして以下が挙げられます。

データの一貫性確保
エネルギー使用量と排出量の整合性を持たせることで、報告の正確性を向上。

企業の負担軽減
SHK制度の報告とGXリーグの報告を統合することで、企業の事務負担を削減。

監査プロセスの統合
省エネ法に基づくエネルギー監査とGXリーグの第三者保証を連携させることで、検証プロセスの重複を回避。

今後の制度設計においてより明確なガイドラインが策定されることが期待されています。

4. 排出量取引における国際的な第三者保証制度との比較

ここからは日本と海外の第三者保証について比較していきます。

日本と海外のETSにおける保証の違い

GXリーグのETSは、日本独自の枠組みですが、海外のETSとも比較することでその特徴が明確になります。

この比較から、日本のGXリーグではScope 1の排出量を対象としつつ、合理的保証と限定的保証の2段階の仕組みを採用している点が特徴的です。

5. 排出量取引制度の今後の展望と企業への影響

それぞれ、企業が対応すべき事項や制度の発展について考察していきます。

企業が対応すべきこと

GXリーグのETSが本格稼働するにあたり、企業は以下の対応が求められます。

内部データ管理の強化
SHK制度の報告データを活用し、整合性を確保。

第三者保証の準備
どの保証レベルが適用されるかを確認し、対応策を講じる。

市場取引の活用
排出削減戦略を明確化し、取引市場でのリスク管理を行う。

将来的な制度の発展

Scope 2や他のGHG(メタン、N₂O)の報告義務化の可能性。
ETSの国際連携(EU-ETSとの統合検討など)。
日本版カーボンプライシングの強化。
これらの動向に注意し、企業は早期にGXリーグETSへの適応戦略を策定することが求められます。

6. 排出量取引制度まとめ

排出量取引制度(ETS)では、データの正確性を保証するために第三者保証が不可欠です。GXリーグの第2フェーズでは、合理的保証と限定的保証の2種類が導入され、企業規模に応じた適用が行われます。また、SHK制度(省エネ法・温対法)との連携により、データ整合性を保ちながら制度運用が進められる見込みです。企業は、これらの制度に適応し、排出削減戦略を明確にすることで、GXリーグのETSを有効に活用することが求められます。

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この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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