GX-ETS第2フェーズでは、CO2直接排出量の年度平均が10万t以上の事業者が制度対象となります。経済産業省からの通知や指定は行われず、各事業者が自ら判定する責任を負う仕組みとなっています。本記事ではSSPの実務経験に基づき、判定に必要な計算方法、対象となる排出の範囲、合併時の取扱いなどを体系的に整理します。


GX-ETS対象者 要約
GX-ETS第2フェーズにおける制度対象者とは、直近3年度のCO2直接排出量の算術平均が10万t以上の事業者を指します。判定は事業者単位で毎年度実施し、子会社や関連会社は個別に判定しなければなりません。対象となる排出は工場等の燃料使用、原材料起源、閾値以上の輸送事業の3カテゴリに分類されます。判定を誤り届出を怠った場合、罰則の対象となるため注意が求められます。
GX-ETS対象者 背景
GX-ETS第2フェーズは法的義務に基づく制度であり、要件を満たす事業者は自動的に対象となります。第1フェーズのGXリーグが自主参加方式であったのとは根本的に異なる点に留意すべきでしょう。
とりわけ重要なのは、経済産業省が対象企業を特定して通知する仕組みではないという点にあたります。各事業者が毎年度9月30日までに自ら判定を行い、対象であれば届出をしなければなりません。届出義務の不履行や虚偽の届出には50万円以下の罰金が科されることにも注意が必要です。
温対法やエネルギーの使用の合理化に関する法律で既にCO2排出量を算定している企業であっても、GX-ETSの判定に用いる排出量の範囲は必ずしも一致しません。したがって、制度固有のルールに従った正確な判定が不可欠といえます。
GX-ETS対象者 定義
SSPはGX-ETS第2フェーズにおける制度対象者を次のように定義しています。直近3年度の各年度のCO2直接排出量を算術平均した量、すなわち年度平均排出量が10万t以上である事業者がこれに該当します。判定単位は法人単位であり、子会社や関連会社はそれぞれ別の事業者として個別に判定されることになります。
年度平均排出量が10万t以上の年度は制度対象に、下回る年度は制度対象外となります。なお、制度対象か否かは毎年度の判定結果によって変動するため、継続的な確認が欠かせません。
GX-ETS対象者 基礎
判定に必要な基礎知識を以下のとおり整理します。
年度の定義は4月1日から翌3月31日までとなっています。会計年度が異なる企業であっても、この暦に基づいて判定しなければなりません。
対象となるCO2直接排出量は3つのカテゴリに分かれます。第一に、工場等における燃料の使用に伴う排出が挙げられます。工場、事務所、テナントビル、商業施設、廃棄物処理施設など、特定の区画内で継続的に事業活動を行う場所が対象となり、敷地内の移動体による排出も含まれます。
第二に、原材料起源のCO2排出があります。セメントクリンカーの製造、生石灰の製造、ドライアイスの使用など28種類の活動が定められており、このカテゴリは工場等の敷地外での排出も対象となる点が特徴的といえます。
第三に、輸送事業に係る燃料使用に伴う排出が対象となります。ただし全ての輸送事業者が該当するわけではなく、輸送能力が一定の閾値以上の輸送区分のみが対象に含まれます。
輸送能力の閾値は次の通りとなっています。鉄道は貨物旅客とも300両以上、自動車は事業用200台以上(バスは200台以上、タクシーは350台以上)、船舶は総船腹量2万tかつ保有船舶数40隻以上、航空機は総最大離陸重量9,000t以上が求められます。
一方、CO2直接排出量として計上しないものも定められています。廃棄物の原燃料利用に伴う排出、離島における発電事業の排出、離島航路および離島航空路における排出、旅客輸送密度4,000人未満の鉄道路線における排出が除外対象となります。ただし最大離陸重量70t以上の航空機を使用する離島航空路は除外されません。
GX-ETS対象者 結論
SSPは制度対象者の判定において、次の3点を特に重要と考えています。
