SBTiは2026年7月15日、電力セクター・ネットゼロ基準の更新草案を公開し、第2回のパブリックコンサルテーションを開始しました。締切は当初8月31日でしたが、8月14日付で2026年9月7日まで延長されています。意見を出すのであれば、残された時間はわずかです。
今回の草案の最大の特徴は、2026年6月11日に確定版が公表されたCorporate Net-Zero Standard V2.0との関係が整理された点にあります。本記事では、第三者検証機関である株式会社サステナビリティスタンダードパートナーズ(SSP)が、更新草案で何が変わったのか、V2.0とどう組み合わさるのか、そして9月7日までに電力会社が確認すべき事項を、SBTiの一次情報にあたって整理します。

SBTi電力セクター基準 要約
電力セクター・ネットゼロ基準はまだ確定していません。現在は第2回の意見募集の最中で、締切は2026年9月7日です。一方でCorporate Net-Zero Standard V2.0は既に確定版が公表されており、電力基準はその上に乗るセクター固有の追加基準として位置づけられます。ただし単純な上乗せではなく、特定の活動や排出源についてはV2.0の要求を上書きします。基準が確定するまでは、従来どおりQuick Start Guide for Electric Utilitiesで目標を設定してかまいません。
SBTi電力セクター基準 これまでの経緯
今回の意見募集は初回ではありません。まず時系列を押さえます。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年9月〜11月 | 電力セクター・ネットゼロ基準の第1回パブリックコンサルテーションを実施。120者を超えるステークホルダーから意見が寄せられる |
| 2026年6月11日 | Corporate Net-Zero Standard V2.0の確定版を公表 |
| 2026年7月15日 | 第1回の意見と専門作業部会の検討を反映した更新草案を公開し、第2回パブリックコンサルテーションを開始 |
| 2026年8月14日 | 締切を8月31日から9月7日へ延長。十分な検討時間を確保するためと説明されている |
| 今後 | 意見募集と並行して実データによるパイロットを実施。両者の結果を反映したうえで、技術評議会の承認と理事会の採択に付される |
第1回で寄せられた意見が既に反映されているため、今回は改訂された案に対する二巡目の確認という位置づけになります。第1回草案の内容を前提に社内検討を進めていた企業は、前提そのものが動いている可能性があります。
SBTi電力セクター基準 更新草案で変わった点
SBTiが公式に挙げている変更領域は6つあります。実務への影響が大きい順ではなく、公表されている整理の順に示します。
Corporate Net-Zero Standard V2.0との整合
構造がより明確になり、2つの基準をどう組み合わせて使うのかについてのガイダンスが加わりました。第1回で分かりにくいと指摘された箇所への対応です。
対象となる活動と排出の明確化
送電と配電を別立てで扱うこと、熱と電力の供給に伴う排出の扱いを明確にしたこと、そして電力取引活動を対象から除外したことが示されています。自社の管理範囲を直接変える変更であり、実務上の影響は大きい部類です。
性能指標の更新
低炭素発電の定義が排出原単位に基づくものへ改められました。送配電については、技術的損失と非技術的損失が区別されています。
目標設定手法の精緻化
発電活動に関するScope1の近期目標の選択肢が更新されました。電力小売事業者については、Scope3の目標設定の考え方が整理されています。
削減経路の更新
IEAのWorld Energy Outlook 2024のネットゼロ排出シナリオに基づく経路へ改められ、地域別の経路が用意されました。経路が変わったことで、必要な削減ペースの見え方が変わる可能性があります。
バイオマス持続可能性要件の削除
この論点はCorporate Net-Zero Standard V2.0の側で扱われることになったため、電力基準からは外れました。第1回草案でバイオマスの持続可能性要件を織り込んで検討していた場合、その前提は既に成立していません。
V2.0と電力基準はどう組み合わさるのか
この関係を誤解すると対応の設計を誤ります。SBTiの説明は明確です。Corporate Net-Zero Standard V2.0が、すべての企業に適用されるセクター横断の要件を定めます。電力基準は、電力セクターの活動を持つ企業に対して、そこに追加されるセクター固有の基準を定めます。
そのうえで、特定の活動や排出源について電力基準がV2.0の要求を修正または上書きする場合には、企業は電力基準に従うことになります。つまり単純な足し算ではありません。V2.0をすべて満たしたうえでさらに上乗せ、という理解だけでは不十分で、どの部分が上書きされるのかを特定する作業が必要になります。
| 項目 | Corporate Net-Zero Standard V2.0 | 電力セクター・ネットゼロ基準 更新草案 |
|---|---|---|
| 現在の状態 | 2026年6月11日に確定版を公表 | 第2回意見募集中。締切は2026年9月7日 |
| 適用範囲 | すべてのセクターの企業 | 電力セクターの活動を持つ企業 |
| 役割 | セクター横断の共通要件を定める | セクター固有の追加基準を定め、特定の活動や排出源ではV2.0を上書きする |
| 目標設定の開始 | 2027年2月1日から | 確定後に運用開始。それまではQuick Start Guideを使用 |
| バイオマスの持続可能性 | V2.0側で扱う | 草案から削除 |
Corporate Net-Zero Standard V2.0の移行スケジュール
電力基準の議論を追う前提として、V2.0側の期日を正確に押さえておく必要があります。V2.0の確定版は2026年6月11日に公表済みであり、ドラフトではありません。V2.0に基づく目標設定は2027年2月1日から可能になります。
