令和8年提出用 電気事業者別排出係数 Scope2算定での正しい選び方

環境省と経済産業省は、令和8年提出用の電気事業者別排出係数一覧を公表しています。令和8年1月9日の公表後、2月25日、6月4日、そして令和8年7月23日に一部追加・更新が入りました。この一覧は令和7年度の温室効果ガス排出量を算定するための係数であり、報告は令和8年度に行います。本記事では、最新の一覧に即して、Scope2算定で選ぶべき係数と、令和7年度報告から変わった制度の枠組みを整理します。

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目次

電気事業者別排出係数 要約

最新の一覧は令和8年提出用で、電気事業者の令和6年度実績に基づきます。ただしメニュー別排出係数は令和7年度実績であり、事業者全体の参考値は令和6年度実績です。一覧には基礎排出係数と調整後排出係数が並びますが、令和7年度報告から前者の中身が変わりました。公表資料の注記どおり、基礎排出係数は基礎排出量の算定に、調整後排出係数は調整後排出量の算定に用います。どちらか一方を選ぶのではなく、両方を算定して報告するのが温対法の建て付けです。

電気事業者別排出係数 背景

地球温暖化対策の推進に関する法律、通称「温対法」に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度では、一定量以上を排出する特定排出者が自らの排出量を算定し、国に報告することが義務付けられています。報告期限は、特定事業所排出者が毎年度7月末日、特定輸送排出者が毎年度6月末日です。

他人から供給された電気の使用に伴う排出量、すなわちScope2に相当する部分は、電気事業者ごとに公表される排出係数を用いて算定します。発電構成は事業者ごとに、また年度ごとに変動するため、係数は毎年更新されます。共通の公表値を用いることで、国内の全事業者が同じルールで算定し、比較可能性を確保する仕組みです。

電気事業者別排出係数 3つの年度に注意

この制度で最も間違えやすいのが年度の対応関係です。同じ一つのファイルに、性格の異なる3つの年度が登場します。

年度の種類令和8年提出用での値意味
ファイルの呼称令和8年提出用この係数を使って報告書を提出する年
係数のもとになった実績令和6年度実績電気事業者側の発電・調達実績の年度。メニュー別係数のみ令和7年度実績
算定対象令和7年度自社が集計する電力使用量の年度。令和7年4月1日から令和8年3月31日まで

公表Excelの注記には「令和7年度の温室効果ガス排出量を算定する際に用いる係数です。報告は令和8年度」と明記されています。「令和6年度実績」という表示は電気事業者側の実績年度であって、自社の電力使用量の年度ではありません。ここを取り違えると、集計期間を丸ごと1年ずらすことになります。

この対応関係は制度上の建て付けです。温室効果ガス排出量算定・報告マニュアルVer6.1は、電気の事業者別排出係数と代替値について「国が、算定対象年度の前年度の値を毎年度公表しますので、それらを用いて排出量の算定を行ってください」と定めています。令和7年度の算定に令和6年度実績の係数を用いるのは、この規定に沿った運用です。

電気事業者別排出係数 令和7年度報告からの変更点

改正法令等は令和7年4月1日に施行され、令和7年度報告、すなわち令和6年度実績の報告から適用されています。主な変更点は次の4つです。

  1. 直接排出と間接排出を区別した報告
  2. 基礎排出量のうち他人から供給された電気・熱の使用に伴うCO2排出量の算定方法の変更
  3. カーボンリサイクル燃料の取扱い
  4. 海外認証排出削減量の見直し

直接排出と間接排出の区分

改正前は燃料の使用に伴う排出と電気・熱の使用に伴う排出を合算した値で報告・公表していましたが、改正後は特定排出者単位の報告でこれを区分します。温対法様式第1の第1表では、従来の「①エネルギー起源CO2」が「①燃料の使用に伴うエネルギー起源CO2」に変更され、「③他人から供給された電気及び熱の使用に伴うエネルギー起源CO2」が新設されました。なお特定事業所単位の報告様式は従来どおりで、合算値を報告します。

