GX-ETS第2フェーズの制度対象者がM&Aを行う場合、排出目標量の基準活動量や基準排出量の引継ぎ、届出や報告の承継など特有の手続きが発生します。吸収合併、新設合併、吸収分割、新設分割、事業譲渡のそれぞれについて手続きが定められています。本記事ではSSPの実務経験に基づき、組織再編時の制度対応の要点を整理します。


合併分割 要約
GX-ETS第2フェーズにおいて組織再編(合併・分割・事業譲渡)が生じた場合、制度上の届出義務や基準値の引継ぎに関して所定の手続きが必要となる。吸収合併・新設合併では、一定の条件を満たす場合に消滅会社の基準が存続会社・新設会社へ引き継がれ、条件を満たさない場合は引継ぎはなく、承継後の実績活動量・排出量を年換算した量が基準値となる。分割や事業譲渡でも大規模工場等・輸送手段の単位での基準の引継ぎが論点となり、いずれの場合も所定の届出が求められる。組織再編の検討段階からGX-ETS上の影響を把握し、必要な手続きを漏れなく実施する体制が不可欠だ。
合併分割 背景
企業のM&A活動は年々活発化しており、GX-ETS制度対象者が当事者となるケースも今後増加が見込まれる。しかし、排出量取引制度のもとでは、通常の会社法上の手続きに加えて制度固有の対応が求められるため、M&A実務担当者にとって新たな検討事項が加わることになる。
EU-ETSをはじめとする先行制度でも、M&A時のアローワンスの取り扱いは重要論点として位置付けられてきた。日本のGX-ETSにおいても、組織再編に伴う基準活動量・基準排出量の引継ぎルールが整備されており、制度の連続性と公平性を確保するための仕組みが設けられている。
実務上の課題として、M&Aのタイムラインと制度上の届出期限の調整、DD(デュー・デリジェンス)段階でのGX-ETS影響評価の必要性などが挙げられる。本記事では、再編パターンごとの手続きの違いに着目して整理を行う。
合併分割 定義
SSPでは、GX-ETSにおける合併・分割時の手続きを次のように定義している。
「合併・分割時の手続きとは、GX-ETS第2フェーズの制度対象者が組織再編(合併、会社分割、事業譲渡)を行う際に、排出目標量の基準となる活動量・排出量の引継ぎ、届出義務の承継、およびERMSを通じた各種届出を行うための一連の制度上の手続きをいう。」
対象となる組織再編の類型は、会社法上の吸収合併・新設合併・吸収分割・新設分割に加え、事業譲渡が含まれる。それぞれ引継ぎのルールや届出先が異なるため、類型ごとの理解が不可欠となっている。
合併分割 結論
組織再編時のGX-ETS対応について、以下の3点が結論として重要である。
1. M&Aの検討初期段階からGX-ETSの影響を評価すべきである
排出目標量の基準値や届出義務がどのように引き継がれるかは、再編後の制度負担に直結する。DD段階でGX-ETS上の論点を洗い出し、統合後の体制設計に反映させることが肝要だ。
2. 再編類型ごとに手続きが異なる点を正確に把握する
吸収合併と新設合併、吸収分割と新設分割では、基準の引継ぎ方法や届出主体が異なる。一律に処理すると制度違反のリスクが生じるため、類型に応じた個別対応が求められよう。
3. 届出のタイミングと期限管理を徹底する
組織再編に固有の届出は「効力発生日から一定期間内」ではなく、消滅会社が合併により消滅する旨を効力発生日までに経済産業大臣へ届け出ることと、存続会社等が通常の年間スケジュール(届出は9月末日、割当ては原則11月末日、排出実績量等の報告は翌年度9月末日、保有義務は1月末日)の中で承継対象を織り込んで手続を行うことが求められる。再編スケジュールとGX-ETS上の年間スケジュールを並行管理することが実務上の鍵となる。
合併分割 論点
組織再編時のGX-ETS対応における主要論点を以下に整理した。
合併分割 比較
組織再編の類型によりGX-ETS上の取り扱いが異なる。以下に合併・分割・事業譲渡の比較を示す。
合併分割 重要点
基準の引継ぎルール
組織再編時における基準活動量・基準排出量の引継ぎは、GX-ETS制度上もっとも技術的な論点の一つである。合併の場合でも、消滅会社の基準活動量・基準排出量を存続会社が引き継げるのは、消滅会社が合併年度の前年度の4月1日到来時に当該大規模工場等を保有し、合併年度の4月1日到来時まで同一の特定事業活動又は非特定事業活動を継続して営んでいたこと等の条件を満たす場合に限られ(消滅会社の届出後に合併した場合は、存続会社が翌年度の4月1日到来時まで継続して営んでいることが条件)、条件を満たさない場合は引継ぎはなく、承継後の実績活動量・排出量を年換算した量が基準値となる。分割や事業譲渡の場合も、基準の引継ぎは大規模工場等・輸送手段の単位で、条件を満たすかどうかにより判断される。
制度上、基準活動量等・基準排出量等の引継ぎは売上高等による按分ではなく、大規模工場等・輸送手段の単位で行われる。承継先が翌年度の4月1日到来時まで、承継元のもとで営まれていた特定事業活動又は非特定事業活動を継続して営んでいる等の条件を満たす場合は、当該工場等・輸送手段に設定されていた基準活動量等・基準排出量等をそのまま引き継ぐ。条件を満たさない場合は引継ぎはなく、承継日以降の実績活動量・排出量を年換算した量が基準値となる。小規模工場等は承継先の小規模工場等全体の排出量の増減として調整される。SSPとしては、引継ぎの条件(事業活動の継続等)を満たすことを客観的なデータで裏付け、第三者に対して説明可能な形で文書化しておくことを強く推奨している。
