カーボンフットプリント(CFP)を算定し、公表・活用する際には、その信頼性と透明性が欠かせません。企業が「この製品はライフサイクルで◯kgのCO₂排出にとどまります」とアピールする場合、算定根拠や前提条件があいまいだと、取引先や顧客からの信頼を得にくくなってしまいます。そこで重要になるのが、第三者保証(検証)です。また、世界ではCFPを含む製品の環境情報開示や規制が進んでおり、日本企業も海外市場での競争力を維持するために各国動向を把握しなければなりません。本記事では、CFPの第三者保証・検証の仕組みと、日本・EU・米国を中心とした主要な規制動向について解説します。


CFPの第三者保証(検証)の必要性
弊社セミナースライドより引用
検証の目的と効果
第三者保証(第三者検証)とは、独立した立場を持つ検証機関が、企業が算定したCFP情報の妥当性や整合性をチェックするプロセスです。
客観性・信頼性の確保
算定者自身の恣意的な判断やミスを排除する
ステークホルダーへの説得力向上
取引先や投資家、消費者などに正確な情報であると証明
継続的な品質改善
検証過程で算定プロセスの課題が明らかになり、データ品質向上につなげられる
特にBtoBの取引シーンでは「第三者検証済みのCFP情報」が提示されるかどうかが、調達先選定の基準や取引条件に影響を与えるケースが増えてきています。
主な認証基準・ガイドライン
第三者保証の際に準拠される国際規格として、ISO 14067(製品のカーボンフットプリント算定・報告の国際規格)などが挙げられます。
また、日本国内では、製品ごとの算定結果に対して専門家による審査を実施し、合格した製品にはCFPマークを付与するといった制度もあります。こうした制度を活用すれば、企業は自社のCFPを公的に認められた形で発信できるメリットがあります。
引用:カーボンフットプリント ガイドライン
CFPにおいて日本における規制・制度と最新動向
ここでは経済産業省や環境省は、CFPを活用した脱炭素経営を推進するための制度を紹介します。
関連する政府方針と支援
経済産業省や環境省は、CFPを活用した脱炭素経営を推進するため、
・カーボンフットプリントガイドライン(計算・表示・活用方法を整理)
・グリーンバリューチェーンプラットフォーム(排出量の見える化を促進)
といった施策を展開しています。
省庁レベルでは「ライフサイクル思考」をベースとする施策が多く、将来的には公共調達などでCFP情報が考慮される可能性も指摘されています。こうした流れは、企業にとってCFP算定と第三者検証がより一層求められることを意味します。
CFPにおいてEUにおける規制と最新動向
ここでは欧州電池規則とCBAMについて取り上げます。
EU電池規則とCFP表示義務
欧州連合(EU)は、脱炭素社会を実現するために製品レベルの環境フットプリントを重視しています。その代表例が「EU電池規則」であり、電気自動車や再生可能エネルギー貯蔵用の大型バッテリー等に対して、CFP算定・表示を義務化する方向性が打ち出されています。
具体的には、2024~2025年にCFP情報の報告義務が発生し、その後は一定の排出量水準を満たさないバッテリーの規制措置などが実施されます。
これにより、EU市場に製品を供給する企業はCFPの第三者保証を取得しないと参入が難しくなる可能性があります。
PEF(Product Environmental Footprint)とCBAM
EUでは製品全般に対するPEF(Product Environmental Footprint)ガイドラインを策定し、CFPを含む多角的な環境影響評価を一体的に行う仕組みを模索しています。PEFでは、製品カテゴリごとに詳細な評価ルールが定められるため、企業は将来的に欧州市場向けの製品に対してPEF適合が求められる可能性があります。また、炭素国境調整措置(CBAM)が2023年10月から試行導入され、鉄鋼やアルミニウムなどのGHG多排出産業に対して、実質的にCFP報告が必要となりました。2026年以降には炭素コストの支払い義務が生じる見込みで、製造業を中心にEUのカーボン規制への対応は避けて通れない課題です。
米国での動きと民間主導のCFPラベル
連邦法レベルでは現時点で存在しないが、州や民間企業、NGOが独自にカーボンラベルを運用している事例は多いです。
連邦レベルの制度は未整備
米国はEUのように製品レベルのCFP表示を義務付ける連邦法は現時点で存在しません。しかし、バイデン政権下でのインフレ抑制法(IRA)や、気候変動に関する行政命令などを受け、連邦政府調達での環境性能要件が強化される兆しがあります。具体的には、政府調達物品に対してライフサイクル排出量の開示を条件とする動きが一部で検討されており、今後CFPを事実上要求するケースも増える可能性があります。
民間・州レベルでのカーボンラベル
一方、州や民間企業、NGOが独自にカーボンラベルを運用している事例も少なくありません。たとえば、カリフォルニア州では環境表示に積極的な企業が多く、食品やアパレル分野などで自主的にCFPを表示し、消費者にアピールするケースが増えています。また、Carbon Trust(英国拠点)やCarbonFree保証(Carbonfund.org)などの国際的な民間保証を取得し、北米市場での競争力強化を図る企業も存在します。
CFPまとめ
本記事では、CFPの信頼性を高めるうえで不可欠な第三者保証(検証)の概要と、日本・EU・米国を中心とする主要地域での制度・規制動向を解説しました。今後、脱炭素社会の実現に向けた国際的な動きが一層進むにつれ、製品レベルの排出量情報を正式に開示・証明するCFPの第三者検証は、企業競争力を左右する大きな要素となっていくでしょう。
次の記事では、実際にCFP導入を進めている企業の具体的事例や、どのようなメリットが得られるのかを紹介します。各社がどのようにCFPを経営戦略に取り入れているかを知ることで、自社の取り組みを加速させるヒントが得られます。
引用元
CFPマーク認定制度(日本国内)
https://www.cfp-japan.jp/
Carbon Trust
https://www.carbontrust.com/
CarbonFree® Certification
https://carbonfund.org/