V1.3.1による目標提出は2027年末まで受け付けられ、以降はV2.0が必須となります。既に認定を受けている目標は、その目標サイクルの期間中は有効なまま維持されます。V2.0を支える関連リソースの最終版は2026年第4四半期に公表される予定です。
SBTiが特に意見を求めている論点
SBTiは6つの論点について特に意見を歓迎するとしています。自社に関係する項目だけを選んで回答することも認められており、全設問に答える必要はありません。
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 対象範囲 | 電力基準が対象とする活動と排出の範囲、およびその適用可能性 |
| 2基準の関係 | Corporate Net-Zero Standard V2.0と電力基準の組み合わせ方、および枠組み全体の分かりやすさ |
| 基準年の指標 | 基準年の実績を判定するために提案されている指標 |
| 近期目標の手法 | 発電活動の近期目標の設定手法。特に資産ごとの脱炭素化計画の考え方 |
| その他の活動 | 送配電における電力の技術的損失や、小売活動における低排出電力の目標 |
| 小売の目標設定 | 電力小売事業者が、最終需要家に販売する低炭素電力の比率を高めるアラインメント目標を設定する手法 |
日本の電力事業の実情を設計に反映させたいのであれば、近期目標の手法と小売の目標設定が最も具体的に意見を出しやすい論点です。
9月7日までに確認すべきこと
残り時間を踏まえ、優先度の高い順に整理します。
| 確認すること | 具体的に何をするか |
|---|---|
| 自社の活動が対象範囲のどこに位置づくか | 発電、送電、配電、電力貯蔵、小売のどれに該当するかを確認する。電力取引が対象外となったことで、自社の管理範囲がどう変わるかを整理する |
| 第1回草案を前提にした社内資料の洗い直し | 特にバイオマスの持続可能性要件を織り込んでいた場合、その前提は電力基準からは外れている |
| V2.0との重複と上書きの関係の特定 | どの要求がV2.0由来で、どの要求が電力基準によって上書きされるのか。ここを曖昧にしたまま対応計画を作ると、後で全面的な作り直しになる |
| 新しい経路での当てはめ | IEA World Energy Outlook 2024ベースの地域別経路で自社を当てはめ、必要な削減ペースの見え方の変化を確認する |
| 意見の提出 | 全設問に答える必要はない。自社に関係する論点だけを選んで提出できる |
| 当面の目標設定 | Quick Start Guideで進める。基準の確定を待って目標設定を止める必要はない |
SBTi電力セクター基準 よくある質問
電力基準はいつ確定しますか
確定時期は公表されていません。SBTiは、意見募集とパイロットの結果を反映したうえで、技術評議会の承認と理事会の採択に付すと説明しています。具体的な期日を明示していない以上、確定時期を前提にした社内計画は立てるべきではありません。
基準が確定するまで目標設定は待つべきですか
待つ必要はありません。SBTiは、電力基準が確定するまではQuick Start Guide for Electric Utilitiesを使って科学的根拠に基づく目標を設定するよう案内しています。そこで設定した目標は最終基準への移行に際して有利な位置にあるとされています。
意見は日本語で提出できますか
SBTiの公式なコンサルテーションは英語で運用されています。提出用の資料と設問も英語で提供されます。社内で論点を日本語で整理したうえで、提出時に英訳する進め方が現実的です。
意見を出さないと不利益がありますか
直接的な不利益はありません。ただし、日本の電力市場の実情は、意見として提出されなければ設計に反映されません。第1回に寄せられた意見は120者超にとどまっており、1社の意見が持つ重みは決して小さくありません。
第三者保証の位置づけはどうなりますか
目標設定の要件が精緻になるほど、その根拠となる排出量データの信頼性が問われます。第三者保証はScope1とScope2とScope3の排出量データの信頼性を検証するものであり、目標そのものの妥当性を保証するものではありません。この区別を踏まえたうえで、算定データの品質を先に固めておくことが、どの基準に着地しても効いてきます。
SBTi電力セクター基準 まとめ
電力セクター・ネットゼロ基準は、まだ確定していません。いま起きているのは第2回の意見募集であり、締切は2026年9月7日です。第1回の意見を反映した更新草案では、対象範囲の切り分けとCorporate Net-Zero Standard V2.0との関係の整理が進み、バイオマスの持続可能性要件は電力基準から外れました。
電力セクターは、エネルギー起源のCO2排出において世界最大の発生源です。だからこそ基準の設計は精緻になり、それだけ企業側の解釈の負担も増えます。確定を待つのではなく、いま自社の活動が対象範囲のどこに位置づくかを確認し、意見として出すべきことを出しておくことが、確定後の対応コストを最も確実に下げます。
参考リンク
Science Based Targets initiative 電力セクター基準 第2回意見募集
https://sciencebasedtargets.org/news/the-sbti-launches-second-public-consultation-on-updated-draft-power-sector-net-zero-standard
Science Based Targets initiative 電力セクター
https://sciencebasedtargets.org/sectors/power
Science Based Targets initiative Corporate Net-Zero Standard V2.0
https://sciencebasedtargets.org/corporate-net-zero-standard-v2


