電炉普通鋼製造業は、電気アーク炉によるスクラップ溶解を主体とする鉄鋼生産方式です。高炉法と比較してCO2排出原単位は低いものの、電極の酸化反応や副原料の脱炭酸反応など、電炉固有の排出源が存在します。本記事では、GX-ETS制度への対応を見据え、電炉普通鋼製造業におけるGHG算定の基本的な考え方と実務上の注意点を解説します。

電炉普通鋼 背景
電気アーク炉における排出メカニズム
電気アーク炉の主要な排出源は、炭素電極の高温酸化反応です。その化学反応式は C + O2 → CO2であり、用いられた炭素電極の炭素含有量(単位:tC)に44/12という化学量論的係数を乗じることで、CO2排出量が得られます。この計算を厳密に実施するためには、各電極サプライヤーから発行される分析証明書(CoA:Certificate of Analysis)に基づいて、実際の炭素含有率を把握することが絶対に必要となります。電極の炭素含有率は製造ロットごとに微小な変動があるため、平均値ではなく実績値の追跡が重要です。また、電気アーク炉に付属する補助バーナー(スポット加熱用)、再加熱炉、取鍋炉(LF)、ボイラー、乾燥炉など、複数の加熱装置からの燃焼排出も計上する必要があります。
電極の管理実務では、以下のプロセスで算定を行います。
1 各電極サプライヤーから発行される分析証明書(CoA)をロット番号ごとに保管します。
2 使用前後の電極重量を秤量し、月間電極消費量を把握します。
3 秤量値に当該電極のCoAから得られた炭素含有率(通常90~99%)を乗じ、炭素量(単位:t)を算出します。
4 算出した炭素量に44/12を乗じ、最終的なCO2排出量を得ます。
棚卸しベースでの月次計上が必要な場合や、製造メーカー変更時の炭素含有率の変動には注意深い監視が重要です。
副原料の脱炭酸反応と原料区分
電炉の製鋼プロセスで用いられる副原料の中でも、石灰石(CaCO3)とドロマイト(CaMg(CO3)2)は、加熱に伴う熱分解反応によるプロセスCO2を発生させます。
1 石灰石の場合、熱分解により0.440 tCO2/tのプロセス排出が発生します。
2 ドロマイトの場合、0.471 tCO2/tのプロセス排出が発生します。
特に生石灰(CaO)は既に焼成された状態の原料であるため、温対法の対象外(OUT OF SCOPE)となります。購入した石灰石が未焼成の状態なのか、既に焼成されたCaOなのかを正確に区別することが、二重計上防止のために不可欠です。
副原料の仕入先管理体制の構築手順は以下の通りです。
1 全ての仕入先との契約書に、原料の化学組成(CaCO3含有率など)の明記を義務付けます。
2 毎月の納入物について、サプライヤーが発行する成分分析表を添付させ、期末には年間集計表の提出を求めます。
3 得られた情報から純CaCO3相当量を算定し、脱炭酸排出量を計上します。
仕入先が「CaOベースで販売」としている場合は文書化して対象外とし、不明確な場合は第三者機関による分析を依頼します。
電炉普通鋼 重要点
電力消費に伴うCH4排出
電気アーク炉の電力消費に伴っては、CO2排出だけでなくメタン(CH4)も同時に発生します。
1 電気アーク炉の年間電力消費量(kWh単位)をメーターデータ等から把握し、月次で集計します。
2 年間電力消費量に排出係数 4.6×10-8 を乗じ、さらにCO2換算係数(CH4のGWP値:28)を乗じることで、CO2相当量を算出します。
3 算出結果をCO2排出量インベントリに明記し、操業効率改善時にはCH4排出量の変化も併せて報告します。
この排出はScope 2(電力由来)ではなく、Scope 1(直接排出)として分類される必要があります。
その他の管理対象項目
HFC冷媒:回収・リサイクル時の文書保存(3年間)を徹底します。
SF6ガス:高圧電気機器の管理について電気保守部門と情報連携を強化します。
移動機械・車両:スクラップローダー、コンベア駆動用バッテリーフォークリフト、社用車をScope 1モバイル燃焼排出として計上します。
これらの項目の把握には、企業全体の資産管理システムとGHG算定システムの連携が必要となります。
電炉普通鋼 まとめ
電炉普通鋼の排出量管理の中核は、三つの要素:①炭素電極の酸化反応、②石灰石とドロマイトの区分管理および生石灰の除外、③電力消費に伴うCH4排出、に尽きます。これらを正確に把握することが、信頼性のあるGX-ETS報告に直結します。詳細な技術文書のダウンロードをお勧めします。
参考情報
・日本鉄鋼連盟「環境報告」
・環境省「温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル」
・経済産業省「GX-ETS制度設計資料」