届出義務者と非義務者の組み合わせ
組織再編においては、届出義務者同士の再編だけでなく、届出義務者と非義務者の間で再編が行われるケースも想定される。たとえば、届出義務者が非義務者を吸収合併する場合、非義務者が保有していた排出関連の基準はどうなるのか。逆に、非義務者が届出義務者の事業を譲り受ける場合、譲受側は新たに届出義務者となるのか。
こうした組み合わせパターンに対する制度上の取り扱いは、再編の実務において見落としがちな論点である。特に、非義務者が再編を通じて新たに届出義務の閾値を超える場合には、所定の届出手続きが必要になるため注意を要する。M&Aの検討段階で、双方の排出量や基準値を突き合わせて影響を精査することが望ましい。
合併分割 手順
組織再編時のGX-ETS対応手順を以下に示す。
ステップ1:再編スキームの確認とGX-ETS影響の初期評価
M&Aの初期段階で、再編スキーム(合併・分割・事業譲渡)を確認し、GX-ETS上の影響範囲を概括的に評価する。対象法人が届出義務者であるか否かを最初に確認すべきである。
ステップ2:基準値の棚卸しと引継ぎ計算
当事者双方の基準活動量・基準排出量・排出目標量を棚卸しし、再編後の引継ぎ計算を実施する。分割・事業譲渡の場合は大規模工場等・輸送手段ごとに引継ぎの条件を満たすかの確認が必要となるため、根拠データの整備も並行して進める。
ステップ3:届出義務者の判定
再編後にどの法人が届出義務者に該当するかを判定する。新設会社や譲受会社が新たに義務者となる場合には、ERMSアカウントの開設準備を開始する。
ステップ4:経済産業省への事前相談
複雑な再編スキームの場合は、経済産業省の担当部署に事前相談を行い、手続きの方向性について確認を取ることが推奨される。想定外の制度解釈リスクを低減する効果がある。
ステップ5:届出書類の作成と提出
再編の効力発生後、所定の期間内に必要な届出書類を作成し、ERMSを通じて提出する。引継ぎ計算書、再編の概要説明書、登記事項証明書などを添付する。
ステップ6:再編後の体制整備とモニタリング
届出完了後、再編後の新体制で排出量のモニタリングと報告を継続できる体制を整備する。特に、複数事業所が統合された場合のデータ管理フローの再設計が重要だ。
合併分割 FAQ
Q. 合併時に排出枠は自動的に承継されますか?
A. 合併の場合、消滅会社が保有していた排出枠は、割当て後の合併であれば効力発生日に存続会社へ承継され、割当て前であれば消滅会社に割り当てられるはずだった分が存続会社に割り当てられます。これは会社法上の包括承継とは別に、GX推進法上の取扱いに従うものです。なお、消滅会社の届出義務や移行計画の提出義務は存続会社には承継されません。ERMS上の手続き(口座間移転など)が別途必要になる場合があるため、事前に確認が必要です。
Q. 分割時の基準値の按分方法は自社で決められますか?
A. 制度上、按分という考え方は採られていません。分割対象の大規模工場等・輸送手段ごとに、分割承継会社(新設会社)が翌年度の4月1日到来時まで分割会社のもとで営まれていた事業活動を継続して営んでいる等の条件を満たせば、分割会社が設定していた基準活動量等・基準排出量等をそのまま引き継ぎます。条件を満たさない場合は引継ぎはなく、承継日以降の実績を年換算した量が基準値となります。
Q. 事業譲渡ではGX-ETSの義務は自動的に移転しますか?
A. 事業譲渡は会社法上の包括承継ではないため、GX-ETS上の義務が自動的に移転するとは限りません。譲受側が新たに届出義務者の要件を満たす場合には、独自に届出を行う必要が生じます。
Q. 再編の届出にはどのような書類が必要ですか?
A. 経済産業省のマニュアルで既に定められています。消滅会社は効力発生日までに消滅する旨を届け出ます。それ以外の組織再編等は、翌年度の排出実績量等の報告(GX推進法第35条第1項)の際に、相手方の名称・代表者氏名・本店所在地、効力発生日、効力発生日における主たる事業、輸送手段を含む場合はその旨等を報告し、効力発生日が確認できる資料等の証憑を添付します。
Q. 海外子会社との再編もGX-ETSの対象になりますか?
A. GX-ETSは日本国内の排出に関する制度であるため、海外子会社そのものは直接の制度対象にはなりません。ただし、国内の届出義務者が海外子会社と再編を行う場合、国内事業所に帰属する基準値の取り扱いには影響が生じる可能性があります。
合併分割 まとめ
GX-ETS制度対象者が組織再編を行う際には、通常のM&A手続きに加えて制度固有の対応が不可欠である。合併・分割・事業譲渡の類型ごとに基準値の引継ぎルールや届出手続きが異なるため、再編スキームの確定段階からGX-ETSの影響評価を組み込むことが重要だ。
特に、基準活動量・基準排出量の引継ぎ条件の確認と届出義務者の判定は、実務上の重要論点として位置付けられる。M&Aの法務・財務DDにGX-ETS DDを追加し、制度上のリスクと対応策を早期に特定する体制を構築されたい。