係数が3層構造になった

改正前は基礎排出係数と調整後排出係数の2つでしたが、改正後は次の3つに分かれました。実務への影響が最も大きい変更です。

係数反映する環境価値誰が使うか
未調整排出係数反映しない。環境価値を反映する前の段階の係数電気事業者及び熱供給事業者の排出係数算定等に使用。特定排出者の排出量算定には用いない
基礎排出係数(非化石電源調整済)電気事業者が調達した非化石証書、グリーン証書、再エネ由来J-クレジット特定排出者が基礎排出量を算定する際に使用
調整後排出係数上記に加え、再エネ由来以外のJ-クレジットやJCMクレジット特定排出者が調整後排出量を算定する際に使用

ここで注意が必要なのは、改正前の解説に見られる「基礎排出係数は発電段階の物理的な排出量を反映した係数である」という説明が、現行制度では未調整排出係数の説明になっているという点です。改正後の基礎排出係数は非化石電源調整済であり、環境価値を織り込んだ後の係数です。古い解説を前提に社内マニュアルを作っている場合は、記述の見直しが必要です。

証書を反映する位置が変わった

特定排出者が取得した非化石証書、グリーン電力・熱証書、再エネ電力・熱由来J-クレジットの無効化量と移転量は、基礎排出量の算定に反映されるようになりました。様式の「他人から供給された電気及び熱の使用に伴う二酸化炭素」の欄には、使用量に排出係数を乗じて算定した排出量から無効化量を控除し、移転量を加算した値を記載します。従来のように、算定を終えた後の調整段階だけで証書を扱うのではありません。

控除できる非化石電源二酸化炭素削減相当量は、非化石証書の量に全国平均係数と補正率を乗じて算出し、電気事業者から小売供給された電気の使用に伴う排出量を上限とします。令和8年提出用では全国平均係数が0.000423t-CO2/kWh、FIT補正率が1.02、非FIT補正率が1です。なお、電気事業者が係数の算定に織り込んだ証書等については報告が不要で、使用した排出係数を報告します。報告が必要なのは特定排出者自身が取得・無効化・移転した分です。

電気事業者別排出係数 最新一覧の実態

令和8年提出用の一覧には小売電気事業者558社が掲載され、そのうちメニュー別の係数行が706、残差行が207、参考値行が284あります。実務で押さえておきたい点は次の3つです。

基礎排出係数と調整後排出係数はほぼ一致する

令和8年提出用に掲載された1,481行のうち、1,468行、率にして99.1%で基礎排出係数と調整後排出係数が同値です。差があるのは13行にすぎません。非化石証書等の環境価値が基礎排出係数の側にも反映されるようになった結果であり、「どちらの係数を選ぶか」という論点そのものが、改正前ほど大きな意味を持たなくなっています。両者を比較して有利な方を使うという発想ではなく、それぞれ所定の欄に記載するものだと理解してください。

負の係数は存在しない

令和8年提出用の全掲載行を確認したところ、負の値をとる係数はありません。ゼロの係数は多数存在しますが、マイナスにはなりません。なお、通達に定める方法で算出した結果が異常値となった基礎排出係数または調整後排出係数には代替値を適用する扱いが定められており、該当する係数には一覧上で※が付されています。

一般送配電事業者の係数は用途が限られる

一覧の末尾に掲載される一般送配電事業者の係数は、最終保障供給または離島供給を受けている場合に使用するものです。通常の小売契約で用いる係数ではありません。令和8年提出用では、沖縄電力が0.000707t-CO2/kWh、それ以外の一般送配電事業者は全国平均係数0.000423t-CO2/kWhを代用して報告・公表しています。

電気事業者別排出係数 メニュー別係数と残差・参考値

令和7年度報告から、基礎排出係数もメニュー別で公表されるようになりました。調整後排出係数だけの話ではない点に注意が必要です。自社が契約している料金メニューが一覧に掲載されていれば、そのメニューの係数を用います。掲載がない場合の扱いは段階的に定められています。

