ISO 14067は、製品のライフサイクル全体にわたる温室効果ガス（GHG）排出量を評価し、報告するための国際標準規格です。この規格は、企業や組織が製品のカーボンフットプリント（CFP）を正確に測定する指針を提供しています。本規定は持続可能性に向けた国際的な取り組みの一環として、環境情報の透明性と信頼性を確保し、企業の競争力向上や規制対応を支援する役割を果たしています。
近年、温室効果ガス削減に向けた国際的な合意（例：パリ協定）の実現に向けて、企業の環境責任が問われており、この流れを受けたISO 14067は、製品の環境負荷を定量的に評価し、科学的に裏付けられた情報を提供する重要な基準として注目されています。
本記事では、ISO 14067の概要、適用範囲、主要要素、導入のメリットと課題、今後の展望について詳しく解説します。
1.第三者保証におけるISO 14067とは何か？
ISO 14067は、製品やサービスがライフサイクル全体で排出する温室効果ガス（GHG）の量を測定し、その結果を正確かつ透明に報告するための基準です。この規格は、ISO 14040およびISO 14044で規定されたライフサイクルアセスメント（LCA）の原則に基づいており、製品の環境影響を包括的に評価するための枠組みを提供しています。
ISO 14067は、製品やサービスの「カーボンフットプリント」を算定することで、持続可能性の向上、透明性の確保、そして国際基準の遵守を目的としています。この規格により、企業は製品の環境負荷を具体的に可視化し、それに基づいて削減目標を策定・達成するための効果的なアプローチを得られます。また、算定されたデータは、ステークホルダーに対して信頼性の高い情報として提供され、国際的な規制や市場の要件に適応し、グローバルな持続可能性の枠組みへの準拠を示すことが可能となります。
引用：https://www.env.go.jp/content/000124385.pdf
2.第三者保証での適用範囲と主要要素
ISO 14067は、製品のライフサイクル全体を対象とし、以下のプロセスをカバーします
適用範囲
原材料調達
製品の製造に必要な原材料を調達する段階でのGHG排出量
製造プロセス
工場などでの製品の生産に伴う排出量
輸送と流通
製品の輸送および保管の過程で発生する排出量
使用段階
消費者が製品を使用する際に生じる排出量
廃棄とリサイクル
製品の寿命が尽きた後の廃棄処理やリサイクルにおける排出量
主要要素
ISO 14067には、以下の要素が含まれています
GHG排出量の算定基準
各プロセスの排出源を特定し、正確に測定する方法を規定
ライフサイクルアセスメント（LCA）
製品ライフサイクル全体にわたる環境影響を分析
部分的カーボンフットプリントの評価
製品の一部プロセスにおける環境負荷を算定する指針
データの品質管理
信頼性の高いデータを収集し、適切に管理するための要件
報告と透明性
ステークホルダーに対する情報提供を円滑に行うためのガイドライン
引用：https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/guide/CFP_jissen_guide.pdf
3.第三者保証の認証プロセス
ISO 14067に基づく認証は、組織が製品のカーボンフットプリントを適切に評価し、報告する能力を持っていることを証明するものです。
初期評価
組織がライフサイクルに基づいてGHG排出量を測定し、内部評価を行います
第三者検証
独立した認証機関が算定方法とデータの信頼性を精査します
認証書の発行
基準に適合すると判断された場合、認証書が発行されます
定期的な見直し
認証後も継続的な改善が求められ、定期的な監査が行われます
認証を受けることで、組織は市場や規制当局に対して信頼性の高い環境データを提供できるようになります。
4.ISO 14067の導入メリットと課題
ISO 14067を活用することで、企業はさまざまなメリットを享受できます。まず、カーボンフットプリントを公表することで、環境意識の高い消費者や投資家に対して、自社の環境配慮の取り組みを効果的にアピールすることが可能です。また、国際的な環境規制や報告要件に対応することで、罰則リスクを軽減し、規制遵守を確実に行えます。さらに、環境への積極的な取り組みは、他社との差別化を図り、市場での競争優位性を強化する要因となりえます。加えて、排出源を特定するプロセスを通じて製造工程の効率化が促進され、コスト削減や生産性向上といった効果も期待できます。