第一に、判定のタイミングを逃さないことが挙げられます。届出期限の9月30日までに判定を完了させる必要があり、判定が遅れると届出の不履行につながりかねません。
第二に、排出量の範囲を正確に把握することが求められます。温対法で報告している排出量とGX-ETSの判定に用いる排出量は範囲が異なります。具体的には、原材料起源排出が敷地外も含む点、輸送事業は閾値以上の区分のみ対象である点、廃棄物の原燃料利用は除外される点を正しく理解しなければなりません。
第三に、10万tの前後にある企業は特に注意が必要となります。年度によって対象になったり対象外になったりする可能性があり、毎年度の判定を怠ることは許されません。
GX-ETS対象者 論点
論点
| 論点 | 実務での重要度 | 判断のポイント | よくある誤解 | SSPの推奨スタンス |
| 年度平均排出量の算定 | 高 | 直近3年度の算術平均。事業開始が2年前なら2年平均、1年前なら前年度のみ | 3年分のデータがないと判定できないという誤解 | 事業開始時期に応じた計算方法を正確に適用する |
| 原材料起源排出の範囲 | 高 | 28種類のリストに該当するか確認。敷地外も対象 | 工場外のドライアイス使用や潤滑油使用を見落とす | 全28種類のリストと自社の活動を突合する |
| 輸送能力の閾値判定 | 高 | 各輸送区分で個別に判定。閾値未満の区分は対象外 | 全輸送手段を一括で判定するという誤解 | 輸送区分ごとに閾値を確認し、対象か否かを個別に判断する |
| 合併時の排出量の扱い | 中 | 消滅会社の合併前排出量は加算しない | 合併で排出量が増えたため過去3年分も合算するという誤解 | あくまで存続会社の実績のみで判定する |
| 廃棄物の原燃料利用 | 中 | 廃タイヤや廃油等を燃料として使う場合の排出は除外 | 副生燃料も同様に除外されるという誤解 | 廃棄物の原燃料利用と副生燃料は明確に区別する |
| 離島の除外 | 低 | 離島における発電事業、離島航路などは除外 | 全ての離島関連が除外されるという誤解 | 最大離陸重量70t以上の航空機は除外対象外 |
| カーボンクレジットの扱い | 低 | 判定時にはクレジットの無効化量や移転量は考慮しない | クレジットで10万t未満になれば対象外になるという誤解 | 判定はあくまで実排出量の平均で行う |
GX-ETS対象者 比較
| 比較項目 | 温対法の報告義務 | GX-ETSの判定 |
|---|---|---|
| 対象ガス | 7種類の温室効果ガス | CO2のみ |
| 間接排出 | 対象 | 対象外 |
| 原材料起源の範囲 | 工場等内のみ | 工場等内外 |
| 輸送事業の判定 | 輸送量基準 | 輸送能力基準で閾値以上の区分のみ |
| 廃棄物の原燃料利用 | 報告対象 | 除外 |
| 離島の扱い | 特段の除外なし | 離島発電や離島航路は除外 |
| 判定単位 | 事業者単位 | 事業者単位。子会社や関連会社は個別判定 |
| クレジットの影響 | 報告義務に影響しない | 判定時にはクレジットを考慮しない |
GX-ETS対象者 重要点
事業開始が直近の場合の判定方法
通常は直近3年度の平均で判定を行いますが、事業開始が直近の場合には例外が設けられています。判定年度の2年度前に事業を開始した場合は直近2年度の平均を使用し、前年度に事業を開始した場合は前年度の排出量のみで判定することとなります。新設企業であっても初年度から10万t以上であれば制度対象に含まれます。
合併や事業譲渡があった場合の判定
直近3年度の間に合併、吸収分割、事業譲渡があった場合であっても、消滅会社の合併前の排出量を加算して判定することはありません。あくまで存続会社としての実績で判定する仕組みとなっています。
たとえば存続会社の過去3年の排出量が各年度5万t、6万t、12万tであり、合併により被合併会社の排出が加わったとしても、判定に用いるのは存続会社自身の排出量のみにあたります。この場合の年度平均は7.67万tとなり、10万t未満のため制度対象外と判断されます。
