【排出量取引】試行期間を解説ーGXリーグ第1フェーズについて

GXリーグ第1フェーズ(2023年度~2025年度)は、日本が独自に設計した排出量取引制度で、カーボンニュートラルに向けた新たな挑戦として注目されています。このフェーズは、制度を本格稼働させる前の「試行期間」として位置付けられ、企業や政府が共同で課題を洗い出し、改善を進めるプロセスを備えています。

目次

1. 排出量取引制度ー第1フェーズの目的と概要

引用:GXを実現するための政策イニシアティブの具体化について

試行期間としての第1フェーズ

GXリーグ第1フェーズの大きな特徴は、排出量取引制度を「実際に動かしてみる」試行期間である点です。この期間では、企業が排出削減目標を設定し、削減努力を進める一方で、排出量の算定・報告の方法や取引市場の運営ルールなどが検証されています。2025年度末には、この試行結果を基に第2フェーズの設計が進められる予定です。

主な参加企業と要件

参加企業は国内の直接排出量が10万トンCO2以上の大規模排出企業が中心であり、それ以外の企業も自主的に参画しています。各企業は基準年度を設定し、2030年および2025年の排出削減目標を定める必要があります。

自主目標の設定とトランジション戦略

企業は第1フェーズにおいて、自主的な排出削減目標を設定する義務があります。
これには、以下の要素が含まれます

削減目標の設定
2030年をターゲットとし、具体的な削減量を決定。

トランジション戦略
脱炭素化に向けた具体的な計画を策定し、技術革新やエネルギー転換を盛り込む。

NDC(国が決定する貢献)基準との整合性
日本の気候目標と整合した目標設定が求められます。

これらの要件を満たすことで、企業は第1フェーズの意義に沿った形で取り組みを進めます。

2. 排出量取引制度ー第1フェーズの構成要素

引用:環境経済室 課長補佐 荒井 次郎 GX-ETSの概要

プレッジ

企業は、排出削減目標を設定し、それをGXリーグに登録する必要があります。このプロセスは「プレッジ」と呼ばれ、企業の排出削減に向けた意思を明確にする重要なステップです。

登録内容
基準年度の設定、削減目標の詳細、トランジション戦略の概要

透明性の確保
登録された目標は公開され、ステークホルダーが進捗を確認できる仕組みが整備されています。

実績報告

プレッジに基づき、企業は定期的に排出量の実績を報告します。この報告には以下が含まれます

Scope1とScope2
直接排出(Scope1)およびエネルギー購入に伴う間接排出(Scope2)のデータ

削減努力の進捗
実際の削減量と計画との差異。

第三者検証
データの信頼性を確保するため、外部機関による検証を実施。

取引実施

第1フェーズでは、排出量取引が試験的に実施されています。この取引には以下の特徴があります

取引対象
Scope1の排出量

クレジットの種類
GXリーグ専用の超過削減枠や適格クレジット。

透明性
GXダッシュボードで取引内容が公開され、透明性が確保されています。

レビューとフィードバック

GXリーグ事務局は、第1フェーズの結果をレビューし、参加企業にフィードバックを提供します。このプロセスでは、以下が行われます

課題の特定
排出量算定方法や取引市場の改善点を明確化。

成功事例の共有
他企業にとって参考となるベストプラクティスの共有。

政策提言
第二フェーズへの移行に向けた提案を策定。

3. 排出量取引制度における排出量算定基準と範囲

第1フェーズでは、Scope1(企業活動に伴う直接排出)とScope2(購入した電力などの間接排出)が対象となります。

 Scope1・2の対象

算定対象の曖昧さ
小規模な排出源や非エネルギー起源CO2の扱いが一部明確でない。

統一基準の欠如
企業間で算定方法にばらつきがある。

非エネルギー起源排出の扱い

非エネルギー起源の排出量(例:製造プロセスにおける化学反応)は、Scope1に含まれますが、制度上の取り扱いが未整備な部分も多く、今後の改善が求められます。

第三者検証の役割

第三者検証は、報告データの正確性を確保するために不可欠です。
第1フェーズでは、以下のプロセスが採用されています

検証手順の標準化
検証機関による共通基準の導入。

検証結果の公開
ステークホルダーが信頼できる情報として利用可能。

4. 第1フェーズの終了と第2フェーズへの展望

第1フェーズの終了後、GXリーグは義務的な排出量取引市場への移行を計画しています。

第2フェーズへの準備

この過程では、以下のポイントが重視されます

対象範囲の拡大
Scope2や非エネルギー起源排出のカバー。

市場規模の拡大
参加企業数を増やし、取引の流動性を向上。

国際連携の強化
EU ETSや他国のETSとの整合性を確保。

GXリーグの将来像

GXリーグは、排出量取引を通じて日本全体のカーボンニュートラル達成に貢献することを目指しています。これにより、国内企業の競争力強化と新たなビジネス機会の創出が期待されています。また、第1フェーズの経験を基に、透明性や信頼性の高い市場運営が可能になるでしょう。

排出量取引制度まとめ

GXリーグ第1フェーズは、制度運用の初期段階として多くの試行と調整を行う期間となりました。
この期間を通じて、実務上の課題を洗い出し、第二フェーズへの改善を進める基盤が構築されていくと考えられます。
またGXリーグは単なる試行ではなく、次世代の排出量取引制度を本格運用するための「予行演習」として位置付けられています。次の記事では第2フェーズにおいてより詳細な内容を解説していきます。

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この記事を書いた人

大学在学中にオーストリアでサステナブルビジネスを専攻。 日系企業のマネージングディレクターとしてウィーン支社設立、営業戦略、社会課題解決に向けた新技術導入の支援など戦略策定から実行フェーズまで幅広く従事。2024年よりSSPに参画。慶應義塾大学法学部卒業。

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