GX-ETS第2フェーズでは、制度対象者は毎年9月30日までに移行計画を経済産業大臣および事業所管大臣に提出する義務を負います。移行計画にはCO2排出データや投資計画、R&D情報が含まれ、提出された内容の一部は経済産業大臣および事業所管大臣によって公表されます。本記事ではSSPの実務経験に基づき、移行計画の記載事項と公表に伴う留意点を整理します。


移行計画 要約
移行計画とは、GX-ETS第2フェーズにおいて制度対象者が毎年9月30日までに提出を求められる計画書であり、排出量見通し・投資計画・研究開発情報を含む。提出内容のうち、前年度排出量、2030年度の排出量目標、研究開発内容、その他GX関連取組が個社ごとに公表される。なお、投資計画は公表対象外である。公表される項目を意識したドラフト設計が不可欠である。経営層が関与し、自社の気候変動戦略と整合的な内容に仕上げることが制度対応の要論となる。
移行計画 背景
地球温暖化対策が国際的に加速するなか、日本ではGX推進法に基づきGX-ETSの制度整備が進められている。その柱の一つが移行計画の提出義務化である。これまでのGXリーグでは任意参加の色合いが強かったが、第2フェーズでは法的義務として位置付けられた。
移行計画が求められる背景には、企業のGX投資を可視化し、資本市場や社会全体に対して信頼性のある情報を提供するという政策意図がある。ISSBやTCFDなど国際的な開示フレームワークにおいてもトランジション・プランの重要性が高まっており、日本の移行計画制度はこうしたグローバルな潮流と連動した設計になっている。
さらに、移行計画は単なる開示書類にとどまらず、制度対象者が自社の排出削減と投資戦略を経営レベルで棚卸しする契機として機能することが期待されている。毎年の更新義務が課されていることからも、PDCAサイクルの中核文書として活用される想定といえよう。
移行計画 定義
SSPでは、移行計画を次のように定義している。
「移行計画とは、GX-ETS第2フェーズの制度対象者が、排出量の見通し、GX関連投資の計画、研究開発の方向性、およびその他の排出削減に関連する情報を一体的に記載し、経済産業大臣および事業所管大臣に提出する法定計画書をいう。」
記載事項は大きく第Ⅰ部(CO2排出量に関する事項)と第Ⅱ部(GX投資・R&D・その他取組に関する計画)の2部構成となっている。ただし、公表されるのは一部の項目に限られ、投資計画は公表対象外である。なお、移行計画は排出目標量の届出とは別個の制度であり、両者は並行して対応が必要となる点に留意が求められる。
移行計画 結論
移行計画に関する制度対応を進めるにあたり、以下の3点が結論として重要である。
1. 公表前提で作成すべきである
移行計画は提出後に大臣が公表する仕組みであるため、ステークホルダーに読まれることを前提として記載内容を設計する必要がある。投資家、取引先、NGOなど多様な読者を想定し、自社のGX戦略を的確に伝える文書に仕上げなければならない。
2. 経営層の関与が望ましい
投資計画やR&D方針を含む文書である以上、現場任せでは記載内容の整合性を保てない。なお、制度上は移行計画の提出にあたって自社の機関決定(取締役会承認等)は求められていないが、実務上は経営戦略との一貫性を確保する観点から、経営層が内容を把握しておくことが望ましい。
3. 毎年の更新が求められる
移行計画は一度提出して終わりではなく、毎事業年度に更新・再提出が必要となる。前年との差異を明確にし、進捗を示すことで制度趣旨に沿った運用が実現できる。
移行計画 論点
移行計画の作成にあたり押さえるべき主要論点を以下に整理した。
移行計画 比較
排出目標量の届出と移行計画の提出は、いずれもGX-ETS第2フェーズにおける主要な制度義務であるが、その性格は異なる。以下に両者の違いを比較する。
移行計画 重要点
公表される項目の経営的インパクト
移行計画のうち、前年度排出量、2030年度の排出量目標、研究開発内容、その他GX関連取組が個社ごとに公表される。投資家やESG評価機関が公表情報をモニタリングし、企業間比較を行うことが想定されるため、公表対象となる項目については特に留意が必要だ。不十分な内容を提出した場合、市場からの評価低下につながりかねない。