しかし、いくつかの課題も存在しています。
まず、サプライチェーン全体から必要なデータを収集することは非常に複雑で、多くの企業にとって大きな負担となります。また、この規格の実施や認証プロセスには、時間と費用がかかるため、特に中小企業にとっては導入コストが課題となる場合があります。さらに、ISO 14067を正確に運用し、効果的に活用するためには、専門的な知識や技術が必要とされるため、従業員のスキル向上や専門家のサポートが不可欠です。これらの課題を克服するためには、企業ごとに適切な戦略とリソースの確保が求められます。
5.第三者保証とISO 14067の展望
ISO 14067は、気候変動対策や持続可能性の目標達成に向けて、これからも重要な役割を果たすと考えられています。
国際的な規制や枠組みとの連携
ISO 14067がこれからさらに活用される場面として考えられるのが、国際的な規制や枠組みとの連携です。たとえば、パリ協定やEUの持続可能性指令（CSRD）のような世界的な取り組みとの結びつきが進むことで、規格の重要性は一段と高まるでしょう。
これにはいくつかの理由があります。
まず、国際的な基準が統一されることで、企業は規制の違いに頭を悩ませることなく、効率的に対応できるようになります。また、ISO 14067を基盤として規制当局が企業の温室効果ガス削減目標の進捗をチェックする仕組みが整備されることで、企業の取り組みがより効果的になる可能性があります。
こうした動きにより、国際市場での競争力を高めるだけでなく、環境目標達成に向けた各国の取り組みが一層加速するでしょう。
テクノロジーの進化による効率化
ISO 14067の運用がこれまで以上に効果的になるためには、デジタル技術の活用が不可欠です。これまでの手動でのデータ収集や分析では限界がありましたが、テクノロジーの力を借りることで、大幅な効率化が期待できます。
特に注目されるのが、ブロックチェーンやIoT、AI（人工知能）の活用です。
・ブロックチェーンは、サプライチェーン全体でのデータ透明性を向上させ、不正を防ぐのに役立つ
・IoTはリアルタイムでデータを収集し、製造工程や輸送における排出量を把握する技術
・AIはこれらのデータを分析し、最適な削減シナリオを提案することができる
これらの技術が組み合わされば、ISO 14067を活用したカーボンフットプリント管理はより正確かつ効率的になるでしょう。結果として、企業は排出量削減の計画を迅速に立てられるだけでなく、コスト削減やリスク管理の向上といった恩恵も受けられるはずです。
中小企業への普及と支援の拡大
これまでISO 14067は主に大企業での採用が進んできましたが、今後は中小企業や新興市場でも広がりを見せることが期待されています。その理由の一つに、技術の進化による導入コストの低下があります。以前は高額だったカーボンフットプリント算定のためのツールやシステムが、現在ではより手頃な価格で利用可能になっています。
また、中小企業向けの簡易版ガイドラインやツールの提供も進められています。これにより、専門知識やリソースが限られている企業でも、ISO 14067の導入がスムーズに行えるようになっています。
さらに、国際的な支援も期待されています。特に開発途上国や新興市場では、ISO 14067を採用する企業に対して技術的・経済的なサポートが提供されることで、普及が一層進むでしょう。
6.第三者保証とISO 14067 まとめ
ISO 14067は、製品のライフサイクル全体を通じた温室効果ガス排出量の算定と報告を可能にする強力なツールです。この規格の導入は、環境目標を達成するだけでなく、企業の競争力向上や規制遵守の支援にも寄与します。持続可能性が企業価値の重要な要素となる中で、ISO 14067はますます不可欠な基準となるでしょう。
参考
環境省カーボンフットプリントガイドライン
https://www.env.go.jp/content/000124385.pdf
ISO 14067:2018温室効果ガス－製品のカーボンフットプリント－定量化のための要求事項及び指針https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=ISO+14067%3A2018