状況用いる係数
契約メニューの係数が公表されている当該メニュー別係数
メニュー別係数を公表している事業者から供給を受けているが、当該電気のメニュー別係数が公表されていない「メニュー別係数(残差)」
上記に該当し、かつ「残差」も公表されていない参考値として掲載された事業者全体の係数
契約事業者が一覧に掲載されていない実測等に基づく排出係数として適切と認められるもの。それでも算定できない場合に国が公表する代替値

参考値は原則として参考情報であり、上記の限られた場合にのみ算定に用います。また、メニュー別係数は令和7年度実績、参考値は令和6年度実績と、もとになる年度が異なる点も混同しやすいポイントです。

電気事業者別排出係数 論点

論点判断のポイントよくある誤解SSPの推奨スタンス
どの係数を使うか基礎排出量と調整後排出量では用いる係数が異なる温対法報告ではどちらか一方を選べばよい両方を算定して報告する。基礎排出係数は基礎排出量に、調整後排出係数は調整後排出量に用いる
係数の年度対応ファイルの呼称、係数の実績年度、算定対象年度の3つが異なる「令和6年度実績」と書いてあるので令和6年度の電力使用量に使う令和8年提出用は令和7年度の電力使用量に適用する。実績年度は電気事業者側の年度である
基礎排出係数の理解令和7年度報告から非化石電源調整済に変わった基礎排出係数は環境価値を反映していない係数である環境価値を反映する前の係数は未調整排出係数であり、特定排出者は用いない。社内マニュアルの記述を点検する
証書の反映位置無効化量は基礎排出量の算定段階で控除する証書は算定後の調整としてのみ扱う様式の記載方法が変わっているため、証書取得企業は第5表の記載欄の変更まで確認する
メニュー別係数の適用契約メニューが一覧に掲載されているか再エネプランを契約していれば自動的にゼロで算定できる公表されたメニュー別係数のみ適用可能。未掲載なら残差、参考値の順に判断し、一覧に該当がなければ実測等に基づく係数、最後に代替値の順で検討する
任意開示との関係温対法の係数区分とGHGプロトコルの2区分は定義が一致しない調整後排出量をそのままマーケット基準として開示できるCDPやSBTi等への開示では、GHGプロトコルの定義に沿ってロケーション基準とマーケット基準を別途整理する
複数拠点の扱い拠点ごとに契約事業者とメニューが異なるか全社で同じ係数を使えばよい事業所ごとに該当する係数で算定し、合算する

電気事業者別排出係数 手順

1. 報告義務と期限の確認

自社が温対法の報告義務対象であるかを確認し、責任部署と担当者を明確にします。特定事業所排出者は毎年度7月末日、特定輸送排出者は毎年度6月末日が期限です。

2. 最新の一覧の入手

環境省のウェブサイトから電気事業者別排出係数一覧を入手します。令和8年提出用は令和8年1月9日に公表され、2月25日、6月4日、7月23日に更新されています。年度内でも複数回更新されるため、最新版であることを必ず確認してください。

3. 契約事業者とメニューの特定

全ての事業所について、令和7年度に電力を契約していた小売電気事業者と料金メニューをリストアップします。次に一覧を照合し、メニュー別係数、残差、参考値のいずれを用いるかを事業所ごとに確定します。一覧に該当がない場合は、実測等に基づく排出係数として適切と認められるもの、それでも算定できない場合は代替値という順で検討します。

4. 電力使用量の集計

令和7年4月1日から令和8年3月31日までの事業所ごとの電力使用量を、電力会社からの請求書など信頼できる記録に基づいて集計します。

5. 基礎排出量と調整後排出量の算定

事業所ごとに電力使用量と適用係数を乗じて排出量を算定します。基礎排出量には基礎排出係数、調整後排出量には調整後排出係数を用い、それぞれ別に算定します。

6. 証書等の反映と様式への記載

自社が取得した証書やクレジットについて、無効化量を控除し移転量を加算した値を該当欄に記載します。証書を扱う企業は、第5表の記載欄が改正されている点も確認してください。

7. 算定根拠の文書化と提出

電力使用量のデータ、適用した係数、計算過程、参照した一覧の版と更新日を記録し、内部監査や第三者保証に備えて保管します。その上で所定の様式により報告書を作成し、期限内に提出します。