なお、投資計画は公表対象外であるが、充実した移行計画を通じて自社のGXへの本気度を対外的にアピールする好機でもある。IR資料やサステナビリティレポートとの連動を図ることで、統合的な情報発信が可能になる。公表を「リスク」ではなく「機会」と捉える視点が経営に求められている。
投資計画の記載と開示戦略
移行計画の第Ⅱ部には投資計画の記載が含まれる。投資計画は公表対象外であるが、提出先である経済産業大臣および事業所管大臣には内容が共有されるため、競争上の機密情報の取り扱いについては引き続き留意が必要である。
SSPとしては、投資の方向性や規模感を適切に記載しつつ、実務上必要な範囲で法務部門やIR部門との事前協議を行うアプローチを推奨する。なお、公表対象となるⅡの2(研究開発内容)やⅡの3(その他GX関連取組)については、ステークホルダーに読まれることを前提とした記載品質の確保が重要となる。
移行計画 手順
移行計画の作成から提出までの標準的な手順を以下に示す。
ステップ1:プロジェクトチームの組成
環境部門を中心に、経営企画、財務、法務、IR、技術部門からメンバーを選定する。移行計画は全社横断的な文書であるため、単一部門での作成は避けるべきである。
ステップ2:排出データの整理(第I部)
直近の排出実績データ、基準排出量、排出目標量との関係を整理し、排出量の見通しを策定する。温対法報告やGHGプロトコルのデータを活用しながら、制度固有のルールに沿った形式に変換する。
ステップ3:投資計画・R&D情報の整理(第II部)
GX関連投資の実績と今後の計画、研究開発の方向性を取りまとめる。経営企画部門との連携が特に重要になるステップである。
ステップ4:ドラフト作成と社内レビュー
第I部・第II部を統合したドラフトを作成し、関係部門の横断レビューを実施する。公表されることを前提に、表現の適切性や企業秘密への抵触がないかを確認する。
ステップ5:社内確認
制度上は移行計画の提出にあたり機関決定(取締役会承認等)は求められていないが、投資計画を含む文書であるため、実務上は関係役員の確認を経て提出することが望ましい。
ステップ6:ERMSでの提出
ERMSにログインし、移行計画の提出画面から必要事項を入力・添付して提出する。提出後は受理確認を必ず取得し、差戻しがないか定期的にステータスを確認する。9月30日の期限に余裕を持ったスケジュールで対応されたい。
移行計画 FAQ
Q. 移行計画は毎年提出する必要がありますか?
A. はい。移行計画は毎事業年度、9月30日までに提出する義務があります。前年からの変更点を含め、最新の情報で更新する運用が求められます。
Q. 公表内容を自社でコントロールできますか?
A. 公表される項目は制度上定められており、Ⅰの1(前年度排出量)、Ⅰの2(2030年度の排出量目標のみ)、Ⅱの2(研究開発内容)、Ⅱの3(その他GX関連取組)が個社ごとに公表されます。Ⅱの1(投資計画)およびⅡの4(前年度比較)は公表対象外です。企業側で公表範囲を任意に選択することは想定されていません。
Q. 投資計画はどこまで詳しく記載すべきですか?
A. 法令で求められる記載水準に従いつつ、企業秘密に該当する詳細情報は必要最小限にとどめるのが実務的なアプローチです。方向性・規模感は示しつつ、個別案件の仕様までは踏み込まないバランスが求められます。
Q. 他社の移行計画は閲覧できますか?
A. 公表された移行計画は、一般に閲覧可能となる見込みです。同業他社の計画を参照することで、自社計画の水準を確認する材料として活用できるでしょう。
Q. 移行計画を提出しなかった場合、どのようなペナルティがありますか?
A. 移行計画を正当な理由なく提出しない場合は、勧告の対象となります。勧告に従わない場合には命令が出され、命令違反には罰則が科される可能性があるため、期限内の確実な提出が不可欠です。
移行計画 まとめ
移行計画は、GX-ETS第2フェーズにおける中核的な制度義務の一つである。排出データ、投資計画、R&D情報を網羅する包括的な文書であり、提出内容の一部は経済産業大臣および事業所管大臣によって個社ごとに公表される。作成にあたっては、公表を前提とした品質管理、経営層の関与、全社横断的なプロジェクト体制の構築が鍵となる。
毎年9月30日という提出期限は固定されているため、早期に準備に着手し、計画的にドラフト作成と承認プロセスを進めることが実務上の成功要因である。