GX-ETS対象者 手順
1. 自社の排出源を棚卸しする。工場等の燃料使用、原材料起源排出の28種類のリスト、輸送能力が閾値以上の輸送区分の3カテゴリについて、自社に該当する排出源を全て洗い出します。
2. 各年度のCO2直接排出量を算定する。直近3年度について各カテゴリの排出量を算定し、燃料使用量に単位発熱量と炭素排出係数を乗じて算出します。
3. 除外対象を確認する。廃棄物の原燃料利用、離島発電、離島航路、旅客輸送密度4,000人未満の鉄道路線は除外対象にあたります。これらが自社に該当するか確認し、除外します。
4. 年度平均排出量を算出する。直近3年度の排出量の算術平均を計算します。事業開始が2年前の場合は2年平均、前年度の場合は前年度のみを使用することとなります。
5. 10万tの閾値と比較する。年度平均排出量が10万t以上であれば制度対象者に該当します。下回る場合はその年度について制度対象外となります。
6. 判定結果を記録し届出準備を行う。制度対象者に該当する場合は、9月30日の届出期限に向けてERMSのアカウント開設、工場等情報の登録などの準備を進めます。
GX-ETS対象者 FAQ
Q1 温対法で報告している排出量がそのまま使えますか
そのまま使うことはできません。GX-ETSは対象ガスがCO2のみであり、間接排出を含まない点が異なります。さらに原材料起源排出の範囲が敷地外にも拡がるなど、温対法とは算定範囲が異なるため、GX-ETS固有のルールに従って改めて算定する必要があります。
Q2 工場を持たないサービス業は対象外ですか
必ずしも対象外とはなりません。事務所やテナントビルも工場等に含まれるほか、輸送能力が閾値以上の輸送事業者も対象に該当します。ただし、サービス業でCO2直接排出量の年度平均が10万t以上となるケースは限定的といえるでしょう。
Q3 海外拠点の排出量は含まれますか
含まれません。GX-ETSの対象は日本国内の排出に限定されており、海外の工場や事業所における排出量は年度平均排出量の算定に含めないこととなっています。
Q4 年度の途中で10万tを超えた場合はどうなりますか
年度の途中で超えるか否かは判定に影響しません。判定は年度単位の排出量を3年平均で行うため、ある年度に10万tを超えたとしても、3年平均で10万t未満であれば制度対象外にあたります。
Q5 子会社の排出量は親会社に合算されますか
合算されることはありません。子会社は別事業者として個別に判定される仕組みとなっています。ただし密接関係者としての共同届出制度を利用する場合は、共同届出体として一体的に義務を履行することも可能です。
Q6 排出量が10万tを少し下回る場合、安全策はありますか
制度上、10万t未満であれば対象外となります。しかしながら、境界付近の企業はわずかな排出量の変動で翌年度に対象となる可能性も否定できません。そのためSSPとしては、境界付近の企業にも事前の体制整備を推奨しています。
GX-ETS対象者 全体像
GX-ETS第2フェーズの制度全体像については、制度の骨格から届出、償却までの流れを網羅的に解説した記事をご覧ください。
GX-ETS対象者 まとめ
GX-ETS対象者の判定は、制度対応の第一歩であると同時に、最も基本的かつ重要なステップにあたります。経済産業省からの通知は行われないため、各事業者が自らの責任で直近3年度のCO2直接排出量を算定し、年度平均が10万t以上であるかを確認しなければなりません。
温対法の報告値をそのまま転用することはできず、GX-ETS固有の排出範囲を正確に把握する必要があります。とりわけ原材料起源排出の敷地外への拡大、輸送能力の閾値判定、廃棄物の原燃料利用の除外は見落としやすいポイントといえるでしょう。判定に不安がある場合は、登録確認機関や専門家への早期相談をSSPとして推奨いたします。