電気事業者別排出係数 FAQ

Q1 令和8年提出用の係数は、いつの電力使用量に適用しますか

令和7年度、すなわち令和7年4月1日から令和8年3月31日までの電力使用量に適用します。報告は令和8年度です。係数そのものは電気事業者の令和6年度実績に基づきますが、これは自社の使用量の年度ではありません。

Q2 基礎排出係数と調整後排出係数はどちらを使えばよいですか

両方を使います。公表資料の注記に「基礎排出係数は基礎排出量の算定に、調整後排出係数は調整後排出量の算定に用います」と明記されているとおり、それぞれ用途が定まっており、選択の余地はありません。なお令和8年提出用では両者が同値である行が99.1%を占めます。

Q3 未調整排出係数は自社の算定に使いますか

使いません。未調整排出係数は電気事業者及び熱供給事業者の排出係数算定等に用いられるもので、特定排出者の排出量算定には用いられないと明示されています。特定排出者向けの一覧と、電気事業者の未調整排出量算定用の一覧は別に公表されています。

Q4 契約している電力会社が一覧にありません

すぐに代替値を使うわけではありません。算定・報告マニュアルは3段階を定めています。第一に国が公表する電気事業者ごとの排出係数、第二にそれが使えない場合は実測等に基づく排出係数として適切と認められるもの、第三にいずれの方法でも算定できない場合に国が公表する代替値です。令和8年提出用の代替値は0.000416t-CO2/kWhです。なお電気事業者が自社サイトで独自に公表している係数を、必ずしも第二の係数として用いる必要はないとされています。

あわせて、全国平均係数0.000423t-CO2/kWhは代替値とは別の数値です。こちらは非化石証書の削減相当量を算出する際に用いるものなので、混同しないよう注意してください。

Q5 なぜ係数は毎年変わり、年度内にも更新されるのですか

係数は各電気事業者の発電構成と環境価値の調達実績に依存するため、年度ごとに変動します。加えて、新規参入事業者の係数の追加や、事業者からの報告内容の精査を受けた修正が年度内にも生じます。令和8年提出用も、当初公表後に3回の追加・更新が行われています。算定に着手する時点と報告書を提出する時点の双方で、最新版を確認することが安全です。

電気事業者別排出係数 まとめ

令和8年提出用の電気事業者別排出係数一覧は、令和7年度の排出量を算定するための係数です。実務上の要点は3つに集約されます。第一に、ファイルの呼称、係数の実績年度、算定対象年度という3つの年度を取り違えないこと。第二に、基礎排出係数と調整後排出係数は選択するものではなく、それぞれ所定の排出量算定に用いるものであること。第三に、令和7年度報告から係数が未調整・基礎・調整後の3層構造となり、証書の反映位置も変わったため、改正前を前提とした社内マニュアルや算定ツールは点検が必要であること。

株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズは、算定の前提となる係数選択の妥当性を含め、信頼性の高い第三者保証サービスを通じて企業のサステナビリティ情報開示を支援します。

参考リンク

環境省 算定方法・排出係数一覧
https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/calc.html

環境省 令和6年度の電気事業者ごとの基礎排出係数(非化石電源調整済)・調整後排出係数等の公表について
https://www.env.go.jp/press/press_02235.html

環境省 令和7年度報告からの温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度の変更点について
https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/files/about/changes_2025_rev2.pdf

環境省 制度概要
https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/about.html

環境省 温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル
https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/manual.html

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この記事を書いた人

SSP編集部は、非財務情報の第三者保証を専門とする株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズの実務者チームです。公認会計士やISO審査・サステナビリティ開示の実務経験を持つ専門職員で構成され、ISO 14064-3・ISAE 3000・ISSA 5000等の国際基準に基づくGHG排出量(Scope1・2・3)の検証・保証や、GX-ETS(排出量取引制度)の登録確認機関としての確認業務に従事しています。SSBJ・CDP・SBTなど最新の制度動向を一次情報にあたって追い、算定・開示の現場実務に即した、正確でわかりやすい解説をお届けします。

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